理科室?
「そちらに三頭向かいました!囲い込んで仕留めましょう!」
俺は狼の首から槍を引き抜き、陣形を組んでいる先生方へ声を出した。
狼どもはその中の一人に飛びかかろうと近づくが、足を滑らせて転げ回った。そこをすかさず囲い込み、これでもかと槍を突き刺していく。
辺りに敵影はもう見えなかった。
「ナイスです」「お疲れ様!」
互いに労いの言葉を掛け合い、モンスターの死体の処理をしていく。
「いやぁ、強化いいですね!一対一なら負ける気がしませんでしたよ」
「ははは、お役に立てて何よりです。ただ、油断だけは禁物ですよ。強化されているのは筋力だけですからね」
俺は、この避難所の防衛隊に混ざり、襲撃してきたモンスターを一緒に撃退していた。
ここに来てから今日で三日目だ。先生方ともそれなりに打ち解けた。モンスターは度々やってくるが、難なく撃退できていて、俺が来てから怪我人が出なくなったと喜んでくれた。何もない状態だとモンスターに力比べで負けてしまうので、そこで勝てる様になったと考えれば劇的な改善だろう。
ちなみに能力を利用した撃退は上手くいっているらしい。先程の戦闘で狼どもがすっ転んだのは、能力によるものだ。指定した範囲を足で触れておくと、そこをスベスベに出来るらしい。なんか地味な能力だなと思ったが、戦闘中急にやられたら絶対に転ぶ自信がある。やってもらったからわかる。指定範囲が狭いのが玉に瑕。
他にも、持っている武器に毒を滲ませたり、投げた物を必中させる能力だったり、大きい音を出して相手を怯ませる能力だったり、なかなかユニークな能力が目白押しだ。
しかし、集団戦になると純粋な筋力で戦っている人が多いのもあり、怪我人が少なからず出てしまうのだ。そこを補うことが出来たので、戦いやすいくなったのだろう。
「刃山さんが来てくれて助かってますよ!……それで、なんですけど、補給お願いしてもいいですか?」
「…………はい」
問題があるとすれば、補給が必要なことだろう。防衛隊に所属していると能力はとことん使いまくる。当然魔力が枯渇していき、補給せざるを得なくなる。
最初は教員同士、気の知れた者同士で補給しあっていたのだが、俺にもその役回りが来てしまい一度舐めさせたのだ。そうしたら、回復量が違う、美味しい、などと宣伝されて今では立派な人気魔力サーバーになってしまった。
もちろん乳首を舐めさせているわけではない。当たり前だろ。舐める場所は主に前腕だ。舐める前にアルコールで消毒をして、口に咥えさせたりする。
いや、女性ならまだいい。なんか色目を使われてちょっとドキッとしたりなんかして。こっちとしても役得だなぁと嬉しかったりもする。
だが、補給には男もやってくる。恥ずかしそうにペロペロしにくるのだ。嫌なら来んなよ!と言いたいが、回復量が段違いなのだとか。おい、ほんとに枯渇したから来たんだよな!?勘弁してくれ……。
ちなみにここの生徒も補給にきたりする。やっぱり使うなと言われても使っちゃうよな、能力。こんな面白いおもちゃで遊ばないわけがない。案の定使いすぎて、疲弊し、体力の無さも相まってぶっ倒れるらしい。
約束を破った小学校高学年の生徒たちが一堂に集められ、先生方に怒られる。その後、列を成して俺に補給を求めてくる。こっちの魔力が枯渇するとか今のところないし、子供相手だから不快感とかもないけど……。なんか舐めさせる前に必ずアルコール消毒するから、予防接種されてるみたいな感覚になる。
「優希にいちゃんありがと!」「優希さんありがとうございました!」
まぁ、美味しそうに舐めてる子供達を見て、自然と笑顔になってたりもするのだが。……これって俺やばいか?
そんなこんなで、絶賛魔力サーバーとして活躍中だが、この状況を良く思わないお方もいらっしゃる。
凛だ。彼女は集団魔力補給が行われている部屋の入り口からこちらを、ジッ……、と見ている。ずっと。怖すぎる。
凛はここの生徒と同様に、能力の不使用を言い渡されている。
響は基本的には凛と同じ扱いなのだが、お湯を作ったり、飲み水を煮沸したり、部屋を冷却したり、冷水を作ったり、とにかく多才でこの夏のサバイバルにおいては、大活躍している。そんな響は後で補給をすることになっている。
凛はというと、活躍できるのは主に戦闘面なのだが、大人たちだけでモンスターが処理できている現状、他の子たちが戦わないのに彼女たちだけが戦闘に参加するのはいかがなものかという話になったらしく、参加をさせていない。
凛も響も十分戦えて、なんならここにいる誰よりも強いことは、大人たち全員が理解しているが……。そこは大人たちの意地ということかな。なかなか今までの常識を塗り替えるのは難しいのかも知れない。
まあそういうわけなので、凛は能力を使っていない。よって補給の必要がない。
約束が守れなかったヤンチャな子供達への補給が終わった俺は、ヒリヒリする腕をさすりながら部屋を出る。外には口だけが笑っている凛と、苦笑いの響が待っていた。
「お、おう凛、響元気そうだな。体には気をつけるんだぞ」
そう言ってその場を後にした。二人は後ろからついてきた。
「優希さん、この後予定は何かあるんですか?」
「あ、ああ。防衛隊に関してのミーティングだな。戦闘の連携について話すから重要なやつだな」
「その後は?」
横に張り付き、間髪入れず質問してくる凛。ずっとこちらの顔を覗き込んでくる。おい響、見てないでなんとかしてくれ。
「物資の管理についての話し合いがある。物資が無いと生きていけないからな、重要なやつだ」
「その後は?」
「……ひ、響の、魔力補給、かな?」
これには響もニッコリ。
「それ、私も行っていいですか?」
「へ?な、なんで?」
「……なんでもです。響もいいよね?」
「うん、いいよー」
凛さんずっとこちらに目を合わせているから怖いんですけど。心読まれてないよね?スイッチはずっと読まれないようにしているはず……。結局のところ、読まれていないかは確かめようが無いので、彼女を信じるしか無い。
最後にニコッと、誰もが振り向くキュートな笑顔を作ると、響と一緒に離れていった。……ふぅ。
これでもちょっとは申し訳ないと思っているのだ。彼女の気持ちには、気付いている。勘違いでなければ、だが。こうも邪険にされたら、そりゃ辛いだろう。
しかし、凛も響も高校生の女の子だ。その気持ちに応えるわけにはいかない。親御さんの目も怖かったし。
すまないが、諦めてもらうのが一番良いのだ。
────── ────── ──────
久しぶりの優希さんの補給だ。心がウキウキして踊っているのがわかる。凛には申し訳ないと思うけど、この能力で良かったな、と心から思う。
約束の空き教室にいくと、優希さんがすでに待っていた。トクン、と心臓が跳ねる。カッコよすぎる。
ちなみにこの場所は、凛にアドバイスを受けて、ここにしようと優希さんに言った。あまり人が来ないから良い感じらしい。
「ああ、響……と凛、いらっしゃい」
「おーす!補給お願いしまーすっ」
ひっさしぶりのっ、ゆーうきさんのっ。
私はスキップで優希さんに近寄る。
「ああ、じ、じゃあ始めようか」
そう言って優希さんは、腕を私の前に突き出した。たくさんの人に舐められたのか、少し赤くなっている箇所が見える。
………………?
私は優希さんの顔を見上げた。優希さんは目を泳がせて、こちらを見ようとしない。
「優希さん、乳首の方がいいんじゃ無いですか?響はたくさん能力を使っているので、腕からだとすごく時間がかかっちゃいますよ?」
「ひぇっ?そ、そうだな。乳首……。そう、だな……」
優希さんはシャツをいそいそと脱ぐと、床にあぐらをかいた。
私は足の間に座り込むと、優希さんに抱きつき、口をつけた。
「はむ…………ん……」
口をつけた瞬間に、口の中に広がる優希さんの味、優希さんの匂い、優希さんの魔力……幸せぇ……。
四日も優希さんと補給をしていなかったのだ。……優希さんが愛おしい。
「優希さん、防衛隊の方はどうですか?最近、あまりお喋り出来てないので、聞きたいです」
「んぇえっ!?……ん、そ、そうだな、みんな…………いい、感じだぞっ」
凛は優希さんのそばに腰を下ろすと、肩に頭を置き、腕に絡みついて優希さんの手をスリスリしてる。
「んむ……ゆうきしゃん…………」
「……の、能力もあって、強い、ふっ、からな。二人は心配しなくて、ん、大丈夫だ」
「そうなんですねっ。とても頼もしいです!
………………ところで、優希さんは、今、どこで寝泊まりしているんですか?」
「んへぇっ!?ねと、ネトマリ?」
優希さんの体がいつも以上に跳ね上がる。心臓がバクバクしているのを唇で感じることができた。ふふ、可愛い♡
「はい、たまに会いに行きたいなって」
「んむ……あむ……」
「えぅ……エト、いっ、いろんなところを、転々としてる、から、決まった場所っていうのは、ない、かなぁ?」
「そうなんですか?例えば?」
「えぇ!?たとえば?たとえば……しょ、職員室とか……」
「…………本当ですか?」
「……ほ、本当………………だったり、そうじゃなかったり……するかも?」
優希さんの心臓がドクドクいっている。優希さんを味わいながら、優希さんの鼓動を強く感じることができて、これ…………すごくいい…………。
(響、いくよ?)
(うん)
「二階ですか?」
「んぇ?な、なにが?」
「優希さんが寝ている場所です♪それとも一階ですか?」
優希さんの心臓がドクンと跳ねる。可愛い♪凛が言ってたのはこういうことかぁ。
(すごい心臓ドクンってしたよ)
(オッケー)
「家庭科室とかですか?」
「あ、あの凛、いろんなところで寝てるから、特定の場所ってのは、ん、ないんだ」
「そうなんですか?んー……図書室とか?」
「べつに、俺の寝てるところ、なんて、ん、来ても面白いことなんて無い、ぞ?」
「そんなことないですよぉ♪いっぱいお喋りしたいですっ…………理科室?」
「………………し、信じてくれ、教えたく無いわけでは無いんだが……その、世間体とか……」
あ、すっごいドキドキしたっ!もう……カワイイ♪
私は優希さんが愛おしくてたまらなくなり、抱きしめる力が強くなる。
(凛、そこかも♪)
「んむんむ」
「そうですか……とっても残念です。では教えてもらうのは諦めます……」
「…………そ、そうか。わかってくれたか」
「んむ……んむ……」
私は最後にぎゅーって抱きしめてから離れた。はぁ……幸せだった……。
「はぁ……はぁ……優希さん……補給、ありがとっ♪」
「あ、ああ……響、頑張りすぎないようにな」
「ええー?困ってる人がいて役に立てるなら、いくらでも頑張るよっ!」
「そ、そうか……ほどほどにな……」
私は補給を終えて、凛と一緒に空き教室から出た。
「凛、今夜行くの?」
「うん、私も優希さんをもっと感じたいし。響も行くでしょ?」
「もちろん」
最初、凛の計画を聞いた時は上手くいかないでしょって思ってたけど…………すごかったな、優希さん。
やっぱり凛はすごいや。頭もいいし、優しいし、可愛いし。それなのに能力の使い所がなくて、補給できないからちょっとかわいそう……。
私の能力はいっぱい使い所があって本当に良かった。私だけ補給してもらっちゃって凛には悪いなって思う。
きっと凛も私のこと羨ましいって思ってるんだろうな。凛優しいから、そんなこと私に言わないと思うけど。
でも…………実は私も、凛のことをとても羨ましいと思っている。頭の良さとか、可愛いとか、そういうところじゃなくて…………。
なんか、優希さんのことすごく良く分かってる感じがする。
………………私よりも。
やっぱり二人はお揃いだからかな?それで通じ合うものがあるんだと思う。
私もお揃いになりたいなぁ……。
わたしも…………
──────人を殺して……。
そこまで考えて頭を振る。考えてることを吹き飛ばす。いけない。これは。そんなことをしてはダメだ。
……………………。
私は隣の凛を見る。今夜のことを考えてるのかとても機嫌が良さそうだ。凛はどう思っているのだろうか。人を殺めてしまったことについて……。
私は、そのことで凛を、親友を嫌いになるなんてことはしない。
ただ……羨ましいという感情が大半を占めてしまっている自分の心がとても醜く感じられた。




