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ザレバ

やっと色々と終わった。

一度闘い俺に負けた相手と再び対面する。

そんな事はレスラー時代にはよくあった事だ。

試合が、興行が終わればノーサイド。

飯を一緒に食うし酒も酌み交わす。

負けた相手だけじゃない。俺に勝った相手とも同様だ。

そりゃ、感情としては色々と相手に思うところはあるさ。勝てれば誇らしいし、負ければ悔しい。当たり前の事だ。

だが、プロレスラーってのは勝敗を決めるだけの存在じゃない。

俺と対戦相手は観客を喜ばすエンターテイナーでもある。

敵対する相手でもあり同じ目標を持った同士でもある。

だから勝敗とは別にその試合が盛り上がったのならお互いを誉め交わし、ショッパイ内容ならお互いに反省をした。


それもこれも、命のやり取りをしていた訳じゃないからだ。


勿論、試合中は命懸けだ。

殺気を持って相対する。

死んでしまいかねない技を相手に使う。

そして油断一つで命を落とす。


実際にそうなってしまった仲間もいる。


それでも俺達の間に命のやり取りはない。

矛盾しているのかも知れないが、死なせてしまう技……いや、ハッキリ言おう。殺す気の技を相手に使っていても信頼しているんだ。


『この技を使ってもこいつは受けきってくれる』


この試合までに殺す力と共に、その力さえも受けきる力を鍛えていると信頼している。

持ち得る最高の力をぶつけ合い、最高のパフォーマンスを引き出す。

だから命懸けだが命のやり取りは、ない。


そういう世界で生きてきたからこそ、ガイドゥのように命のやり取りをした相手と再び対面するのは初めての事だ。


俺の中に怯えはある。

ガイドゥの死は既に決定している。

そんな相手と何を話す?

何を言われる?

どんな目で見られる?

分からない。知らない。だから怯えがある。


それでも俺はガイドゥと会う。

何を言われようが、どんな目をされようが全て受け入れる。

それが俺の闘った結果だから。

この世界で生き、これからも闘って行くには必要な事だからだ。

そんな覚悟をもって、ガイドゥが取り調べを受けていると言う部屋の扉を開けた。


「……モグ……モグ……よく来たな……モグ……ソレイユ……ゴクン。」


そんな覚悟をさせた相手は 取り調べ室でカツ丼を食べていた。机、椅子、ライト、カツ丼。昔の刑事ドラマに出てきそうな部屋だった。


「……なあ、オーガウさん。あいつ何でカツ丼を食っているんだ?と言うか何だ、この部屋。」


「取り調べ相手にはカツ丼を食べさせる。それが初代国王様の頃からの決まり事ですが?この部屋の配置も含めて。」


「あ……ああ、決まり事か、それは仕方がないな。」


「ええ。私もちょっとどうかと思うところもあるのですが、ずっと続けられてきた事なので。」


取り調べ室でカツ丼ってお約束だが……ちなみに俺が取り調べ(事情聴衆だったか)を受けたときにはA定食かB定食の二択で、奢りじゃなく自腹だった。そういやあの時の事務所あらし、結局捕まらなかったなあ……。


「角なしの飯は初めて食ったが、なかなか美味いもんだな。少し味が濃いが。」


ガイドゥが卵でとじられた豚カツを、ひょいと摘まんで食べている。両腕には木の枷。折れたはずの骨はもう大丈夫なのか?


「体調はどうだ?」


「さっきまでずっと寝ていたからな、少し頭が痛いし腹が減って仕方がない。だがこの通り、腕も足の爪も治ったぞ。尾もこの通りだ。」


両手足を俺に見せる。どちらも枷がかけられているが元通りに見える。尾も生え替わったのか元通りに見える。そのままでは両足よりも危険なので、右脚に縛り付けられて自由に動かせないようだ。


「数日寝ていただけで骨折が治るなんてデタラメすぎるぞ、竜人。」


「我の爪も尾も効かぬお前の方がデタラメだ。」


カツだけを食い終わった丼を持ち上げたと思うと、丼のままバリバリと食い始める。


「おい、丼は食い物じゃないぞ。」


「……そのようだな味がない。」


「味の問題か?固くて食い物じゃないって分かるだろ。」


「ギース鳥の卵に比べればこんな物、チャダ菜みたいな物だ。それよりも聞きたいことがあるのだろ?何でも答えよう。さあ、さっさと話せ。時間がもったいない。」


ギース鳥もチャダ菜も知らないが、どうやら固い物の代表と柔らかい物の代表ってところか。まあいい。オーガウさんから貰った質問表をさっさと済ませよう。




質問にガイドゥは全て素直に答えた。


と言っても、殆どこいつの知らないことだらけだったが。嘘ではないようだ。オーガウさんから聞いた所、真偽を確かめるだけなら可能な方法があるらしい。嘘発見機の魔法版と俺は理解した。間違っているかもしれん。あ、魔法の事後で教わらないとな。


結局の所、ガイドゥがやったのは突発的な思い付きであり、衝動的な物だった。本人が闘った時にも言っていた通りたまたま見かけた国を『収穫』として襲った。もっとも、そんな事で国を滅ぼされかけるのは、された方からすればたまったものじゃないが。


ガイドゥの親達……ゼレドの氏族も背後関係とかではなくこの国の近辺に居るわけでもない。そもそもガイドゥにすら今どこにいるか分からないと言う。竜人は狩の一族であり、一ヶ所に定住しない。いつも旅をし狩りを続ける。

何年か一度一族が集まるが、その時は匂いと特有の気配察知で見つけ出す。 集まれと鳥を使って連絡をいれたあとも(この鳥がギース鳥だとか)旅を続けるらしく、連絡が入ったあと集まれるのも年単位の事だ。気長な事だが人とは寿命すら十倍以上違うと言うので、根本的に時間の流れの感覚が違うのだと思う。


連れていたゴブリンも魔力溜まりの魔力を使って召喚したと言う。これは竜人に伝わる技法で、竜人災害(今回のような事をそう言うらしい)ではしばしば使われることで、取り立てて珍しい物でもないらしい。むしろ魔力溜まりからの自然大量発生じゃないだけ、今後としては有難い情報だったとか。召喚に魔力を使われた分、大量発生も遅くなるんだとか。


さて、質問表の事は全て聞いた。内容の分析とかはオーガウさん達に任せた。俺には分からんし。

これからするのはおれ自身からの質問だ。


「ガイドゥ。俺とお前は命のやり取りをして、俺が勝った。その結果、お前はいずれ処刑される。なぁ、何で素直に質問に答えた?何で恨み言一つ言わない?何で笑っていられる?俺には分からん。」


「ちょっと待った。なんだ、ガイドゥとは?我の事なのか?」


「ん?お前確かガイドゥなんちゃらって名前だったろ?長すぎて最初しか覚えきれんかった。」


「貴様……糞ッ、こんな頭の悪い猫に負けたのか、我は……。」


「待て待て、俺は猫じゃない。」


「猫だろうが」


「猫じゃなかったのですか?」


オーガウさん、お前もか。


「ライオンだ。鬣があるだろ。分かれよ。」


「ライオン?知らん。どういう動物だ。」


ん、居ないのか、ライオン。オーガウも首を振っている。


「獅子とか百獣の王とも呼ばれる動物だ。あらゆる獣たちの王って意味だな。俺の世界じゃ竜虎相搏つと言ってな、優れた物の双璧が竜と虎だ。で、その虎の上にいるのがライオンだ。」


たぶん。


「俺の世界……そうか、お前はあの異世界の英雄であったか。ふむ、その強さにも納得出来た。ライオンとやらが竜の上を行くと言うことには納得しかねるが。しかし、お前は我に勝った。それは事実。ソレイユと言うライオンはザレバという竜より強い。それも事実。」


「ザレバ?」


「そうだ、我の名はザレバだ。ガイドゥ・ギ・ゼレド・ディバウ=ザレバ。大いなるゼレドの氏族が一つザレバだ。」


ザレバか、ザレバ。ガイドゥより文字数が少ないしこっちの方がいいか。ガイドゥ・ギ・ゼレド・ディ……なんとかザレバ。ガイドゥだけだと大いなるとかそんな意味になるのだろうか。


「ならザレバにもう一回聞く。何でお前は笑っていられるんだ?」


「素直に答え、恨み言言わず、我が笑っていられるか、か。簡単なこと。我がお前よりも弱かった。強者は弱者に対し絶対。そして強者は讃えるモノだ。恨み言を言うようでは我自身を下に貶める事に他ならん。誇れソレイユ。勝者が敗者を強者が弱者を哀れむな。それは侮辱にしかならん。」


答えはシンプルだ。

強者絶対主義と言うのだろうか。現代社会じゃ色々と問題の起こる主義だが、俺は悪くはないと思った。

強者が強者の誇りを持つ限りは。


「さて、よく眠り傷は癒えた。飯も食い腹もふくれた。ソレイユ、お前に頼みたいことがある。本来なら弱者が強者に頼むことではないのだが……時間がない。」


ベキッと何かが割れる音。木の破片が床に落ちる。あれは……木の枷……その破片。そう気づいたときにはザレバの両手足は自由となり、その場に立ち上がっていた。。


グーパーグーパーと手の握りを確かめ、腕を降り治癒具合のチェック。奴はニヤリと笑う。そしてその場でステップ。あの闘いで腕をへし折ったあとに見せたやつだ。


油断させるためだったのか?実際に油断した。ザレバの言葉をすっかり信じた。糞ッ。完全に俺が悪い。


両腕が使える状態からのステップ、そして右のハイキック。


キックに両腕。一見関係ないように見えるが、それは違う。両腕が使える状態で鍛えてきたものなら、やはり両腕が使えてこそ十全。使える使えないでは体重移動、バランス、体幹その他多くの事全てに影響が出てくる。


つまり、これがザレバの本気のハイキック。


油断した上に最高のハイキックでは対応できない。認識は出来ているのに体が動かない。左頭部に迫る。首を刈り取るような鋭い一撃。当然ガードも出来ない。


吸い込まれるように、こめかみへハイキックが入った。


認識しても体が動かない。そういう状況は多々ある。不意の事故ってのは大半それじゃないか?精神の伝達速度より速く体は動かない。どんな人にも空白となる時間が存在し、それを埋めようと人は鍛練する。条件反射。繰り返し繰り返し鍛練する事で、考えるよりも速く体を動かす事を可能とする。


そう、認識は出来ていた。


その瞬間には体は反応していた。


と言っても、ガードができる訳じゃない。腕を持ち上げるにはスピードが足りない。


ただ、ほんの少し。


最小の動き、最低限のダメージの減少。


首を少し固め、頭部の向きを若干変えた。


100のダメージを精々98か99にする程度。


だが、減らせた1か2のダメージが俺に勝利をもたらす。


俺はハイキックが入ったまま、動き出す。ガードが出来ないのならガードのために動くのは諦めた。ハイキックには己の鍛練を信じた。ただ真っ直ぐに。最短距離で真っ直ぐに掌底を撃つ。ハイキックを放った直後の隙だらけの胸へ。


手が届く直前。ザレバは笑っていた。さっきのニヤリとした笑みではなく、こうなる事を確信していた笑み。


掌底はカウンターとして決まり、ザレバを壁にまで吹き飛ばす。


吹き飛ばされたザレバは半ば壁にめり込んでいた。胸への掌底は手の形に陥没させている。肋骨は粉砕。心臓には肋骨の破片が刺さっているだろう。即死じゃないのは竜人の生命力だからか。


そう、僅かな時の差でしかないが、ザレバはまだ生きている。さっきのまま笑みを浮かべて。


「何でこんなことを……。」


「くくく……これでいい。我はお前に殺されなければならん。処刑とやらでそいつらに殺されてやるわけにいかんのだ。」


こうなるためにわざとなのか、ザレバ。処刑か俺に殺されるか選んだのか。


「そんな顔をするな、ソレイユ。覆面越しでも分かるぞ。言っただろ、勝者は誇れと。」


「これに何の意味があるんだ。」


「意味?それならある。よく見ろ、我とお前の体を繋ぐ物を。」


ザレバの末端、両手足が燃えていた。いや、赤い魔力だ。ザレバの体が赤い魔力に変化していく。そして、その赤い魔力は俺に吸い込まれていた。


「ゴブリンが黒い魔力から産まれた様に、竜人は赤い魔力から産まれた一族と聞きます。」


ゴブリンの時と同じか。倒した俺に魔力を吸収される。あのときは魔物の黒い魔力で今回は竜人の赤い魔力。


「理解したな。我は我を倒したお前の魔力となる。何、放っておけば明日には死んだ身だから気にするな。」


「明日?オーガウさん処刑は明日だったのか?」


「いえ、まだ決まってないはずですが。」


「なんとか生きながらえていたこの命、これが尽きるのが明日だっただけだ。本来ならお前に負けた直後死んでいてもおかしくはなかった……がな。」


竜人の恐るべき生命力が命を繋いだ。すぐ死ぬ所を数日保たせたレベルではあるが。ただ、その死に方では魔力が勝者の物にはならない。勝者絶対主義としてはそれは納得の出来ないことだったらしい。だから、先程のやりとり。


「それに我の最高の蹴りをお前に見せたかったのでな。力量の差は分かっていたが、何処までその差を縮めれるか我は知りたかった。結果はこうなったが……ああ楽しかった。」


やがて全身が赤い魔力となる。ザレバの輪郭はもうぼやけている。


「そうだ、ソレイユ。我の魔力を得た事で、いずれお前は親父どのと対する事になるだろう。親父どのは我よりもずっと強者だ。お前でもどうなるか分からん。だから楽しんでくれ。」


「ああ、強者の誇りに賭けて。」


「くくく、それこそ『ジルバの法』。じゃあな。」


そこに残されたのは赤い魔力の塊。

以前、シルクから受け取った赤い魔力よりもさらに大きいそれは、俺に吸収される。


こうして、英雄召喚されて最初の闘い、ガイドゥ・ギ・ゼレド・ディバウ=ザレバとの闘いは幕を閉じた。

次回『魔法』

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