第五十話 傭兵メルナとロゼリアの劣情 〜ロゼリア編〜
〜ロゼリアの視点〜
――――街ゴンドロ、傭兵所前――――【現在時刻、7時4分】
一夜明け、朝早く起床し終えた翔真達は、準備を整えた後に意気揚々と『傭兵メルナ』を出迎えに傭兵所へと向かっていた。
〈さてとっ! これで漸くメルナさんの御尊顔を拝めますわねっ!〉
ロゼリアは、昨日見たメルナの顔写真を思い出しながら、顔をニヤつかせる。
「よしっ! 遂に、ニーヒャ討伐の日を迎えたぞッ! そんじゃ、昨日の内に予約を取っておいた傭兵メルナさんを迎えに行く準備は出来たよな皆ッ!」
その翔真の問い掛けに、アケミとリセスとロゼリアが順番に返答する。
「ヘヘ、アタシは昨日傭兵所に行ってねぇから、ショウマ達が選んだ傭兵メルナって奴がどんな奴なのか気になってしょ~がねぇぜッ!」
「一応”最高級ランク”の傭兵さんを選びましたので、戦闘面に置いては、とても大きな戦力になる事は間違い有りませんねっ!」
「むふふっ、私も昨夜から楽しみでしたのよっ! 御蔭様で、中々寝付けませんでしたのっ! さぁ、それでは早速、中に入ると致しますわよっ!」
ロゼリアは鼻息を荒くしながら傭兵所の入口の扉を開くと、昨日手続きを行った受付嬢に向かって声を発しながら確認を取る。
――――傭兵所、最高級ランク傭兵受付場――――【現在時刻、7時6分】
「受付嬢さーん。 メルナさんは来てますの〜?」
「あら、昨日の御客様ではないですかっ! ふふっ、朝早くから御苦労様ですよっ♪」
受付嬢はロゼリア達の姿を確認すると、にこやかに笑った。
「それで、メルナさんは来て居られますのっ!? 私、昨夜からワクワクが止まりませんのっ!」
ロゼリアが、受付の机をバンバンと叩きながら、目を爛々と輝かせて受付嬢の事を急かすと、受付嬢は冷静な口調で対応する。
「ふふっ。 そう慌てなくても大丈夫ですよ♪ メルナさんなら此方の待機室の中で御待ちして居ります。 それでは、早速メルナさんをお呼び致しますね〜っ! メルナさ〜ん、依頼主の方々がやって参りましたよぉ〜っ!」
受付嬢が待機室の中に居るメルナに向かって、依頼主がやって来た事を伝えると、その事を聞いたメルナが声を発して待機室の中から出て来た。
「えぇ、分かりました。 想定よりも、随分早い御出迎えですね……」
ロゼリア達の前に現れたのは、銀色と蒼色に光り輝いている鎧を身に着けている背の低い金髪の美少女だった。
「あ、貴女がメルナさんですのっ!?」
「えぇ。 如何にも私こそが、貴方方が御依頼された傭兵、『メルナ』と申します。 それでは、改めて御確認致しますが、本当に貴方方が私の依頼主で間違いありませんね?」
メルナは、翔真達の顔を一瞥して静かに微笑んだ。
「あ、あぁ! 間違い無いですっ! 俺達が、メルナさんの依頼主ですよ!」
「なるほど、了解致しました。 それでは、本日の”契約内容”について改めて御説明させて頂きます。 私の契約期間は、今から丁度”丸一日の4月9日の7時付近”迄の期間となっておられますので、もし契約期間の延長の相談をしたい様ですなら、その話は契約期間を過ぎた明日の7時以降に御願い致しますね?」
〈な、なるほど……? この話は良く覚えておかないとですわねっ!〉
「あぁ、分かったぜ! それじゃあ、早速だが今すぐに俺達に付いて来て貰っても良いか? ニーヒャを狙うには今の時間帯がベストらしいからなっ! 早くクエストを達成して、俺も《一流の冒険者の証》を手に入れたいぜ〜っ!」
「ふむふむ、ニーヒャ討伐に行かれるのですね? それならば、護衛は任せて下さいね。 貴方方が、無事にクエストを達成出来る様に、私も精一杯尽力させて頂きます」
メルナは、微笑を浮かべながら律儀に礼をする。
すると、アケミが腕を組みながら、メルナに対して張り合った。
「おおっ! へへっ、中々に頼もしいじゃねぇか! んだけども、あんまり目立ち過ぎねぇようになぁ? 飽く迄も、アタシ達が”主役”って事を忘れんなよ?」
「おい、アケミっ! いきなり失礼な口を利くなって! す、すみませんメルナさんっ! 今のアケミの発言は無視して下さいっ!」
「いえ、そんなに気を遣って頂かなくても結構ですよ。 私は、傭兵らしく皆さんの安全を確保する為だけに存在しているのですから」
〈まぁっ! なんと物哀しい事を仰るのかしら……? ですが、それもまたクールで中々に良きですわねぇ〜っ♡〉
最早一瞬にしてメルナに対して首ったけになっている様子のロゼリアと共に、翔真達一行はニーヒャ討伐の為に《古代の迷宮》へと向かうのであった。
――――ザデー砂漠――――【現在時刻、7時17分】
すると、その道中にロゼリアとリセスが、メルナに聴こえない様に、コソコソと内緒話を始めた……。
「しかし、メルナさんって何だか気難しそうな人ですわね……。 顔は幼くて可愛らしいのに、なんか話し掛け辛い雰囲気を醸し出していますわよ……」
「確かに、少々素っ気無いなとは思いますが、それは私達を護る為に、常に気を張っているからだと思います。 なので、メルナさんの周りはピリッとした雰囲気になっているんじゃないですかね……?」
「まぁ、そうなのでしょうけども……。 ぐぬぬッ、このままでは、会話の糸口すらも見付けられないですわよ……っ」
ロゼリアは項垂れていた……。
一体、どうやったらメルナと仲良くなれるのか……と。
〈うむむぅ……。 弱りましたわね……。 なんとかメルナさんと御近付きになりたいのですが、とても近付ける雰囲気では無いですわねぇ……〉
顔が幼くて好みで、おまけに『变化族』と言う特殊な種族でもあるメルナに対して、ロゼリアはとっても興味を持っていたものの、如何せん会話をする切っ掛けがイマイチ掴めずにいたのだ……。
と、ロゼリアがそんなこんな考え事をしている内に、翔真達は古代の迷宮の入口付近に辿り着いて仕舞った……。
――――古代の迷宮前――――【現在時刻、7時24分】
「あぁ……っ。 なんて事ですの……。 とうとう、碌な御話しも出来ず仕舞いで迷宮に辿り着いてしまいましたわ……っ」
ロゼリアは、悔しそうに人知れず唇を噛み締める。
すると、さっきから何だかロゼリアの様子が可笑しいと思い始めていた翔真が、心配した様子でロゼリアに話し掛けた。
「おいおい、さっきから一体どうしたんだよロゼリア? お前だったら、迷宮に着いた瞬間に大はしゃぎすると思ってたんだが、もしかして何処か具合でも悪いのか……?」
するとロゼリアは、翔真にいらぬ気苦労を掛けて仕舞ったと思い、慌てて返事をする。
「だ、大丈夫ですわよお兄様ッ! ただ単に、私はメルナさんと”御話し”がしたかっただけですわっ!」
「え? メルナさんと?」
すると、その翔真とロゼリアの会話を聞いていたメルナが、ロゼリアの方に向き直ると、そのまま話しを聞こうとする。
「ロゼリアさん? 何か私と話したい事が有るのですか……? 古代の迷宮を目前に控えた手前、なるべく手短に済ませたいのですが……」
「あっ!? え〜と、そのですね〜……えと〜? あの実は、私は……メルナさんと”お近付きになりたい”と言うか……その、あの〜……」
ロゼリアは、唇を丸めながらもじもじと人差し指をグルグルと回したり突き合わせたりしながら、必死に脳内を巡らせたものの、一向にメルナとの会話の糸口が掴めずにいた――――。
仕方無くロゼリアは、苦肉の策で取り敢えず頭の中に浮かんで来た文字の羅列を言ってみる事にした。
「え、えぇ〜っと? あっ、メ、メルナさんって実に”ナイスバディ”ですよねっ! ”胸も大っきい”事ですしっ!」
〈キャーーッ!? わ、私ってば咄嗟に思い付いた言葉が”セクハラ紛い”な事しか無いではありませんのっ!? こ、このままだと愛しのメルナさんにドン引かれてしまいますわよぉ〜っ!?〉
思わず口から飛び出たセクハラ発言に対して、ロゼリアは自分の頭をポカポカと叩きながら静かに項垂れた……。
すると、そのロゼリアから発せられた言葉を聞いたメルナは、疑念を抱きながら眉を顰める……。
「はい? 私がナイスバディな事の何が大事なのですか……? えっと、申し訳ありませんが、その事を今話す必要性が何処にあったのですか? そして、その話を聞くからに察しますと、もしや貴女は私に対して”劣情”を抱いていると言う事なのですか?」
「えっ!? れ、劣情なんてとんでもないですわっ! ちょ、ちょっと距離の詰め方を間違えただけですのよっ!? 今のは、ただ単に私が言葉のチョイスをミスっただけですのよっ!」
「とは言われましても……。 残念ながら私は、ロゼリアさんが”同性愛者”だと言う事を認識せざるを得ません……。 まぁ、此方としても個人の恋愛観を否定する気は更々ないのですがね……」
と言った風に、メルナから同性愛者だと完全に決め付けられて仕舞ったロゼリアは慌てて弁明する……。
「え!? いや、違う違う! 私は別にメルナさんに対して性的な目で見ている訳ではありませんわ……! 私は、純粋な気持ちでメルナさんと、『お友達』になりたいと思っていただけですのよ……っ!?」
「はてさて、どーですかね? 先程から、貴女の目線の先には私の顔と”胸”ばかり映っているではありませんか? ロゼリアさん、御自身では御気付きにならなかった様子ですが、貴女の目は、まるで獲物を狙うかの様な『野獣の目』をしているんですよ?」
「んなばッ!? や、野獣の目ですって!? ま、待って頂きたいですわ! 確かに、メルナさんは素敵な容姿をしているなとは思っていましたけどもっ! だけども、別にそこまでメルナさんの事をイヤらしい目では見ていませんでしたわよっ!?」
「いえいえ、弁明しても無駄ですよ。 私は、もう既にロゼリアさんの事を私の身体を狙っている”ケダモノ”と認識致しましたから。 それでは気を取り直して早速迷宮に入りましょうか」
そう言い放つとメルナは、そそくさと迷宮の中へと向かって行った……。
「ま、待って下さる……!? もし仮に、私がレズビアンだったとしても、私はこれでも”上の中”くらいの顔立ちはしていますわよ!? 寧ろ、こんな可愛らしい風貌の人から好意を抱かれるのは喜ばしい事ではありませんのっ!?」
すると、そんなこんな言っているロゼリアに対して、苛ついた様子のメルナが一蹴した――――。
「自惚れないで下さい。 貴女は、せいぜい”中の上”です。 それに私は、貴女とは違って別に女の子は恋愛対象じゃありませんからね。 そもそも、恋愛事など下らない事ですし」
「えっ!? 恋愛事が下らないですって!? その口振りですと、もしやメルナさんって”恋”をした事が有りませんのっ!? それは、とても勿体無い事ですのよっ!?」
「御心配には及びません。 強いて言うならば、『戦い』と言う物が常に私の心を震わせてくれますので、私にはそれで充分なのですよ」
すると、古代の迷宮を目前にして口論を始めているロゼリアとメルナに対して、痺れを切らした様子のアケミが止めに入った。
「だーッ! さっきから、糞程にどうでもいい事でグチグチグチグチとッ! 分かった分かったから! 面倒くせぇから、さっさと迷宮に入るぞッ!」
〈うわッ! まさか、アケミなんかに説教されてしまうとは、何たる不覚ッ!〉
「これは大変失礼致しました。 それでは行きましょうかロゼリアさん」
するとメルナは、和解の為にロゼリアに向かって静かに手を差し伸べた。
すると、その可憐な風貌のメルナの姿を見た瞬間にロゼリアは、思わず胸の鼓動がドッと速くなる……。
「キュン……ッ。 ごめんなさい……メルナさん。 やっぱり、私って貴女の言った通りの人物だったのかも……っ♡」
ロゼリアの瞳の中には見事な迄の”ハートマーク”が浮かんでいた……。
これには、一部始終を見ていた翔真も流石に呆れ返る……。
「はぁ〜やれやれ……。 この先、上手くやっていけんのかな。 俺達は……」
「まぁ、なる様になりますよ……きっと! それでは、ニーヒャ討伐開始ですっ!」
と言ったリセスの合図と共に、翔真達一行は危険を顧みずにニーヒャ討伐に向けて迷宮の中へと足を踏み入れて行くのだった……。
【現在位置】
【古代の迷宮1階】
【現在の日時】
【4月8日 7時32分 春】
【立花翔真】
【状態】:不安
【装備】:旅人の服 頑丈な剣 大きな袋と小さな袋
【道具】:閃光玉10個 回復薬10個 回復薬DX5個 金貨1枚 銀貨5枚
【スキル】:不意の転倒
【思考】
1:何やら不安だが……。
2:まぁ、よしっ!
3:気を取り直して行くかッ!
【基本方針】:古代の迷宮の地下50階に生息しているニーヒャを討伐する。
【リセス・トワ・イラル】
【状態】:健康
【装備】:ピンク色のプリンセスドレス 銀色のティアラ 腕時計 大き目の袋 豪華な革袋
【道具】:閃光玉10個 金貨179枚 レインボーカード
【スキル】:絶対防御
【思考】
1:皆さんっ! しっかりと気を引き締めながら頑張りましょうねっ!
2:みんなで協力すれば、ニーヒャなんて楽勝ですとも!
3:勿論、ニーヒャ以外のモンスターにも注意を怠らない様にしないとですねっ!
【基本方針】:古代の迷宮の地下50階に生息しているニーヒャを討伐する。襲ってくるモンスターに警戒しながら進む。
【ロゼリア】
【状態】:落ち込み
【装備】:街娘の服 使命の剣と盾 大き目の袋
【道具】:閃光玉10個
【スキル】:元奴隷根性
【思考】
1:う〜……。
2:なんでこんな事に……。
3:御恥ずかしい限りですわ……。
【基本方針】:古代の迷宮の地下50階に生息しているニーヒャを討伐する。メルナと仲良くなりたい。
※自分自身でも気付かぬ内に、徐々にメルナに対して劣情を抱き始めています。
【アケミ】
【状態】:呆れ
【装備】:紅色の和服 撃滅の斧 大き目の袋
【道具】:閃光玉15個
【スキル】:火炎演舞
【思考】
1:全くよぉ……。
2:アタシの集中力が途切れちまうからよぉ……。
3:しっかりしてくれよなぁ……。
【基本方針】:古代の迷宮の地下50階に生息しているニーヒャを討伐する。モンスターを殺しまくりたい。
【傭兵メルナ】
【状態】:警戒
【装備】:銀色と蒼色の傭兵の鎧 正義の剣と盾 特大の袋
【道具】:閃光玉20個 回復薬DX20個 毒薬10個 火炎瓶10個 痺れ粉5個 眠り粉5個
【スキル】負けない正義【効果】:相手が悪意の心を持っている人物であればある程、自分自身の能力値がぐんぐんと上昇していく。逆に善意の心を持っている人物相手には滅法弱くなってしまう。
【思考】
1:アケミさんは中々に手練の様ですね……。
2:問題はロゼリアさんですね……。
3:彼女の魔の手からも身を守らなければ……。
【基本方針】:古代の迷宮の地下50階に生息しているニーヒャを討伐する。翔真達を護りながら進む。ロゼリアを護りつつ警戒する。




