第四十九話 究極の決断と魔王の消滅 〜佐藤琴子編〜
〜佐藤琴子の視点〜
――――楽園の密林――――【現在時刻、8時30分】
たっぷりと休息を取った琴子は、夜が明けた事に気が付くと、ノビをしながらゆっくりと起床し始める。
「う~ん……。 ふわぁ〜よく寝たぁ〜。 あれっ、ベルファス様? もう起きてたのですか?」
「おや、琴子さん。 お早う御座います。 すみませんが、今まさにアモンと”連絡”を取っている所ですので……」
「あ、すみませんっ! えっと、それじゃあ私は黙っていますねっ!」
琴子は慌てて両手で口元を塞ぐ。
「ふふっ、その迅速なる対応には敬意を払いますよ。 それで、アモン? 一夜経ちましたが、そちらの方は順調でしょうか?」
ベルファスがそう問い掛けると、陽気な口調のアモンの声がベルファスの脳内に響いて来た。
《魔王様〜っ! 聞いて下さいよぉ〜っ! 僕達やりましたよぉ〜っ!》
「ちょ、一旦落ち着いて下さい……。 その浮かれた様子を察するに、そちらは中々に順調の様ですね……?」
《えぇ、魔王様っ! 街ルタイアに居た『英傑旅団のNo.7のロスル』さんが一緒に協力してくれる事になったんですよ〜っ!》
アモンは嬉々としながら、ロスルの事を魔王ベルファスに話した。
すると、『ロスル』と言う名を聞いた魔王ベルファスは、懐かしみながら返答する。
「ロスルさんですか……っ! これはまた懐かしさを憶える名前ですね……! ふむ、詰まり見事にも頼りになる英傑旅団の団員の方を仲間に引き入れる事が出来たと言うのですね! これは御手柄ですよアモン! では、この調子で引き続き頑張って下さいね!」
《ふっふっふ! この街ルタイアに居る人達に、無事に魔族の安全性を普及していってますからねぇ〜っ! なので、一先ず今日の所の予定は、他の街に行ってドンドンと魔族の安全性を広めていければかと思います〜!》
「ははっ、中々に上手くいった様子で安心しましたよ。 それでは、念の為《魔族抹殺連盟》の方々にも気を付けながら、安全に行動して下さいね?」
《はい! 承知しましたよ魔王様っ! それでは、何やらドルネインさんが僕の事を呼んでいるので、一旦テレパシーを切りますね〜。 それでは!》
そして、悪魔アモンからの通信がプツンッと切られると、途端に魔王ベルファスは、ホッと一息つく。
「フフフ……。 上出来ですよ……! まさか、懐かしのロスルさんまで協力してくれる事になるなんて……! これは追い風が来ていますよ……! 是非ともこの調子で、我等魔族と他種族との関係性を良好な物にしていこうではないですか……ッ!」
何やら上機嫌な様子のベルファスに対して、琴子が興味を示しながら話し掛ける。
「何やら御機嫌ですね〜? もしかして、アモン君から何か良い報告でも聞けたんですか〜?」
「えぇ、その通りなのですよ琴子さん! アモン達は無事に街ルタイアに辿り着いて、そこで新たなる協力者ロスルさんと共に、魔族の安全性を普及して下さっているそうですよ!」
「え、本当ですか!? わぁ〜っ! 良かったじゃないですか〜っ!」
「えぇ、えぇっ! とても喜ばしい事なのですよ……!」
と、琴子とベルファスが喜びを分かち合っていると、二人の話し声を横になりながら聞いていたバルルーナ5世達も眠い目を擦りながら起床する。
「ムニャムニャ……。 う~んと、さっきから断片的に聴こえてたのですが、どうやらアモンさん達の方は上手くやってるって事ですか……?」
「おっと、お早う御座いますバルルーナ王。 ふふっ、その通りですよ。 さてと……! それでは、そろそろ私達も”次なる行動”に移る事と致しましょうか……!」
「エェ〜? オイラハ、モウスコシダケ、ネテタイゾ〜、ウガウガッ!」
すると、面倒臭そうにしているバーバルを、バルルーナ5世が優しく説得する。
「まぁまぁ、バーバル? 僕達も、アモンさん達に負けていられませんよ? 諸々の準備を整えたら僕達の王国、『バルルーナ王国』へと向かいましょうか!」
「えぇ、バルルーナ王の言う通りですね。 今の時刻ならば、昨日と比べてほとぼりも冷めている頃合いですし、先ずは手始めにバルルーナ王国迄の道中に在る『果樹の迷宮』を目指す事と致しましょう!」
〈え、何でこの流れでバルルーナ王国じゃなくて果樹の迷宮に行く事になったの……!?〉
すると、魔王ベルファスから発せられた《果樹の迷宮》と言った場所が気になった様子の琴子が、不思議そうに聞き返した。
「えっと、ベルファス様? その果樹の迷宮って何ですか? 何故、バルルーナ王国では無くそっちに行くんですか……?」
「ふむ、何も知らない琴子さんに簡単に説明をするとですね? その果樹の迷宮と言うのは、要するにバルルーナ王国に行く迄の”通り道”なのですよ。 更に、その迷宮の地下5階に進んで行くと《近道》が在るんです。 さてと、これで理解して頂けましたか琴子さん?」
”近道”と言う単語を聞いた琴子は、これから果樹の迷宮に向かう目的を一瞬にして察した。
「へぇ〜っ! なるほど、近道ですか〜! それなら納得です! 親切に教えて頂き有り難う御座いますベルファス様っ!」
「いえいえ、礼には及びませんよ。 それに琴子さんは、まだこの世界の事を良く知らないのでしょう? なので、その琴子さんの知り得ない情報を共有させる事も、この世界で生き抜く為には大事な要素なのですよ」
「へへへ、コトコノコトハ、オイラタチガ、オマモリ、スッカラナ! ウガウガ!」
「ベルファス様……バーバルっ! ふふっ、ありがとね皆っ! よ〜しっ、それじゃあ果樹の迷宮とやらに行こっか!」
「アレ、ナイテルノカ? コトコ? ウガウガ!?」
「え……っ?」
仲間からの優しい言葉を聞いた琴子は、思わず感極まって涙を浮かべると、慌てて涙を拭いながら元気良く歩き始める。
「ごめんごめんっ! 私ってば感極まってついつい! それじゃあ、改めて出発進行〜っ!」
然し、そんな浮かれた様子の琴子の事を慌ててベルファスが呼び止める。
「あのー、琴子さん? 元気なのは良い事なのですが、果樹の迷宮が在る場所は、そっちの方角では有りませんよ?」
ベルファスが冷静な口調で琴子を呼び止めると、少しだけ顔を赤らめた琴子がトボトボとした足取りで帰って来る。
「はわわわッ!? す、すみません……。 私ってば果樹の迷宮の方角も分かんないのに、なんか調子に乗っちゃいました……。 よ~しっ! それじゃあ、気を取り直して出発進行ですね! 皆さんっ!」
「オォ〜ッ! シュッパツシンコウ〜!! ウガウガ!!」
「シュッパツ!! フガフガ!! シンコウ!! ボルダホ!!」
「それでは、今度は僕の後に付いて来て下さいねぇ〜!」
こうして琴子達一行は、果樹の迷宮に向かう為に現在居る所の楽園の密林の外を目指して、共に歩き始めた。
そして琴子達は、やっとの思いで楽園の密林から抜け出して《ビュルクナー平原》に辿り着くと、其処でベルファスが声を発した。
――――ビュルクナー平原――――【現在時刻、8時20分】
「ふぅ、やっとのこと楽園の密林を抜けれましたね。 それでは、バルルーナ王国に早く行く為の近道が在る果樹の迷宮の地下5階にへと向かいましょうか!」
「……む? 待って下さい、目の前の”あれ”は何でしょうか……?」
「おや、バルルーナ王? 急にどう致しました?」
「え、急に立ち止まってどうしたんですか? バルルーナさん?」
すると疑問に思っている琴子とベルファスに対して、隣に居るアドムンハが衝撃的な一言を発した。
「あれは”死体”だ。 恐らく、昨日アモンが言ってたドルネインが殺した二人組の魔族抹殺連盟の遺体だな」
「え、死体ッ!? ヒッ、いやぁ〜ッ! 助けてベルファス様〜ッ!」
琴子は慌てふためきながらベルファスの後ろに身を潜める。
「大丈夫ですよ琴子さん。 ですが、なるべく死体がある方向を見ない様にして下さいね? 然し、それにしても惨たらしい死体ですね……。 首から上が綺麗サッパリ吹き飛んでいますね……」
「いやぁぁああッッッ!! そんな鮮明に説明しないでぇぇええッッッ!!! 想像しちゃうからぁ〜ッ!!」
琴子は、絶叫を上げながら思わず耳を両手で塞ぎ始める。
「すみません琴子さん。 決して怖がらせようとした訳では無いのです。 それでは、行きましょうか皆さん……」
「そうだな。 そもそも魔族抹殺連盟共の遺体に対して気を遣う必要はこれっぽっちも無ぇんだ。 ドルネインが上手く返り討ちに出来たみてぇだから良かったものの、普通だと間違い無く魔族抹殺連盟の奴等には勝てねぇだろうからな……」
「ですねアドムンハ。 よしっ、僕達も気を引き締めて進みましょうか!」
「オォーーーッ! ウガウガッ!」
こうして、バルルーナ5世からの号令が発せられてから、数十分程の時間が経過し、遂に琴子達一行は幸運にも誰にも遭遇する事も無く、無事に果樹の迷宮の入口付近に辿り着いたのであった。
――――果樹の迷宮、入口付近――――【現在時刻、8時46分】
「へぇ~っ! 此処が皆さんが仰っていた果樹の迷宮なんですねぇ〜……っ! わぁ〜、何だか”甘酸っぱい香り”がしてますよぉ〜っ!」
「タブン、コノニオイハ”キノミ”ダナー! オイシクテ、アマズッパイキノミノ、ニオイガ、シテイルンダナ! ウガウガ!」
「へぇ~っ! 木の実ですかっ! わぁ〜、何だか良いですね〜っ!」
「おやおや、琴子さん? 何やら目的を忘れていませんか? 僕達の目的は木の実採取では無くて、いち早くバルルーナ王国に向かって行って、王国に残っている皆の無事を確認する事なんですよ?」
「わ、分かってますよバルルーナさんっ! よし、それでは早速地下5階まで行きましょうか〜……っ!」
「強引に話を切り替えたなコイツ……」
と、静かにツッコミを入れたアドムンハだったが、途端に周りに立ち込めている”不穏な気配”に気が付く……。
「……待て? どうやら、この中に居る何者かが俺達の事を待ち伏せしてるみてぇだぜ……?」
「え、待ち伏せ……ですって!?」
迷宮の中に入って行こうとする琴子達を、アドムンハが引き止めると、その言葉に魔王ベルファスも頷きながら同意する……。
「ふむ、このピリピリとした”敵意”が感じられる程の気配を発している人物の正体とは……? これは恐らく私達に対して相当な”殺意”を持っていますね……。 むむッ!? そして、どうやらこれは……。 《人間族》から放たれている……殺気ッ!」
「な、なんですって!? 相当な敵意を持った人間が、この迷宮の中に居るんですか……!? えっ、どうするんですかっ!?」
と、琴子がそう言った瞬間だった!
突如として、琴子の背後から謎の声が聴こえ始めたのだ……。
「悪いな、嬢ちゃん。 アンタに恨みはねぇが、これも俺の”目的の為”なのでね……」
「なっ!? 誰っ!?」
慌てて振り返った琴子だったが、気が付いた頃には時遅く、既に謎の声の主は琴子の背後に回り込んでおり、琴子の首筋に鋭利なナイフを突き立てていたのだ……。
「え……? 何、これ……? は、刃物……っ!?」
琴子は余りにも突飛な出来事により、一瞬にして脳内がパニックになる。
正常な判断力を失った彼女は、歯をガダガタと震わせながら涙を流すと、危うく失禁をする寸前の所までの極限状態にあっさりと追い込まれてしまった……。
その刹那、冷酷な男の声色が琴子の耳元に囁かれる……。
「大人しくしろ……。 でなければ、喉元を掻っ捌くぞ……」
「ヒッ……!? い、嫌だ……! た、たた助けて……! あぁぁあぁ……っ!」
「おい……。 大人しくしろって言ったよな……。 別に見せしめに殺してやっても良いんだぞ……?」
〈ヒッ!? そ、そんなぁ……。 まだ晋也とも再会出来て無いのに、こんな所で死ぬなんて嫌だよぉ……っ!〉
すると、そんな光景を目の当たりにしたバルルーナ5世と魔王ベルファス達は、苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら冷や汗を垂れ流す……。
「不味いッ! か、身体が”硬直”している……!? 一応話す事は出来ますが、それ以外の行動がまるで出来ません……ッ! そ、それに魔力すらも、出せないだと……ッ!?」
すると、動きを封じられたアドムンハが、冷静な口調で声を発した……。
「恐らく、これは奴の”スキル”の影響だろうな。 そして、魔王すらも無力化出来る程の強力なスキルを持ってる奴と言ったら、『アイツ』しか居ねぇよなぁ……?」
「アイツって、まさか……ッ!?」
絶望した表情をしたバルルーナ5世が、ナイフを突き立てている男の顔を注視していると、威勢良くナルルが男に向かって威嚇をする。
「オイッ! フガフガ!! コトコカラ、テヲハナセッ!!! ボルダホッ!!!」
「ナルルの言う通りですよ! あ、貴方の目的は、一体何なんですか……? どうして、突然琴子さんに対してこんな酷い事を……?」
すると、その謎の男は魔王ベルファスに向かって、小さな声で返答する……。
「はぁ? この状況を見てまだ分からないのか魔王ベルファス……? 其処のバルルーナ族の二人は、とっくに俺の正体に”勘付いた”みてぇだけどなぁ?」
謎の男は、アドムンハとバルルーナ5世の顔を睨み付けると、バルルーナ5世は震えた口調で目の前の男の正体を明かした……。
「驚かずに聞いて下さいベルファスさん! この男は、あの魔族抹殺連盟の《五天王》の内の一人、『暗躍者アルマンド』本人ですよ……ッ! 要するに、とんでもない人に琴子さんが人質に取られたんです……ッ!」
「なんですって……! 五天王相手は流石に分が悪いですよ……ッ!? クソッ! それで、貴方の要求は何なのですか……ッ!」
「相変わらず察しが悪いな魔王ベルファス。 俺は、《魔族抹殺連盟》なんだぞ……? この小娘を助けたければ、魔王ベルファス……。 お前の”命”を俺に差し出して貰おうか……?」
暗躍者アルマンドは、琴子の命と引き換えに魔王ベルファスの命を要求した。
〈えっ!? こ、このままだと私の所為でベルファス様が殺されちゃうッ!? そ、それだけは何としても阻止しなくちゃ……ッ!〉
すると、その要求を聞いた琴子が捕えられている状態で慌てて言葉を発する。
「駄目よベルファス様ッ! 私の事なら大丈夫だからッ! こんなクソ野郎の要求に従わないでぇッ!」
「琴子……さんっ。 そう言われても、動きを封じられていては、対処の仕様が……ッ」
「やれやれ、思っていたよりも威勢の良い嬢ちゃんだ。 んじゃ、少しばかり『理解らせねぇ』といけねぇみてぇだなぁ?」
「え……?」
「ハッ!? な、何をするつもりだ! や、やめるんだアルマンドォォオオーーーッッッ!!!」
アルマンドは、手にしたナイフを強く握って琴子の喉元にギチギチと食い込ませた。
「キャッ!? ぐぅ、うぅ……ッ! 痛……いッ」
ツー……。
「待ちなさいアルマンドッッッ!!!」
やがて、琴子の首元に一筋の血液が流れ始めると、それを見て観念した様子の魔王ベルファスが咄嗟にアルマンドの行動を止めに入る。
「なるほど……。 貴方は本気の様ですね……。 分かりました。 私の命で琴子さんを開放してくれるのなら安い物ですよ……。 さぁ、遠慮なく私を殺して下さい……」
「そんなベルファス……様ッ!? だ、駄目ですよッ! ベルファス様は、こんな所で死んでいい存在じゃ―――」
「黙りな嬢ちゃん。 良いか? そもそも、こんな事になったのは、まんまと俺に捕まった”テメェの所為”なんだぞ? その事を良く理解してんのか?」
「え……っ?」
〈言われてみればそうだよ……。 私が鈍臭いから……。 だからこんな事に……ッ!〉
「駄目です琴子さんッ! こんな奴の言葉に聞く耳を持たないで下さいっ! それにベルファスさんも、そうですよ! こんな勝手な要求を呑むだなんて可笑しいですよっ!」
バルルーナ5世が、必死に訴え掛けるものの、覚悟を決めている魔王ベルファスの心には全く響く様子は無かった……。
「バルルーナ王。 私だって、分かっていますよそんな事は……。 然し、このままでは琴子さんが……殺されて……」
「おい、待てよベルファス」
すると、その会話に割り込んだアドムンハが、核心を突く心無い言葉を発する……。
「そもそもよぉ……? その琴子とか言う女に、魔王の命を賭ける程の”価値”は果たして有るのか……? その女は、突然俺達の目の前に現れた何の力も持たないただの異世界人だ……。 だから、その琴子とか言う奴が死んだって、別に俺達にはどうだっていい事だろうが? そうだよな皆? だから、見捨てようぜ? 琴子なんかどうでも――――」
すると、その発言を遮る様に、バルルーナ5世とナルルとバーバルが怒りを顕にする。
「アドムンハ……ッ! 今言った言葉を、”訂正”して下さい……! 琴子さんを見捨てるだって……? 貴方は何を仰るのですかッ! 琴子さんは、僕達に対して心を開いてくれた数少ない人間なんですよ……っ!? そして何より琴子さんは、とても優しくて、とても誠実な御方なのです! そんな心優しい彼女を見捨てる選択肢など最初から存在しないのですよッ!?」
「ソウダゾッ!! フガフガ!! トリケセヨ!! ボルダホ!!」
「オイ、アドムンハ! イッテイイコトト!! ワルイコトガアルゾ!! ウガウガ!!」
然し、アドムンハは彼らの必死の訴えでさえも、特に気に掛ける様子は無く、逆に彼等に対して反論を行った……。
「バルルーナ様……。 そして、ナルルにバーバル。 言っちゃ悪いが、お前達の考えは”甘い”んだよ。 どう考えたって琴子よりも、魔王ベルファスの方が”命の重さ”があんだろうがよ。 時には、使えねぇ奴を切り捨てると言う覚悟も必要なんだよ」
「ふ、巫山戯るのも大概にして下さいッ! アドムンハッ!」
と、口論を始めているバルルーナ達に対して、魔王ベルファスが静かに止めに入った……。
「醜い言い争いは止めて下さい。 少なくとも私には琴子さんを見捨てると言う決断を下す事は出来ません……。 なので、私の命をここで擲つ事に致します……。 貴方の御期待に添えず……すみません、アドムンハ……」
すると、その魔王ベルファスの覚悟の言葉を聞いたアドムンハは、どこか呆れた様子だ……。
「ケッ……。 魔王って奴も結局の所ただの”甘ちゃん”だね。 まぁ、俺は魔族の今後の事なんざ心底どうだって良いし、勝手に女の前で格好付けて殺されてろよ……。 お人好しの馬鹿共が……」
「えぇ……。 ははっ、お人好しなんですよ……。 私達、魔族って種族は何時だってね……」
「そんで残された魔族は、どうなるんだよ? お前と一緒に消滅すんのか?」
「いいえ、私が死ぬ前にアモンに後を託しますよ。 急な事で、彼もビックリすると思いますけどね……。 でも、彼なら私に変わって魔族を指揮する事だって出来る筈ですから……」
「そうか。 んじゃ、此処でお別れだな。 まさか、魔王ベルファスの最期の瞬間が、こんなにも”地味な場面”だとはな……」
「ですね。 でも、最後の瞬間は何時もそんなものなのかも知れませんよ……?」
そして、アドムンハとの最期の会話を終えたベルファスは、悪魔アモンに後を託して、琴子の代わりに今この場所で殺される覚悟を決めた……。
「さぁ、琴子さんを開放して貰いましょうかアルマンド……」
すると、失神寸前の琴子の首筋にナイフを突き立てている暗躍者アルマンドが魔王ベルファスに向かってじりじりと詰め寄って来る……。
「他に何か言い残す事は無いか……? 因みに、俺に反撃等は考えるなよ……? 俺のスキルは【完全無力】と言ってな……? 効果は、俺の近くに居る相手を完全に無力化させると言う物だ……。 詰まり、最早お前に勝ち筋など一切存在しないのだ……」
「フッ、分かっていますよそんな事は。 もし貴方が、この世界に存在する『10の最強のスキル』の中の一つの……【完全無力】を持ってさえいなければ、直ぐに貴方を殺していましたよ……。 まさか、こんな所に私よりも遥かに強い力を持った人物が隠れ潜んで居たとは……。 我ながら、ツイていなかった……」
「そうだな……。 己の運の無さを恨むがいいさ……。 そして、お前のスキルの【願いの犠牲】の効果だが……。 確か、お前を殺す事が出来た者の願い事をなんでも叶えてくれるそうだが……。 ふっ、皮肉にもその【願いの犠牲】でさえも俺のスキル【完全無力】によって、完全に掻き消されて仕舞うから、俺はお前を殺したとしても何も願いが叶う事は無いな……」
「ふふっ、その私の能力は今の会話の間にアモンに託しましたから何れにせよ貴方の願いは叶いませんよ……?」
「なるほど、それがせめてもの最後の抵抗か。 では、遠慮無く魔王の命を刈り取らせて貰おうか……」
そして、琴子を軽く地面に突き飛ばしたアルマンドは、ナイフの切っ先をベルファスの胸に突き当てた……。
ドサッ。
「キャッ!」
「琴子さんっ! くっ、ベルファスさんっ! 貴方のその偉大なる魔力をもってしても、この現状を打破する事の出来無い状況なのですかッ!?」
「素直に諦めるしか道は有りませんよバルルーナ王……。 琴子さんと、この世界の事は貴方とアモン達に任せました……」
〈そ……んなッ! 私の……所為で……ッ〉
血の気の引いている琴子が、歯をギリギリと噛み締めて、目を真っ赤に腫らしながら自責の念に囚われ始める……。
そして、目を伏せながら魔王ベルファスは、最後に暗躍者アルマンドに対して一つの御願いをした……。
「良いですか? 私を殺したら他の者達に一切攻撃をしないで下さいね……? これは”約束”ですよ……?」
「あぁ……分かった。 それでは、これで終わりだなベルファス……。 さらばだ……」
一言だけ、そう呟いたアルマンドは、大きく曲線を描きながらナイフを振り翳すと、ベルファスの胸を目掛けて思いっ切り突き刺す……。
「……ぐふ……ッ!!」
自身の胸の中に、グリグリとナイフが押し込まれてゆく感覚が、やけに気色悪く感じたその瞬間に魔王ベルファスは悶え苦しみ始める……。
「グオォォォ……!! グオオォォォォォォッッッ……!!!」
「いやぁ……っ。 嫌だよぉ……。 なんで、私はベルファス様が殺される瞬間を、見なくちゃいけないの……っ」
「琴子さんッ! 目を伏せて下さい! ベルファスさんでは無く、せめて僕の方を見てて下さいっ!」
「そんな事、言われても……っ。 無理だよぉ……っ。 だって、せめてベルファス様が生きている内に、憎き敵の顔を瞳の奥に焼き付けないと……ッ」
琴子は、怨みを込めた視線を暗躍者アルマンドに向けながら、魔王ベルファスの最後を見届ける事に決めていたのだ。
「へぇ嬢ちゃん。 そんなに俺の事が憎いか? まっ、憎まれんのは慣れてっからよ……」
もの悲しげな表情を浮かべながら、アルマンドはトドメの一撃をベルファスに御見舞いした……。
「これで、終わりか。 だが、これからアモンと言う名の”後継者”が現れる筈だ。 面倒だが、残党も俺がこの手で始末してやるさ……」
そしてアルマンドが、ゆっくりとナイフをベルファスの胸元から引き抜くと、徐々に魔王ベルファスの身体がまるで砂が吹き飛ぶかの様にサラサラと消滅していく……。
そう、アルマンドが魔王ベルファスの胸元に突き刺したのは只のナイフでは無く《消滅の剣》……。
この剣は、一度だけ使う事が出来ると言われている、魔王殺しの為だけに存在している幻の剣なのだ……。
「これで消滅の剣も虚空に消えていく……。 さてと、魔王ベルファス……。 お前の魔王生活も、たった”5年”程度だったが……。 まぁ、それでも歴代の魔王の中では長生きの方だったな……。 はてさて、次の《魔王アモン》とやらは、何年生き残る事が出来るのかな……?」
魔王を始末したアルマンドは、ほくそ笑んだ。
バルルーナ5世は、言葉にならない声を叫びながら泣いている。
ナルルは唖然と、この状況が呑み込めずにいる。
バーバルは、目を背けている。
アドムンハは、先を見据えている。
そして、琴子はと言うと……。
「……え? な、なんで……? な、なな……なん……で……うぅ……ベルファス……様……がッ……あぁああぁあああぁぁ……ッッッ」
琴子は”絶望”した。
【現在位置】
【果樹の迷宮】
【現在の日時】
【4月8日 9時30分 春】
【佐藤琴子】
【状態】:絶望
【装備】:眼鏡 学校の制服
【道具】:無し
【スキル】:無し
【思考】
1:………………。
2:………………………。
3:あああぁあぁぁぁあぁぁ
【基本方針】:虚無
※魔王ベルファスが消滅した現実を受け入れられていません。
【バルルーナ5世】
【状態】:悲しみ
【装備】:英雄の王冠 英雄のマント 英雄の槍
【道具】:様々な回復アイテム
【スキル】:バルルーナ王族の魂
【思考】
1:ベルファス……さん。
2:これは、仕方の無い事なんですよね……?
3:琴子さんを救うには、この方法しか……無かったのだから……ッ!
【基本方針】:傷心中の琴子を慰める。
【ナルル】
【状態】:唖然
【装備】:騎士団長の服一式 断罪の槍
【道具】:様々な能力強化アイテム
【スキル】:騎士団長の誇り
【思考】
1:ソンナ……フガフガ……マオウサマガ……ボルダホ……。
2:ウソダ……フガフガ……ダッテ……ボルダホ……。
3:トテモツヨインジャ……フガフガ……ナカッタノカ……ボルダホ……??
【基本方針】:残された仲間を死んでも護る。
【バーバル】
【状態】:焦り
【装備】:応援団長の服一式 白い軍手
【道具】:相手を状態異常にするアイテム ホイッスル
【スキル】:大応援
【思考】
1:マズイコトニナッタナ……。
2:フツウニコロサレチャッタ……。
3:ウガウガ!!
【基本方針】:死なない様に行動する。後で琴子を慰めたい。
【アドムンハ】
【状態】:冷静
【装備】:特殊機密暗殺部隊隊長の戦闘服 サイレンサー銃
【道具】:弾薬1000発分 細い針1000本 太い針500本
【スキル】:絶対冷静
【思考】
1:まぁ、アイツの目的は魔王と魔族の殺害……。
2:それならば、俺達に危害が及ぶ事は一切無いが……。
3:まぁ、お人好しの魔王らしい最期だったんじゃあねぇか?
【基本方針】:バルルーナ5世を護る。魔王を殺した暗躍者アルマンドと協力関係を結びたい。
※魔族との協力関係を切りたいと思い始めています。
【暗躍者アルマンド】
【状態】:達成感
【装備】:黒と赤の陽炎の服一式
【道具】:無し
【スキル】完全無力【効果】:自分の周囲に存在する相手を完全無力化する。なので、相手がどんなに強烈なスキルを持っていたとしても、その相手のスキルの効果諸共、完全無力化する。
【思考】
1:終わったな……。
2:他の者達は約束通り、放って置いてやろう……。
3:魔族の終焉の日も近いな……。
【基本方針】:約束通り琴子達を見逃す。魔族を皆殺しにする。次なる魔王アモンを殺す。
※魔王ベルファスを殺害しました。
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
――――魔王ベルファスの最期の記憶――――
こうして私の魔王生活は終わりを迎えた……。
私は、今迄にこの世界で何を成し遂げたのだろうか……?
そもそも私が、もっとしっかりしていれば、此処まで魔族と言う種族が嫌われる事も無かったのかも知れない……。
いや、そもそも私が魔王になるのが早すぎたと言う事もある……。
私は今年で生誕15周年……。
矢張り、あの時に魔王の王位に就くのは辞めとくべきだった……。
然し、王位に就いた頃は、まだまだひよっこの10歳だ……。
流石に、当時は其処まで気にする程の頭は回っていなかったな……。
そう考えると今年に生誕8周年になるアモンに本人の許可も無く王位に就かせたのは勝手な判断だったが、然し彼ならばきっと世界を変えてくれる事だろう……。
それにそもそも、王位を継ぐ前迄の私は、危険な森に入っていく歳の近い小さな子供を”護る事”が精一杯だったしな……。
そうだ、思い出した……。
懐かしいな……。
あの時の事も、最早10年前の出来事になるのか……。
あの時……。
確か私は、たまたま日課の散歩をしていた時に、偶然小さな女の子が兄らしき人物の後を追って、危険な森の中に入っていくのを見掛けた……。
このままではあの女の子が危ない!
と、思い立った私は、その女の子を追いかけて、こっそりと近付いて話し掛けてみた……。
――――十年前とある森の中での記憶――――
「やぁ、こんにちは! 僕の名は、『悪魔ベルファス』! 君の名は?」
「わぁ〜!? びっくりしたぁ〜♪ なーに、君〜? 変な生き物ぉ〜っ! あははっ♪」
少女は、おもむろに私の頬を引っ張りながら笑顔を浮かべていたな……。
「むぅ〜! 痛いから引っ張らないでよぉ〜っ! それで、早く君の名前を教えてよ〜っ!」
当時5歳児であった私は、無邪気な口調で話す少女の事がとても気になり名前を聞いてみると、直ぐに少女は私に名を明かしてくれた……。
「私の名前〜? 私の名前は『ムニル』だよ〜っ♪ 私は、この森の中で特訓している『兄上様』に会いに行くのですよ〜っ♪」
「へぇ〜そうなんだっ! でも、この森の中は危険だから、僕が君の事を”エスコート”して上げるよ〜っ!」
「わぁ〜い! ありがとうね変な物体〜っ♪」
「もう〜っ! 僕は、変な物体じゃなくて悪魔ベルファスだよ〜っ!」
そして、私はそのムニルと名乗った少女を、無事にロスルと言う名の兄上様の所に送り届ける迄の間、必死に護った……。
「やっほー! 来ちゃった〜♪」
「なっ!? 厶、ムニル!? 一体何故、此処に……っ!?」
然し、ロスルは慌てた様子で彼女の事を問い詰めていた……。
「一体どうやって、この危険な森の中を誰にも襲われずに僕の所にまで辿り着く事が出来たんだいッ!?」
「んーとね〜、この可愛らしい物体が私を護ってくれたんだよ〜っ♪」
「えッ!? 可愛らしい物体って……!?」
すると、ロスルが私の方を向きながら驚いている顔を浮かべていた……。
その時、私は彼から敵視されない為に、あどけない子供を演じながら、必死に上目遣いで彼の事を粒らな瞳でジ〜っと見詰め続けた……。
それが功を奏してか、彼は私に対して警戒心を取り払ってくれた様子で、私に対して敬意を払ってくれた……。
程なくして、私はムニルとロスルの二人の兄妹に対して、別れの挨拶をし終えて……。
そして、なんか良い事をした気分になったから、スキップをしながら家に帰ったんだっけか……?
ははっ、もう昔の事だから、その後の出来事は鮮明に覚えていないな……。
いや〜、本当に長い様で短い人生でした……。
これで、私の魔王生活は終わりを迎えました。
然し、希望なら途絶えていませんよ。
私の死を乗り越える事の出来る、頼もしい人達が沢山居ますからね。
バルルーナ王。
勇敢なるバルルーナ族の兵士達。
アモンを含めた、残された魔族達。
そして、立派に英傑旅団の一員になれたロスル。
夢幻旅団員ながらアモンの事を護ってくれたドルネイン。
そして、心優しい琴子さん。
結局、あの時の少女……。
ムニルさんとは再会する事は叶いませんでしたが、まぁ人生とは思いの外上手くいかないものです。
果たして、これからこの世界で何が起こるのか?
やがて意識すらも消えゆく私には最早知る由もない事ですが、それでも少々気掛かりです。
まっ、色々と心残りは勿論ありますが、後の事はアモンに託すと致しましょうか……。
……なんだか、眠くなって来ましたね……。
……もう、眠っても良いですよね……?
……いや、もう文句を言う人すらも居ませんでしたね……。
それでは皆様……さようなら。
【魔王ベルファス消滅】




