優希さんと幸せになる
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「響、そろそろ補給しておこう」
「うん」
虚な目の凛にそう言われた。目にクマができている……顔色が悪い。私は凛と一緒にベッドに上がり、上着を脱いでいく。上半身をさらけ出した。
「響……また、あれやってもいい?」
「……うん、分かった」
了承した私は凛の頭を抱いた。
「はむ………優希さん……」
「ん…………優希……さん……」
私と凛の口から優希さんの名前が出る。
「あれ」とは、お互いがお互いを優希さんだと思って補給する、ごっこ遊びのようなものだ。
「む……んむ、れろ……」
「ふっ、うぅ……優希さん……」
私は優希さんに舐められている妄想をした。なんとか幸せな気持ちを、感覚を、手繰り寄せる。
凛も優希さんだと思って私を吸っているはずだ。私を抱きしめる力が強くなっている。
「んむ……優希さん、優希さんっ……うぅ……」
声が震え出す。凛は泣きながら吸っていた。
…………分かってる。こんなことをしても虚しいだけだ。名前を呼ぶ瞬間は優希さんのことを思い出して、心が温かくなるんだけど、すぐに現実に落とされる。とても、とても苦しい。
でもやめられない。温かくなる瞬間が何よりも幸福で、何にも代え難いものだった。
あの日…………小学校から逃げ出した日から優希さんとは会っていない。
優希さんは…………行方不明だ。
ユニオンに助けられた日、凛のお母さんを弔ってもらって、優希さんの捜索をお願いしたのだが見つからなかった。
翌日は私も一緒に小学校の方を探した。だけど見つかったのは大量の狼の死体と数人の大人の死体で、その中に優希さんの死体は見つからなかった。
もっと広い範囲を探して欲しいと頼んだが、この世界で特定の個人を見つけるのは不可能だと言われたのを覚えている。
不可能……優希さんとはもう会えないということだろうか…………。
それは嫌だ……信じたく、なかった。もう会えないと決めつけてしまったら、これから生きていける気がしない。足元が崩れ去り、空気が重くなる。
「ユニオンで活動していれば、会えるかもしれないよ」と、そう助言をもらった。
ユニオンは大きな組織だ。周囲にいる人たちを助け続けて、今はもう千人以上になっているそうだ。現在もまだ拡大中で、そのうち優希さんも合流できるかもしれないと言われて、私達はユニオンで活動することにした。
今朝も二人で優希さんを捜索してきたところだ。
「んむ……ぷは…………ふぅ……ごめんね、響……交代しよっか」
「はふ…………うん」
能力を使って捜索しているからには補給はしなければいけない。でも、優希さんはいない。かと言って赤の他人から補給をするのも嫌だった。
凛の綺麗な肌がさらされる。細っこいぷにぷにの白い肌だ……私はそれを口に含んだ。
「優希さん…………はむ……」
「ん……優希さん……優希っ……さん……」
私の頭を優しく撫でる凛。
凛はお母さんを亡くしてしまったのと同時に優希さんの行方不明を突きつけられている。
今でこそロールプレイ補給で落ち着いてきたけど、当初はかなり荒んでいた。透明な優希さんと会話をしていたくらいだ。
はぁ……優希さん…………。どこにいるの?会いたいよ…………。もう一度優希さんに抱きしめてもらいたいよ。私もぎゅーって抱きしめて……もう一生……離れないように……。
「はむ……優希さん……んむ」
「はぁ……優希さん……うぅ……優希さんっ」
私は優希さんと幸せになる妄想を頭にめいっぱい描いた。
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「じゃあ……凛ちゃん、これ配給ね」
「ありがとうございます」
私は私と妹の分の水と食料を受け取った。
「ねぇ……凛ちゃん、補給足りてる?……もしよかったらこの後俺と……」
「すみません」
私は気持ちの悪い妄想を垂れ流す男から離れる。
私のことを可愛いだとか綺麗だとか……前まではそれも嬉しいと思えたのかもしれないけど…………その感情を向けて欲しい相手はここにはいない。
ユニオン……ここではこんな感じの劣情を向けられることが多い。まだ来て一週間くらいだけど……告白も何度かされた。気持ち悪い妄想を思い浮かべながら。
どうやら補給と称して普通にセックスが行われているようで、みんなの頭の中はエッチなことでいっぱいだった。
そしてそれは、小学校から逃げて来て生き残った小学生達も例外では無い。もう、この世界に常識なんてものは無いのかもしれない。
はぁ……優希さん……どこにいるんだろう。優希さんは私としてくれるかな……?
また突き放されてしまうのかな……。まだ私が若いから…………。それが優希さんの願いなのかな……。
あの時…………優希さんが私に避難民を連れて逃げろと言った時……私は優希さんの願いを優先した。私の願いを捨てて。優希さんに寄り添う私になりたかったから。
…………でも、結果はどうだろうか…………。
お母さんは死んじゃって、優希さんとは会えなくなってしまった。こんなの……辛すぎるよ…………。
…………お母さん。
今ならお母さんの言っていたことが少し分かるような気がする。たとえ好きな人の願いだろうと、それが正しいとは限らないのだ。
優希さんの願いは避難民を生かすことだった。沢山の人がそのおかげで救われた。でも、生かす対象に優希さんは入っていない。
優希さんはすぐ自分を蔑ろにする。いつも自分以外の幸せを優先してしまうのだ。優希さんの願いを叶えていたら、優希さんが不幸になる。私もこんなに苦しい。
……そんなの……ダメだよね。間違ってる。私たちが幸せになってない。
優希さん……私はもう間違えないよ……私が幸せにしてみせるから。私の願いで一緒に幸せになろう……。
……会いたいよ……優希さん……。
「あ……お姉ちゃん……」
「鈴音……ご飯持ってきたよ」
私は重症の人が生活する区画にいる鈴音に会いに来た。鈴音はお母さんと共に左腕を失くしてしまった。ユニオンには怪我の治療を出来る能力の人が沢山いたけど、腕が生やせる能力は無かった。もうずっとこのままなのだろう……。
片腕だけでは、ペットボトルから水を飲むのも大変そうだ。ビスケットの袋を開けたり、キャップを取ってあげたり、簡単なサポートはしてあげられるけど……。
「あら、凛ちゃん来てたの」
「由美さん……」
陽ノ酉由美さん。鈴音の腕の治療をしてくれた人だ。とても綺麗な人で、優しくて、胸も……すごく大きい。
そして…………とても沢山の人とセックスをしている。
……この人自身はそんなにエッチなことを考えてる人では無いんだけど…………。周りには由美さんと補給したい人が沢山いるみたいだ。
でも少し分かる。魔力が減ってくると由美さんの口とか耳とかに目がいってしまうのだ。優希さんみたいに。
「どう?ここの生活にはもう慣れた?」
「はい。助けていただき、ありがとうございます」
「もう、お礼はいいの。……優希くん、まだ見つかってないんだよね……」
「はい……」
由美さんに優希さんのことを話した時、由美さんはとても驚いていた。由美さんは優希さんの知り合いだったのだ。優希さんは大学で一つ下の後輩で同じサークルに入っていたらしい。
「きっと大丈夫だよ。優希くん頭いいから、なんだかんだで生きてると思うな」
「はい……でも心配で……早く会いたいです……」
由美さんからは優希さんのことを沢山聞いた。大学での話とか、ボードゲームサークルでの話とか。仲がよかったみたいだ。
……正直羨ましい。私も優希さんと学校生活を送りたかった。一緒に登校したり、お弁当作って食べてもらったり……お付き合いして……え、エッチなこととかも……。
はぁ…………優希さん、会いたいよ…………。
「お姉ちゃん……もう、あんな人のこと忘れちゃえば?」
鈴音がそう言う。
「優希さんのこと考えてるお姉ちゃん、辛そうだよ……」
鈴音にはそう見えてるのか……。辛そう……。確かに辛い。優希さんと会えない時間は苦痛だ。胸が苦しくなって、気を緩めると涙が出てくる。でも…………
「忘れるなんて…………無理だよ………」
優希さんはとても大切な……私の好きな人。優しくて、かっこよくて、頼りになって……私のことを大切に思ってくれる、素敵な人だ。
…………絶対に見つける。
優希さんのいない世界は、私の居場所ではないのだ。
また会うことができたら、今度は絶対に離さない。私が優希さんのことを一番に想って、幸せにする。
お母さん。
私は……優希さんと幸せになるよ。




