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赤碕姫香とジャンヌ・ダルク  作者: 本渡りま
EPISODE Ⅰ 出会い編 前編
8/22

第1節 Ⅴ「函館山へ」

 すばるの茶屋から、少し急ぎ足で山の入口に向かう。もう日暮れなので港町は酒を飲む人で仕事帰りの人がワイワイ騒ぎ始めている。正直、こいつらと一緒に酒に更けていきたいが、今宵はそんなわけにはいかない。ジャンヌの護衛を全うしないと……な。


「さて、函館山に着きましたよー」


 函館山の入り口に着いた。下ではワイワイ酒を楽しむ屋台が開いていた。そしてもう一つ――函館山の入り口もすごく盛り上がっていた。もうすぐ夜だっていうのに、上り下りをしている人が多く見かけた。ジャンヌは少し驚いていた。こんなすごい光景を見るのは、初めてなのかな?


「夜なのに、なんでこんなに山を上り下りしている人が多いんですか?」


 いつの間に痩せ姿になったジャンヌが問うた。なぜこんな姿になれるの……などの突っ込みどころが多すぎるので、突っ込むのはスルーして質問に答える。


「まあ、それは頂上についた時のお楽しみ」


「教えてくださいよー!」


 なんて悪戯げに答えて、私たちは函館山を登る。勾配のきつい山道を通り、整備されていない道を抜けると、頂上広場があった。夜景を見る人で祭りのように賑わっていた。


「姫香さん……これは?」


「ぬふふふっ……これが函館山からの函館風景じゃーい!」


 派手なリアクションで両手を左右に伸ばして、ジャンヌに函館の風景をお披露目した。

 夕暮れと夜の狭間に立つ空、水平線まで広がる左右の大海原、そしてガス灯や家の光で灯火だした函館の街並みが広がっていた。私も函館山からの景色は初めて眺めたけど、やはり茶屋の客が言っていた通り、華がない白黒写真が色づいて街が生きているようで綺麗だ。思わず、息を止めてその光景に見惚れていた。


「―――――」


 何年ぶりだろう……華やかな光景を眺めるのは。

 私がまだ箱館戦争に駆り出される三……いや五年前に長野にある山を見たのが最後だった。たしか、夏祭りの時……花火を見に双子の妹のと奈津芽、そして親戚の男の子と一緒に丘にある展望広場に行ったっけ。その時の花火が綺麗で惚けていたよなぁ……。



『姫香お姉ちゃん待ってよぉ……』


『早く来いよ~もうすぐ花火始まっちまうぞ!』



 ああ、なんて言いながら急ぎ足で山を上っていたよな。懐かしい……。


「早く、妹に会いたいなぁ……」


 思わず本音を呟いた。そしてジャンヌは、ふぇっと変な声を上げて私の方を見つめた。


「姫香さん、なんか言いました?」


 はっとジャンヌの言葉で我に返った。いかん……な、妹との回想はもうすぐ終わり実現するんだ。ぱちんと頬を叩いて目を覚ました。


「姫香さん、函館の景色――綺麗ですね」


 ふわりと優しい風が吹き、ジャンヌの髪が靡く。それを見た瞬間、私はジャンヌに見惚れてしまった。なんというのだろう……男とは違う爽やかな魅力がある。清楚で凛々しいけど、天真爛漫な表情を見せるとか……まるで天使が舞い降りたような感じではないか!


「どうかしました?」


ずっと見つめる私が気になったのか、ジャンヌは視線を合わせて問うた。「何でもない、景色――綺麗だね」と相槌を打って誤魔化した。


「ありがとう、姫香さん。今まで見た景色の中で、美しかったわ」


「い、いやぁ……それほどでも……」


 ははと照れ笑いする。ジャンヌと一緒にいると、楽しいけどなんかかわいい感じが強い。思わず目をそらして言った。


「そろそろ夕食時間なりますから、西園寺邸に戻りませんか」


「あ、あぁ……そうですね。そろそろ戻りましょうか」


「はい! 今日はありがとうございました」


 天真爛漫な笑みを浮かべたジャンヌの姿を眺める。そして私はジャンヌの手をつないで、函館山を降り西園寺邸に向かう。その後、西園寺邸に向かう途中、面白いような……つまらないような話をして西園寺邸に送り届け終えた。

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