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青空プロレス2

「プロレス?」

「知ってるか?」

「いや、初めて聞いたな」

「あの蔦が張ってる舞台で何かするのかな」

「リングって言ってたけどわっかでもないよな」


みんなは戸惑ってる。それもそうだよね。プロレスとかリングとか今まで聞いたこともないし。あ、ソレイユも困った顔で笑ってる。


「ま、まあ、プロレスを見せる前にちょっとしたパフォーマンスでもしようか。簡単な力自慢だな。シルクと……リスティナさんにもお願いしよう。リングに上がって来てほしい」


私とリスティナが呼ばれちゃった。聞いてないよ、私が目立つことするなんて。それが嫌なのもあってバルコニーには行かなかったんだし。


「シルク……誰だ?」

「リスティナって……もしかして」

「あの魔術師団のリスティナみたいだな」

「ああ、あのリスティナ様か」

「リスティナ様っ」

「リスティナ様ーーーーっ」

「居たっ。あそこにリスティナ様だ」


ん?男の人たち中心にザワザワとしはじめてる。リスティナって結構有名なんだね。みんながリスティナに注目してる。私はみんなに知られていない存在だからいいんだけど。


あ、こっち見ちゃダメ、ほら、リスティナの視線を追って私に気づいた人がちらほら。そんな困った顔されても……もうっ、仕方がないなーー。


「跳」


私は魔詞を唱えてリングの上に。リスティナもいっっしょ。


「えっ?なにこれっ……空間跳躍?離れていた私も一緒にっ」


長距離だと無理だけど、目に見えるところへの移動だとこれぐらいは出来るよ。あんまり効率が良くないからお腹が減るけどね。


「よく来てくれた、ふたりとも。ちょっとじっとしてくれよ」


いつの間にか後ろに来ていたソレイユが、私たちを肩に軽々と持ち上げる。本当にひょいっと。片方の肩にそれぞれ座った状態で立ち上がった。私はソレイユの右肩の上。


「ひっ、ひええええええっ。高いっ高いですってばっ」


リスティナうるさい。でも本当に高い。


「これがソレイユの見ている世界かあ。すごいね」


「ああ、お前がくれたすごい世界だよ」


「そんなことより早く下ろしてーーっ」


リスティナ、やっぱりうるさい。ソレイユの頭にしがみついて暴れてるし。……なんだろ、ソレイユがすごく嬉しそう。あんなに暴れられて迷惑じゃないのかな?ソレイユはドッシリしているから、リスティナが暴れたぐらいじゃびくともしないけどね。


「ふたりとも軽いな。これぐらいだとあまり力自慢にならないか」


そう言って私たちを下ろす。もうちょっとあの高さに居たかったな。でもリスティナは限界だったみたい。


「ああ、地に足がつくって素敵……」


「そんなにビビるとは思わなかった。申し訳ない」


気にすることもないと思うけどなー。私は今度またやってもらおう。その時は私もソレイユにしがみついたら喜んでくれるかな?


「ねー、ボクもそれやってーー」


声がした方を見ると5歳ぐらいの男の子。リングの下からピョンピョン跳び跳ねてた。それを見て慌て出てきたのはお母さんかな。


「すみません、うちの子が失礼を……」


「いや、いいよ。子供が俺を見て恐れないってのは結構嬉しいことだ」


ソレイユはリングを降りて男の子の前にしゃがむ。


「ここに乗るか?」


「うんっ」


「よし、ちゃんと捕まってろよ」


「わーすっごく高いよー。パパの肩より高いーー」


ふふーん。そりゃソレイユだもん。そんじょそこらの肩には負けないよ。


「わたしもーー」

「僕もっ」

「高い高いやってーー」

「私もお願いできますか?」


いつの間にかソレイユの回りには子供が集まっていた。中にはちょっと子供じゃないのもいたけれど。


「おう、順番にな」


ソレイユは代わる代わるその子達を持ち上げる。一度に8人両腕にぶら下げてみたり、お姫様抱っこをせがまれていたり。何あれ、ちょっとズルい。私も後でやってもらおうっと。


「皆さんの視線が変わりましたね」


やって来たのはオーガウ。ソレイユと一番仲がいい騎士さん。困ったときはオーガウさんって言ってたぐらい頼りにしてる。


でも、私は知っている。オーガウと言う名前が1588年前の英雄、『小川修斗』由来だと言うことを。時が流れていつの間にか『小川修斗』は『オーガウ・シュート』ってなっちゃったんだ。だからオーガウは名前が名字って変なことになってる。ちょっと面白くてかわいそうな感じがするので内緒。


「視線?」


私はちょっとこぼれそうな笑いを噛み締めて、ソレイユを見るみんなの目を見た。あ、ほんとに違う。みんな優しいと言うか微笑ましい?そんな感じ。


「はっきり言って初見のソレイユ殿は、どこからどう見ても怪しい人物ですからね」


そうだよね。オーガウもソレイユを魔人、私を魔女呼ばわりだったし。


「う、あの時の事は本当に申し訳ないと思ってますよ?」


「ううん、気にしてないよ。でも何でそんな簡単に変わっちゃったんだろう」


確かにソレイユの格好はこっちの世界じゃ見かけない。そしておっきい。だから怪しい人って思われるだろうし、怖いって感じちゃうんだろうな。話したり一緒に行動すればオーガウやリスティナみたいに、ソレイユがどんな人か分かってもらえるんだろうけど。


「ああやって子供と遊んで遊ばれている姿を見れば、少なくとも危険な人物じゃないと分かりますからね。子供は容赦なく叩いてきたりしますが、彼は顔色ひとつ変えず笑っていますし」


確かにソレイユのマスクが珍しいから、耳とか引っ張られてるもんね。私があんなことされたらどこか遠くに跳ばしちゃうかも。うん、ソレイユ偉い。


暫くして子供達との交流は終わっちゃった。ソレイユは大丈夫なんだけど、子供達の方が疲れちゃったみたい。寝ちゃった子もいるよ。


「これぐらいで力自慢は終わりかな。次はいよいよ本番の……」


「おいおい、遅れて来てみれば英雄様の力自慢は終了かい?凄いな英雄様は。ガキと遊んでいれば力自慢になるってんだから」


「ん……牛?……豚?」


出てきたのは牛の頭の人。牛の獣人。かなりおっきい。身長はソレイユよりちょっと小さいけど、横にはソレイユより1.5倍ぐらいある。体重は倍ぐらいあるんじゃないかな。


カツーには獣人があんまり居ない。別に差別とかじゃなくって、単純に住みにくいから。人が中心で出来た国だとやっぱり、色んな所が人のサイズ中心で出来た国になっちゃう。だから多くの獣人はサイズの合う種族同士で住む事が多いの。一部の獣人なんてソレイユよりおっきいからね。


でも、あんまり居ないって言うからには少しは居るよ。サイズがあんまり変わらない種族の人とか、多分あの牛に人みたいにサイズが違っても、何かの理由があって住んでる人が。


「彼はアンダーソンですね。去年まで衛兵として城に勤務してました」


「へえ。強そうなのに辞めちゃったの?」


「オーガウ、確か彼って……」


「ええ、パンを焼くのに目覚めたと言って辞めた彼です」


パンは美味しいから仕方がないよね。


「シルクさん。確か食堂で仕入れているパンのひとつが彼の店のよ」


食堂には城下町の7つのパン屋からパンを仕入れているって、食堂のおばさんから聞いたことがある。一週間のそれぞれの日担当だって。


「リスティナ、それって何曜日?」


「え……ああ、えっと、水曜日だったはずよ」


なんと……牛の人はあのミルク感たっぷりのパンの人だった。どの曜日のパンも美味しいけど、好みだけで選ぶならあのパンを選んじゃう。牛の獣人だからミルクの目利きがいいのかな?


「ソレイユ殿、彼アンダーソンは城にいた頃トップクラスの力自慢だったんですよ」


「へえ、オーガウさんのお墨付きか。アンダーソンさん、リングの上に来るかい?」


「ああ、城を辞めてパン屋になったが、俺の力自慢はこの国一って自負しているんだ。プロレスだか英雄だか知らねえが、力自慢してえなら、まずは俺を通しな」


「そうさせてもらう。みんなはリングから降りてくれ。パフォーマンスの締めとして彼との力勝負をする」


「ソレイユ頑張ってね」


私たちは言われた通り、リングを降りて元の席に戻る。リング上にはソレイユと牛の獣人アンダーソン。おっきい二人が並ぶとスッゴい迫力。


「分かりやすく単純に、正面からの組合でいいかい?」


「ああ、それは分かりやすい」


二人は手を前に出すと掴み合った。手四つって言うんだったかな。左手で相手の右手、右手で相手の左手を組んでるの。ソレイユは身長差を活かして上から押さえつける感じdr、アンダーソンは体重差を活かしそれを押し返す感じ。


二人の力はいっしょみたいで、組んだまま動きが止まっちゃった。一分、二分って時間が経つけど、時々手の位置腕の位置が変わるぐらい。でも休んでるんじゃないって事は二人の顔を見たら分かる。


あんなソレイユの険しい顔初めて見たよ。


三分、四分ってなると今度は動きが出てきた。呼吸のタイミングで一瞬でも力が緩んだ方が押される。それはソレイユだったりアンダーソンだったり。大きな動きじゃないけど、激しい攻防。


多分ね、勝つだけならソレイユには簡単だったんだと思うの。ソレイユはいっぱい技を持ってるからね。手四つからのテクニックもあると思う。でも力勝負だからアンダーソンと真っ正面からぶつかった。私には少し分かんない感情だけど、ソレイユには必要な……意地なんだと思う。


組み合ったまま十分以上経って、勝敗が決まった。


力勝負はそのまま持久力勝負に。そして先に音を上げたのはアンダーソン。一度、完全にバランスが崩れたあとは一瞬。アンダーソンが自分から敗けを認めた。


「ぜー、ぜー……流石だな英雄様。組んでて分かったよ。あんたにはまだ余力があるって」


「いや、お前さんの右膝がまともならもっと時間もかかったし、ここまで真っ正面から力勝負にいくのも難しかったさ」


うん、ソレイユが言ってるみたいにアンダーソンの膝が良かったら、最後バランスが崩れなかったかも。両足で踏ん張れないから体重を全部活かせなかったみたいだし。


でも、やっぱり勝ったのはソレイユだったと思うよ。


だって……


「うえっ?」


「膝が痛いだろじっとしてろ」


だって、アンダーソンをお姫様抱っこ出来るんだもの。

次回『青空プロレス3』

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