青空プロレス3
もうちょっとシルク視点
「膝が痛いとこの程度の段差でも、かなり堪えるだろ」
ソレイユは牛の獣人のアンダーソンをお姫様抱っこをしたまま、ロープを跨いでリングを降りる。
簡単にやってるけど、多分あれってかなり凄いことじゃないかな。オーガウも唖然としてるし。あんなにおっきいアンダーソンを軽々と持ち上げるだけでも凄いと思うけど、ロープを跨ぐ時って持ち上げたまま片足立ちになってたしバランスも凄いと思うの。
後、やっぱりお姫様抱っこはズルい。絶対にやってもらうんだ。
「この辺でいいか」
そっとアンダーソンを地面に下ろす。私もそっちに行く。
「……英雄様、あんたやっぱり余裕じゃねーか」
「まあ、持ち上げる為の筋肉は結構鍛えていたからな。それがこの体に反映されているんだろうよ。さっきみたいな力勝負とは力の使い方も違うのさ。後、ソレイユでいいよ。」
「ソレイユ……か」
アンダーソンは牛頭の角部分を撫でてる。ちなみにだけど、アンダーソンは茶色い牛の獣人。ソレイユの世界だとジャージー牛みたいで、ちょっと愛嬌があって可愛い。ミルクの目利きがいいのも(多分)私としては納得。
「なあ、ソレイユ。俺はお前に嫉妬していたんだと思う。俺は膝の痛みで城を辞めた。その城は竜人に襲われて目茶苦茶にされ、そこに颯爽と現れたお前が解決。俺は何やってるんだと思ったよ。国一番の力自慢と言っておきながら、大事な時に役に立てなかったんだ。その不甲斐なさを誤魔化すためにお前にぶつけちまった」
「……俺も膝を壊してプロレスを一度辞めた。だからか、そう言う悔しさは分かるよ。やりたい事がやりたい時にやれないのは本当に悔しいよな」
ソレイユの怪我。私は彼の魂の情報を読んだ事で知っている。ずっと頑張って、頑張って、頑張り抜いた先の怪我だったんだよね。
最初は左膝の違和感。それは疲労から来たもので疲労が抜けた後も気になった。あの違和感は何だったのかと言う疑惑として。疑惑は無意識のうちに左膝をかばい、その負担は右膝に。
それは普通に生活する分には問題がない程度の怪我だったよ。でもね、ソレイユはプロレスラーで『ソレイユ』……普通じゃなかったんだ。人気レスラーだったし、跳んだり跳ねたりするのも得意なレスラーだったの。練習も、試合も、治療も頑張った。
10年。ソレイユはその痛みと10年付き合ってプロレスを辞めちゃった。私には10年はそんなに長い時間じゃないけど、ソレイユにとっては人生の四分の一だからね。本当によく頑張ったって思うよ。
「でも勿体ないな。俺との力勝負で10分保ったんだ。もうちょっと何とかなりそうな感じなんだが」
「なんとかなりそうって、治せるのか?治療魔術でもムリって言われたぞ」
「いや、俺は医者じゃないし。治療魔術ってのもどんな物か知らん。ただ、10年痛みに付き合って来たからな。痛みの緩和ぐらいなら実体験を元にした知識はある」
あ、それ私も知ってる。ソレイユの魂の情報にあったやつだよね。確かソレイユがよくやっていたのはテーピングでね、テープを貼って怪我の部分を固定したり負担を軽減したりする方法。うん、あのテープ位なら作れるかな。
「魔・造」
ソレイユの魂の情報を元にテープを造り出す。特殊な能力は要らないし、これぐらいの大きさなら今の魔力でも大丈夫……はずだよね?
「ひっ……なっ……なんて魔力の流れ……まっ、魔力の物質化!?」
リスティナがまた喧しいけど無視。で、完成。ソレイユが好んで使っていたテープ。うーん、やっぱりお腹減っちゃった。やっぱり詠嘆の地じゃないとこれぐらいの大きさが限界だね。
「はい、ソレイユ」
「お、ありがとなシルク。アンダーソン、ちょっと膝を診るぞ」
ソレイユがアンダーソンの膝を触る。触診ってやつみたい。その姿にソレイユの魂の情報が引き出される。
ソレイユは怪我をしてから病院はもちろん、整体、骨接ぎ、カイロプラクティック、鍼灸等色んな治療施設通ったの。食事にしても関節の痛みにいいと言われる食材やサプリも摂って。そして、色んな講習も受けた。マッサージやストレッチとか、今やってるテーピングとかね。
アンダーソンはソレイユにされるがまま。多分、たかがテープを貼っただけでって思ってるんじゃないかな。でもソレイユの真剣な表情に何も言わない。
やがて膝のお皿中心を包み込む感じにテープが貼られた。
「とりあえずはこんな感じだな。稼働域異常が原因の怪我の様だから、間接を変な方向に動かないように固定した。後は負担を分散だ。ちょっと動かしてみな。少しは楽なはずだ」
「あ……ああ、確かに痛みが完全に無くなった訳じゃねーけどこれは……治療魔術じゃないのか、本当に?」
「俺がいた所は魔法とかなかったからな。だからか、こういう治療法が発達したんだよ。他にも毎日のストレッチで間接を柔らかくするのも結構有効だぞ。触った感じからすると結構若いんだろ、お前。獣人の年齢はよくわからんが」
「ああ、23だ」
獣人は成人までは人より早いけど、それ以降はだいたい人と同じね。寿命も60~70歳ぐらい。こっちじゃ普通。
「思った以上に若いな。それならこんな対処療法でも結構治るかもな。ただ一つ条件を飲めれば、だが」
「何だっ。この膝が治るってなら多少の事なら我慢するぞ」
ソレイユの視線が膝から違う所に移る。あ、私もわかちゃった。オーガウもリスティナもそこを見て『あー』って感じ。
「とりあえず痩せろ。最初に見たときは豚の獣人かと思ったぞ。体重はパワーだがやりすぎだ」
「そうですね。アンダーソン、あなた城にいた頃より肥ってますよね」
「うっ。城を辞めてから酒は増えたし、パンの試食とか結構するし、運動量自体かなり減ったから……」
うん、ダメだよね。試食は代わってあげたいな。いっぱい食べるよ?
「まあ、ストレッチとかは後で教えるわ。今はプロレスだ。お客さんをかなり待たせてる。オーガウさん、オンブルくんの準備をお願いできるかな」
「ええ……ですが本当にアレと?」
うん、そうなるよね。私は知っているから大丈夫だけど、知らないとそうなるよね。
「もちろん。本当は俺も入場からやりたいところだが、あの辺は入場パフォーマンスってのを知っているからこそ、盛り上がる面があるからなあ。今回はオンブルくんにその辺は任せるさ。あ、シルクも頼むな」
オンブルくんの入場はソレイユから相談を受付済み。
「貯」
魔法の貯蔵庫を開けて中からおにぎりを出して食べる。エネルギー不足なので、具材はちょっと重めの牛肉のしぐれ煮。アンダーソン見て牛肉が食べたくなった訳じゃないよ?アンダーソンはジャージーだし。
「うん、任せて。立派な入場にしてみせるよ」
ソレイユは親指を立てて笑うとリングに戻った。ロープ最上段を掴むとひょいって。
「待たせたなみんな。ちょっと色々とあったが今からプロレスを見せよう。あっちの入り口を見てくれ」
ソレイユは城内への入り口を指差す。みんなの視線もそっちに。
「これから紹介するのは俺の対戦相手」
扉が開く。今このタイミング。
「煙」
ソレイユに頼まれて作った魔法。結構大きな『プシュー』って音と共に煙が吹き上がる。
「黒影の使者『オンブル』だっ」
煙を掻き分け現れたのは……
「アレってオーガウ団長だよな?」
「近衛兵団の?」
「ああ、前にアーカイブ王の施設視察で挨拶されたことがある」
「彼がオンブル?」
「あ、何か持ってるよ」
現れたオーガウが手に持ってるのは鎖。それは後に続くオンブルくんに繋がれてる。オンブルくんの背後には更に二人の兵士。
オンブルくんは扉からリングまでの道を、オーガウに引きずられて行く。一メートルほど進む毎に両脇でプシューって煙も上がるよ。
「え……アレが対戦相手?」
「どうやって戦うんだ、あんなのと」
「やっぱりオーガウ団長がやるんじゃないか?」
「何でアレが縛られてるんだ?」
見ている人たち全員が疑問。そうだよね。プロレスも分からないのに、対戦相手がアレだなんて。
オンブルくんがリングの上に。オーガウは鎖をほどきリングを降りる。残りの兵士達もいっしょ。
「オーガウ団長降りちゃったぞ」
「アレに魔力は感じないよな?」
「どうすんだアレ」
「なあ、嬢ちゃん。アレは何の冗談だ?」
これはアンダーソン。
「ふふーん。すごいのが見れるよ」
「すごいのねえ」
オンブルくんと対面するソレイユ。ソレイユが見上げるほどの相手なのがオンブルくん。そりゃおっきいよね。
「さあ、ゴングを鳴らしてくれ、シルク」
ソレイユがオンブルくん相手に構える。両手を上げて襲っちゃうぞガオーのポーズ。
「響」
コーンって音と共にリングの周囲から色とりどりの煙。
こうしてこの世界で初めてのプロレスが始まったの。
青空の元、謁見広場に集まったカツー国民の人たちの前で。
リングに立つのは二つ。
一方はライオンのマスクマン、太陽の勇者『ソレイユ』
もう一方は黒影の使者『オンブル』
その正体はカツー城の裏山に生えていた樹齢200年の大木でなのだ。
次回『青空プロレス4』
今さらながらスマホでゲームしていると更新できない。




