捜索
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優希さんがいない。
昨日、優希さんがみんなにいじめられた。みんなが優希さんを悪者にして、いじめてた。
優希さんは、ひとりで2階に上がってしまい、降りてくることはなかった。私も、どう言葉を掛ければいいか分からなくて、別の場所で響と一緒に眠った。
翌朝、優希さんにおはようの挨拶をしようと探したのだけれど、なかなか見つからなかった。なにか、すごく嫌な予感がして、響と一緒に公民館中を探した。見つからない。
でも、ここに居る人たちの、心を読んだら……優希さんが居ない理由が分かった。追い出したのだ。みんなで。
柏木さんの心を読んだら、朝早くに、優希さんがここを出ていったのだと知った。
怒りと悲しみが沸々と湧き上がってくるのを感じた。
ここの人たちは理解していない。ここがどれだけ恵まれた環境なのかも、人を一人で外に放り出すことの意味も。
何も知らないのだ、ここの人たちは。優希さんがどれだけ頑張って、どれだけ私たちのことを思って、ここまで来たのかなんて。
投票をした人達も大して考えてはいなかった。ただ、周りの空気を読んで、同調しただけ。責任なんてこれっぽっちも感じていない。
……醜いと思った。自分じゃなくて良かったと、安全圏から他者を傷つけて安心を得ている、その心が。
「柏木さん。今からでも遅くないです。優希さんを探しにいきましょう」
「……それは出来ない。外が危険だということは君たちもよく分かっているだろう?皆をそんな危険に晒すわけにはいかない」
「…………」
皆の中に私たちが入っているのが気持ち悪いと思った。既に優希さんから預かった形見か何かの様に扱っている。結局この人も多数決で決めたことだ、とか言って自分を守っているんだ。
「……探しにいきます」
「なっ、ダメだ。危険だ。私は刃山さんに君たちを守ると約束している」
どの口が言っているのか。
優希さんが本当にそう言ったのは分かっている。いつもそうだ。優希さんは私たちのことを一番に考えてくれている。自分のこと以上に。
じゃあ……優希さんのことは?誰が考えてくれているのか。
…………私たちだ。優希さんが私たちのことを一番に考えてくれているなら、私たちが優希さんのことを一番に考えよう。
私は柏木さんの言っていることを無視してここまで一緒に頑張ってきたみんなに事の顛末を伝えた。優希さんを探しに行こう、とも。
みんな二つ返事で賛同してくれた。
すぐに捜索が始まった。早朝に優希さんはここを出て行ったらしい。今はもう昼前だ。
高い所から探したり、モンスターと戦った形跡がないかとか、もしかしたら目印とか付けてくれていないかとか、足跡も探したりした。
自分たちも迷子にならないようしっかり地図で居場所を確認して、モンスターの奇襲に気をつけて。
途中、多数のモンスターとの戦闘で危ないところもあったけど、なんとか対処できている。優希さんがいない今、筋力アップの恩恵のありがたみを強く感じた。
捜索は辺りが暗くなるまで続いた……けど、優希さんは見つからなかった。
どの方角に進んでいるのか。走りか、歩きか。モンスターを倒して進んでいるのか、隠れてやり過ごしているのか。情報が何もない。
不安がつのる。いやだ。優希さんと会えなくなるのは。こんなに心が苦しくなるのかと。悲しくなるのかと。なんとかしてもう一度会いたかった。
次の日も捜索は行った。
少し範囲を広げて。走って移動していた場合、ここにはもういないかもしれないが、なにか優希さんの残した痕跡があるかもしれない。くまなく探す。
「もう、見つからないんじゃないかな……」
正午を回った頃、何も進展がないままモンスターとの戦闘を終えた後に、そう言われた。
「どういう意味ですか?」
「私たちだけで見つけるなんて無理だよ」
確かに難しいということは理解している。だけど……
「それでも頑張りましょう。きっと見つかります。優希さんは今一人で危険に晒されているんです。私たちが合流して助けてあげないと」
「…………優希さんはもう、モンスターに食べられちゃったのかも……」
そう、言われた。
……考えたことが無いわけではない。私たちが数人でモンスターと戦ってこれだけ危険を感じるのだ。筋力の弱い優希さんが一人でこの数を対処出来るとは思えない。
「な、何言ってるの。生きてるって!優希さん頭良いから。きっとどこかでやりすごしてるって!」
響がすかさず反論する。
「……私たちが探して意味あるのかな。あ、いや、おにーさんに会いたいっていうのは、私もそうだけど……もう、私たちだけで頑張っても無理な気がして」
なんでそんなことを言うのか。優希さんは今でも寂しい思いをしているというのに。
「……私、ママに止められてるんだよね……危険なことはするなって」
別の子が言った。……周りを見てみる。みんな暗い表情だ。私と目を合わせてはくれない。
そっか…………みんな、怖いよね……。モンスターとの戦闘だって危ない場面はいくつもあった。まだなんとかなっているけど、いつ事故が起こるかは分からない状況だ。
せっかく安全な居場所を手に入れたのに、わざわざ危険を冒すなんてことしたくないよね……。
「いったん帰ろっか……」
帰ってきた私たちは、暗い気持ちのまま解散した。もう今日は捜索は出来そうもない。
いや……今日どころか明日も…………。もう手伝ってくれる雰囲気ではない。捜索は…………もう出来ないのかもしれない。
……優希さんは今頃……一人で寂しい思いをしているのだろうか。それを考えると悲しくなる。私が味方になってあげたい。そばにいてあげたい。
「うぅ……優希さん…………会いたいよぉ……」
声が聞こえた。私の声かと思ったが、違った。響が隣で泣いていた。
響も私と同じ気持ちなんだ。……当たり前か。同じ人が好きなのだから。泣いている響を見ていると私もじわじわと心が締め付けられていく。
…………会いたい。もう会えない……。優希さんとお話しすることも、笑い合うことも、触れ合うことも……もう出来ない。
涙が溢れてきた。もっと一緒にいたかった。ずっと一緒にいたかった。好きな人と会えなくなるってこんなに苦しいことなんだ…………心が痛い……。
優希さんはずっと優しかった。私たちのことを一番に考えてくれていた。だから私も優希さんのことを一番に考えてあげるべきだった。あの時……ここの奴らに優希さんがいじめられている時に、私はもっと寄り添ってあげるべきだったんだ。
私も同じ人殺しなんだと言おうとした時、優希さんが止めてくれて、少し嬉しくなっている自分がいた。こんな大変な時でもやっぱり私のことを守ってくれたって……。
なんで優希さんに、もっと寄り添えなかったのか。自分の身が可愛かったんだ。
一人で2階に上がって行っちゃった時だって、一緒にいてあげられればこんなことにはならなかった。
結局……私は優希さんのことをそれ程考えられていなかったんだ。
しばらく響と一緒に泣いていた。
こんな時、手を繋いで寄り添って、同じ気持ちで泣いてくれる響の存在がありがたかった。
…………ふと、捜索で使っていた地図が目に入った。私たちが普段からよく目にする、この町の地図だ。公民館の周辺を円を描くように捜索をしていた。
もちろんそれほど遠くない私たちの家も載っている。
「…………私たちの家」
漠然と、ある妄想が頭をよぎった。
優希さんは優しい。私たちのことを自分よりも優先してしまうくらいに。
そんな優希さんだったら、もしかしたら私たちの代わりに家を確認しに行ってくれているかもしれない。
確証なんでこれっぽっちもない。私が優希さんにしてもらって嬉しいことを妄想しているだけなんだろう。
ここから理不尽に追い出されて、怒っているはずだ。そんな時に私たちのことなんて考えてくれていると考えるのは、さすがに自分に都合が良すぎる。
「でも…………」
私はまた優希さんに会いたかった。会って寄り添ってあげたい。優希さんのことを一番に考えてあげられる人間になりたい。薄い望みでも、そこに優希さんがいる可能性があるのなら……。
私は響に自分の考えを伝えた。
響はまた優希さんに会えるかもしれないと喜んだ。まだそこにいると決まったわけでもないのに。ひどく都合のいい妄想なのに。でも、喜んでいる響を見たら本当にそこにいる気がしてきた。優希さんなら、と。
私と響は、優希さんを追いかけるために、荷物をまとめた。他のみんなには伝えたけど、一緒に行ってくれる人はいなかった。でも、無理に連れて行こうとも思わない。
ここがみんなの居場所なんだと思った。私の居場所じゃなかっただけだ。
私と響は窓から飛び降りて、外に駆け出した。




