第七十三話 琴子の決意 〜佐藤琴子編〜
〜ナルルの視点〜
――――果樹の迷宮周辺
「ム? フガフガ……。 ナンダ、イマノ『ヒメイ』ハ……? ボルダホ……?」
ナルルは、立ち去って行く『暗躍者アルマンド』の後を、皆に黙って勝手に尾けていた最中だったが、不意に琴子の甲高い悲鳴が耳元に届いたのだ……。
「ナニカ、イヤナヨカンガ……? フガフガ、スグニモドロウッ! ボルダホ!」
と、ナルルが慌てて果樹の迷宮の中に戻ろうとしていると……。
ナルルは、其処で一人の大きな白い盾を担いでいる謎の男と出会った……。
「ム、ナンダ? フガフガ、オマエハ……? ボルダホ?」
ナルルは、懐疑的に白い大盾の男に話し掛けると、その男が陽気な口調で返答した……。
「やぁ、こんにちは~っ! 初めましてっ! 僕の名は、『マモル』です! 僕は、この果樹の迷宮の中で困っている人を探しているんですよ!」
「ソウカ! オレノナハ、『ナルル』! フガフガ! ヨロシクナ、マモル! ボルダホ!」
と、ナルルがマモルに向かって元気よく自己紹介をした瞬間だった……。
ナルルの背後から、5発程の銃弾が此方に向かって来ていると言う事をマモルが瞬時に気が付いた……!
「お、ナルルさんと言うのですねっ! 僕で良ければ、力になりますよ! って、……ん?」
すると、マモルは咄嗟に身構える……!
「オイッ!? フガフガ、キュウニドウシタ!? ボルダホッ!?」
「何故、このタイミングで銃弾がッ!? それも5発もッ!? 一体、何処から……ッ!?」
白き盾マモルは、慌てふためきながら、スキル【白き守護神】をナルルに向かって発動する……!
すると、マモルの加護を受けたナルルの身の周りには、分厚いバリアが張り巡り始めた……!
ブオン……ッ!
「ワァッ!? ナンダコリャッ! フガフガ! ナニコレ、ナニコレッ!? ボルダホ!?」
「これは、僕のスキル【白き守護神】の効果ですよ。 今この瞬間に、ナルルさんに向けてバリアを発動させて頂きました。 これで、少なくともナルルさんの身の安全は保証出来ますよ……」
「オオ……ッ! フガフガ! ナンカシランガ、サンキュナ! マモルッ! ボルダホ!」
ナルルは、この今の状況を上手く呑み込めなかったものの、取り敢えずマモルに対して感謝の言葉を述べた……。
「さぁ、迎撃の準備は整っていますよ……。 うおりゃぁッ!」
マモルは、猛スピードで向かって来る5発の銃弾の前に立ち塞がりながら、自慢の白い大盾を構えたものの、その5発の弾丸はマモルの事を避けながらバリアを張っているナルルに向かって行った……!
シュン、シュン……ッ!
「なにッ!? 銃弾の軌道が変わった……だとッ!? それも、僕の大盾を避けていった……? まるで、この銃弾に『意思』でも宿っているかの様に……ッ!?」
酷く驚いた様子のマモルの横を通り過ぎた5発の弾丸は、やがて『目標』のナルルの方へと一直線に向かってゆく……。
然し、マモルのスキルの【白き守護神】の加護が有った為、その狂気を纏った弾丸は、ナルルの周りに張り巡らされたバリアに当たると、そのままガンッ、ゴンッと鈍い音を上げながら、弾き飛ばされていった……!
ガンッ、ガンッ、ゴンッ、ガンゴンッ!
「ウワァッ!? フガフガ! コワイ、コワイッ! ボルダホッ!?」
今、この場に運良くマモルが居合わせなかったら、この瞬間に自分の身体は蜂の巣になっていただろう、と瞬時に悟ったナルルは、思わず顔を青ざめてゆく……。
すると、何かに勘付いたマモルは、一つの仮説を立てた……。
「……まさか、これは誰かが意図を持って、ナルルさんの命を狙っていたって事なのか……? 恐らく、『追尾系』のスキルが使われたんだろうが……」
すると、考えているマモルに向かって、ナルルは歓喜しながら御礼を言い始めた。
「マモルゥ〜ッ! フガフガ! タスケテクレテ、アリガトナァ〜ッ! ボルダホッ!」
「ナルルさん……! いえいえ、これ位、当然の事をした迄ですよ……っ!」
若干照れ臭そうにしながら、マモルは謙遜する。
すると、突如としてナルルがマモルの裾を引っ張りながら、何処かに案内をしようとしている……。
「マモル! フガフガ、コッチコッチ! ボルダホ!」
「わわっ! 急に引っ張ってどうしたんですか!? あっ、もしかして、そっちの方に何かあるんですか……?」
「コッチに、コマッタヤツイル! フガフガ、『コトコ』! コマッテタ! ボルダホ!」
琴子の事が心配なナルルは、マモルに向かって助けを求める……。
「なるほどっ! そちらの方に、困っている人が居るんですねっ! よしっ、そう言う事ならば、僕の出番ですねっ!」
マモルとナルルは、急いで琴子達が居る所へと向かい始めた。
そして、その一方で、現在の琴子達の様子はと言うと……。
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇
〜佐藤琴子の視点〜
「よんじゅうろーく、よんじゅうなな〜、よんじゅうはーち」
「ひグッ……! ぐぅッ……ふぅうぅ、うううぁぁああッッッ!!!」
琴子は、苦悶の表情を浮かべながらも、何とか薄れゆく意識を保ち続けていた……。
「ほらほら、後ちょっと立ち続けるだけで、お前は生き長らえる事が出来るんだぜぇ? だから、諦めんじゃあねぇぞ?」
そのアドムンハの言葉を聞いた琴子は、思いっ切り歯を食いしばって我慢する……。
そうよ……ッ!
後、ちょっとで……ッ!
私は、やっとアドムンハに仲間だと認めて貰える……ッ!
今、この私に課せられている肉体の痛みは、私の所為で消滅して仕舞ったベルファス様への『償いの痛み』……ッ!
だからこそ、私は………ッ!
意識が薄れるどころか、寧ろハッキリと意識を取り戻し始めた琴子は、身体中の痛みに耐え抜きながら、血が出る程に唇を噛み締めながら必死に我慢を続けてゆく……。
そして遂に、その苦痛が開放される瞬間が訪れた……。
「ごじゅうきゅーう、ろくじゅう〜っ! マジか、やりやがったな琴子。 良く、この痛みに耐え切ったな? んじゃ、もう倒れても許すぜ?」
「あ、あぁああぁああ……っ!」
そのアドムンハの言葉を聞いて、安堵の顔を浮かべた琴子は、バタンッと力が抜けた様に、その場に倒れ込んだ……。
その琴子の表情は、苦痛と、悲痛と、歓喜と、絶望と、希望が、完全に混在している様に見えた……。
そして、その琴子の覚悟を間近で見届けたアドムンハは、張り付けにしているバーバルと、バルルーナ5世を開放すると、直ぐ様命令口調で話し掛けた……。
「バルルーナ様。 琴子に貴方のスキル【バルルーナ王族の魂】を掛けてやってくれ。 左目の失明は、もう治らねぇかも知れねぇが、止血する事と痛みを和らげる事は出来る筈だろ?」
「アドムンハ……。 それと、琴子さん良く頑張りましたね……。 【バルルーナ王族の魂】発動……!」
ポワァ〜……ッ!
バルルーナ5世の掌から、神秘的な光が漏れ出したかと思うと、バルルーナ5世は傷付いた琴子の身体を優しく撫で始めた……。
「バルルーナ……さんっ。 ありがとう……ありがとう……っ」
バルルーナ5世の優しさに触れた琴子は、思わず涙を流す……。
すると、琴子の右頬の傷口が、みるみるうちに塞がっていくと、左目と身体中から溢れ出る血が徐々に止まり出した……。
「これで、一応は痛みと出血が治まった筈です……。 琴子さん……。 こんな酷い目に遭わせて仕舞って、本当に申し訳無いです……」
「バルルーナさん……。 そんな自分を責めないで下さい……。 大丈夫です、ほらっ! 現に私は、こうして生きているじゃないっ! うぅ……っ。 ひっく……っ」
元気を取り戻す事が出来た琴子は、自分が生きていると言う事実に思わず感涙した……。
すると、アドムンハが琴子に向かって呼び掛ける。
「琴子、もう痛みは治まったか? お前の左目は、もう二度と開く事は無いが、命が有っただけでも儲けもんって思うだろ?」
「…………………」
琴子は、色鮮やかな木々に囲まれた果樹の迷宮の風景を、横たわりながら、機能している右目だけを動かしながら、ゆっくりと眺めていた……。
そして、琴子は右目も閉じながら思案した……。
生きているんだ……。
自分は……。
魔王ベルファスは、人質となった自分の代わりに『暗躍者アルマンド』の手によって、無慈悲にも殺されて仕舞った……。
だけれど、その魔王ベルファスの犠牲の御陰で、自分は生きている。
それに先程から、魔王ベルファスが死んだのは、自分の所為だと嘆いてばかりだったが、ベルファスの事を本当に想うので有れば、この『嘆き続ける』と言う醜い行動は、寧ろ犠牲となったベルファスに対して、とても失礼な行動に他ならないと言う事に、琴子は気が付き始めた……。
この心身に伴う最大限の痛みを、この身を持って改めて思い知った琴子は、ゆっくりと右目を開いて、おもむろに立ち上がり、アドムンハに向かって微笑んだ……。
「…………。 アドムンハ。 ありがとう。 私に強く当たってくれて」
琴子は、アドムンハに向かって礼を言った……。
すると、その琴子の口から発せられた感謝の言葉を聞いたアドムンハは、思わずキョトンとした顔を浮かべながら、おちょくり始める。
「お? もしや、お前は『ドM』って奴なのか? 俺は、お前の左の目玉に針を突き刺して、失明させた張本人だってのに、まさか感謝されるなんてよぉ? 可笑しな話だなぁ?」
「……私頑張るよ。 魔王ベルファス様の為にも。 うん、頑張る」
琴子は、拳を軽く握りながらボソッと呟く……。
すると琴子は、バルルーナ5世に向かって深々と頭を下げた……。
「ごめんなさい、バルルーナさん。 私、実は気付いていたんです……。 絶望している私の為に、あんなにも頑張って励まし続けてくれていたのに、私はそれを無視し続けちゃって……。 だから、この場で改めて礼を言わせて欲しいの。 本当に、心から感謝しています……。 ありがとうバルルーナさんっ!」
「琴子さん……っ!」
琴子の感謝の言葉を聞いたバルルーナ5世は、感極まって泣き出して仕舞った……。
その姿を見たアドムンハと琴子は、やれやれと言った様な表情を浮かべながら、バルルーナ5世の背中を優しい手付きで擦った……。
「ナンカ、イイ、フンイキジャナイカ? ウガウガ?」
「ですね、バーバルっ♪」
「それより琴子。 其処に落ちている『眼鏡』は掛けねぇのかよ? 左目が潰れてんのを隠す為にも、一応身に着けた方が良いんじゃねぇか?」
「大丈夫だよアドムンハ。 今の私には、それはもう要らないの。 そもそも、それは『伊達眼鏡』だし。 実を言うとね、私って今迄、他人の視線が怖くて、それを紛らわせる為に眼鏡を掛けていたって言うだけなんだよね……。 でも、もう吹っ切れた私には、必要無いんだ」
「そうか。 そんじゃ、勿体ねぇからこの眼鏡は『バーバル』が掛けていろ」
アドムンハは、落ちている琴子の眼鏡を拾うと、直ぐにバーバルに手渡した。
「ハァ? ナンデオイラガ? マァ、コトコノオサガリダカラ、モラットクケドモ……。 ウガウガッ!」
すると、バーバルが琴子の眼鏡を装着したその瞬間に、『ナルル』と『マモル』の二人が、慌てた様子で琴子の目の前に現れた……。
ドタドタ……ッ!
「ア、アレッ!? フガフガ! ナンカ、カイケツシテル、フンイキ? ボルダホ?」
「ナルルさん。 どうやら、もう此処には困っている人は居ないみたいですね」
困っている人の気配が無くなっている事に気が付いたマモルは、ホッと胸を撫で下ろした……。
「ふふっ、もう私の事は大丈夫だよナルル? だから、安心してね?」
再び前を向き始めた琴子は、果樹の木々の隙間から見え隠れしている青空を眺めながら、静かに微笑んだ……。
【現在位置】
【果樹の迷宮】
【現在の日時】
【4月8日 10時14分 春】
【佐藤琴子】
【状態】:左目失明 決意 希望
【装備】:血が滲んでいる学校の制服
【道具】:無し
【スキル】:無し
1:魔王ベルファス様。
2:私頑張るからね。
3:私、変わるから……!
【基本方針】:晋也を探す。この世界で生き続ける。
【バルルーナ5世】
【状態】:号泣
【装備】:王の服一式 英雄の槍
【道具】:回復瓶2個 解毒瓶2個 回復薬DX3個
【スキル】:バルルーナ王族の魂
1:うぅ……っ、琴子……さんッ!
2:貴女は、とても強い御人です……っ!
3:とても強くて、とても優しくて、とても素晴らしい人です……っ!
【基本方針】:琴子を護る。バルルーナ王国へと向かう。
【アドムンハ】
【状態】:冷静
【装備】:特殊機密暗殺部隊隊長の戦闘服 サイレンサー銃
【道具】:弾薬1000発 細い針500本 太い針500本
【スキル】:絶対冷静
1:うしっ、散らばっていた針の回収も済んだし。
2:さっさと、バルルーナ王国へと向かおうぜ。
3:琴子も、やる気を出すのが遅ぇんだよ。
【基本方針】:バルルーナ5世を護る。バルルーナ王国へと向かう。琴子を気に掛ける。
【バーバル】
【状態】:嬉しい
【装備】:眼鏡 応援団長の服一式 白い軍手
【道具】:石化玉 凍結玉 怯え玉 混乱玉 睡眠玉 ホイッスル 各1個
【スキル】:大応援
1:ヤッタ、ヤッタ!
2:ミンナハッピー!
3:ウガウガ!
【基本方針】:バルルーナ王国へと向かう。琴子の眼鏡を大切にする。
【ナルル】
【状態】:不思議
【装備】:騎士団長の服一式 断罪の槍
【道具】:戦闘力の実 瞬発力の実 持久力の実 防御力の実 各2個
【スキル】:騎士団長の誇り
1:ナンカ、イイカンジ? フガフガ?
2:マァ、ヨクワカランガ。
3:ヨカッタ、ヨカッタ! ボルダホ!
【基本方針】:仲間を護る。バルルーナ王国へと向かう。マモルを仲間に誘う。
【白き盾マモル】
【状態】:安心
【装備】:白色の甲冑 大きな白色の盾 白色の袋
【道具】:防御力の実 忍耐力の実 瞬発力の実 生命力の実 各5個
【スキル】:白き守護神
1:良かった……!
2:僕の出る幕じゃ無かったみたいですね……!
3:でも、人手は多い方が良いでしょうからね。
【基本方針】:困っている人を助ける。ナルル達を手助けしたい。




