コスプレ集団
俺は今、近くの川で千秋の体を洗っている。
「んっ……優希、まだ綺麗になってないかも……」
「うるせー!散々洗っただろうが。そんなに元気なら自分で洗え!」
魔力補給が終わった後元気になった千秋だが、体の汚れが目立つのが気になった。臭いもなかなかのものだったので、洗うことにしたのだ。
渋々と言った感じでぺちゃぺちゃと川から上がってくる。
「ねえ優希…………ちゅーしよーよ」
「しない」
「むーー……」
一度唇を許してからというもの、キス懇願ボットに成り下がってしまった千秋。
はぁ……なんかすげぇ懐かれたな。そりゃ警戒されるよりいいし、ずっと独りでいたって話だったから、一緒にいてやりたいけど……。
今のところのコイツの印象は、思春期のマセガキって感じだ。黙ってりゃ可愛い女の子なんだがなぁ。
「ほら飯にするぞ」
「はーい」
飯を食いながらこの辺のことを聞いたら、あまり分からないと言われてしまった。
千秋はここより少し離れた場所の出身らしく、二度目の地震が起きた後に避難所がモンスターに襲われて散り散りに逃げたらしい。そこからは基本ずっと独りで生きてきたとのことだ。
空き巣を物色しながら目的もなく移動していたので、自分が今どこにいるか、とかは把握してないそうだ。
「この辺りで人が集まって生活してるところとか無いかな……」
「うーん……あるよ」
「本当か!?」
「うん。でも……あんまりいい人そうじゃなかったよ。ちあきレイプされそうになったし」
「…………」
まじか……。てかコイツ、そういうのちゃんと分かってるんだな。
「ちなみにその人達の年齢とか数とかは分かるか?」
「年齢は分かんないけど……男ばっかだったかな?数はいっぱい。百人くらい」
百人の男の集団……?なんか……会いたく無いな。百人もいるってことは避難所として機能してると思うんだが……レイプ未遂をやらかしてる。どうするか……。
俺は勝手に脳内でボディビルのブーメランパンツ姿の男が百人、ひしめき合って笑っているイメージを思い浮かべた。いや、絶対そんなこと無いんだけど、男百人が一緒ってなると、俺の中のステレオタイプイメージが勝手に……。
「ちなみに場所はわかるのか?」
俺は失礼な脳内イメージを消し去り、千秋に尋ねる。
「んーあっちの方かなぁ。結構うるさいからすぐわかると思うけど。…………いくの?」
露骨に嫌そうな顔になる千秋。そりゃレイプ未遂の犯人がいる場所には行きたくないよな。
「ああ、いや一応ね。この辺のこととか分かるかもしれないし。大丈夫、独りで行ってくるから」
「え……………ちあきも行く」
「いや、無理しなくていいぞ。すぐ戻ってくる」
「やだ、行く」
「千秋……」
……独りの恐怖はレイプ未遂犯より恐ろしいか。俺は悲しくて鼻がツンとした。この世界は一気に不条理になってしまった。こんな子が他にもたくさんいるんだろうな。千秋を見つけられて本当に良かった。
その後は、食事の彩りを増やすために缶詰以外に何かないか探すことになった。
「ほら、こういうところにも引き出しがあるから、しっかり見ておくといいぞ」
「うお、すげー。あ、クッキーあるよ!」
家捜しの極意を伝授しながら家を転々とする。千秋はいちいち元気いっぱいに反応してくれるから、一緒に探索してると楽しいな。
「ちなみに冷蔵庫は無闇に開けるなよ。ろくなもの入ってないし地獄を見ることになるぞ」
「知ってる!」
そうか、知ってしまっていたか……。俺は過去のトラウマがフラッシュバックして嫌な気分になった。
しばらく和気あいあいと探索を続けていると、千秋が急にしょんぼりし始めた。どうしたんだろうか、千秋も冷蔵庫の悪夢を思い出したのだろうか?
「優希、いなくならないよね?」
「……どうした急に」
本当にどうしたんだろうか。急に不安になることもまぁあるだろうが……。孤独だった時を思い出してしまうくらいに、その時が辛かったということだろうか。
「これって、優希が、ちあきに独りでも生きていけるように教えてるやつじゃないの?」
「…………?」
この家捜しの極意のことか?いや、むしろ空き巣を育成している気分で少し罪悪感があるくらいなんだが……。
……師匠が弟子に全てを教え込んで立ち去る的なあれか。まぁもしかしたら心の底ではそう思ってたかもな。千秋には強く生きてほしいと思っているから、その方法を教えられるなら教えたくなる。
俺は千秋の頭にぽん、と手を置いた。
「大丈夫だ、いなくなったりしない」
「ほんとっ!?絶対だよ!約束っ!」
「ああ、約束な」
少しでも安心してもらいたいところだ。
「…………じゃぁ約束のちゅーして」
…………こんのエロガキがぁ……。せっかくこっちが慈愛の心で優しくしてたというのに。つーか約束のちゅーってなんだよ。聞いたことねえわ。
「…………やくそく……」
千秋がうるうるとした目でこちらを見上げている。今にも泣き出しそうな……。
くそ……これまでのことを考えると邪険にしすぎるのも可哀想な気がしてくる……。
「はぁ……。少しだけだぞ。舌を入れるのは無しだ。分かったな?」
俺はそう言って片膝をつき、視線を合わせる。
「…………」
おい、返事がねぇぞ。千秋は無言のまま俺の首に腕を回すと唇にしゃぶりついた。そして、堂々と舌を捩じ込んでくる。
「んむ!?」
「んふ……♪」
舌をれろれろと追いかけ回される。二十秒ほど、ちゅうちゅうと唾液を吸われた後、ちゅぽんっ、と唇が離れる。
「ぷはぁ……ふぅ……。んふふ、約束っ!」
八重歯を見せてにっこり笑う千秋。
……はぁ……この笑顔を見ると怒る気になれん。俺は立ち上がると千秋の頭に再度手を置く。
「ああ……約束な……」
不安が晴れたのか、その後は暗い表情になることもなく、順調に物資を集めていく。今後も元気に生きていけるならキスした甲斐があるってもんだ。
……いやしかし約束のちゅーってなんやねん。
空き家を転々としながらも俺たちは一つの方向に向かっている。千秋が言っていた人が多くいる場所だ。
そいつらが善人だろうと悪人だろうと、生きているというだけでこの世界においては貴重だ。この機会を逃すのはもったいない。
それに、百人規模の集団となると善人の集まりである可能性の方が高い気がする。悪人ばかりでその規模の集団がまとまるとは思えない。千秋をレイプしようとしたやつもその中のごく一部の悪人、と思っている。
まぁ、今回は俺も一緒だ。目を離さなければ、襲われるということはないと踏んでいる。
そんなことを考えながら進んでいると、騒がしい声が聞こえてきた。なんというか、一斉に声を上げている感じだ。組体操の最後の掛け声みたいな……。
さらに近づいていくと、学校の校舎のような建物が見えてきた。ヤァ!とか、ハッ!とか、聞こえてた声も大きくなっていく。
ここは……高等学校だろうか、柵は様々な材で補強されていて、中がよく見えない。飛び越えて行って何かトラブルが起きても嫌なので、俺は校門の方に回り込んでそこから入ることにした。
校門と思われる場所に近づくと、そこには二人の人間が立っていたが……。
…………ん?なんというか……二人の格好は現代とは思えない風貌だな。コスプレか?
ギラギラに輝く鉄板を体に纏っている。まぁ、鎧ということだろう。二人の鎧のデザインは装飾含めて統一されており、有り合わせのものでは無いことが窺える。
歩いていくと、こちらに気づいたようで、呼びかけられる。
「止まれ、ここは我々の管轄下にある。侵入は許されていない」
……管轄下ねぇ。俺は言われた通り止まった。
「すみません、人の声が聞こえたのでここに避難所があると思い来たのですが……受け入れはされていませんか?」
怪しすぎる風貌だが、敵対するメリットはない。まずは情報を集めないとな。
「受け入れの希望か。しばし待たれよ」
そう言うと、どこにいたのか三人目の鎧を装着した男が近づいてきて、何事かを話し合うと中に走っていった。
「……あの……き、気合い入ってますね!」
ロールプレイも様になっている気がする。コスプレのクオリティも高く、様になっている。ただ、こんな時にやらんでもいいんじゃないかな、とは思うが……。
「…………」
……話す気は無いと。なかなか入り込んじゃってる感じみたいだな。
千秋は俺の手を握って不安そうにこちらを見てくる。まあ、大丈夫だろう。俺は安心してもらえるように千秋の手をにぎにぎした。
不思議そうな顔の千秋だが、返答のつもりかにぎにぎし返してくる。それに俺も答えるようににぎにぎする。ふふふ、と千秋が笑った。
しばらくにぎにぎ合戦をしながら待っていると、これまた同じく鎧を着込んだ男二人を連れ立って、女性がこちらに歩いてきた。目が合うなり、ジロジロとこちらを見てきた。
「こんにちは。私はネイテール・ラズボライ。ユリスロード王国第三騎士団で副団長を任されています。よろしくお願いします」
…………なんて?ろ、ロールプレイってことでいいんだよな?若いが成人した女性に見える。コスプレ大会でもやってんのか?
……なんか前にもこんなことあったような……。
「は、刃山優希だ。よろしく頼む。こっちは神川千秋だ」
俺は混乱しながらも自己紹介を進める。紹介した千秋もお辞儀をした。
「こちらに所属したいという認識で間違いないですか?」
彼女、ネイテールだっけか?は、鋭い目つきでこちらに問いかける。ライムグリーンの長髪を後ろで纏めている……かつらかな?キリッとした顔立ちだ。鋭い目つきは冷たい印象を与えてくる。ファンタジックなスーツの様な、ピシッとした服に身を包んでいて、体のラインがクッキリ出ている。特に胸がデカい。服を押し上げてパツパツになっている。
「しょ、所属ですか……?」
避難所に受け入れてくれるってことか?ロールプレイなんだよな?俺も鎧とかつけて、これやんないといけないの?それが条件だ、ってこと?
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。我が騎士団が命の安全は保証いたしますので。さ、こちらへ」
な、なんかちょっと強引じゃないか?そんなにロープレ仲間が欲しかったのか?いや、保護してもらえるならそりゃ嬉しいけども……。それ今やらなきゃいけないの?
促されて断りを入れにくくなってしまった俺は素直について行くことにした。ロープレ……恥ずかしいんだが。
校舎内を歩いていくと、ここの生徒だろうか若い男女と何度もすれ違った。避難民と思われる人たちも何人か見かけたが……若い人ばかりだな。
3階に上がり真ん中あたりにある部屋に通された。そこには煌びやかな鎧に身を包んだ男が座っていた。
「やあ、こんにちは。私はこの騎士団の団長を任せられているマスカナル・ラズボライだ。よろしく」
いかにも好青年な感じのイケメンににっこりと笑いかけられる。歳の頃は俺と同じくらいだろうか?ん?ラズボライ?確かここまで連れてきてくれた彼女もそうだったような……兄妹設定か?ライムグリーンのかつらも同じだ。よく見たら顔も結構似てる。
「こんにちは。刃山優希です。こっちは神川千秋。よろしくお願いします。……あの、避難所に受け入れてもらえるということですよね?ありがとうございます」
「ああ、歓迎するよ。外はモンスターがうろついていて大変だったろう。まずはしっかりと休んで、英気を養ってくれ」
「ええ、ありがとうございます」
受け入れてもらえるようだ。良かった。
「2階までが生活スペースになっているから好きなところでくつろいでくれ。少ししたら食料の配給もある。その時にでもここのルールを教えてもらってほしい」
食料配給もある。いいね。しかしルールか……ロープレを楽しむための決まり事的な?ここまでくる途中の避難民は特にコスプレをしている感じもなかったし、変な喋り方もしてなかった。選択の自由はあるのかもしれない。そうであるならありがたいが。
「ありがとうございます」
「ああ、お互い仲良くやっていこう」
「はい、では失礼します」
俺は部屋を出た。さっきのがここのリーダーって感じだな。なかなかの好印象だ。ここなら上手くやっていけるかもな。
「結構いい所そうで良かったな」
「うん……」
千秋に言うが反応はイマイチだ。俺の手を握る手は緩まることはない。レイプ魔がいるんだもんな。もうそんなやつ追い出されててもおかしくないと思うが、警戒はするべきだな。なるべく千秋とは一緒にいよう。
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「いい拾い物をしたね」
「はい」
私は胡散臭い笑みを浮かべる兄を見ながら、先ほど保護した青年のことを思い出す。中々の好青年だと思う。しかも、言われるがままに着いてきながら、警戒は怠っていなかった。死線はいくらか潜ってきていると見える。
しかも……
「まさか男のウェリアとは……よく無事でいれたもんだ」
本当によく無事で。この世界の女はどれだけ理性が強いというのだろうか。あるいは性欲が薄いだけなのか……。どちらにせよ、ようやく私もまともに魔力回復ができる。
「…………壊すなよ?」
「分かっています」
そんなこと言われるまでもない。男のウェリアがどれほど貴重か。そんなこと女性が一番理解している。
今から彼と体を重ねるのが楽しみだ。身体が疼いているのがわかる。こんな幸運があっていいのだろうか。
ふぅ……早く補給時間にならないかな。




