第二十六話 女神ソアボと死神クリス 〜仁科権兵衛編〜
〜仁科権兵衛の視点〜
――――街チーマ、ムニルの家――――【現在時刻、14時48分】
隼人に言われた通りに、ムニルの家にへと無事に帰ってきた権兵衛は、キョロキョロと辺りを見回しながらソアボを探していた。
〈あれ? ソアボの奴は何処に行ったんだ?〉
すると、その権兵衛の姿を見たムニルが喜々とした様子で権兵衛の下に駆け寄った。
「おや、お帰りなさいゴンベエさんっ♪ えっと、ハヤトさんとは一緒に帰られなかったのですか?」
「おぉ、ムニル! 隼人なら、ドアゼルっつー”服屋”に居んぜぇッ! んで、ソアボが居ねぇみてぇたが、ソアボは何処に行っちまったんだぁ〜?」
「え、ソアボ様ですか? ソアボ様なら、”お手洗い”にいかれてますが……」
「あぁ〜、お手洗いだとぉ〜?」
ジャーーー……。
〈ん? 今の”音”は……?〉
すると、権兵衛の背後から、ジャーと水が流れる音が響くと、トイレから出たソアボがスッキリした顔を浮かべながら権兵衛に話し掛ける。
「やっほー、権兵衛君っ! 何か、私に用かなぁ〜?」
「おっ、丁度良かったソアボ! ちょっとばかし、オメェに”聞きてぇ事”があんだけどよぉ……!」
「ん〜? 聞きたい事ぉ〜?」
ソアボは、キョトンとした顔を浮かべながら権兵衛の顔を見詰める。
すると、権兵衛の隣に居るムニルが、ふと権兵衛が”騎士の鎧”を着ている事に気が付いた。
「あっ、所で、ゴンベエさん! その格好は騎士の鎧ですねっ! わぁ〜っ、とっても格好良いです〜♪ 凄くお似合いですよ〜♪」
「んおっ!? そ、そうか! そう言われると、なんか照れるぜぇ〜! がっはっは!」
権兵衛は、後頭部を擦りながら照れ笑いをした。
「あっ! ホントだぁ〜! いやぁ〜、権兵衛君ったら! 早速、この異世界に馴染んで来たんじゃないのぉ〜?」
おちょくる様な口調で、ソアボは権兵衛の事を褒めると権兵衛は、そのソアボの言葉を聞いて何かを思い出したかの様に首を左右に振った。
〈っと、そうだった……! 確かに、今の俺の格好を自慢する為に、態々ムニルの家に帰ってきたのも有るが、他にもこの”異世界”の詳しい話をソアボから聞く為に、服屋からダッシュで帰って来たんだった俺は!〉
「んー? なになに〜? なんか私から聞きたい事でも有るの〜?」
「いや、もうちっと……”この世界の事”について知りてぇと思ってよ。 ソアボ、例えばこの世界の”公用語が日本語”ってのにも、なんか違和感を覚えてたから、そこん所も詳しく教えて貰いたくてよぉ……」
「ん〜? そんなの一々気にしなくて良いのにぃ〜? 一応簡潔に説明すると、この世界の言語は転生者が解る言語に”自動的に翻訳”されるって事なんだよぉ〜? まっ、流石に”モンスター”とか、”特定の種族”と会話する為には、何かと”特殊なスキル”とかが必要だけどさぁ〜?」
〈なるほどなぁ〜? と言う事は、この世界では何処に行ったとしても、特定の種族とやらを抜きにしたら、特に言語の壁とかは気にしなくても良いって事だな……?〉
少しずつ、この異世界での仕組みを理解してきた権兵衛は、再度ソアボに確認を取った。
「つー事は、例えば”アメリカ人”とかが、この世界に転生転移して来たとして、そのアメリカ人と俺達が互いに会話をする事になったとしても、俺達の言葉は向こうには”英語”で喋っている様に聴こえて、逆にアメリカ人の言葉が俺達には”日本語”に聴こえるって感じの認識で合ってるか?」
「うん、そうだねー。 まさに、そんな感じで合ってるよぉ〜。 詰まり、この世界は日本人どころか、外国人が転生したとしても、特に難無く暮らしていけるって言う事になるんだよねぇ〜?」
すると、そのソアボの言葉を聞いた権兵衛は、腕を組みながら感心する。
「うへぇ〜、然し自動的に言語を翻訳してくれるって、スゲェなぁ〜異世界ってよぉッ! だって、言葉だけじゃなくて、”文字”も翻訳されてんじゃねぇかよ!」
権兵衛は、本棚に有ったムニルの”愛読書”をペラペラと捲りながら、ソアボに問い掛けた。
「ご、ゴンベエさんっ! それは、私の”秘密”の……っ!」
〈んあ? ……何気無く手に取ったが、これは所謂”BL本”って奴か……? よく母ちゃんが書店で買ってたなぁ……。 それよりも、この世界にも”漫画”っつー概念が存在してんだなぁ〜……〉
権兵衛は、ムニルの愛読書をそっと本棚に戻すと、ソアボの方に向き直る。
「んで、文字も翻訳されてんのは一体、どう言った”カラクリ”だ?」
「ん〜? 別にカラクリって程じゃないけどねぇ〜? まぁ、要するにそれもこれも、私が天界でこの”異世界を作成”するにあたって、勝手に言葉と文字を翻訳される様に”プログラミング”したからなんだよねぇ〜……。 いやぁ〜、流石の私も”万能な女神”とは言え、結構手間取ったよ〜……。 だって、元々は何も無い空間の中から世界を一つ新たに”創造”しなくちゃいけないんだもんねぇ〜」
ソアボは、嘗ての天界での自身に課せられた労働の記憶を思い起こすと、深い溜息を吐きながら途端にゲッソリとした顔付きになっていた。
〈うへぇ〜、相当大変だったみてぇだなぁ〜。 天界の女神様ってのも、楽な仕事じゃねぇみてぇだなぁ〜……〉
すると、そのソアボの話を聞いた権兵衛は、ソアボの肩をポンッと軽く叩きながら労いの言葉を贈った。
「んで、要するにソアボ? オメェが天界で滅茶苦茶頑張ってくれてたっつー事だよな? へへっ、今迄大変だったと思うが、お疲れ様だぜぇ! ソアボ!」
「うんっ! えへへぇ〜、そうだよ! 私、今迄天界で沢山頑張って来たんだよ〜っ! ……”それなのに”な〜」
「ん?? それなのにって、一体何の話だ……?」
すると、徐々にソアボの顔色が悪くなっている事に権兵衛が気が付くと、権兵衛は慌ててソアボの身体を揺さぶった。
「んん? どうしたんだソアボ? なんか有ったんか天界でよ……?」
「うん……。 思い出したついでに、権兵衛君にも、ちょっとだけ”天界で起こった事”を話すよ……」
「んあ? ……天界で起こった事だと?」
すると、ソアボは、ゆっくりと口を開くと、そのまま権兵衛に向けて天界での”昔話”を聞かせた。
「えっとね、簡潔に言うとね? 今から100年前位に、『クリス』って名の”心優しい天界の神様”が何故か追放されちゃう出来事があってねー……。 その時の追放先に指定されたのが、この私が創った”異世界”でね……?」
「おぉ、マジか……。 そんで、その追放されたクリスとか言う神様ってのは、一体何をしでかしたんだ?」
権兵衛は、頭に疑問符を浮かべながら、ソアボに聞き返した。
そして、ソアボは俯きながら話を続ける。
「ううん、その追放された神様は”特に悪い事はしていない”んだよねー……。 その追放された神様は、天界に神様と人間の恋愛は御法度って”ルール”を作ってたってだけ」
「うーん? 確かにそれだけ聞くと、特に悪い事をしてるとは思えねぇなぁ? それなのになんで、クリスって奴は天界から追放なんかされちまったんだよ?」
「話は、”こっから”なんだよ権兵衛君……。 その唯一作ったルールこそが、天界の他の神様達の”反感”を買っちゃった理由なんだよ……」
「はぁ? 反感を買ったぁ? 一体、どうしてだよ?」
すると、その問い掛けにソアボは、悔しそうに拳を握り締めながら話を続けた……。
「神々の中には、地上に居る人間に”恋”をしていた者も居たみたいだから……。 まぁ私には、その神々の感情は”理解出来なかった”けど……」
「ん〜……。 まぁ、色んな神が居れば、それだけ色んな考えだって有るだろうしな……。 そんで、それからどうなったんだ?」
「うん……。 それで、天界で急遽《追放選挙》なる物が開催される事になってね……? それで、私はクリスの事が好きだったし、追放反対って言ったんだけど、他の神様達は全員……”追放賛成って”事で一致しててさ……」
「はぁ? 追放選挙だぁ〜? んな事を天界の神達が、定期的に開催してたっつー事かぁ?」
「うん、そう言う事。 でもそれで追放されたのは、後にも先にも、そのクリスって言う名の神様”ただ一人だけ”なんだよね……。 そして、追放が正式に決まった事によって、『全知全能の男神クリス』は『死神クリス』と勝手に”改名”させられて……。 それで、死神は天界に相応しく無いだとか身勝手な理由を付けられて、そのまま天界から追放されちゃったの……」
ソアボから死神クリスの話を聞いた権兵衛は、歯軋りをしながら怒りを顕にする……。
「……マジかよ。 そりゃあ、ヒデェ話しだぜぇッ! 別に追放なんかしなくても話し合いで何とかなりそうなのによぉ……ッ! そんで、そのクリスってのは今も、この世界に居るのか?」
「うん……。 恐らく今も何処かに居ると思うよ。 天界からはクリスの現在の様子は分からなかったけど、クリスは元々《天界第三位》の実力者だから、そう簡単には“死なない“と思うし……」
すると、死なないと言う言葉が引っ掛かった様子の権兵衛が、首を傾げながら聞き返した。
「んん? 神様にも”死”と言う概念が存在すんのか?」
「うーん、正確には”天界から神様だって認められてる者だけ”が晴れて不死身になれるんだよねぇ……。 要するに、クリスの様に天界から追放されちゃった人は、もう”神の力”を失ってる事になるの……」
「……詰まり、ソアボは女神だから死ぬ事は無いけど、そのクリスって奴は今は別に不死身じゃねぇって事か?」
「まぁ、神の力を失ってたとしても、”元神”は年を取らないから寿命で死ぬ事は一切無いんだけど、”致死量の大怪我”を負った際は普通の人間みたいにあっさり死んじゃうんだよね……。 まぁ、長い年月さえ我慢すれば、少しずつだけど神の力は取り戻せるけどね……」
すると、その追放されたクリスの話を聞いていた権兵衛の目には、徐々に涙が溜まっていた。
「俺、そのクリスって奴を”助けてぇ”よ……。 だって、神様と人間の恋愛を禁止しただけにしては、”罰”が重すぎねぇか!? そもそも、神様と人間との恋愛事を禁止にしてたからこそ、惚気ける事も無く天界の仕事に神様達が没頭する事が出来てたんじゃねぇのかッ!?」
その権兵衛の言葉に、ソアボもコクコクと頷きながら同意する。
「うん、そうっ! 権兵衛君”そう言う事”なんだよッ! クリスは何も悪くないの! 悪いのはクリスを天界から追放した脳内花畑の”恋愛厨の神々共”なんだよッ! 要するに全ては、あのクソ女神とクソ男神共の所為なんだよッ!」
ソアボは、憎悪の顔を浮かべながら、権兵衛との会話を弾ませる。
「おぉッ! だよなソアボ! んでクリスを追放した事によって、天界の神達が天界の仕事もロクにしねぇで勝手に下界に降りて、真面目に働いていたソアボだけが割を食うなんてよぉ……。 そんなの可笑しいだろうがよぉッッッ!!!」
「うん、私も可笑しいと思ってるよ。 だから私は何れ、あの心優しかったクリスを追放しただけじゃなく、私に対して天界の面倒な仕事を全て押し付けた天界の身勝手なクソ神達に絶対に”復讐”してやるって……! そう、私は誓ってるの……!」
ソアボは、不意に寂しそうな顔を浮かべると、自身の震える腕を強く掴んで、自身から湧き出る怒りを必死に堪え始める……。
〈ソアボ……。 クリスの追放を止められなかった事に対して、”責任”を感じてるんだな……。 俺、決めたぜ。 絶対に、クリスって奴を見付けて、もう一度”天界に戻してやる”ぜ……ッ!〉
意を決した権兵衛は、ソアボの手を取って声を荒げた。
「あぁ……! 一度、生意気な天界の神々にギャフンって、言わしてやりてぇよなぁ!! ソアボッ!」
「うん……っ! 有り難うね権兵衛君……!」
すると、ソアボと権兵衛が結託していると、蚊帳の外になっているムニルがやや寂しそうな声で囁いて来る……。
「あの〜……。 えっと、私はそのぉ〜、今の話に一切付いて行けないのですけど……? えっと、私に何か……”お手伝い出来る事”とか……ありませんかねぇ……?」
〈うおっ!? 俺とした事が、うっかりムニルの事を忘れてたぜ……!〉
「んー、手伝える事かぁ〜……。 えっと、そうだねー……。 じゃあ、ムニルちゃんはそのクリスって人と出会った事あるー?」
「いえ、無いと思います……」
申し訳無さそうな様子でムニルは即答すると、ソアボは溜息を吐いた……。
「うーん、そっかー……」
「ご……ごめんなさいっ! お、お役に立てなくて……」
すると、落ち込んだ顔を見せるムニルに対して、権兵衛が慌ててフォローする。
「いやいや、あまり気にすんなムニル! そもそも、この話しはオメェには関係ねぇ事だ! だから、落ち込む必要は全くねぇぜ!」
「うぅ、私なんかの為に気を遣って頂き、有り難う御座います……ゴンベエさん。 えっと、所で……あ、あのー……! ひ、1つ……皆様に、私から”お願い”が有るのですが……」
その弱々しく話すムニルに対して、ソアボと権兵衛が耳を傾ける……。
「んー? お願いってなーに? ムニルちゃ〜ん?」
すると、まるで覚悟を決めたかの様な顔付きになったムニルが、次の瞬間に驚愕の一言を発した……。
「わ、私も……! これから皆様方と一緒に……”冒険に付いて行っちゃ”……駄目……ですかね……?」
『え?』
『『えぇ〜〜〜〜!!??』』
その、ムニルからの予想外な回答を聞いたソアボと権兵衛は、互いに困惑しながら驚愕の声を上げるのだった!
【現在位置】
【ムニルの家】
【現在の日時】
【4月7日 14時56分 春】
【仁科権兵衛】
【状態】:困惑
【装備】:騎士の鎧 斬撃の剣 鉄壁の小盾 旅人の袋
【道具】:学校の制服 銀貨5枚
【スキル】:最強の意志
【思考】
1:ムニル……マジか!?
2:俺は別に構わねぇが……良いのか?
3:ま、この事は隼人と座衛門が帰って来てからゆっくり話し合うか……。
【基本方針】:隼人と親友になる。仲間を守る。魔王を倒して現世に帰る。ムニルを仲間に迎える。クリスを探して仲間にする。生意気な天界の神々にギャフンと言わせる。
※ソアボから、クリスの情報を聞きました。
【娯楽の女神ソアボ】
【状態】:びっくりー!
【装備】:金色の羽衣 金色の指輪と腕輪 女神の袋
【道具】:袋の中に色々
【スキル】:能力授与
【思考】
1:ムニルちゃん可愛いからオッケー!
2:早く隼人君と座衛門君帰って来ないかなー!
3:ムニルちゃんカワユス!
【基本方針】:皆と楽しく冒険する。天界の身勝手な神達に復讐する。自分達の旅路を邪魔する者は容赦しない。
※クリスの事を救いたいと思っています。
【ムニル・ル・ナータ】
【状態】:覚悟
【装備】:街娘の服
【道具】:部屋に置いてる
【スキル】:極限の癒やし
【思考】
1:私はこの世界の全生物を私の力で癒やして差し上げたいのです!
2:この街の皆様の事は、癒やし終えました!
3:ですから、待つばかりでは無く……今後の為にも私はこの街を出て、私から癒やしを求めている人を迎えに行きたいのです!
【基本方針】:この世界の全生物を癒やす。隼人達と冒険したい。




