森の中の家庭訪問
さらに3日が過ぎた。俺たちは学校中から物資を集めた。ここを出て行くためだ。
なぜか。理由はいくつかある。
まず、ここにずっといても物資は減り続ける一方だということ。ここで畑でも耕すかとは考えたが、俺には知識も経験もないし、みんなも同様だ。やってもいいが博打に近いだろう。月日を費やすことになるので、失敗した時のリスクはでかい。
そして、家族のこと。残念ながら、この避難所ですでに親を殺されている子もいるが、まだ家族の生死が分かっていない子もいるのだ。その子たちに家族と再会させてあげたい。何でもないように振る舞ってはいるが、黒宮さんも響も家族に会いたいに違いない。
さらに、これが一番問題だが、狼を殲滅した後、新たなモンスターが学校内に侵入するようになった。様々なモンスターが現れその都度処理していったが、問題だったのは校舎内に入ってくる奴やこちらを感知して直接窓から侵入してくるモンスターが現れたことだ。
狼どもを相手にしていた時とは違い、この教室が安全な場所ではなくなってしまった。
(優希さん、また来たみたいです)
黒宮さんからテレパシーで報告を受ける。今は黒宮さんプラス、他の人二、三人のローテーションで屋上での見張りをしている。俺は屋上に登り、モンスターの姿を確認しに行く。
「ゴブリンどもめ、いくらでも湧いてくるな」
ゴブリン。ファンタジーならお馴染みの森の妖精だが、もちろん本当の名前は知らない。俺のオタク知識から特徴と合致したものの名前を付けている。
成人男性の股下あたりまでの身長の小人で、体表は暗い緑色。
『グーギャギーギャギャ』『ギャギャギー』
集団で行動しており、理解できない鳴き声でコミュニケーションをとっているように見える。木片やバットといった、簡易的な武器を持っていることが大半だ。
最初、人型であることを理由に、意思疎通ができるかもと何度か試したが、目に入った瞬間に襲いかかってくる獰猛な奴らしかいなかった。
よって、こいつらを見つけた時に取るべき行動は、
「よし、撃っていいよ」
ビュンビュン、と石飛礫と火の玉が飛ぶ。それはゴブリンの集団を襲い、腹や腕、頭を、貫通、爆散させて何匹かを絶命させる。凄まじい威力だ。
そう、先制攻撃、これに尽きる。どのモンスターにも有効な手だ。先に見つけて先に殺す。少ない日数ながらもこの真理に辿り着くのは容易だった。
残ったゴブリンどもは、こちらを視認するとうるさい鳴き声を上げながら散り散りに突進してくる。いくらか攻撃を続けて、ある程度近くなったところでやめる。
「よし、そろそろ出よう」
俺は、近接戦闘組の手に触れて、強化を付与する。この強化付与は大体五分程度持続するようでそこから徐々に効果が薄れていき、十分程度で完全に切れる。使い慣れてきたからなのか、少しずつ効果時間が伸びていっているが。この調子だとすぐに十分維持も出来るようになるだろう。
そして、各々ゴブリンどもに向かって行く。俺も目の前の個体に接近し、一番手前のゴブリンの首元に素早く槍を突き込む。
『ゴフ、ギュボ』
足を使って素早く引き抜き、追随してきた別の個体の喉元に、再度突き込む。槍はそのままに近くの個体の側頭部にトウキックをぶちこみ、頭を爆散させる。
俺の近くはこんなところか。
周りを見渡す。みんな難なく処理できてるな。慣れたもんだ。妙にグロテスクに惨殺されてる死体もあるが……程々にな。
黒宮さんからの戦闘終了宣言をテレパシーで受け取り、俺は緊張を緩める。
なぜ、わざわざ前に出て近接戦をしてるかというと、こいつらに校舎の中に入られると厄介だからだ。机が並べられた教室内は、身長1m弱のコイツらにとって、こと戦闘においては有利にしか働かない。机を盾にしてすばしっこく動き回り、足元に攻撃が飛んでくる。何度かスネに打撃をくらった。
あとは単純に殺した後の掃除が面倒というのもある。死体は衛生の面から考えても燃やした方がいいだろう。外のものはそのまま燃やせるが、中のものは外に出す作業が必要になる。面倒というのもそうだが、死体を運ぶという行為そのものがなんか嫌だった。
ちなみに配置的には、黒宮さんは屋上で待機、響は近接戦闘組だ。黒宮さんは全体を把握するために屋上に陣取るが、響は能力の、時間をかけて温度を変える、という特性上、損害を与えられる温度に到達するまでにどうしてもラグが発生してしまい、動く敵に攻撃できなかった。しかし、俺以上の筋力、体力、運動神経を活かして、俺より上手く近接戦をこなしている。
俺はここにいると常に劣等感に苛まれる。悲しい。
互いに勝利を労いながら、教室に戻った。
「ふぃー」
みんなが、各々座り込み休憩をとる。
もう一つ、ここを出た方がいいと思っている理由がある。それは、みんなの体調が悪くなってきている、というところ。顔色が悪い、とまではいかないが、疲労が抜けきっていないというか、回復できていない印象を受ける。
今、主な食事は缶詰とカップ麺だ。大量にあるのはツナ缶と鯖缶。他にフルーツの缶詰めなどもあったのだが、まだここが襲われる前、二回目の地震が起きる前に、ほとんど食べきってしまっていた。人気があったのは間違いない。カップ麺は最初は水で戻していたが、響と、火を出せる子がいたおかげで、お湯が作れている。美味しく食べられているのでそこは良かった。
まぁつまり何が言いたいかというと、栄養素が偏っている。気がする。専門家でもなんでも無いが、こうも同じものしか食べないと、体調不良にも繋がるだろう。少し気だるいくらいならいいが、病気にでもなったら大変だ。
あと同じものばかりで飽きた。テンションが下がる。重要なことだ。
全員に疲労の雰囲気があるので、解消したいところ。特に黒宮さんと響は便利な能力ゆえに働きっぱなしだ。
黒宮さんはテレパシーで、索敵と報告、敵の動きの予測、把握と全体の意思疎通を担ってもらっている。これがあるから超絶有利にモンスターと戦えている面がある。
響には水を煮沸して飲み水を作ってもらっているというのもあるが、一番は部屋の温度調節だ。梅雨も終わりが近づき、夏に入ろうかという時期だが、とにかく蒸し暑い。疲労が抜けきっていない、程度で済んでいるのは響のおかげだろう。
そういうわけで、二人の負担も考えるとしっかりとしたものを食べて休んでほしい。
さて、いろいろ考えてはいるが、諸々の理由を踏まえると、今後の行動は決まってきた。
まずは、生徒たちの家庭訪問だ。今の状況で家族がそこにいるとは考えにくいが、一応の確認はしたい。そこに家族がいたとして、生存の確認にならない場合も最悪考えられはするが……早めに割り切ってもらうのも必要だろう。それに一度は我が家に返してあげたい。
そして、それと並行して生存者探しと、あわよくば避難所探しだ。二度目の地震の前から、近くに別の避難所がないことは確認済みだが、もっと遠くに向かえば、生存者同士で集まっている場合も十分考えられる。そこに保護してもらえれば万々歳だ。
「準備は大丈夫かー?忘れ物はないかー?」
みんなに遠足前の最終確認を促す。
各々確認を済ませて、俺たちは学校を出る。久々の下校だ事故なく送り届けたい。
みんなの自宅に向かうわけだが、まずは順当に一番近い子の家に向かうことになった。学校にあった地図を使い、効率の良いルートは予め決めてある。探索もしながら回るつもりだ、一日二日で終わるとは思っていないが、モンスターがそこらじゅうにいる可能性が高い。あまりゆっくりしていてもメリットはないだろう。
俺は、生徒たちの歩く速度に合わせつつも、気持ち速めに移動を開始した。
学校を出てから二日が経った。家庭訪問は順調に進んでいる。進みすぎているくらいだ。
地震によって木がそこらじゅうに生えて破壊された町中を、いや、もはや森の中に建物を作ったかのような場所を、苦もなく進んでいく。本当に山の中でも歩いているんじゃないかと思えるくらい足場は悪いが、上昇した筋力のおかげかサクサクと進んだ。
森の中だからなのか、初夏の暑さもほとんど気にならなかった。年々暑くなる夏を経験しなくて済むことには感謝してやってもいい。
モンスターは確かに多いが、障壁になるような感じは今のところない。みんなの能力様様だ。
結局、歩くスピードも彼女たちの方が速かったので、強がって頑張っているのは俺のほうだった。合わせるのに必死だ。
また、幸か不幸か今のところ回っている家で、ご家族に会うことはなかった。まぁ可能性が低いことは分かっていた。大抵の人間は最初の地震で避難を開始しているだろう。
しかし、家庭訪問の方は問題ないのだが……みんなの疲労は溜まる一方だ。特に黒宮さんと響の二人。他のみんなと比べて明らかに疲労の色が濃い。
「二人とも、大丈夫か?すこし休憩にするか?」
少し早いが、流石に休憩を入れた方がいいだろうと思い提案をする。
「いえ、大丈夫です。ご心配ありがとう、ございます」
「私も大丈夫。ありがとね優希さん」
急いだ方がいいのは確かだが……辛そうな二人を見るのは俺も辛い。それに、無理をされると後々困ることにもなりそうだしなぁ。
「いやぁ、すまん。実は俺の体力が限界でさ、ちょっと休ませてもらえないかな……なんて」
「そういえばおにーさん、一番力が弱いんだった」
「うぐ、ま、まぁ……そういうことだからお願いできないかな?」
そういうわけで、なんとか援護射撃を受けつつ、空き家に入り休憩に入る。他の子も二人の様子には気づいているんだろう。
快適な空間を作るため、辛そうではあるが響に温度調節をしてもらった。探索中に空き家やコンビニなどからいただいたお茶とお菓子を食べながら、特に辛そうな二人を見る。
本当に大丈夫だろうか。
黒宮さんには、モンスターとの戦闘において思考の伝達役として欠かせない役割を担ってもらっている。戦闘中は常に相手の動きの情報共有をしてもらっているので、彼女が抜けると戦闘が一気に厳しくなる。辛そうだ。もしや、何か病気にかかっているのでは?学校から出たのは間違いだったのではと思い始めもする。
……いや、結局あそこにいてもジリ貧だっただろうという結論は出したはずだ。しかし今のところ生存者もいなければ新しい避難所も見当たらない。未来があるのはこっちだが、茨の道でもある。
それに最近、黒宮さんと響がこちらをよく見ている気がする。何故かは分からない。何かのサインだと思うのだが、休憩を提案しても断られるし、モンスターが出てきたわけでもない。
次に向かう先は黒宮さんと響の家だ。もしかしたらそれに何か関係しているのかもしれない。言葉にしてもらえると助かるが、黙っているということは、それなりの理由があるのだと思う。こういう時は待ってあげるのが良いだろう。
休憩を終え出発する。二人の顔色はあまり変わらない。これはどこか拠点を作って、無理してでも回復期間を設けることを視野に入れておいた方がいいかもな。
拠点にするのに向いている場所はどこか、なんて頭の中で考えていると、ガシャン、という音と共に視界が一段落ちる。なんだ?一瞬フリーズするが、足元の違和感を感じ取りそちらを見る。針金のようなものが足首に巻き付いていた。なんだこれは?………罠?
何が起きたかを理解しようとしていると辺りから物音が聞こえ始める。
全身が凍りつく。罠を利用するモンスターがいるのか!?しかもこの罠は、明らかに人間によって、現代の技術を使って作られたもののように見える。手作り感はなく既製品を利用したような。
まずい、すでに囲まれてることからもかなりの知能の持ち主であることが窺える。俺は黒宮さんを通してみんなに戦闘体制に入るよう伝え、罠の解除に取り掛かる。
「おぉーと、動くなよー。武器を捨ててじっとするんだ」
果たして、現れたのは人間だった。ニヤニヤしながら四方から二十歳から三十歳前後の男たちが顔を出す。
よ、良かった、モンスターではなかった。罠を解除しようとしながら、正面に現れた男に話しかける。
「あ、あぁ。その、すまない、罠を作動させてしまったみたいで……解除をお願いできるか?」
モンスターを安全に処理するための仕組みだろう。動けない相手ほど楽に処理できるものはいない。その罠にかかってしまったことに恥ずかしさで頭が沸騰しそうだった。
「いや、それは無理だなァ。罠にかかった獲物を逃してやるなんて、そんなやついるわけなくね?」




