シゲーロへ
旅立ちの日が決まった。
20日以上の列車旅。あっちでも経験した事がないな。まあ、地方巡業は兎も角、旅自体殆どしたことがないが。思い出せるのも小中高の修学旅行位か。あ、後、テレビの旅番組に二回ほど。こうしてみると前の人生は娯楽関連の経験が少ないな。身体を鍛え、試合をし、傷を癒す、そのローテーション。そこに後悔はない……が、折角の新たな人生だ。この旅に世界の危機が関わっているので不謹慎かも知れないが、少しは楽しんでもいいかもしれない。
それはそれとして、いざ日にちが決まったものの、俺がやらなければならないことはそんなにない。アクエリアスさんとやる国民への会見、ガイドゥへの面会、細かいミーティング位か。
会見は王様やオーガウさんと話し合い、姿を見せて一言程度の挨拶で良くなった。竜人を撃退したという結果と俺の姿自体が安心と説得力をもたらすらしい。マイクパフォーマンスは苦手な方なのでありがたい。アドリブは利かないし語彙も少ないのだ、俺は。
ガイドゥにはこのあと会いに行く。リストアップもすぐにできるとの事。あいつには何を言われる事やら。
そう言えば旅の準備はどうするのだろうか。
「各国への書状等が有りますが、それらは同伴の者に持たせますわ。ソレイユ様とシルク様の私物もその者達に持たせてやってくださいませ。」
「自分の物は自分で運ぶが?」
「肩身離さず持っておく物以外は運ばせてやってくださいませ。彼らはそれで賃金を得ているのですから。」
成る程。そう言えば下積み時代に荷物持ちとかやったな。試合に出れるほどの力もなく、身体もできていなかった頃、飯は寮で食わせて貰えた。金を産み出せない代わりに、そう言う面で会社の役に立とうと頑張ったものだ。
ただまあ、身一つでこの世界にやって来た俺には、用意するもの自体がない。着替えでさえ、この衣装一つで十分……と言うかこれ一着しかない。
そう言えばシルクは衣装を幾つか持っている。まだ三日の付き合いだが同じ衣装を見たことがない。どれも白いワンピースなのだが、若干デザインが違う。
「シルクは荷物をどうするんだ?」
「私?私はここに入れるから大丈夫だよ。」
「ーーー。」
魔力を操作する声。相変わらず何を言っているのか聞き取れない。音は届いているのだが、何を言っているのか理解できないのだ。魔法は使ってみたいし、旅に出るまでに聞いてみよう。詠嘆の地では教えれないと言われたが、一緒に旅をする今ならどうだろうか?無理ならオーガウさんに相談でもするか。
そんな事を考えていると、シルクの左手の上に黒い魔力の塊が現れる。そこに右手を突っ込み、中からおにぎりを取り出した。……なんだ、それは?見るとオーガウさん達も固まっていた。
「シルク嬢……それはもしかして空間系魔術……でしょうか?」
「なんか便利そうな魔法だけど、珍しいのか?あ、いいわ。オーガウさんの顔見れば分かるわ。」
「空間系魔術はその使い手が殆どいない魔術ですわ。シルク様のお使いになった亜空間収納なら、魔術で作り出した空間に様々な物を収納して、重さを気にせず持ち運び出来ますわ。」
そいつは確かに便利そうだ。漫画で出てくる不思議なポケットみたいなものか。
「その有効さ故に各国から引く手数多。現在使えるとされる者は現在11人と言われてまして、このカツーにも一人いるだけなのですよ。シルク嬢は12人目ですね。」
隣でおにぎりを頬張るこの白い少女が、そんな珍しい能力の持ち主とは見えないだろうなあ。ただまあ、それ以上に珍しい存在だったりもするが。
俺をあっちからこっちへ喚んだのは目の前の第二王女様だが、それを実行したのはシルクだ。そして詠嘆の地からカツー王国に移動したのもシルクの力だ。空間から空間への移動と考えれば、それも空間系魔術か。ついでだ聞いてみよう。
「空間移動となりますと殆ど居ませんわ。過去の英雄様の中にに使える方がいたと聞いたことがありますが……も、もしかして……」
う、これは隠しておくべき事だったかな。アクエリアスさんが完全に固まっていた。
「使えるよ。知らない所には行けないけどね。」
そこへ『たいしたことじゃないよ』とばかりに答える。目線はおにぎりにしか向いていない。
「シルク様。それは一度に何人ほど移動できますかな?後、距離範囲も。」
顎に手をやり何やら思惑顔な王様。サンタの様ににこやかないつもからすると珍しい。初めて見た。
「ソレイユ入れて10人かな。ソレイユはおっきいから3人分だよ。距離は魔力次第だけど、特に消耗しているんじゃなかったら関係無いから、端から端まで一瞬だよ。あ、でもね一度使うと1日使えなくなるよ。」
「むう。のうアクエリアスよ、これはシルク様の能力もこの旅の行程に考慮する必要があるかもしれんぞ。」
「はい、お父様。」
これでこの面会は終わった。これからシルクの能力を考慮した行程について話し合うそうだ。そりゃそうだ。行きは兎も角、帰りはシルクのお陰で一瞬だ。行って帰って来るだけなら半分の時間で済む。時間的に行程から切り捨てた所にもいく余裕もできるだろう。
ま、その辺は任せよう。俺は部屋を後にする。シルクとオーガウさんもだ。
「ソレイユ殿、竜人に会いに行きましょうか。そろそろリストアップも終えているはずです。」
「ああ。シルクはどうするんだ?」
「食堂でお菓子食べてる。おにぎり食べたらお腹空いちゃった。」
それは何かおかしい。ほら、オーガウさんも苦笑気味だ。さっき食堂でどんぶり飯食べていたじゃないか。いや、今さらか。
さあ、ガイドゥとの面談だ。
次回『ザレバ』




