第七十二話 拷問される琴子 〜佐藤琴子編〜
〜佐藤琴子の視点〜
――――果樹の迷宮
アドムンハは、呆然としている琴子に歩み寄ると、そのまま琴子の髪の毛を思いっ切り引っ張りながら問い質した……。
「おい、琴子。 何時までボケ〜っとしてんだ? アルマンドは魔族を殺しに、どっかに行ったぞ?」
そのアドムンハの行動を間近で目撃したバルルーナ5世は、慌てた様子で止めに入る。
「ちょっと、アドムンハ! 琴子さんは傷心中なんですよッ!? そんな手荒な真似はよして下さいッ! それに、もう少し言葉を選ぶべきですよ……!」
「バルルーナ様……。 だけどな、このままだと琴子はハッキリ言って『俺達の邪魔』だ。 だから、無理矢理にでも立ち直らせるしかねぇんだよ」
と、アドムンハとバルルーナ5世が、そんな押し問答を繰り広げていると、突如として琴子が無言で顔だけを動かしたかと思うと、そのままアドムンハの方を向きながら、虚ろな目で無心で眺めていた……。
「何だ琴子? 俺に対して、何か言いたげな顔だな? 黙っていないで喋れよ」
すると、そのアドムンハの問い掛けに対して、琴子はボソッと答える……。
「…………。 なんで、アルマンドを見逃したの……?」
その琴子から発せられた声色は、完全に冷え切っていた……。
淡々と文字列を並べただけの何の意思も持っていない様な軽い口調……。
だが、その琴子が放った言葉には、僅かながら『怒り』が込められていると言う事を、アドムンハは微かに感じ取った……。
「……琴子。 俺が憎いのか? 魔王ベルファスの仇であるアルマンドの事を、みすみす見逃した俺の事が、憎くて憎くて堪らないのか?」
「……………」
琴子は無言で頷く……。
すると、アドムンハは苛ついた口調で、琴子に向かって意見を言った。
「そうか。 なら、一つだけ俺の意見を言っておく。 だったら、テメェは呆然としてねぇで、この場から立ち去って行くアルマンドに対して、何かしらの行動をすれば良かったじゃねぇかよッ!」
「………ッ!」
「テメェは、只々へこたれながら、俺等に任せっ切りだっただけじゃねえかよッ! 何にも貢献してねぇお前が俺に対してヘイトを向けんのは馬鹿らしいにも程が有るぜッ!」
すると、そのアドムンハから発せられた怒号を聞いたバーバルは、慌てて仲裁に入る……。
「アドムンハ! イイスギダ! ウガウガッ!」
「うっせーよ、バーバル。 これでもこの女に対して、まだまだ言い足りねぇ位だ。 だから、ここ等で一つ、この女が持っている『根性』を測らせて貰う」
そう言うと、アドムンハは自身の戦闘服の中から『一本の太い針』を取り出すと、その針を琴子の眼前に突き付けた……。
「な、何をするつもりですかアドムンハッ!?」
「バルルーナ様、止めないで頂きたい。 なに、少しだけ『苦痛』を与えるだけですよ……」
「く、苦痛ですって!? 止めなさいアドムンハッ! これ以上、琴子さんの事を傷付けないで下さい……っ!」
「ハァ〜……。 仕方ねぇか……。 バルルーナ様に対して、手荒な真似はしたく無かったんだがな……」
すると、アドムンハは目にも止まらぬ速さで、数十本の太い針を戦闘服から取り出すと、その針をバルルーナ5世とバーバルの服を目掛けて瞬時に投げ付けた。
ビュンッ!
するとアドムンハは、その一連の行動と同時に、二人に向かって体当たりをしたかと思うと、気が付いた頃にはバーバルとバルルーナ5世の2名は、地面で仰向けになった状態で、張り付けになっていた……。
「なっ!? い、一体、この数瞬の間に何が起こったんだ……ッ!? くっ、くそっ! 服に針が……ッ!? まさか、張り付けにされているのか僕達は……ッ!?」
「クソ〜ッ! ナンノマネダッ! アドムンハ〜ッ! ウガウガッ!」
「好きなだけ喚いていろ。 どんなに力を込めても、その針は地面から離れる事は決して無い。 そう、この俺の手で直々に開放しない限りはな。 ……む?」
すると、アドムンハは、とある事に気が付いた……。
「……妙だな。 『ナルル』の奴の姿が見えない……? まぁ、良いや。 おい、琴子。 もう一度、俺の方を向け」
「…………?」
琴子は、アドムンハに言われた通りに、ゆっくりと顔を向ける……。
「良く聞けよ琴子? これから、『この針』を使って、お前の身体を軽く刺す。 もし、耐えられれば俺は、お前の事を根性が有る奴だと改めて認識するが、もし耐えられなかった場合は……」
「…………場合は?」
すると、アドムンハはニッコリと微笑みながら琴子の問い掛けに答えた……。
「使えないと判断し、直ぐ様この場で、お前の事を殺す。 以上だ」
「…………えっ」
「嫌なら、今直ぐにこの場から逃げ出しても良い。 俺は、お前の後を追わねぇから安心しろ。 はいっ、そんじゃ。 さーん……にー……いちっ……」
「………………」
然し、そのカウントダウンを聞いても、琴子は逃げ出さなかった……。
それが、ただ単に腰が抜けていただけなのか?
それとも、自分が頑張らないといけないと言った様な覚悟を決めたのか?
はたまた、単純に絶望して躍起になっているだけなのか?
……等と言う理由付けは、もはや意味を成さなかった……。
何故なら、琴子自身も一体何故自分が、アドムンハの下から逃げ出さなかったのかを、良く理解していなかったからだ……。
「…………………あれっ?」
すると、不意に琴子の中から消え去った筈の感情が芽生え始めると同時に、琴子の思考能力が復活した……。
ピクリと指を動かしながら、琴子は考え始めた……。
なんで、私の身体は動かないんだろう?
このままだと、間違い無くアドムンハの手によって酷い目に遭う筈なのに……。
それなのに、私の身体は一切の言う事を効かない……。
もう、私自身がこの場で死んでも良いって思っちゃってるんだろうな……。
ごめん、晋也……。
ごめん、ベルファス様……。
それに、こんな私の事に構ってくれている皆にも、謝りたいよ……。
すると僅かながらにも、微かに感情を取り戻し始めて来た琴子の耳元に、アドムンハの無情な声が響いた……。
「……ぜーろ。 よ〜し、んじゃあ約束通りに、この針で刺してやるからな〜?」
「ま、待って下さいよアドムンハ! こ、琴子さんッ! 僕の声が聴こえますかッ!? もし、聴こえているのならば、今直ぐにアドムンハの下から逃げて下さい……っ!」
バルルーナ5世は、声を枯らしながら琴子に向かって叫び続ける……。
「無駄だぜバルルーナ様。 琴子は、『逃げ出さない』と言う立派な選択をしたんだから、その琴子の意思を尊重しないと駄目なんだよ。 ほらよっ!」
シュッ……。
「……痛っ!」
アドムンハは、琴子の右の頬を目掛けて思いっ切り針で切り裂いた……。
琴子の頬から、一筋の血が滴り落ちる……。
「たかが針だと侮るなよ? 針だって、ナイフみてぇに切り裂く事だって出来んだぜ……?」
そう自慢気に告げると、更にアドムンハは琴子の身体を目掛けて、グサグサッと針を突き刺した……。
グサッ……グサグサッ!
「……ヒッ! いっ、痛い……痛っ!」
琴子の着ている制服が、徐々に赤黒く滲み始める……。
「まぁ、この程度の痛みなら序の口だろうな。 だが流石に、『目ン玉』とかに突き刺すってのは我慢出来るかな?」
アドムンハは、琴子の血液によって光り輝いている針を、琴子の目の前にチラつかせる……。
「ヒャッ……!? め……目は、嫌です……ッ! や、やめて……! やめてよぉ……?」
琴子は、酷く怯えた様子で、思わずアドムンハに向かって許しを請い始めるが……。
「嫌か? じゃあ何処なら良いんだ? お前も、分かり易いとは思わねぇか? 目という部位は、根性を測る為に最適って事がよぉ……? これを耐え切れば晴れて俺は、お前の事を認めてやるよ琴子……」
不敵な笑みを浮かべながら、アドムンハは琴子の眼鏡を外すと、そのまま瞼を強引に指で開き始める……。
「……あ……あぁ……あぁああぁぁあぁ……ッ」
琴子は、恐怖の余りポロポロと涙を流して仕舞う……。
然しアドムンハは、そんな事はお構い無しに、琴子の左の眼球を目掛けて、針を深々と躊躇なく突き刺した……。
グチュ……ッ!
「ひぎゃ……ッ!? あ、あぁああぁぁッやぁああッッッ!!!」
不快な音が響くと同時に、琴子の甲高い悲鳴が辺りに轟いた……。
「あぁぁああッ、んぐぅふっ……ッ! ひゅっ、いぃぃいいッだいぃいいっいい、あぁぁああッッ!! いただっんんいいたッいいだいッいあぁぁッぃいいッッッ!!!」
琴子は、血涙を流しながら、見るも無惨な状態になって仕舞っていた……。
然し、アドムンハは無慈悲にもグリグリと、手を動かし続ける……。
「ほら、琴子。 針が、お前の眼球の奥まで入って行くのが分かるよな? 左目の失明は確定事項だが、右目には針を刺さねぇから安心しろよな? どうだ? この痛みに耐えられそうか?」
「ひっ……! ひゃっ……! がっ……! あひっ……!」
琴子の身体はビクンッと波打ちながらベロを突き出したかと思うと、やがて失禁し始める……。
ジワァ〜っ……。
「おーっと! これ以上したら壊れちまうか〜ッ! よっと!」
琴子が失禁した事に気が付いたアドムンハは、強引に琴子の眼球に突き刺さった針を抜き取った……。
ブチュチュッッッ!!!
「あぎゃぁッああぁああッッッ!!! いぃ、ッ痛いいぃいいぃッッッ!!!」
琴子は、生まれて初めて味わった『拷問』に、思わず絶叫し続ける事しか出来無くなっていた……。
「おいおい、大丈夫か琴子? そんなに、のたうち回ってよぉ……。 ほら、立てよ琴子。 これが最後の試練だぜ? この痛みに耐えながら、このまま『一分間立ち続ける』事が出来たら、晴れてお前の事を仲間だと認めてやるよ。 だが、一分の間に、もし倒れたり座ったりしたら俺の手で『即座に殺す』からなぁ?」
アドムンハは琴子に向かって、一方的に忠告すると、無理矢理髪の毛を掴みながら、痛みに打ちひしがれている琴子の事を強引に起き上がらせた……。
「うぅ……ひっく……ああぁああッ」
「よしっ、よ〜いスタート! 頑張れよ琴子! 俺は応援してっからさっ!」
琴子は、失明した左目を両手で抑えながら、僅かに残っている精神力を保って、ユラユラとふらつきながらも健気に立ち続けていた……。
「……じゅーう……じゅーいち……じゅーうにぃ〜……」
「……ひっく…………一分間って長いよぉ……」
琴子は、この余りにも長過ぎる一分間に絶望していた……。
然し、だからと言って此処で諦めて仕舞うと、即座にアドムンハに殺害される為、琴子が生き残る道は頑張って立ち続けると言う事しか残されていなかったのだ……。
「じゅーうごー……じゅーうろく〜……じゅーうななー……。 良い調子じゃねぇか、琴子ぉ〜?」
琴子は、このアドムンハから課せられた『地獄の一分間』を耐え切らなければいけないと言った状況に追い込まれて仕舞ったのだ……。
【現在位置】
【果樹の迷宮】
【現在の日時】
【4月8日 10時9分 春】
【佐藤琴子】
【状態】:左目失明 必死 苦痛 絶望
【装備】:血で滲んだ学校の制服
【道具】:無し
【スキル】:無し
【思考】
1:うぅ……ひっく……。
2:やるしかないんだぁ……。
3:ベルファス様と、晋也の為にも……ッ!
【基本方針】:亡くなった魔王ベルファスと、この世界に転生されている筈の田川晋也の為にも頑張って生き続ける。
【バルルーナ5世】
【状態】:苦しみ
【装備】:王の服一式 英雄の槍
【道具】:回復瓶2個 解毒瓶2個 回復薬DX3個
【スキル】:バルルーナ王族の魂
【思考】
1:うぅ……琴子……さん!
2:なんて僕は無力なんだッ!
3:すまない琴子さん……ッ!
【基本方針】:もし、この一分間を見事に琴子が耐え切った暁には、自身のスキル【バルルーナ王族の魂】を使って直ぐ様回復させて上げる。
【バーバル】
【状態】:応援
【装備】:応援団長の服一式 白い軍手
【道具】:石化玉 凍結玉 怯え玉 混乱玉 睡眠玉 ホイッスル 各1個
【スキル】:大応援
【思考】
1:コトコ……!
2:ガンバレ……!
3:ウガウガ!
【基本方針】:苦しんでいる琴子を精一杯応援する。
【アドムンハ】
【状態】:冷静
【装備】:特殊機密暗殺部隊隊長の戦闘服 サイレンサー銃 太い針1本
【道具】:弾薬1000発 細い針500本 太い針479本
【スキル】:絶対冷静
【思考】
1:さて、耐え切れるかな?
2:俺を失望させるなよ琴子?
3:耐え切れたら後で、バルルーナ様が回復してくれる筈さ……。
【基本方針】:琴子の内に秘めた実力を見極める。駄目と判断した場合は即座に琴子を殺す。




