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アクエリアス

『ぶっこ抜きジャーマンスープレックス』


ジャーマンスープレックスと言う技がある。背後から腰に抱きつき、抱き上げつつ、そのまま後方に投げる。言ってしまえばただそれだけの技だ。シンプルだが、人を持ち上げて投げるという力強さ、人一人分の高さから後頭部を投げ落とされると言うダメージの想像のしやすさ等で、これぞプロレスと称する人もいる。後輩の話だとこれかバックドロップは、プロレスラーの出るアニメや漫画、ゲームでは必ずと言って良いほど出る技らしい。


そして『ぶっこ抜き』がこの技名の頭につく場合。『ぶっこ抜き』とは普通、強引に物を抜く事を言う。この技の場合はその言葉通り、うつ伏せに寝ている相手へ強引にこの技をかける。パワフル度は増し、観客へのアピールにもなる。


また、ジャーマンスープレックスは投げ技でもあり、固め技でもある。つまっり、投げ終えた状態をブリッジで維持することで、相手をフォールすることが出来る。


ワン


ツー


スリー


俺は心の中でスリーカウントを唱える。その間、ガイドゥは動かない……生きてはいる。こいつの背中に密着している状態だ。嫌でも心臓の音は聞こえる。


クラッチを解き、立ち上がる。……うわぁぁ……ガイドゥを中心にクレーターが出来てる。ガイドゥも半ば埋もれていて、俺が離れても倒れない。良く生きてるな、コイツ。竜人の頑丈さには呆れるわ……ブーメランが返ってきそうだが。


「ソレイユ頑張ったねー。」


マントをクイクイっと引っ張られる。何だと思えばシルクだった。


「おう。そうだ、ありがとうなこの衣装。これがなけりゃヤバかったかもしれん。」


「ふふーん。」


「後、耳の事なんだが……」


「すまない。話させてもらってもいいだろうか?」


ん?ああ、団長さんだ。団長さんはこちらに近寄ると、その場で正座をする。そしてガイドゥに折られた剣を前に置き、頭を下げる。剣に片手をおいた土下座のような……なにこれ?


「私があなたに対して行った無礼な態度の数々。どれも許してくれとは言わないが、謝罪をさせていただきたい。そして竜人からの危機を救ってくれた事に感謝を。」


「私からも。この国を救って頂き、英雄様に多大なる感謝を。」


こっちは王様だ。王様も似たようなポーズだ。違うのは前に置く剣が、派手な鞘のナイフとなっているところぐらい。辺りを見ると他の騎士さん達も同じようにしている。


立っているのは俺とシルクだけだ。あ、あと逆立ちでガイドゥ。


「立って下さい。なんか嫌です、これ。セッキョーしているみたいで心苦しいし。」


「セッキョー?」


体育会系だとイロイロとあるのだよ、シルク。


「しかし礼儀として……」


「感謝と謝罪は受け取ります。だから立って下さい。」


この国の感謝を表すのがこのポーズみたいだが、王様を土下座させるってのはどうなんだろうか?所変われば品変わるとは言うけどさ。


「しかし英雄様……」


「それも禁止だ。」


「え?」


「様付けも止めてくれ。俺はそんな偉い人間でもないからな。」


「あなたは英雄召喚の儀で喚ばれた訳ですし、実際に竜人を討ち倒した英雄様ではないですか。」


「召喚で喚ばれたのは確かなんだろうけど、俺はこの世界では何もしていない。ガイドゥにしても、俺一人しか闘ってきたわけでもないだろ。そこの団長さんも闘ったし、他の騎士さん達も、この国の人たちも闘ったんだ。なら、困難に立ち向かった人たち全員が英雄と呼ばれてもいいじゃないか。」


ちょっと臭いか?でもこの国の人達は闘っていたし、その中には死んでしまった人もいると思う。ぽっと出の俺がかっさらって、一人英雄と呼ばれるのもどうかと思う。


「英雄さ……いえソレイユ殿。私は近衛兵団団長、オーガウです。」


団長さん、オーガウさんか手を差し出す。俺はその手を握る。握手だよな、これ?間違ってないよな?

あ、きちんと握り返してきた。握手だ、うん。


「おお、アクエリアスは……わが娘はその命をもって偉大な英雄を召喚してくれた。これがあの娘の運命だったのですな。」


なんか悲しそうで諦めたような、でも納得もしているような王様。ちょっと待て。アクエリアス……第二王女だよな、俺を喚んだと言う。


「どういうことだ、その、第二王女は?寝込んでるとは聞いたが。」


「今は意識なく床に臥せっており、日に日に衰弱しております。あまりもう長くはないと、治療師も言っております。儀式失敗の結果と思っておりましたが。しかし、あの娘も喜んでくれることでしょう……。」


「まてまてまて、おいシルク。第二王女さんは俺を喚んだ結果、死んでしまうのか?」


「んー、そんなことはないと思うよ。儀式の維持で魔力を強制的に使われていたけど、ソレイユはもう召喚されちゃって儀式も終わったからね。今は魔力の回復が始まってると思う。」


「だ、そうだが……」


うわぁ……王様また土下座してるよ……。オーガウさん助けて。


「誰かっ、誰かアクエリアス様の容態を見てきてくれっ。治療師も連れて行けっ。」


結果として、第二王女さんは助かった。


原因不明の衰弱で手のつけようがなかったらしいが、原因さえわかれば対処法はあり、魔力増幅剤と言うのがあるらしい。同じ対処はしたことがあったそうだが、その時は儀式の維持で根こそぎ魔力を持っていかれていたので、薬が効いている様に見えなかったとか。


その後、一度目を覚まし軽い会話もできたそうだ。今は体力回復に寝ているだけとのこと。


魔力は使いすぎると昏倒し、マイナス分は体力で補うのがこの世界の法則だそうな。だから第二王女さんはあと数日昏倒が続いていたら、治療師さんとやらが言っていた通り亡くなっていたと、シルクは言う。


「今度から英雄召喚の儀を今回の方法でするときは、赤の月にしないとダメだよ?」


「はい、シルク殿。古文書にもそう記しておきます。」


ちなみにシルクの事は英雄召喚システムではなく、魔力操作の達人のパートナーと紹介した。王様は何か思うこともあるようだが、それで話は通した。


なお、ガイドゥは手足を拘束して牢に入れられている。満身創痍なあいつだが、それでも人類には強敵だからこその処置だとか。色々と聞き出したいらしいがダメージが大きかったのか、こちらも意識不明だ。


そして三日がたち、第二王女さんは短時間なら面会できるようになった。


まぁ、大丈夫になるまでこっちが辞退してもいたんだがな。体力は資本だ。無理させてもロクな事がないし。

次回『召喚理由』

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