小学校
俺たちは、素早く強化を終えると狼どもの後ろから急接近する。気づかれる前に素早く何頭か始末した。
「加勢します!」
「き、君たちは……助かる!」
大人たちが狼の集団の攻撃を受け持ち、俺たちは外側から徐々に数を減らしていく。
狼相手なら慣れたもんだ。凛のテレパシーを駆使して、囲まれることもなく立ち回る。そして、だいぶ数を減らした狼どもは不利を悟ったか撤退していった。
「ありがとうございます、助かりました……黒宮さん、夏野さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです先生」「どもっ」
戦闘が終わり合流すると、ガタイのいい男とそんな会話が始まった。どうやら、二人の小学生時代にもいた先生たちなのだろう。まあ、ここ数年の話だ。まだ記憶に新しいだろう。
再開の会話もほどほどに、その先生は俺たちを小学校の中に入れてくれた。
「改めて、ありがとうございました。助かりました。東郷です。よろしくお願いします」
「無事で何よりです。私は刃山といいます。よろしくお願いします。……しかし、良かった。ここは避難所として維持できているのですね。モンスターとも戦えていましたし」
「……いえ、維持というほどでは……。すでにかなりの方がモンスターの襲撃で命を落としました。生徒も含めて……。余裕もないですし、モンスターに襲われると、毎回怪我人が出ています。いつまで持つか……」
挨拶もそこそこにここの状況を教えてもらった。
曰く、初日に半分以上がモンスターにやられてしまったらしい。気絶した生徒も何人もいて、その子たちを守りながらわけもわからず避難と対処をしたのだ。
最初にいた学校ではほぼ全滅だったことを考えると、ここはこれでもかなり良くやったと言えるだろう。
校舎への避難を完了し要塞化した後、周辺の物資を集めつつも、敷地の周りの柵を少しずつ補強しながら今に至るらしい。
正直すごいと思う。この場所を安全地帯として確保できている。子供が何人もいる中でモンスターに対処しつつもここまで場を整えたのだ。被害が出てしまっていることは残念だが、ここまで対処できている場所が果たして他にどれだけあるだろうか。
「はは……まぁ、実は子供たちの方が私どもより強いんですけどね」
東郷さんは苦笑いしながら言った。
みんなの能力についても情報交換をした。それによると、能力覚醒の分水嶺は小学四年、十歳ごろだということが判明した。四年生の生徒達の中で、能力に覚醒する子とそうでない子に分かれ、三年生以下は無能力、五年生以上は覚醒し、年が上がるにつれて筋力が上昇していくらしい。
「なるほど……生徒達を戦わせたりは?」
「いえ……これでも教師ですからね……。子供達にも手伝ってもらった方が良い結果が得られることは理解しているのですが……。」
まぁ、そういうものか。子供にモンスターと戦え、とはなかなか教師として言えるものではないのかもしれない。いくら自分よりも強いとはいえ、子供が狼に負けないとは限らない。
「そういえば、ここに黒宮さんの母親は来ていませんか?彼女の自宅に、小学校へ行くと知らせる書き置きがあったのですが……」
「ああ、黒宮さんのお母様ですね。来られてますよ今は黒宮さん……鈴音ちゃんと一緒にいると思います。夏野さんのお父様もここに合流していますよ」
「えっ父ちゃんも来てんの?」
凛の家族の無事と共に、響の父親の生存も確認できた。
「よかったな凛、響。会いに行ってきたらどうだ?」
「……うん」「はいっ」
二人は場所を聞くと、校舎に走っていった。響の涙ぐむ声が、印象に残った。
「良かった、生きていてくれて」
「本当にそうですよ。良くここまで辿り着けましたね」
俺は、ここまでの経緯をかいつまんで話した。
海郷高校ではほぼ全滅だったことを聞くと、相当落ち込んだ様子だった。あそこには教員仲間で仲のいい友人がいたそうだ。守ってあげられなくて申し訳ない……。いや、むしろ俺はあの時、他の人たちを身代わりに、とさえ思っていた。何か言える立場にはない。
他にも避難所があり、生活していることを聞くと、少し希望が持てると喜んでいた。暴漢と戦闘をしたことは話さなかった。
そんなこんなでお互いの情報交換も終わり、生活スペースも用意してもらった俺は、持ち物の手入れをしながらくつろいでいた。
「優希さんっ」
すると、凛と響が家族を連れて挨拶に来てくれた。
「初めまして、凛の母です。娘がお世話になりました。本当にありがとうございます」
そう言って妙齢の女性は、頭を下げてお礼を言った。
「いえいえ、あ、初めまして、刃山です。娘さんには逆にとても助けられましたよ。こちらこそありがとうございました」
こちらも立ち上がり頭を下げる。
いや、本当に。凛がいなかったらここまで辿り着けなかった。というか早々に死んでただろうな。
「どうも、響の父です。こっちも世話になったわ。よろしくな、あんちゃん」
「いえいえ、こちらこそです。ありがとうございました」
自己紹介を済ませると、これまでの旅の話になった。みんなで、軽食を食べながらワイワイと盛り上がる。二人とも暴漢と戦闘をした時の話題を避けてくれているのが、なんとも……心苦しい。
能力を得た二人の活躍を聞いていると、すでに知っていた俺が聞いても驚く様なものばかりだ。凛の妹さん、鈴音ちゃんも目をキラキラさせながら聞いている。
ちなみに鈴音ちゃんは小学四年生だが、能力には覚醒していない。やっぱり能力を持ってない子は、羨ましいとか思ってるのかな。
しばらく歓談していると、気づいたことがある。親御さん達の俺を見る目が険しくなりつつある。すこーしだけ心当たりがあるので、何も言えない。いや、もちろん、娘さんに乳首吸わせてます!とかそんなこと話すわけもない。が、凛と響が俺のことを見る時の、表情だとか、その、仕草が……側から見たら分かりやすいのだろう……。
冷や汗をかきつつ、親御さん達の視線に気付いてからは生きた心地がしなかった。話もひと段落し、陽も落ちてきたので、解散することになった。
「じゃあ、優希さん、後で補給よろしくお願いしますねっ」
「よろしくー」
……心臓が消失するかと思った。ご家族は不思議な顔をしながらもそれぞれのスペースに移動していった。
正気か?あいつら……。確かにここに来るまでに能力は使ってるが……俺は知ってるんだぞ。お前らはそこまで魔力枯渇をしていない。補給が必要というわけではないはずだ。つまり……。
俺の体を弄んで楽しむために補給行為をしている可能性がある……。
冗談じゃない……。ここには大勢人がいる。ましてや二人のご家族も。……だめだ、補給するわけにはいかない。なんとか……なんとか二人から隠れないと……。
俺は軽く荷物をまとめると、生活スペースを変更する旨の書き置きをし、助けてくれる大人達がいるところへ向かった。
「こんばんは、先程はどうも……」
「ああ、刃山さん。今日はありがとうございました。いかがなされました?」
俺は職員室に向かった。何人も大人がいて安心する……。
「いえ、実は話しておきたいことがありまして。魔力についてなんですけど」
俺は話の種として持ってきた、魔力についての情報共有をした。ここに来て大人達を、特に若い二十代の人たちを見て気付いたが、疲弊し切っている顔をしている。おそらく魔力補給はしていないだろう。
三十代以上の人たちは、筋力のみで戦っているからだろう、そこまで辛そうではない。しかし能力を持ち、それを駆使しながらモンスターと戦っている人たちは魔力をガンガン消費しているはずだ。
疲弊した人たちの、こちらを見る目からしても明らかだ。守ってくれる大人達のところへ避難したつもりが、オオカミの巣だったでござるの巻。
「なるほど……肌を舐める……。いや、実際我々は日々疲労が溜まっていっているのを感じています。それで解消するのであれば、試す価値はありますね」
「ええ、ぜひ。今後もモンスターの襲撃で戦う機会は多いはずです。みんなで子供達を守りましょう!」
ちなみに、ほんとに生徒たちには戦闘に参加させていないので、極度に疲弊した子はたまにしか出ていないみたいだ。能力の使用も禁止しているので、補給の心配はなさそうか。既に疲弊してる子もこれで回復するだろう。
しかし、小学生がこんなファンタジー能力を手に入れて使わないなんてことあるかな?こっそり使ってそうだが。俺だったらやってる。
まぁともあれこれで、少しでも守れる人が増えることを願う。
「ところで……羽山さんは黒宮さんと夏野さんとずっと一緒に行動していたのですよね?魔力補給はどうしていたのですか?」
心臓が跳ねる。確かに、そうだ。凛と響とはずっと一緒にいた。しかし……魔力補給に関して本当のことを言うわけにはいかない……!
「ええ……彼女たち二人で補給しあっていたようです。二人は仲が良くてですね、あまり抵抗はないと言っていました」
「ええそうですね。二人はうちの生徒だった頃からとても仲が良かった、納得です。……羽山さんは?」
「いやぁ、それが私は特異体質みたいなんですよね。いくら能力を使っても魔力が枯渇しないんですよ」
「へぇ、そんなことが!」
これは本当のことだ。
「…………」
しばらくにっこりして見つめあった。ど、どうだ?
「ははは、特異体質ですか。羨ましいですね。ちなみにどのような能力で?」
他の教員に質問される。
「私の能力は、自分と他人の筋力を上げることができるんですよ。集団で戦う時は結構役に立つと思いますよ?」
「それは素晴らしい!次モンスターが現れたら参戦よろしくお願いします」
「はい、もちろんです」
……ふう、なんとかなったみたいだ。生きた心地がしなかった。モンスターと戦うより心労がきついな。
あとは……、
「あの、一つお願いがあるんですけど……モンスターが現れた時にすぐに参戦できるように、校門の近場で生活したいのですが、寝泊まりできる場所はありますか?」
「おお、そこまで考えていただきありがとうございます。そうですね、一階の角が校門から近いと思います。理科室ですね。そちらでよろしいですか?」
「ええ、もちろん。ではそちらを間借りさせていただきます。あ、心配させてもなんなので、そこにいることは黒宮さんと夏野さんには内緒で、よろしくお願いします。では、もう遅いですし私はこれで、失礼します」
「……?分かりました。有益な情報ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」
そう言って、新しい、まだ彼女たちに知られていない寝床の確保に成功した俺は、そこで一夜を明かした。この場所だけは絶対に死守する。
二人に知られてはいけない…………!




