会見
俺には魔術は使えない。
ずっと『魔詞』が理解できなかったが、それが才能の欠如だったとは。元別の世界の住人ってのは関係ないのだろう。最東の賢者は魔術が使えるようだし。
ま、仕方がない。未練がないとは言わないが、使えないものはどうしようもない。今回は魔力操作を身につけれただけで充分だ。その過程で微弱な魔力感知や気配感知も身に付けれたしな。
魔力感知は犬の嗅覚みたいなものだ。僅かな魔力の名残を元に誰が使った魔力か追跡が出来た。城内で使ってみたところ、どの壁をリスティナさんが修復したのか、又は他の人なのか探知できた。シルクによると、「そこに魔詞の知識があれば、その魔力がどういう構成で使われたのかもわかるよ」とのことだ。英雄召喚の儀式が行われた部屋で月齢がどうのこうのと言っていたのも、この感知で分かったのだろう。
気配感知はどこまで感知できるか試したところ、だいたい半径10メートルと言った所だ。壁とかがあると範囲は小さくなる。また、飯時の食堂で使ってみたんが、人が多すぎると精度が悪くなった。正直な所、今の状況だと気配が感知出来るだけで、それをどう活用できるかは微妙だ。これから感知できる範囲と制度をどれぐらい上げれるか。それが今後の課題だな。
魔力操作の練習のために、より深く精神世界の観察もしてみた。筋トレでも結果をより鮮明にイメージできた方が、成果が上がる。そにために、骨格、筋肉のつきかた、血管、リンパ腺の位置等を、お世話になっていた接骨医の先生に聞いたものだ。
観察結果だが、魔力の心臓と血管は現実の心臓と血管と同じ位置にある。これは今後のイメージとしてやり易い。ただ、これは俺だけの認識であり、人によって違うらしい。そう言っていたシルクの場合は、脳から生える根の認識だとか。神経みたいな感じだろうか。リスティナさんの場合は単純化されていて心臓、右腕、左足と言った感じにパーツでの管理だそうだ。
また、俺には三種類の魔力がある。
一つは俺自身の魔力で白い魔力。白い世界と黒い存在の伝承通り、白い魔力は全種類の魔力が混ざりあっている状態だ。ゴブリンを倒して得た黒い魔力も混ざっている。今練習で操作しているのがこの魔力で、高度な操作になるとこの中から赤や青の魔力を精製して操作をすることになる。
二つ目はシルクから貰った魔力だ。精神世界の認識をするときに目印にした魔力だな。色は何も混ざっていない純粋な赤。ただ、この魔力は心臓から全身を巡っているものの何の働きもしていない。今はまだ眠っている魔力だ。
最後はザレバの魔力。色は赤だがシルクから貰った物と比べると暗い赤だ。そして、暴走して瓦礫を溶解させたのがこれだ。操作をしようとしても今のところ言うことを聞かず自在に動かせないので、心臓に留まらせている。俺自信の魔力で拘束している感じだ。
暴走しない様に、万が一暴走した時の対処のために、より魔力操作を練習だ。今はザレバの魔力を押さえ込んでいるが、いずれは自在に使えるようにしたい。今回は怪我人が出なかったが、一歩間違えば大惨事だった。あんな事はもうごめんだからな。
魔力は魔術に使えなくても、魔力の操作で身体能力の向上も出来るらしい。腕に魔力を集めることで腕力、脚に魔力を集めることで敏捷、ガード時の硬化等。まあ、劇的に向上するわけではなく、比べてみれば確かに……と思うレベルではあるらしい。ただ、そんな小さな差が結果を左右することなんて良くあることだ。
練習の内容は簡単だ。ただ、魔力を体内のあらゆる箇所に移動させる。それを繰り返し繰り返し続けるだけだ。ただしスピードと量を箇所を一定にしない。最大量を最高速で一ヶ所に移動させるだけでは 、細やかな操作が身に付かないのだ。
こういう反復練習は得意だ。物覚えが悪いので何度も同じ事を繰り返すのは日常茶飯事だ。それに、昔の筋トレと言えば反復練習だった。
ぶっ倒れるまで腕立てをし、動けるようになれば今度は腹筋をぶっ倒れるまで。がむしゃらだった。年を取り、無茶ができなくなってからはより良い筋トレを学んだ。効率をあげ、よりローコストハイパフォーマンスに。その効率的筋トレから考えれば、若い頃のは無駄だらけだ。しかし、レスラーの身体を作ったのはその頃の無駄なのは間違いない。
この練習は何時でも何処でも出来た。それこそ寝ているとき以外はずっと。まあ、魔力操作で魔力は減っていくので、魔力が続く限りという前置きがあるが。この減った魔力も飯食ったり寝れば回復するし、減れば減るほど回復時に総量が増えるとのこと。超回復か?何事も無駄にならないことは良いことだ。
「そんなに便利な物なのですか?」
左手人差し指。
「ああ。若い頃には無かったんだが、普及した後は無い生活が考えられんぐらいだ。基本は個人同士の連絡ツールだが、 何か色々とやれたようだ」
「ようだ?」
右腕。
「俺は連絡ツールとして重宝したが、他には時計ぐらいにしか使っていなかったんだよ」
ケータイの話だ。一応スマホを使っていたが最後まで活用できなかった。それでもメールとかは便利だったな。
今、俺はシルクとリスティナさんに元の世界の話をしている。約束だったしな。こうやっている間も魔力操作は練習中だ。日常的に出来ないと意味がないと、リスティナさん。会話をしつつ、シルクの行う魔力操作通りにこちらもする訓練だ。これが難しい。会話、魔力感知、魔力操作。この三つを同時にやる必要がある。
「それにしても便利な話ですね。遠く離れた人と即時に会話ができる道具ですか。念話の魔術や道具はありますが、使い手も道具も数が少ないですし」
国家間のホットラインの様な扱いらしい。一般的な連絡手段は手紙がメインだ。と言っても殆どの人は隣近所、村内、町内、遠くて隣町程度で人間関係は完結しているので、手紙のやり取り自体がそれほどない。それでも一部の人は国を越えての連絡手段が必要となってくる。その場合、昔は行商の人に渡して届けば御の字だったが、列車が出来た後は国による郵便事業ができたとか。
「まあ、便利は便利で問題が起こってくるんだけどな。」
「そうなの?」
「ちょっと想像がつかないですね」
右手小指……右足親指もかっ。ほんの少しだけ動かすって芸が細かい。
「……ああ……と。便利なことに振り回されるんだよ。即時に連絡が着く分、すぐに返事を返さないと人間関係がギクシャクしたりな」
「便利でも使うのは所詮は人間なんですねえ」
「そう言うことなんだろうな……っと。今日はこれぐらいだな。この後オーガウさんと話があるんだ」
「そうですか。いえいえ結構有意義なお話でしたよ。ぽけべるとかついったでしたっけ?送れるのを文字だけで、文字数も制限すれば既存の空間系や念話系の魔術で再現できそうですし」
「それ面白そうだね」
「シルクさんちょっと一緒にやってみます?」
「うん。実は『魔詞』が幾つか浮かんでるんだ」
「それはっ……見せて下さい、今すぐにっ」
いつの間にかリスティナさん、シルクの事、様からさんになってるな。いいんじゃないか、こう言うの。
「じゃ、俺は行ってくる。シルクもリスティナさんに迷惑かけるんじゃないぞ」
「うー、私は誰にも迷惑なんてかけたことないよっ」
ここに来るまでは28回英雄に会っただけだし、こっちじゃ興味は飯ばかり。そりゃ迷惑をかけることもないな。そう考えるとシルクはもっと対人経験をした方がいいな。
「お前は少し位迷惑をかけた方がいいかもな」
シルクの頭を撫でる。むう、手がデカ過ぎて、シルクの頭を握り潰そうとしている様にしか見えないんじゃないだろうか。
「まるでお父さんですね、ソレイユさん」
「保護者と言う意味ならそのつもりだ」
「むー」
シルクは俺の手を払い除けようとするが、シルク位の力じゃ無理だ。まあ、嫌われたくはないので素直に退けるとしよう。
「じゃ、行ってくるわ」
「それで、どういう要件でしょうか。三日後の会見についてとは聞きましたが」
ここはオーガウさんの執務室。団長ともなると書類仕事も多いようだ。机の上には紙が束で置かれている。俺の事で雑務も増えているようだし。これから頼むこともあるし、迷惑をかけるなあ。シルクにどの口が言った?って感じだな。
「リングを作るのに手を貸してほしいんだ。会見の場で、俺はプロレスをやりたい」
「プロレス……ですか。色々と聞きたいこともありますが、とりあえず一つだけ。プロレスとは剣闘士達の闘技の様なものでしたよね。誰と闘うつもりなのですか?はっきり言ってあなたと闘える者などカツーにはいないでしょうに」
「対戦相手は気にしなくていい。当てがある。それよりもきちんとしたリングを用意したいんだ。プロレスは色んな舞台でも行われるが、この国で、この世界で最初のプロレスは、基本に忠実な舞台でしたい」
只の闘いを見せるだけなら俺の必要がない。
「何故会見でプロレスを?前は一言二言で済ませたいと言っていたではないですか」
マイクパフォーマンスとか苦手だからなあ。英雄として紹介されるのも、正直な所恥ずかしかった。
「俺を紹介するなら、それが一番と思ったからだな。俺が何者かを語るより、見せた方が分かりやすい。それに、俺はみんなを楽しませたいんだ」
「楽しませせるですか。ああ、プロレスとはショー要素のあるものだとも言っていましたね。分かりました。人員の用意と王への説明は私の方からしておきましょう」
そう言うと引き出しから二枚の紙を取り出し、何かを書きはじめる。そして書き終えると一枚を俺に。
「明日はこれを持って詰所の方に行ってください。取り敢えず五人用意します。作業をさせ、足りないようであれば増員させますので。後は修復作業も終わったので、リスティナも手が空いているでしょう。そちらにも要請を出しておきますよ」
「ありがとう。俺の我が儘に付き合ってくれて。国の人員を使うとなると色々と面倒なんだろ、やっぱり」
「当然です。公務で働かせるのなら、きちんとした手続きが必要なんですから。ですが、今回の会見は元々国民の不安を払拭するためのものです。あなたがみんなを楽しませると言うのなら、それは目的そのものじゃないですか。それに……」
オーガウさんは笑みを浮かべ、口元で指をたてる。所謂「しー」のポーズ。
「私が見たいんですよ、プロレスと言うものを。内緒ですよ、公私混同で問題になっちゃいますから」
「一世一代のプロレスで盛り上げてみせるよ」
翌日からリング作りが始まった。場所はカツー城中庭、一般謁見広場だ。ここで会見が行われる。
俺がいた団体のリングの構成は次の通りだ。
四本の鉄柱に鉄製の梁。その上に3~5センチほどの木の板、衝撃吸収材、マット、シートと重ねる。四方のロープはワイヤーにゴムのカバーがされている。団体によって若干の違いはあるがだいたいこんな感じだ。衝撃吸収材がゴムだったりウレタンだったり。梁にサスペンション機能があったりスプリングが設置されていたり。下っぱ時代はこれの設置手伝いも仕事だった。
さて、部材も無い状態からどうやって作るか。時間は無いので鉄柱や梁を一から作るわけにはいかない。色々と考えた結果、リスティナさんに丸投げした。
さすがは魔術のある世界。大きさと絵で形を説明すると一瞬で作ってくれた。ただし、出来上がったのはリングの形をした石の塊。そこからは微調整。何度もリングの上で受け身をとり、好みのクッション性に仕上げて貰った。
ロープは植物魔術で生やした蔦だ。橋を渡すのに作られた魔術の応用だとか。これがなかなかいい感じだ。
リングの広さは慣れ親しんだ六メートル四方。でかくなった今の俺だと若干狭く感じる。だがこの広さで巨人と呼ばれた男も小兵と呼ばれた男も闘った。でかくなったからと言って、拡げるのも何か違う気がする。
リングを作り、見易い様に観客席を作った。微調整と修正。やがて全てに満足が出来る物が出来たのは前日。
「出来たな」
「出来ましたね。このリングの構成はシルクさんに教えておきますね」
「ありがとう。おかげで旅の途中だろうがプロレスが出来る」
「いえいえ。……で、そちらがソレイユさんの対戦相手……になるんですか?」
「ああ。名前はオンブルくんだ。よろしくだ」
俺とオンブルくんは肩を組んで挨拶をした。
次回『青空プロレス1』
仕事の都合で少し間が空くかも。
後 、次回はシルク視点になります。




