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魔術

むかしむかし、遥か昔。

お父さんもお母さんも。

お爺さんもお婆さんも。

そのお爺さんたちも。

そのまたお爺さんたちも産まれていない昔。

それは人も獣も産まれていない昔。

世界が始まった時。

世界は白一色の世界でした。


白一色ですが何も無かった訳じゃありません。

白は全ての魔力が混ざりあった色。

全ての始まりがそこにあったのです。


やがて、世界にひとつ。

真っ黒な存在が現れました。

黒は全ての物が混ざりあった色。

その存在が全ての形あるものの始まりでした。


黒は見ました。

見ることで空ができました。

黒は聞きました。

聞くことで風ができました。

黒は嗅ぎました。

嗅ぐことで海ができました。

黒は立ちました。

立つことで大地ができました。


最後に黒は声を出しました。

声は白と黒をバラバラにしました。


バラバラになった白と黒。

全ての魔力と全ての物だったもの。

ふたつは混ざり命が生まれました。


こうして世界に白と黒以外の色が生まれました。




「この『黒』が発した声が『魔詞』の始まりとされています」



暴走を起こし、その後魔力の操作をなんとか身につけた。

しかしその操作はまだまだ未熟なため、その練習に午前を費やした。

おかげでそれなりにはコントロールが出来るようになったと、シルクに誉められた。

慣れない練習に体力も精神も魔力も削られたが、昼飯を食って回復。


そして昼過ぎの城内のとある部屋。

今 、俺は授業を受けている。


中卒なので20年以上ぶりだ。プロレス辞めた後は定時制でも行って高卒資格を得ようかと考えていたが、魔術を習うとは思ってもいなかったわ。


先生はリスティナさん。土の魔術を使い、城を直していた人で何度かボランティアで顔を会わせていた。カツーの魔術師団の一人だとかで、魔術を習うならとオーガウさんが紹介してくれた。この部屋もカツー魔術師団の研究室だ。


さて、このリスティナさん。失礼だが地味である。


この世界、どうも原色やきつめの色を好まれる様でそういった服を着る人が多い。王様たちからして真っ赤だしな。オーガウさんも結構赤い。


彼女が着ているのは彩度の低い服ばかりだ。ここ数日だけだが、灰色に若干何かしら色を足したような服しか見たことがない。


髪型も特にこれと言った特長もなく、腰まではいかないがそれなりに長い茶色の髪を軽く結っている。化粧もさほどしていない。


しかし、彼女は地味だが目立たない訳じゃなかった。他をいくら地味にしてもごく一部が目立つ。むしろ他を地味にした分ある一ヶ所がより目立ってしまっていた。


あれほど大きな胸は、両方の人生を合わせても見たことがなかった。初めて見たときは二度見した。一緒に瓦礫撤去をしている騎士さん達と一度風呂場で熱く語り合ってしまったほどだ。『あ、この身体でもきちんと性欲あるんだ。』と思ったりしたし、『英雄様と思って緊張してましたが、俺らと変わらねぇと知って安心しました』と騎士さん達と打ち解けたのはいい思い出だ。


そう見ていくと色々と気づかされる。


垂れ目で潤んだ瞳。

少し厚めで柔らかそうな唇。

その唇の左下にある黒子。

時々見せる幼いしぐさ。

自分の胸元に隙がありまくりな所。

胸元を隠そうとする仕草がより胸元を強調していること。


色々とリスティナさんはエロいのである。


そこまで行くと彼女の地味な格好が、『敢えて』なのが分かってくる。もしかするとそのにじみ出るエロさで、色々と何かがあったのかも知れない。だがリスティナさんは分かっていない。エロさを隠そうとしてよりエロくなっていることに。


そんなわけでリスティナさんは俺からすれば 、ただただ、地味にエロい人である。


さて、授業の方だ。


シルクも受けているのだが、内容に興味がないのだろう。さっきからサンドイッチを食べている。だがいい。シルクは戦力外である。こいつは俺の先を行きすぎている。


『魔法』とは『黒』が発した『魔詞』を再現したもの。

魔法を使う者たちそれぞれが自分なりに再現するので、本人以外には同じ『魔詞』を扱えない。


一方『魔術』は『魔法』を誰でも使えるようにしたもの。標準化された『魔詞』を扱う。


これをリスティナさんの授業第一声が要約していた。


「 魔法は能力で魔術は学問」


よって、魔法使いのシルクには魔力の操作は教えることができるが、魔力の使い方を聞いても無駄なのである。


「ですから、私達魔術師は決まった『魔詞』を使うのです。もちろん、個々の研究で効果を上げたり『魔詞』を簡略化したりしますが」


「決まった……だとすると新しい『魔詞』とかは出来ないのか?」


「その辺は元ある『魔詞』の改良や派生になりますね。例えば……火の矢を飛ばす魔術があります。この魔術の『魔詞』で火を意味する部分を氷に変えました。そして氷に合うように他の部分もいじった結果、氷の矢を飛ばす魔術が。その後矢の本数を増やし氷の連弾の魔術。もっと数を増やし飛ばすのを落とすに変えて氷の雨の魔術ができました」


改良や派生でも、そこまで行くともう火の矢とは別物だな。


「後は最東の賢者様の様に、魔法を魔術として作り直している方もいます」


「やっぱりすごいんだな、最東の賢者って」


「ええ。ですからこの100年ほどでいっぺんに魔術の『魔詞』が増えたんですよ。魔法でしか無理と言われた空間系の『魔詞』が幾つか魔術となりましたし。まあ、まだまだ制約が多くて全ての人が使え使える訳じゃないのですが、その辺は私達研究者の課題ですね」


リスティナさんは興奮気味だ。ちなみに、アクエリアス姫が言っていた、カツーに一人だけいる亜空間収納の使い手がリスティナさんだ。


最東の賢者か。魔力によるインフラ設備とか新たな魔術とか、本当に世界に貢献しているなあ。同じ英雄として俺は何をこの世界でやれるかねえ。武の英雄なんて戦いでしか役に立たないし、戦いが起こったら全てを俺一人で守るのなん無理だろ。俺が役に立つ時は誰かが傷付く事になる訳だ。


まあ、俺にはプロレスしか出来ないが。……プロレス……プロレスか。そうだな、プロレスしかないじゃないか。オーガウさんと後で相談してみるか。


それはそれとして、今は魔術の勉強だ。


「リスティナさん、俺がいた世界じゃ魔法や魔術は無かった。超能力ってのが在るんだか無いんだかよくわからんけど、少なくとも俺は使えなかった。でまあ……そう言うの使ってみたいんだ。何か簡単なの無いかな?」


超常能力はやっぱり使ってみたい。アニメのソレイユもビーム放っていたしな。ソルビーム。アニメだと組技だけでは地味になりがちなので、唯一使える光線技だ。あれが使えるようになれば、俺はよりいっそう太陽の勇者ソレイユになれるのではないだろうか。


「魔術を使ってみたいというのは分かりますよ。それが高じて私はここにいますし、いい歳になっても研究三昧ですから」


「まだまだ若いだろうに。いい歳というのは俺みたいなオッサンレベルになってからだ」


「これでも一応女性なんですよ、私。オッサンレベルって……。でも来月には25ですし……そう言われても仕方がないのでしょうか……」


「何だ、やっぱり若いじゃないか。ようやく一人前になり始めた頃だろ」


大学を出て会社に入り、仕事を覚えて後輩ができてきた頃か?俺は中卒後レスラーになったから、あんまり社会一般は分からんが。俺が25の頃は賞をボチボチ取り始めて、ソレイユになった頃だな。


「25ですよ?いきおくれで、もう物好きにしか見向きもされません。でもいいんです。私は魔術と結婚しましたから」


騎士さん達からかなり人気があるんだけどな。まあ、あいつら結婚まで考えているかは怪しいから言わんけど。どう考えても胸目当てだし……ああ、そうか、結婚観が日本と違うのか。リスティナさんと話が若干合っていないような気がしていたが。


「すまん、俺は前の世界での価値観で話していた。あっちじゃ21まで学生しているのも多いから、25じゃ結婚していないのは普通にいたし、30代で初婚も珍しくなかったんだ」


「何その羨ましい世界は……もっとその世界のこと教えて頂けませんか?」


「あ、ああ。だが今は俺が生徒でリスティナさんが先生だ。後で話すから今は『魔詞』を教えてくれ」


そのタイミングでマントが引っ張られる。


「私も私も」


シルク……お前は結構あっちを知ってるだろ。『詠嘆の地』での会話を思い出すと、幾つかそんな感じがするぞ。ライオン知ってたし。でも、まあいいか。昔話をしてくれとせがまれている親の気分だ。親になったことないが。


「ああ、後でな」


「では簡単な『魔詞』をひとつ。火種を作るのに使うものです」


リスティナさんは人差し指に魔力を集め『ー』と『魔詞』を唱える。するとライター程度の火が指先に。


おお、これは結構便利そうな魔術だ。この世界の旅は鉄道が出来た今でも、メインは徒歩か馬車になる。そのため、野宿はわりとあるとオーガウさんも言っていたし。


「この魔術は日々の火起こしに便利で、消費する魔力も少ないので、ほとんどの方が使えるんですよ」


「へー。こんな『魔詞』でも火が出るんだ」


隣のシルクが早速使っている。ん?


「さあ、ソレイユ様も。『ー』ですよ」


んん?


「待った、リスティナさん。もう一度」


「『ー』ですよ?」

「『ー』だよね」


んんん?


何を言っているかわからない。ずっとそうだ。『詠嘆の地』で初めて『魔詞』を聞いたときから。声が俺に伝わらない。音が理解できない。ずっとそう言う発声をして、シルクは魔法を使っていると思っていた。


「どうしました?……あ……ソレイユ様……『魔詞』が伝わって……いない……?」


「どうしたのソレイユ。『ー』だよ『ー』」


「シルク様、ソレイユ様に『魔詞』は使えません……。極希にいるのです。魔術に適応できない方が。彼らは『魔詞』自体を聞き取れず、理解できず、話せないのです」


「え、でもソレイユは魔力が使えたよ?扉を爆発させたり、竜巻作ったり、石の破片を溶かしたり」


「ええ。ですからそれは魔術ではなく、魔法だったのではないでしょうか?魔法なら自分自身だけの『魔詞』で使える……のではないかと」


驚異の真実。俺も天才だった。ただし、孤独の天才。誰にも理解できない、俺自身にも理解できない。


そんな天からの才能は意味あるのか?

次回『会見』

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