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異界融合 〜崩壊した世界で少女達と共に生き抜く〜  作者: レモンGUN
一章

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30/61

ボス戦

 俺は今、屋上で見張りという名の隠れんぼをしていた。

 のっぴきならない事情があり、凛と響と会うわけにはいかず、できるだけ二人に見つからないような場所にいたかったのだ。


「はぁ…………」


 俺だって辛いさ。二人ともとてもいい子だ。ここまで一緒に頑張ってきた仲間だ。そんな二人を遠ざけなければいけないなんて……。そりゃため息も出るわ。

 だけど、分かっていながら仲良くしてた俺が悪い。もっと早くから距離をとっておくべきだった。なんなら公民館に置いてきて……いや、あの時は二人で俺に会いにきたんだっけか。

 まったく、モテる男はつらいねぇ……。いや、冗談にもなってないわ。


「はぁ……空はこんなに澄んでいるのに、俺の心は雨模様……」


 ぼけーっと森を眺めていたら、ふと、鳥の数が多いことに気づいた。あれは……カラスもどきか?

 カラスもどきとは俺が勝手につけたあだ名だ。初めはカラスだと思っていたが、近場で観察することがあって、全然別物だということが判明した。色々細かい違いはあるが、一番はそのデカさだろう。羽を広げると、凛が腕を広げたときくらいの大きさになる。だが、人を襲っているところは見たことがないので、普段はあまり気にかけない。

 あと違いがあるとすれば、舌が異様に長いことだ。猫の舌のようにザラザラしているのか、それで屍肉を削り取って食べているところを見たことがある。

 そう、屍肉を貪るタイプの鳥だ。その群れが見える。なにか、大きな死体があるのか、はたまた大量の死体か……。

 カラスもどきクイズでうんうん頭をひねっていると、もう一つ気づいたことがあった。


「こっちに、近づいてきてないか?」


 その群れは、特に統率が取れている様子もなく、ただただ飛び回っているように見えるが、しかし、少しづつこちらに近づいていた。

 よく見ると、奴らの真下の木々が揺れて……それもこちらに近づいてきている。


 理解してから冷や汗が出てきた。何かが、こちらへ向かってきている?しかも、木を揺らしながら移動するようなヤツが……。


「まずいまずい、まずいぞ……」


 俺は屋上から飛び降り、防衛隊の詰所のようになっている教室へ向かった。

 まだ、姿は確認していない。状況から見えてくる推測に過ぎないが、もしそれが当たっていたなら、大変なことになる。俺の勘違いだったらそれでいいのだ。みんなに謝ろう。それで済む。

 だが……そうでなかったら…………また、大勢が死ぬことになる。


「おい、みんな大変だ!何かがこっちへ向かってきているぞ!」


 急いで声をかけると、さすが、伊達にモンスターどもと戦い続けていない。すぐに準備をして外に出た。

 地上からでも、鳥の群れは確認することができた。俺は屋上から見た情報と、推察を伝える。


「なるほど、それが本当に起きてしまったら……取り返しのつかないことになる……!」


 俺の危機感はしっかり伝わってくれたようだ。


「戦える者を全員集めてくれ!それから避難所のみんなに防備を整えるように言ってくれ!あと……念のためここを捨てて逃げる準備も!」


 どうやら俺以上に危機感を持ってくれたみたいだ。確かに、木を揺らすような相手だ。逃走を選ばなければいけない場合もあるか。





 その後、小学校内は蜂の巣をついたような騒ぎになった。簡易的なバリケードを校門前にありったけ並べ、手作りの武器をかき集めて配った。

 先生方が小学生たちをまとめて、班ごとに分けている。どうやらこうなってしまった時のために、すでに色々と決めてあったようだ。ここで生活していた避難民たちもそこに組み込まれる。


 素晴らしい対応だ。きっと初日に襲われて生き残ってから色々と準備をしていたのであろう。俺が懸念を伝えてから、十分ほどで体制が整ってしまった。




 かくして、ついにカラスもどきの群れがほぼ頭上に来ようかという頃、校舎の二階からみんなが見守る中、そいつは姿を現した。


 木々の隙間から、大きなものが動いているのが見てとれる。それはゆったりと、しかし大きな足音を鳴らしながら顔を出した。


「お、狼……か?」


 誰かが言った。顔の造形で言ったら狼だろう。今まで俺たちが苦しめられてきた奴らにそっくりだ。だが……


「デカすぎんだろ……」


 それは、校舎の2階にも届きそうなほどの体高をしていた。木々はその巨体により傾き、ザワザワと音を立てる。

 どうする?これを相手にどう立ち回ればいいんだ?俺より遥かに高い位置にある頭。刃が通るかすら分からない、体毛に覆われた巨体。そして……


「おい、いつもの狼もいるぞ!」


 大量の狼。

 なるほど、ボス戦ってわけか。群れの長ってところか?こんなヤツどこに隠れていやがったのか。冗談じゃない。


 とにかく、つっ立っているだけじゃこいつらに食い殺されるだけだ。俺は、みんなに声をかけながら、強化をかけていく。


「せ、戦闘準備だ!隊列を組め!」


 東郷さんが声を張り上げる。狼どもはそれを合図にしたかのように、一斉に走り出した。

 スクラムを組んだ最前列に狼どもが襲いかかる。


「はぁっ!」


 先頭に突き出した誰かの槍が、狼の体を貫いた。しかし、その槍を抜く前に、すぐに次の狼が襲いかかってくる。その狼の頭を、俺は突き刺して、投げ飛ばす。


「互いを気にかけ続けるんだ!一人で対処するな!連携しろ!」


 狼どもとぶつかり合った地点から少しずつ下がっていく。これは、死体の山ができて、高所を取られないようにするためだ。多少下がっても、この隊列を崩してはいけない。

 一番最悪なパターンはこの前線が抜かれて、校舎の中に狼どもが雪崩れ込むことだ。多少抜かれても、俺たち後衛が処理出来るが、隊列が機能しなくなり乱戦になると、一気に厳しい戦いになる。


 狼は波のように襲いくるが、抑え込むことには成功している。一頭また一頭と狼の死体が出来上がっていく。


「よっしゃ!何とかなるぞ!気合いを入れろ!」


 こちらにも損害は出ている。負傷者もでており、動けない人は護衛をつけて保健室まで連れて行かれた。隊列内で負傷者が出た場合は、速やかに補欠要員と交代し、穴を埋めていく。

 しっかりとしたシステムが組まれていた。この数の狼の大群は初めてだったようだが、多少の崩れはあるものの、致命的なミスもなく、しっかり対処出来ている!

 いける、いけるぞ……!このまま処理を…………



 そこで、違和感に気づいた。そういえば、あのデカい狼は何してんだ?そちらを見やる。特に何もしていない。後方ボス面で、じっとこの戦局を見極めているような。

 何してんだ?あいつは戦えないのか?子分どもに戦わせて自分は見物か?このままだとお前の子分は全滅するぞ?


 そのままある程度、狼の処理が終わった。

 現状で言えば、大勝利だろう。多少損害が出たとは言え、やつの手駒はもうほとんど見当たらない。


「っしゃおらぁ!!」「どんなもんじゃい!」


 勝鬨を上げている。ボス狼の目の前で。

 なんだ?何がしたいんだ?あいつは……。

 俺は、勝てるのにわざと負けを選んでいるような、そんな不気味さを感じ、ジッとボス狼の顔を見つめる。


 すると、そいつはゆっくり動き出した。

 きたか、ボス戦……。俺はヤツの首に槍を突き刺すイメージを固める。ジャンプすれば十分届く高さだ。あとはこの槍の硬さとヤツの毛皮の薄さ次第だな……。

 気を引き締める。こいよ、人間様の力を叩き込んでやる。そして……



  ──────カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ



 そいつはその巨体に見合ったどデカい遠吠えを発した。

 ぐぅ……耳が……。多くの人が武器を落とし、耳を塞いでいる。まずい、今襲われたら前線が……!


 …………しかし、その巨大で突進してくる、なんてことはなく、ヤツはまた沈黙した。

 な、なんだ?なにが…………


  ──────アオオオオォォォ……


 遠吠えが聞こえる。それと同時に、ワラワラと狼の大群が、ボス狼の後ろから現れた。

 嘘だろ…………。

 第二陣だ。奴ら後ろで待機してたのか……何のために?なぜ一度に送り込まなかった?バカなのか?

 俺はボス狼の顔を見た。狼の表情なんぞわからんが、何故か、笑っているように思えた。


(優希さん!ダメです、逃げてください!)


 その時、凛のテレパシーが脳内に響く。……と、同時にボス狼の思考も流れ込んでくる…………。


「…………は?」


 絶望した。どうやっても勝利などないと理解してしまった。


「来るぞぉぉ!!気を引き締めろぉ!!」


 くそっ!だとしてもこの大群を放置して逃げることなどできない。


(凛!響と協力して何とかみんなを逃がしてくれ!急げ!)


(でも、優希さんは!?)


(これを処理したら、逃げる!こっちで時間を稼いでいる間に……頼む!)


 その後も凛からの悲哀と焦燥の感情がぶつけられたが、全て無視した。どのみちコイツらを処理しないと俺も死ぬ。


 狼の群れは我先にと隊列に向かって突っ込んでくる。同じように対処すればいい……そう思うが、一つ目の群れですでに精一杯だったのだ。脱落者が何人も出てしまう。

 後ろに抜けてくる狼も多くなり、対処が厳しくなる。


「踏ん張れぇ!!絶対に崩れるなぁ!!」


 何故か崩れずに持ちこたえている前線。気合いを入れる声に、体が震えた。後衛組も声を上げて、気合いを入れる。踏ん張れ!力を振り絞れ!


 もう、ほとんどの人は立っているのがやっとの状態だ。隊列はもはや機能していないだろう。死傷者はかなりの数だ。まさに死屍累々。


 だが……凌ぎ切った。本来なら抜かれていてもおかしくない数の狼を処理した。狼の血に塗れた槍を杖にして座り込む。みんな、勝利に安堵している。

 だが、ヤツは…………



 ──────カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ



 またも遠吠え。けたたましい爆音に耳をやられながら、しかし、俺はそいつの顔から目が離せなかった。コイツの目的……それは、


 俺たちを嬲って愉しむこと。


 ボス狼の後ろには何千という狼の大群が待機している。第何陣まであるのか……想像もできない。全て処理するのは不可能だ。

 声を出し終わったヤツはまたこちらを見据えて沈黙。俺はヤツの顔面を睨みつけた。今度は嫌でも感じ取れる。ヤツは今、嗤っていた。


  ──────アオオオオォォォ……


 遠くから声が聞こえた。


 くそっ…………凛と響は大丈夫だろうか……。

 避難した人たちの中には子供たちも大勢いる。こんなことになるならきちんと戦闘訓練させるよう説得するべきだった。そうすればここを放棄した後でも子供たちだけで生存できる可能性も上がったはずだ。

 むしろ、協力することであのデカブツもぶっ殺せたかもしれない。

 …………いや、結果論だ。結局俺もここのやり方には賛同したんだ。大人が子供を守る。そんな当たり前を選んだだけだ。

 ここまでされてようやく倫理観のアップデートが進んだんだろう。もう遅いが。


 ムカつくことにボス狼は、避難民たちが逃走を選択した後もそこから動くことはなかった。まるで、エンドロールまでが映画だ、とでも言わんばかりだ。


 クソッ、クソ……クソ…………!またか。また俺はコイツらにいいようにされて。また…………。クソ…………。

 

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