第四十一話 悩み、恐怖、畏怖 〜五十嵐隼人編〜
〜五十嵐隼人の視点〜
――――ムニルの家――――【現在時刻、16時30分】
ムニルと協力し合いながら丹精込めて作った”自家製カレー”を食べ終えた隼人は、食器を丁寧に洗って片付けを終えると、テーブルの方に戻って席に着いて、満足気に”異世界生活一日目”を振り返った。
「いやぁ〜、それにしても、良い感じに初日を終えられたんじゃないですかねっ!?」
「おぉっ! 中々に充実した顔をしているじゃねぇかよ隼人ッ!」
その嬉しそうな隼人に対して、ソアボと座衛門も互いの顔を見合わせてコクコクと頷きながら同意する。
「うんっ! そうだねっ! 確かに隼人君の言う通り、初日から私達のチームワークが良い感じに働いているねっ!」
「うむ、そうで御座いますなぁ〜! 某も、無事に納得のゆく武器を調達出来ましたし、これからの某達の行く末が楽しみで御座いまするなぁ〜っ!」
パンッ!
〈ん? 今のは何の”音”だ……?〉
すると、謎の音を聞いた隼人達が音のした方に振り向いて見ると、其処には笑みを浮かべているムニルの姿があった。
どうやら、ムニルはパンッと手を叩いて自身の方に注目を集めさせるのが目的の様子だ。
「あれ、どうかしたんですかムニルさん……?」
「ふふっ♪ さて、それでは皆様っ! 折角ですから、今から"テーブルゲーム"を行いませんか〜?」
「えっ、テーブルゲーム……ですか?」
と、浮かれ気分の隼人達に向かって、ムニルがテーブルの上に、予め用意していた『トランプ』と『オセロ』を置いてくと、その見覚えの有る物体を見た隼人は慌てて確認する。
「あっ、これって……! どうやら、この異世界にもトランプとオセロが存在するみたいですねっ!?」
「ふふっ、実はですね? このトランプとオセロは、今から約数10年程前に此処とは違う世界からやって来た人が、この世界に《ユニークアイテムカンパニー》と言う名の会社を設立して、世界中に大ブームを巻き起こした代物なんですよ〜っ♪」
〈へぇ……。 まっ、要するに、俺達みたいに異世界転移や異世界転生した人が、たまたまトランプとオセロを持ってて、それをこの異世界で”ビジネス”に使ったと言う話なのかな……?〉
持参していたオセロとトランプを使って、異世界でビジネスを立ち上げて見事な迄に成功を収めたと言う謎の男の話を聞いた隼人は、心底羨ましそうに物思いに耽る。
すると、その話を聞いていたソアボが、ふと思い出したかの様に声を上げた。
「あぁ〜ッ! 今思い出したんだけど、確か名前は『五島洋一』って名前の人だったと思うけど、私が今から数十年前位に異世界転生させたその人が、多分この世界にトランプとオセロを流行らせたんだと思うよ〜っ!」
「……へぇ、詰まりソアボ様は、その『ユニークアイテムカンパニー』を設立した人と嘗て天界で出会ってたんですね……? それで、そのユニークアイテムカンパニーって何なんですかムニルさん?」
その隼人の問い掛けに対して、ニコッとムニルが答えた。
「えっと、そのユニークアイテムカンパニーはですね? 主に、このトランプとオセロだけでは無く、『漫画』や『アニメ』等と言った様々な娯楽アイテムを提供して下さった偉大なる大企業なのですよっ♪」
「え、漫画やアニメって……?」
「ふふっ♪ 恐らく、その漫画やアニメと言う概念も、元々はハヤトさん達の世界の文化なのでしょうけどねっ♪」
すると、その漫画やアニメと言う単語を聞いた座衛門が、興味深しげに一瞬の間合いでムニルに詰め寄って来た。
「ふむ、なるほど漫画やアニメですか……。 某は先程、確かに『鍛冶屋のコテツ殿』からこの世界でもアニメ作品が流行していると御聞きしましたが、その作品を広めている企業がその所謂『ユニークアイテムカンパニー』なので御座いますね?」
「は、はい……。 そうだと思いますが……」
すると座衛門は、真剣な眼差しでムニルに問い掛けた。
「ほぉッ! それで、そのユニークアイテムカンパニーとやらは、一体どの場所に在るので御座いますか……ッ!?」
「えっ!? えーっと、確かユニークアイテムカンパニーは、『未知の大地ギナゾ』と言う名の場所に本拠地を構えている筈ですよ……? 因みに、此処からだと……かなり遠くの場所に在る事になりますね……」
「……ふむ『未知の大地ギナゾ』ですな? いやはや、ムニル殿ッ! 情報提供感謝致すぞ……ッ! 某は、何れそのユニークアイテムカンパニーに、この『美乳剣舞』と言う作品を売り込もうと思いますぞッ!」
座衛門は、懐から美乳剣舞のシールを取り出して、それをムニルに見せ付けると、途端にニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「……あら、そのシールのキャラクターは、ザエモンさんの剣に貼られていたキャラ達ですね? もしや、ザエモンさんは、そのキャラ達を元にした作品をこの世界で流行らせたいのですか……っ!?」
「……左様。 ムニル殿、某は本気ですぞ? 決して、巫山戯ている訳では御座いませぬよッ! まぁ、因みに脚本は、解釈違いが起きぬ様に、某と隼人殿が直接書かせて頂きますがねッ!」
すると、突如名前を呼ばれた隼人は、思わず慌てふためいた。
「えぇっ!? お、俺も書くんですかっ!? で、出来るかなぁ〜?」
「出来るで御座いますッ! 某と隼人殿の、その熱い気持ちの込もった、”愛”が有ればッ!」
「まぁっ! そうなんですかハヤトさんっ! ハヤトさんも、そのビニューケンブと言う作品のキャラ達にメロメロなのですかっ!? むぅ〜、少し妬いちゃいますねっ!」
ムニルは、隼人に対して嫉妬してるかの様に、頬を膨らませながら詰め寄る。
「ちょ、ちょっと待って下さいよっ! なんか座衛門さんの所為で、変な感じになっちゃったじゃないですかぁ〜っ! 誰かぁ〜っ! 今直ぐにこの話題を変えて下さ〜いっ!」
と、隼人が悲鳴に似た様な叫びを上げていると、陽気な口調でソアボが話の話題を変えてくれた。
「オーケーっ! それじゃあ、言われた通りに早速話題を変えるけど、皆”お風呂”にでも入ったらー? みんな、さっきからずっと汗臭いし、ムニルちゃんもお風呂を貸してくれるって言ってくれてるしね〜っ!」
〈ナ、ナイスですよソアボ様っ!〉
「むっ! 確かに、就寝前に日課の風呂に入らねばなぁ〜っ! さてと、それならば隼人殿に権兵衛殿! 早急に、風呂場にへと向かいましょうぞっ!」
「ヘヘッ、男同士の裸の付き合いってかっ! ガッハッハ! 了解したぜぇッ! んで所でよぉ、ムニル? 俺達の分の”着替え”は用意して有んのかぁ〜?」
「ふふっ。 勿論、御用意していますよっ♪ ですから、遠慮無くどうぞ心ゆくまで湯船に浸かって下さいねっ!」
ムニルは、にこやかに返答すると、そのムニルからの返答を聞いた権兵衛は、はしゃぎながら風呂場へと向かって行った。
「おお、そうか! んじゃ、さっさと風呂場に行くぞ隼人、座衛門! ヒャッホ〜イッ! やっと、風呂に入れんぜぇ〜ッ!」
「ははっ。 権兵衛さんってば、思ったよりも綺麗好きなんですねっ!」
「んあ? 綺麗好きとは、ちょっと違うがなぁ? だって、風呂ってなんかワクワクすんだろっ!? なっ、お前達もそうだよなっ! なぁ〜っ!?」
権兵衛は、鼻息を荒くしながら興奮した様子で、身に着けていた服を脱ぎ始める。
「キャ~ッ! ちょ、ちょっと権兵衛君っ!? 興奮の余り脱ぎ出すタイミングを間違えてないっ!? ほら、隼人君に座衛門君っ! 早く、彼と一緒に風呂場に行ってよ〜っ!」
「むほほ〜っ! 照れた様子のソアボ殿も中々に萌えるで御座いまするなぁ〜っ! さてと、それではさっさと風呂場にへと向かうで御座いまするよ〜っ!」
「はいっ! 行きましょうか!」
こうして、隼人と権兵衛と座衛門の3人は、ソアボに急かされるままに風呂場にへと向かい、脱衣所で一目散に服を脱いで、風呂場の中にへと足を踏み入れた。
――――ムニルの家、浴室――――【現在時刻、17時3分】
「むっはーッ! こ、此処がムニル殿が毎日使っている浴槽ッ! 妄想が捗りますなぁ〜っ!」
「ちょっと、このタイミングでイヤらしい事を言わないで下さいよ座衛門さんっ! そんな事を言われちゃうと、こっちまで意識しちゃいますよっ!」
「おっと、照れてんのかぁ〜、隼人ぉ〜? ガハハッ! まっ、んな事よりも、さっさと身体を洗って風呂に浸かろうぜぇ〜ッ!」
権兵衛は、予めムニルが客人用に用意して置いてあった新品のバスタオルと石鹸を手に取ると、そのまま一人で身体を洗い始めた。
「さてと座衛門さん。 僕達も、権兵衛さんと同じ様に、さっさと身体を洗いましょうっ! そんなエッチな妄想をしている場合では無いんですよっ!」
と、隼人の忠告を聞いたものの座衛門は、またしても脳内で良からぬ事を思い付いている様子だ……。
「いや待つで御座いまするよ? それでも、"漢"なのですかな隼人殿? 漢ならば、もっと”大事な事”に気付くで御座いまするよ……ッ!」
「えっ? それで、さっきから一体何を見詰めてるんですかって……。 ……ま、まさかッ!?」
すると、隼人は座衛門の鋭い視線の先にある、"とある物体"を目撃してしまった……!
「どうやら、隼人殿も気が付いた様子ですなぁ? あの、洗濯カゴに入れられた”ピンク色の濡れたバスタオル”……。 恐らく、アレはムニル殿が朝風呂をし終えた後に身体を拭き終えたバスタオルに間違い無いのだ……っ! さ、触りたいッ!」
座衛門は、目の前の洗濯カゴに入れられているムニルの使用済みバスタオルを見詰めながら、思わず固唾を呑む……。
「いや、流石に犯罪ですよ座衛門さん……。 て言うか、てっきり俺は『白色のパンツ』の方を標的にしていると思ってたんですけどね……」
「いや、流石の某でも、ムニル殿のパンツを手に取る発想は無かったで御座いまするよ……。 なんか、結果的に隼人殿の方が”変態”だと言う事が露呈しただけになりましたなぁ……」
〈え、なんか急に梯子を外された……?〉
「ヘヘ、んだよ。 結局隼人の方がムッツリ助平だったって話かぁ〜?」
「はぁっ!? え、なんで俺の方が変態扱いになるんですかッ!? どう考えたって、座衛門さんの方がヤバいでしょうっ!?」
「なんですとッ!? そ、某は濡れたバスタオルに興味を引いただけで、パンツに興味を示した隼人殿の方が危険人物ですぞっ!?」
「いやいや、濡れたバスタオルに興味を示す方が色々と性癖が拗れてるじゃないですかっ! 俺は寧ろ”普通”ですよッ! そりゃ誰だって女性のパンツが目の前に置いて有ったらコソコソと見るでしょっ!?」
と、押し問答を繰り広げている隼人と座衛門に対して、権兵衛が喧嘩両成敗のゲンコツを決めた……!
ゴチンッ! ゴチンッ!
〈……痛ェッッッ!!??〉
「黙りな二人共。 良いから、さっさと身体を洗えよなぁ?」
「ヒッ!?」
「ヒェェエエッッッ!!??」
隼人と座衛門の目に映った、その権兵衛の表情は、まるで般若の仮面の様に怒り狂った様に見えた。
そして、猛省した隼人と座衛門は、無言で身体と髪を洗ってシャワーで泡を洗い流すと、ゆっくりとした足取りで湯船にへと向かってゆく……。
ザパーーンッ!
〈……俺は、一体どのテンションで湯船に浸かれば良いんだ……?〉
なんやかんや身体を洗い終えた三人が湯船の中にギュウギュウ詰めになりながら入ると、沢山の量のお湯が湯船から溢れ出したものの、権兵衛は特に気にする様子も無く、ガッシリと隼人の右肩と座衛門の左肩を囲む様に掴んだ。
ガシッ!
〈うぅ……。 狭い……〉
「お~しっ! へへへ、こうやって男同士で風呂に入るのって久し振りだなぁ〜ッ! 温泉とかだったら、良くある事だが、一般の風呂で”友達”と一緒に入る事って、そうそうねぇからなぁ〜ッ! ガッハッハ!」
テンションが上がっている様子の権兵衛は、おもむろに高笑いを上げる。
然し、その権兵衛の姿とは裏腹に、先程のゲンコツに対して完全にビビった様子の二人は、身を震わせながら会話をした……。
「……そっ、そうで……御座いますなぁ〜……。 ハハハ……。 はっ、隼人殿も、そうであろう〜? ハハハ……」
「うん……。 いやぁ〜、楽しいなぁ〜……。 友達と入る風呂って……。 ははは……っ!」
「おぉ? どしたー? 何か、元気がねぇみたいだが、もしかして、さっきの事を引きずってんのかぁ〜? だとしたら、安心しろって! もう俺はキレてねぇからよぉっ!」
権兵衛は、満面の笑顔を見せると、その笑顔を見た二人はホッと安堵の息を吐いた。
「ふぅ……。 まさか、こんな下らない事で権兵衛さんに嫌われたのかと思いましたよ……」
「某も、同感で御座いまする……。 少々、調子に乗り過ぎましたな……」
「ガッハッハ! んな事で、俺がお前達の事を嫌う筈がねぇだろぉ〜? ヘヘッ、んじゃ気を取り直してこれからの"お互いの目標"を語り合おうじゃねぇかッ! これも、裸の付き合いの醍醐味だよなぁ〜ッ!」
「ふむ、そうですなぁ〜?」
浴槽に浸かりながら座衛門は思案すると、自身のこれからの目標を二人に向かって語り始めた。
「うむ、某の目標は矢張り"美乳剣舞をこの世界に流行させる事"と、某だけの『ハーレム』を築き上げる事で御座いますなぁ〜っ!」
「は、ハーレムですか……!?」
「ガッハッハ! 大きく出たな座衛門よぉ! ヘヘ、良い目標を持ってんじゃねぇか! 男に産まれたからにゃ、やっぱ女から求められる男になりてぇよなぁ!?」
「うむうむッ! 某は、今迄の人生で、二次元の女子からしかモテた試しが御座いませんので、今度の人生ばかりは、キチンと三次元の女子から好かれたいので御座いまするよッ!」
「おう! その意気だぜ座衛門! そんで、隼人の目標は何なんだよ〜?」
権兵衛は、肘で軽く隼人の身体を押しながら、ワクワクした様子で隼人の回答を待った。
「お、俺の目標は、ですね……? えっと、この世界で仲間達と楽しく冒険したり、強いモンスターを狩ったり、兎にも角にも楽しく『俺の理想の異世界生活を満喫したい』……ですかね、はい……」
隼人は、照れ臭そうにしながら、自身の目標を二人に話した。
「ヘヘ、良いじゃねぇか〜良いじゃねぇか! 隼人らしい立派な目標だぜぇ〜!」
「ふむふむ。 それで、因みに権兵衛殿の目標は、なんですかなぁ〜? 某達にだけ話させて自分は話さないってのは無しですぞぉ〜?」
「ヘヘ、俺の目標はな……? 最終的に魔王を倒して、元の世界に戻る事ってのが第一目標だが、それよりも前に先ずは隼人ともっと仲良くなってやるんだぜぇ!」
「ほぉ~、隼人殿と仲良く?」
「おうっ! そんで、仲間達がピンチの時に、俺が直ぐに駆け付けて助けてやるんだッ! まっ、今言ったのが俺の目標だなぁ〜。 やっぱ”誰も欠けずに”最後まで冒険してぇよなぁ〜?」
「誰も、欠けずに……。 確かに、そうですなぁ〜」
すると、その誰も欠けずにと言う言葉を聞いた隼人は、俯きながら言葉を漏らした……。
「うん。 そうですよね……。 まだ、俺達はモンスターや誰かと戦っていないから今は楽しく過ごせてるけど、この異世界で、これから何が起こるか分からない今、油断する訳にはいきませんからね……」
「うむ、そうですな! 改めて気を引き締めて参りませんとなぁッ!」
「……それに、新たに俺達の仲間に加わったムニルさんの事も俺達がしっかりと護らなくてはいけないですからね……」
「あぁ、そうだな……。 俺達は、まだこの世界の"危険性"とやらを全く知らねぇからな……。 もし、凶悪な敵が目の前に現れた時に逃げるのが正解なのか、それとも戦うのが正解なのかとか、その時にならねぇと判断も想像のしようもねぇしなぁ……」
「そう……ですよね」
「ヘヘッ! だからこそ俺は、本腰を入れて皆を護る為に常に気を張っていないといけねぇな……ッ!」
権兵衛は、パンッと自身の頬を両手で叩いて気合を入れると、徐々に覚悟を決めた顔付きになってゆく……!
「……良い顔になりましたな権兵衛殿。 本日の某達は、『転生』や『転移』と言った、まさに”常識離れ”した様な出来事をこの身で経験しましたが、某達が今生きているこの場所と出来事はフィクションでも作り物でも無い『現実』で御座いますからなぁ……」
〈確かに、言われてみるとそうだ……。 油断していると死ぬ時は簡単に死ぬし、その時に失って仕舞った命は、もう二度と”ゲーム”みたいに元に戻る事が無いんだ……〉
隼人は思い悩んでいた……。
本当に俺達は、この先に何が起こるか一切分からない未知なる異世界で、"理想の異世界生活"が送れるのか……? と。
主に、隣に居る権兵衛の性格からして、もし凶悪な敵が自分達に向かって襲い掛かって来た場合に、権兵衛が真っ先に皆を庇って殺されると言った展開すらも、この先無いとは決して言い切れないのだ……。
そして、それは新たに仲間に加わった『心優しき少女ムニル』にも同じ事が言える……。
ムニルも、仲間の誰かがピンチに陥った際に、自分の身を犠牲にしてさえも誰かを救おうとする様な展開が起こり得る事も想像に難くない……。
先程、隼人がムニルを仲間にする事を歓迎して仕舞った手前、今更危険だから付いて来ないで欲しいと言う事は最早もう言えないのだ。
すると、隼人は身体を震わせながらポロッと自身の心情を吐露する……。
「俺達は……無事に、この異世界で……。 みんなと一緒に、生き残って幸せに暮らす事が……出来るのかな……?」
隼人は涙ぐみながら、俯いている……。
すると、その怯えている隼人の震えた姿を見た権兵衛は、隼人の背中をポンッと優しく叩きながらフォローの言葉を入れる。
「……大丈夫だ。 ……とは決して言い切れねぇが、出来るだけ誰も犠牲が出ねぇ様に俺も全力で尽力するつもりだ……」
「権兵衛……さん」
「ヘヘ、なぁ隼人……? 実は俺も内心じゃ滅茶苦茶不安なんだよ。 今はこんなにも楽しい時間を過ごしているんだが、なんか”ふとした切っ掛け”でこの楽しい時間を失っちまう様な気がして……とても不安なんだよ……」
「権兵衛殿……」
「でもな? 不安でもやるしかねぇんだよ……。 不安に押し潰されたとしても、やんねぇで後悔するよりは……やって後悔する方が俺の性に合ってると思うんだ。 だから、これから何が起きたとしても俺は最期迄、必死に”足掻く”ぜ?」
権兵衛は優しい顔付きで、隼人の頭を摩りながら慰める……。
「うむうむ、そうですとも。 桜舞姫殿、紅頼子殿、暁朱音殿、死裏凜華殿、罪亜花蓮殿……。 どうか、某達に幸運を、もたらして下さいませ……」
「急に誰だよソイツ等……?」
「ホッホッホ。 今のは美乳剣舞の攻略対象の美少女達の名前で御座いますよ……」
座衛門は、美乳剣舞のキャラクター達の名前を呼び上げながら静かに祈りを捧げた……。
すると、涙を両手で拭った隼人が、ゆっくりと湯船から立ち上がった。
ザパーーンッ!
「おっ、もう上がるんか隼人?」
「……えぇ、そろそろ上がります。 ソアボ様とムニルさんが、俺達が風呂から上がるのを待ってる筈ですからね……」
「あぁ、……そうだな」
「そうで御座いますね……」
その隼人の言葉を聞いた座衛門と権兵衛も、一斉に湯船から立ち上がる。
そして、隼人達は浴槽から上がって脱衣所に出ると、ムニルが用意してくれたパジャマに着替え始めた。
すると、まるで見計らったかの様なタイミングでソアボが脱衣所に入って来た。
「もぉーっ! 遅いよー! どんだけ、のんびりとお湯に浸かってたの〜っ!?」
「すみません……っ! 思いの外、会話が弾んじゃって……えへへ……」
「まぁいいや〜。 丁度着替え終わったみたいだし。 じゃ、ムニルちゃん! 早く一緒にお風呂に入ろ〜!」
「はい! 入りましょう! ソアボ様♪」
「むほほっ! と言う事は、ソアボ殿とムニル殿の入浴シーンがこの後に……っ!?」
「……覗いたら、半殺しにしちゃうからっ♡」
〈えっ、ソアボ様怖っ〉
ソアボから発せられた『半殺し』と言う単語に対して、隼人は非常に怯えた様な反応を示す。
然し、言われた当の本人は、何故だか興奮した様子で鼻息を荒くしていた……。
「いえいえ! 寧ろ、某にとって半殺しは”御褒美”ですぞぉ〜っ!」
「ねぇ権兵衛君。 良いから今直ぐに其処の座衛門君を黙らせて♡」
「了解〜。 ほーら、座衛門? ま〜た俺の”ゲンコツ”を食らいてぇのかぁ〜?」
ソアボに頼まれた権兵衛は、座衛門に向かって威圧しながら指をゴキゴキっと鳴らした……。
「ヒィィイイッッッ!!?? か、勘弁して下さいましぃぃいいッッッ!!!」
ドタドタドタッ!
「あ、逃げた」
こうして、『座衛門』と言う名の覗きの脅威が去った事により、ソアボとムニルは、のんびりと入浴する事が出来た。
やがて朗らかな表情をしながら、お風呂から上がった女子二人は、バスタオルで身体を丁寧に拭き終えた後にパジャマに着替えた。
「ふぅ〜良い湯だったねぇ〜っ! なんか、お湯の量が少なかったけど♪」
「ふふふ、ソアボ様に喜んで頂けて、とっても嬉しいです♪」
すると、ソアボとムニルが風呂場から出た事を確認した権兵衛が、寝室の場所の確認をしにやって来た。
「お、漸く上がったか! んじゃあ、そろそろ俺等は寝っから、寝室に案内してくれ〜」
「あ、本当だ……。 気が付かない内に、かなりの時間が経っていましたね……。 それでは皆様、寝室はこちらですよ〜。 あ、でもその前にしっかりと歯磨きをしましょうね♪」
「ぐぬぬぅ〜。 折角の女子の入浴シーンが丸々カット……」
落胆した座衛門の事を余所に、ムニルが可愛らしくウインクを決めながら、隼人達を洗面台にへと案内をして、全員が歯磨きを終えるのを確認する。
「ふふっ、皆さんしっかりと歯を磨き終えましたねっ♪ それでは、寝室にへと御案内致しますね〜っ♪」
今度こそムニルに寝室まで案内して貰った隼人達は、それぞれに用意されている、一人用ベットに横たわると、徐々に瞼が重くなってゆくのを感じる……。
〈ふぅ〜……。 何だか疲れたなぁ〜……〉
「それでは、電気をお消し致しますね〜♪ 皆様、ゆっくりと休息を取って下さいねぇ〜♪」
パチッ。
ムニルが、消灯すると次第に隼人達は一人ずつ、浅い眠りにへと移ってゆく……。
やがて、隼人達が眠りに就いてから数時間程経った頃……。
隼人の隣のベッドで寝ている筈のソアボが、隼人に向かって小声で話し掛けて来た……。
「ねぇ、隼人君起きてる……? ねぇってば……?」
「え……っ? だっ、誰ぇ……?」
「私だよ、隼人君……。 ねぇ、これから皆にバレない様に、こっそりとベランダに出て、この世界の"星々"を眺めてみない……?」
「え? 星……? と言うか、その声は……ソアボ様?」
「うん。 気付くのが遅いよ全く……。 まぁ、まだ眠い様なら、無理強いはしないけどさ……。 どう?」
「……分かりましたよ。 それじゃあ、こっそりとベランダに出ましょうか」
「うんっ! ありがとね隼人君……っ!」
――――ムニルの家、ベランダ――――【現在時刻、23時51分】
隼人はソアボと共に、皆を起こさない様にゆっくりとベランダに出ると、その眼前に広がる夜空の光景を眺めながら、思わず心を踊らせた……!
「うわぁ〜……っ! すっごく綺麗な星空ですね……っ!」
地球から見える物とはまるで違う"異世界特有の星空"を生まれて始めて目撃した隼人は瞬時に目を奪われた。
何故なら、その眺めている夜空には赤や、青に、緑と黄色にピンク色と、まるで幻想世界の様な綺羅びやかで摩訶不思議に輝いている星々達が……高速に点滅しながら奇妙にも混じり合っていたからだ……。
この非日常な光景を見た隼人は、改めて此処は本当に異世界なんだと言う事を実感をした……。
そして、そう実感したと同時に、急激にどうしようもない程の不安感に苛まれ始めた……。
「ソアボ様……。 一体何故……俺にだけ、この景色を見せようと思ったのですか……?」
「……ふふっ、それはね? この世界が紛れも無い『真実の世界』だと言う事を教えたかったんだよ?」
「真実の世界……?」
「うん。 ……この世界は女神である私が創った物だからこそ”断言”出来るんだけどね? この異世界では、死んだら二度と生き返らないし、ゲームみたいな《セーブ》も《ロード》も存在し無いんだよ……」
「…………………」
「……要するに、この世界の仕組みも隼人君が居た”現世”と同じ様に出来てるの。 この世界の命の仕組みは元の世界と比べても差して変わらない。 ……それで、そう言えばさ? 隼人君は、何で異世界に行きたかったんだっけか?」
ソアボは、隼人に向かって冷たい口調で問い掛ける……。
「……それは、俺が産まれたあの世界が……”退屈”で”窮屈”で……何より”暇”だったからです。 だから《刺激》を求めて……異世界に行こうって思いました……」
「うん。 確かに、この世界では退屈しないだろうから、心の底から楽しめるだろうね。 でも、決してこの世界を《ゲーム》みたいな”生易しい世界”だと思わないでね? この世界は、皆が思っているよりも……”数倍”、残酷なんだよ?」
「えぇ、分かっています……。 分かっているけど……怖いんです……恐ろしいんです……」
「恐ろしい? そりゃあ、死ぬのは誰だって怖いよねぇ〜」
「いえ、別に俺が死ぬ事なんかはどうでもいいんですよ……。 こんな魅力的な異世界で死ねる事は俺の”本望”ですからね。 ……っでも、権兵衛さんに座衛門さんにムニルさんに……これから仲間になるであろう人達が……目の前で死んでしまうかも知れないと思っちゃうと……途端に怖くてっ! 恐ろしくて……っ!」
隼人は呼吸を荒くして、頭を抱えながら力無くその場に座り込む……。
「そう。 詰まり、隼人君は自分の命を犠牲にする覚悟は出来ているんだね? もし、君が”自分の事”で悩んでいる様なら、ひっぱたいてやろうかなって思っていたけど、君は自分の事じゃなくて……”皆の事”で悩んでいたんだね……? うん。 それなら安心だよ。 大丈夫だよ隼人君っ! 私が皆の事を護ってあげるからね……?」
「ソアボ……様……?」
ソアボは、優しい笑みを浮かべながら、座り込む隼人の顔を覗き込む。
「心配しないで。 君は自分が楽しいと思う事を沢山やれば良いと思うよ。 私は、心優しい君と一緒にこの世界にやって来れた事を”誇り”に思うよ?」
「……うぅッ。 そう言って貰えて、嬉しいです……ソアボ様……っ」
「えへへー! どういたしましてーっ!」
無事に異世界生活一日目を生き延びた隼人達は、お互いの覚悟を決め、新たなる《異世界生活二日目》を迎えるのであった……。
【現在位置】
【ムニルの家のベランダ】
【現在の日時】
【4月8日 0時0分 春】
【五十嵐隼人】
【状態】:安心感
【装備】:パジャマ
【道具】:無し
【スキル】:刹那の狙い撃ち
【思考】
1:ソアボ様……。
2:…………。
3:……。
【基本方針】:異世界にやって来た事を絶対に後悔したくない。皆の死に様は見たくない。
※異世界生活一日目を生き残りました。
【娯楽の女神ソアボ】
【状態】:………
【装備】:パジャマ
【道具】:無し
【スキル】:能力授与
【思考】
1:しっかりね。 隼人君……。
2:何か嫌な予感がする……。
3:……遂に、あの"クリス"が動き出したのかも知れない。
【基本方針】:みんなと楽しく冒険する。クリスの動向を知る。
※4月7日を生き残りました。
【現在位置】
【寝室】
【仁科権兵衛】
【状態】:睡眠
【装備】:パジャマ
【道具】:無し
【スキル】:最強の意志
【思考】
1:Zzz……。
【基本方針】:仲間を護り抜く。隼人と親友になる。魔王を倒して現世に帰る。
※異世界生活一日目を生き残りました。
【大宮座衛門】
【状態】:睡眠
【装備】:パジャマ
【道具】:無し
【スキル】:熟練の百戦錬磨
【思考】
1:Zzz……。
【基本方針】:ハーレムを創る。美乳剣舞を異世界に広める。トラックの運転手を成敗する。
※異世界生活一日目を生き残りました。
【ムニル】
【状態】:睡眠
【装備】:パジャマ
【道具】:無し
【スキル】:極限の癒やし
【思考】
1:Zzz……。
【基本方針】:この世界の全生物を癒やす。隼人が気になる。
※4月7日を生き残りました。




