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赤碕姫香とジャンヌ・ダルク  作者: 本渡りま
EPISODE Ⅰ 出会い編 前編
7/22

第1節 Ⅳ「函館観光」

 西園寺の屋敷を出て、函館港へ向かっていた。距離的にも近いし観光もできる場所だから、面白い場所で遊んでいける。ジャンヌも楽しめるはずだ……。


「とは、言ったもの……どこに行こう?」


 が、私は溜息を吐き出すようにつぶやいた。正直、長年住んでいると観光場所なんて大抵海外のパンフレットに載っている事が多いから、そこに向かうのはやめようと考えた。どうせ、今日は港で外国観光客が多く訪れていたのを思い出し、混んでいると予測したためである。


「最近じゃ外国人の観光客が増えてはいるけど、今日は混んでいるからやめておこうか……」


「そうですね。私も混むところは少し苦手で……」


「それに……函館の町って面白い場所なんて観光地以外聞いた事無いぞ」


「そうなんですか?」


「まあ、ね。これでも、港町で栄えているが……店が閉まっているところが多くてなぁ……」


 私が知る限りでは、函館は最近の見ものといえば……。

 巷で話題になっている気象観測だ……が、あんまり長居で見ても面白くない場所と聞いていたし、後は開拓の拠点支所があるだけで目星な観光なんてない。

 それ以外にある物といえば……函館山ぐらいかな。函館を一望できるし、最近設置された瓦斯灯によって灯す夜景が最高に綺麗だったって、すばるがいる茶屋のお客が言っていた。



「――よし決めた。夜に函館山に行くか」


「はこだてやま?」


「あぁ、少し離れた岬に聳え立つ山だよ。最近函館に瓦斯灯が設置されて、夜景が綺麗という話を聞いたんだ」


「そうなんですか?」


「まぁ、行った事がないからよくわからないけど、とにかくまるで絵画に吸い込まれたようだと絶賛していたみたいだ」


「へぇ、それじゃあ函館山に行きましょう!」


「行くのは日暮れ時だぞ」


「わかった。それじゃ、日暮れまで函館を案内してください!」


「はいはい、分かりました」


 まあ、函館山は屋敷に戻る一時間前に行けばいいか……。夜になって混まない事を祈りながら、函館の港町に向かった。


「姫香さん、あれはなんですか?」


 早速ジャンヌが、子供のように無邪気にはしゃいで建物を指し示した。。それは、少し大きい一軒家だった。少しだけ廃れた様子で、入口には無造作に釘打ちされた板が張られている。

 この建物は見覚えはある。確かこれは――


「あれは、銭湯だったとこだ」


 私は過去形で言った。それに疑問に思ったジャンヌは、「?」のマークを頭に浮かべて「だった?」とオウム返しに呟いていた。


「銭湯の親父が亡くなって、跡継ぎする息子も居なかったから親父の親戚が銭湯を閉じたんだ。ちょっと前までお世話になっていたなぁ……」


 半年前まで時折通っていた銭湯。なんだか、自分が知る函館の風物詩が一つなくなってしまったのが名残惜しい。


「……じゃあ、あれは?」


 名残惜しい雰囲気から逸らしてくれるジャンヌは、次の建物に向けて指す。

 それは、アレチウリでグルグルと囲んでいて微かに木が軋む音が唸っている建物だった。いつ倒壊してもおかしくない状況だが、奇跡的にも建物の原型が保っている。


「あれは、昔南蛮の雑貨が販売していた店だったな。二年程前に老朽化で店は港近くに移転したけど、まだ残っていたのか」


「残っていた……って?」


「あぁ、箱館戦争の時に戦場化なった時、唯一残った建物なんだ。まあ、補修はしたがいつ崩れるかわからないって二年前に立ち入り禁止になったんだっけ」


「……姫香さん。日本は賑わっているって聞きましたけど、潰れている店が多いんですね……特に函館は……」


「しょうがないだろ、地方はまだ発展途中だから……」


 愕然とした表情のジャンヌに、私は言い訳っぽい事を言う。

 大体……東京の方はどんどん亜米利加から来た人で文化改革を行っているし、英国からの法律を参考にした国づくりを施行しているし、素朴な着物ばかりだった女性たちもみんな洋服になっているし……。まあ言いたい事は、日本改革のためにはまず東京を発展させる事って言う輩がいるから、地方は殆ど廃れている状況だ。


「歩いていけば、何かいいお店が見つかるよ。さ、行こう!」


「うん!」


 まだ店があるかもしれないと考え、ジャンヌの手を掴んで明後日の向こうへ走り出す。

 向かった先は、函館港付近だ。先程は、五稜郭方面へ向かっていた(後になって気づいた)から、今度はちゃんと発展した港町に行けば何かある……筈だ。

 坂の街であって、ここまで下るのに少し走ったような感覚を覚えて息切れを起こしている。まあ、私はこの街に住んで十年経つから慣れっこだけど。


「はぁ……はぁ……姫香さん、待ってくださいよ……」


「お前、ほんと体力ないな」


「私だって、剣や弓の稽古はした事があるので体力には自信があったんですよ!」


「その程度なら、私だって持っている。ただお前は歩くのが少なかっただけだ」


「……うっ」


 反論無しか……基本馬車しか使わない人は運動音痴になってしまう事が多いからな。基本に馬車を使わず歩くことが大事だ。


「まあ、何がともあれ。馬車ばかり使うなってことだ」


「馬車は便利なんですけどねぇ……」


 なんてジャンヌは、はぁと溜息混じりに呟いていた。

「お、姫香!」と、聞き覚えのある声に耳を傾ける。思わずゲッと声を出してしまった。


「すばる……」


「何やっているんだ? 仕事の方は終わったのか?」


「まだやっているよ」


「へぇ、お前なら3分で逃げ出すと思っていたけど。意外と長続きするんだな」


「うるせぇ」


 なんて下らない雑談を繰り広げていると、ジャンヌが話に割り込んできた。


「あの、すいません。そちら方のは?」


「あぁ、こいつは――」


「俺の名はすばるって言うんだ。よろしくな!」


「よ、よろしく。ジャンヌと申します……」


 親指を上に突き出し、唇をくいっと上にあげての自己紹介は、ジャンヌにとって少し戸惑いの表情を見せていた。ジャンヌも戸惑いって言う概念があったんだ、と私もつられるように驚いてしまった。

 そして興味津々に、ジャンヌを四方八方から俊敏に眺めて始めていた。まるで変態探偵のような、何かを探る行動ぶりだ。


「日本じゃ見ない髪色と瞳だな。どこの国から来たんだい?」


「フランスから来ました。日本が好きで、日本のことをもっと知りたいと思って」


「仏蘭西……あぁ、イギリスの近くにある国か」


 あまり納得していない様子のすばる。アイヌが北海道に居ることすら知らないから、海外の事を言っても無駄だと思う、と内心で呟く。


「それよりも、お前茶屋の仕事はどうした? こんなところでうろついてさ」


「ちょっと休憩。それで今は茶屋に戻るところ」


 ははぁ、と頷く。

 あえて言わないが、いつも休憩中に春画の画集を買っているのを知っている。今の男子には、このエロい絵を見れば局部に刺激的な興奮を与えるとか……、とこっそりとその画集が売っている店のじーさんが言っていた。老いぼれじーさんでも、発情の気持ちが分かるのが、ちょっと引きそうだけど。

 その頃、ジャンヌは顔を傾げながら「茶屋って?」と尋ねてきた。


「茶屋は、お茶とか団子とか食べる甘味処だよ。海外じゃ、喫茶店って呼ばれているみたいだけど」


「喫茶店……いいですね! その茶屋に寄ってみましょ!」


 そう言って、すばるの手首を掴んで走っていった。


「お転婆な聖女様の子孫だな、あいつは……」


 ボソリと呆れるように呟いて、二人の後を走って追った。

 私が茶屋に着いた時には、ジャンヌは団子に口に運んでいて、しかも5本も綺麗サッパリに平らげていた。食旺盛な聖女の子孫だな、こいつは。

 何でもかんでも、ジャンヌは面白い行動をするなぁ……。


「おいしぃ~~! このみたらし団子っていう甘味、醤油と砂糖が絡み合うぅぅ」


 てか、みたらし団子の魅力に堪能しているし。みたらし団子ってそんなに美味しいか?

 私はどちらかといえば、つぶあんの乗せた草団子のほうが美味しいと思うけど。

 みたらし団子は食べるとべたべたするし、何と言うか……甘ダレ醤油は食べ過ぎると甘ったるくて気持ち悪くなりそう。

 実際に一度、みたらし団子をたくさん食べて、口の中が甘ったるくなって吐いた経験がある。そのせいで、みたらし団子を拒絶しているかもしれない。


「すばるさん! 団子あるだけ持ってきて!」


「あいよ! ドーンと食え!」


 ドーンと食えって言ったら、この茶屋の経営大丈夫なのか? 昔から、収入が少ないのに、材料あるだけ出したら潰れるんじゃね?


「すばる、さっきのおかわりお願い」


 はいよ、と相槌を打ったのを確認して、ジャンヌの隣に座り横に置いてあった団子一本をくすねて食べた。


「まあ、たまにみたらし団子を食うのも悪くない」


 ぱくり、と一気に団子を食べ尽くしたが、口の周りが葛餡でベトベトして気持ち悪い。まあ、これ以上食べ過ぎるのもまた吐くかもしれないので、ここらへんで食べるのを止めた。


「姫香、いつものの草団子だ」


 背後から、出来たての草団子(粒あんのせ)を持ってきたすばるが現れた。


「おう、ありがとな」


「それと、ありったけのみたらし団子だ! どーんと食え!」


 どんと、大皿の上に大量のみたらし団子が乗せられていた。しかも、持ち手の串まで葛餡でべっとりだ。これ、どうやって食べればいいんだろう?


「大丈夫なのか、大量の団子を出しちゃって」


「大丈夫、後で請求するから」


「金は取るのね」


「これでも、経営難だからな」


 なははと、笑顔で答える。なんか鬱陶しいし、ドヤ顔見ているみたいでうざい。

 ぼったくり茶屋……と、ボソリ内心そう思いながら私は草団子を口にする。


(うん、このあんこで草団子の甘さがさらに引き出されている。どんな反応すればこのような旨みが発生するのだろう?)


 顔の周りに花びらが舞うほどの笑みを浮かべる姿を見たジャンヌは、興味津々に草団子を見つめていた。しかも、涎をだらだらに垂らして……。

 このお嬢様は甘党なのかって、うっすら思ってしまうのは私だけだろうか……?


「な、なに、食べたいのか?」


 ジャンヌは、上下に首を振っている餌付け前の犬のような行動で答える。


「全く……ほら、あげる」


 一個だけ口にした団子を差し出してジャンヌに引き付ける。そして、ぱくりと残った三つを一気に食べた。なんだろう、こいつ。餌付けすれば、なんでも言う事きくんじゃ……。


(変な事考えて、ジャンヌに危害加えたら賠償金が半端ない……ってなるよな)


 一瞬、面白いことを考えたけど、金がパァになるのは勘弁願いたいと思い止めた。


「それにしても、このみたらし団子美味しいですね!」


「だろ、だろ! 秘伝の砂糖醤油タレを焼く前に一度付けて、食べる直前にもう一度誰をかければ……濃厚な旨味が口の中にィィィィィィ!」


 すばるはハイテンションで秘伝のタレを言っているが、あの秘伝のタレの調味料はこの港で採れた日高昆布を一週間煮込んで、砂糖醤油にぶち込んだだけの簡単調味料だ。

 これは結構味が引き締まっていて、砂糖醤油のコクが上がるんだよなってすばるが言っていた。まあ確かにみたらし団子はコクが強いのが分かる。


「団子食っているだけで、今日は終わりそうかもな」


「そうですねぇ……もう団子でお腹いっぱいですぅ」


 今気づいたのだが、ジャンヌは既に太った姿に変化し、声も少しだけ相撲のような太い声を出していた。化物な食い方だよな……あと、太るの早いと思う。


「夕食、食べられなくなっても知りませんからね」


「う……でもそれは嫌ですぅ……」


「だったら、少し運動しましょう」


「運動……嫌だ……」


 ……仕方がない。こうなったら強制的に運動させてやる。


「それじゃ、向こうにある函館山まで行きましょう。あと、すばる。私たちはここでお暇するわ」


 ジャンヌの襟首を掴んで、向かいにある函館山へ向かった。これで少しは夕飯前の腹ごしらえできるだろう。これなら、ジャンヌの腹も痩せられるとおもうな。

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