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魔法

ザレバとの決着の翌日、俺は熱を出した。


いや、火が出たと言うべきなのだろうか。しかし実際には俺からは火は出ていないわけだし。まあいい。その辺のことから話していこう。


朝、俺は女給さんに起こされた。


王様に世話係として付けてもらた女給さんだが、俺は彼女の世話になることは少なかった。日本で独り暮らしをしていたので大体のことは自分でできる。最初の頃は着替えや風呂を手伝おうとしてきたが、俺はそれを断った。当然だ。どっちも一人でできることでもあるし、どっちも他人に任せたくないことだ。恥ずかしいわ。


俺が部屋にいないうちに、掃除や洗濯等はやって貰っている。それも俺がやろうと思っていたが、最低限それぐらいはやらせて欲しいと嘆願されてしまった


仕事に誇りを持っている彼女に、『自分の事は自分でできるから何もしなくていいよ』と言ってしまうのはまずかった。俺としては楽にしてて程度の発言だった。しかし彼女からすれば『お前は要らない』、『お前に不満がある』と言われたのと同じだった。そりゃダメだわ。


俺は謝罪し、着替えの手伝いとかは素直に恥ずかしいからと伝えた。


そんなやりとりがあったせいか、彼女とは距離を感じる。多分怖がられている。旅に出る前に誤解をどうにかしたいが、難しいような気もする。何せ、会話もほとんどしていないのだ。


そもそも彼女とは、意外かもしれないが会うことも少なかったりもする。


ここで暮らしたこの数日。俺の一日は夜明け前から始まる。


それは彼女が起こしに来るよりも早い時間だ。俺は部屋を抜け出しこの城内の鍛練場に向かう。生前は日課で、ジョギングとストレッチ等の軽い運動を朝五時に起きてやっていたのだが、それがこちらの世界でも適応されていた。目覚ましなんかなくても勝手に起きてしまう。さすがに俺も苦笑いだ。

鍛練場で軽く汗を流した後は、同じ様に来ていた騎士さん達と大浴場に。来賓や王族用の浴場もあるが面倒なので、騎士さん達が使うところを一緒に使わせてもらっている。その後部屋に戻ってゆっくりしている頃に、彼女は起こしに来る。俺としては起こしにきたと言うよりも朝飯に呼びにきた感覚だ。ちなみにここで少し言葉のやりとりはある。


『ソレイユ様起きていますか?』

『ああ、ありがとう。』

多少違いはあるだろうがこんな感じだ。


朝食は初日は王様と一緒だったが、後は食堂だ。と言うか王様達に呼ばれない限りは、飯は全て食堂で済ませている。部屋に食事を持ってくると言われた事もあるが、俺の食事量を見て諦めてもらった。


食後は陽が暮れるまで、ずっと瓦礫撤去のボランティア。途中で飯を食ったり王様達に呼ばれることもあるが。それが終わればまた騎士さん達と飯と大浴場に行く。その部屋にいない時間を使って女給さんには部屋の掃除と洗濯。もっとも、洗濯は俺の服ではなくシーツとかだが。


だいたいそれで一日が終わる。細かく空く時間もあるがその辺は筋トレだな。


分かってもらえただろうか?俺は貴賓用の部屋に住んではいるが、実のところ生活は一兵卒と変わらないのだ。鍛練も飯も風呂も仕事も一緒だしな。そして一兵卒の皆さんは女給なんて付かない。結果として女給さんと接触の機会がない生活となっている。


長々と語ってきたが、そんな朝起きる事にすら女給さんの世話になっていない俺が、この日初めて女給さんに起こされた。ランニングも寝坊でサボってしまった。その事に気になった騎士さんの一人が女給さんに問いただした結果、少し早めに部屋に来て俺が寝ている姿を初めて見たそうだ。


まだその時点では体調はいつも通りだった。食欲もあった。寝坊も前日のザレバとのやり取りの結果だろうと思った。自らの手で殺した事で精神的にうんぬんとかの。まあ、ザレバが原因なのは間違ってなかったのだが。


問題が起こったのはボランティア中だった。いつものように瓦礫撤去だが、それも今日で終わる。ほとんどの瓦礫は撤去し終わり、残るは一番の大物だけだ。それは少しずつ端から砕いて撤去されていたのだが、今の俺なら持ち上げれると思った。そういや今日はどこか調子がよかったのかもしれない。普段よりも瓦礫が軽く感じていた気もする。それは兎も角として、大物の瓦礫を持ち上げようと気合いを入れ、掴んだ。


瞬間、瓦礫が溶けた。いや、熔けた。


全身から赤い魔力が溢れだし、持ち上げようと掴んだ瓦礫に流れ込む。そして熔けた。訳が分からんが目の前で、手の中でそれは起こった。


さらに赤い魔力は周囲の気温も上げる。いや、俺自身には暑さは感じていない。一緒に作業していた騎士さんによるとサウナのようだったとか。サウナと言えば90度とか100度越えたりする。そこまで行っていなかったとしても、閉鎖された空間でもないのに50度以上気温を上げた事になる。何もせず居るだけでそれだ。俺が誰かに触れたらどうなる?さっきの瓦礫みたいになるんじゃないか?周囲を見渡し、人のいない方に後ずさる。恐ろしい事にさっきまで立っていたところには、俺の足形が残されていた。


「みんな俺から離れろっ。何かかなり危険だっ。」


ここまで来ては、俺の身体の異変の原因は一つしか考えられない。ザレバから手に入れた赤い魔力。あれが今の状況を作り出していると。そう言えばシルクからも赤い魔力は貰っている。その相乗効果か?


どうすればいい?分からん。今まで魔力を使えた事は何回かあった。だが、どれも何故使えたか分からない。勝手に。突発的に。事故的に。そんな感じだ。どうすればっ。


「ーーー」


魔力を扱うときの声。シルクだ。


巨大な手が二つ。手の形をした青と緑の魔力が俺を握りしめる。


俺は氷付けとなった。




「もう、みんなに迷惑かけちゃダメだよ 、ソレイユ。」


「ああ、迷惑をかけては駄目だ。反省をしている。」


正座である。反省をする姿と言えば正座しかない。騎士さん達が見ていて恥ずかしくもあるが、それは仕方がない。迷惑をかけてしまったのは主に彼ら達にだからだ。


氷付けになること30分。赤い魔力の暴走は修まった。しかし今のままでは、またいつ暴走をするか分からない。もし列車や人混みの中で暴走をしたら大惨事だ。早急に魔力の扱い方を覚えなきゃならん。


「なあ、シルク。魔力の使い方……魔法を教えてくれないか?このままじゃ色々と危険だ。前に頼んだときは断られたがあのときと今じゃ状況が違うだろ。」


前と言うのは『詠嘆の地』での事だ。


「ふふーん、仕方がないなー。私に任せるんだよ。」


「おう。まずはどうすればいいんだ?」


「自分の中の魔力をね、きゅーって集めるの。こんな感じね。」


シルクは左右の手の人差し指を一センチ程離して、お互いを指し会わせる。おお、指先に力が集まっていく。右の人差し指からは青い魔力、左からは緑の魔力だ。


「でねっ、集めた魔力に『魔詞』でバーって何をさせるか言うの。ーー。」


短い魔力を扱うときの声。指と指の隙間に魔力が放出される。青と緑の魔力は融合し、小さな氷が発生した。そうか、あの声は『魔詞』と言うのか。しかし、やっぱり何を言っているか聞き取れない。どういう発音方法かも分からん。まあいい。魔詞はおいおい学んでいくとして、魔力を指先に集めたやつ、魔力の操作を身に付けれれば暴走の対処はできるんじゃないだろうか?


「シルク、俺は頭が悪いから一度に言われても散漫になってしまう。ここは段階的に教えてくれないか?まずは魔力の操作からだな。」


俺は本当に頭が悪い。技のかけ方とかも覚えるのに時間がかかったものだ。先輩にも後輩にも要領が悪いとよく言われた。一度覚えれば忘れることはなかなかないのだが。


「うん?だからきゅーって集めるんだよ。」


「きゅー?」


「きゅー。」


ああ、あれだ。シルクは天才か。独自の感覚で済ませているから人に教えるのが下手なやつ。某ナガシマさんとか。後輩もこんな感じだった。


『ガーっていってサッといきながらピョンと飛び付いて、ここをこうグルンとやって相手をバタンと倒して右手をピンと極めるんッス。』


あいつが得意だった、パンチを避けつつの飛び付き腕十字を教わった時に、あいつが言った説明がこれだ。


まあ、俺も頭が悪いなりに歳を重ねてきた。こういう天才には何人も出会って、経験を得ている。彼らは彼らなりに間違った事は言っていない。何を言いたいのかを導き出せる。……はずだ。


まずは俺の中の魔力を感じよう。


元々俺はこの世界の住人じゃない。魔力を感じる感覚もこの世界に来て得たものだ。得てからまだ数日。俺はまだこの感覚を、表面しか分かっていないのではないだろうか?


例えば嗅覚。匂いを感じるための感覚だが、その感覚を研ぎ澄ませれば、その匂いが何の匂いか、何処からその匂いがするのか分かる。


匂いと魔力の違いはあるが、この感覚をもっと意識する。もっと深く、もっと細かく。今までよりもより感じる様に。より多く、より大きく。


まず感じたのはシルクの魔力。さっきの魔法の名残か。あ、使い終わった魔法の魔力を感じたのは初めてだ。この方向性で間違ってないような気がしてきた。目を閉じ、感覚をさらに研ぎ澄ます。音や匂いに集中するときに、目を閉じて視覚を閉ざすことで集中するアレだ。


やはり感じたのはシルク。非常に小さいが今までそばで何度も感じてきた魔力だ、シルクに違いない。


人は生きているだけで色々な匂いや音を発生させる。 それと同じ様に、生きているだけで消費される魔力もあるんじゃないだろうか。今感じているのは多分それだ。感覚を広げると他にも微弱な魔力が幾つか。これらは騎士さん達か。


研ぎ澄まされた感覚が、今まで感じ取れなかった魔力を見つけ出す。魔力の名残、人の気配と言うべき微量な魔力。それらは俺以外から、俺の外から感じた。なら、今度は感じとる方向を変えよう。俺の中の魔力にその感覚を向ける。


とは言うものの、なかなか難しい。意識しないと自分の匂いや心音が聞こえないようなものか。どうするか何か目印みたいなものはないか?……ああ、ある。俺はある魔力を探すことにした。


それは一番よく知る魔力。さっきも外に向けての感知じゃ、真っ先に見つけていたシルクの魔力。俺の中にはシルクの魔力があるじゃないか。詠嘆の地で貰った魔力。厳密にはシルクの自身の魔力じゃないが、それを産み出したのはシルクだ。ならさっきの名残の様に、シルクの残り香的なものがあるはず。


程なくしてそれは見つかった。そしてそれを中心にして感覚を拡げる。すると、見えてきたのは大きな魔力の塊と、それと繋がる線。その線を魔力が通る。なんだろう、これは。実際に俺の肉体にあるものではなさそうだが。


「それが精神世界の心臓だよ。」


目を開けるとシルクと目があった。シルクは俺の両頬を手で挟み、俺の目からその奥を覗きこむ様にしていた。俺はずっと正座をしているので、目線の高さは同じぐらいだ。


「現実世界では血液を精神世界では魔力を。それぞれの世界の心臓がそれらを身体中に巡らせるの。」


「血液と魔力……か。」


俺は意識して血液を集める術を知っている。


パンプアップ。


筋トレ後……例えば腕立て伏せ後、大胸筋が一回り大きくなる事がある。これは鍛えた効果がすぐ出たわけではな、疲労した筋肉が栄養を求めた結果、血液が大胸筋に流れ込んだ結果だ。これはボディビルダーがコンテストの時により筋肉を魅せる為にも行われる。もちろん、肉体を魅せる職業である、俺達プロレスラーもだ。告知ポスターや雑誌の写真撮影前にはよくやったものだ。


魔力を血液の様なものと考えれば、それができるんじゃないだろうか。 無論 肉体と精神の違いはあるし、腕立てやダンベルをやっても意味はないだろう。ただ、俺は血液が一部に集中する感じを知っている。それを魔力に置き換える。


『きゅーって集めるの』とシルクは言った。それはこんな感じか?俺は意識して魔力を右手に集める。心臓と言うポンプから右手に魔力を送り込む。


ドクンッと心臓が脈打ったような感覚。同時に凄まじい疲労感。


「何だ……これは……。」


「良くできましたー。でもそれじゃ『きゅー』じゃなくて『ぎゅー』だよ。」


どうやら送り込む量が多すぎたらしい。しかし瓦礫を融かすほどの力でも、こんなに疲労はしなかったぞ。意識しての操作はいろんな意味で難しいな。


「兎に角、だ。魔力は集める事ができた。要練習だが。次ぎは『魔詞』か。何か簡単なのを教えてくれ。」


「ん?」


「あれ?」


何か言葉が通じていない。アレか。また天才と凡人の差か。


「だって、何をしようか考えたらその為の『魔詞』は頭に浮かぶよ?」


マジか。じゃあ……光れ。右手光れ。輝け。煌めけ。……。


五分ほど念じ続けるが『魔詞』なんて浮かばない。当然光らない。


「浮かばない。」


「おっかしーなー。」


お互いに首をひねる。


「おかしくないですよ。シルク殿が使っているのは魔法ですから。普通の人は使えないのです。」


オーガウさんだ。俺が起こした騒ぎのことを聞いてやって来たのだろう。


しかしマジで天才だったか、シルク。

次回『魔術』

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