ドラゴンスクリュー
「あの魔人、竜人と互角だ……」
「寧ろ圧倒しているぞ、あの魔人……いや、英雄……様……なのか?」
「……うぅ……え……英雄……?」
「王っ、目を覚ましになられましたかっ。」
「おお……オーガウか、大丈夫だ。まだ少し目眩がするが。して……英雄……とは?」
「あの者です。あの、竜人と一人で渡り合っている者。王座の下、地下から現れ自らを英雄……太陽の勇者ソレイユと名乗っております。」
「王座の下……地下の召喚の間か……」
「王っ、知っておられるのですか?」
「うむ……王家の者しか知らぬ特別な間よ。……そうか……アクエリアスの召喚の儀は成功しておったのか……」
どうやら、あのサンタ王様が目を覚ましたようだ。ついでに俺が召喚された英雄と、はっきり明言してくれた。これで後の面倒は減ったかな。
それにしても俺の耳、かなり良くなってるな。結構な距離でボソボソとした声なのに 、はっきりと聞き取れる。ただ、登頂部がモゾモゾしているのが気になる。そこにはライオンの耳があった様な気がするが……まさかな。
今はこの闘いに集中することにしよう。細かい事はシルクに聞こう。
さてガイドゥだが、ステップを踏んでいる。へし折れた両腕は、動きの障害にはなっていないようだ。くそっ、少しは痛そうな素振りをしろよ。
さっき騎士さんが『圧倒している』と言っていたが、俺としてはたまたまあびせ蹴りが決まってただけだ。
確かにダメージはあたえた。だが、そのダメージはガイドゥの動きに何も影響がない。元々腕を攻撃にも防御にも使っていなかったんだ。そしてダメージを受けたことで、もう油断はない。ここからは『勝つ』ための闘い方になるはずだ。
ガイドゥが動く。
スピードが上がっていた。あのステップか。予想とのずれで俺の動きが遅れる。蹴りが来る。くそ、迎撃は無理。受ける……ぐふっ。蹴りが伸びただと?受けも遅れた。トゥキックか。爪先の蹴りに変えてきやがった。そしてガイドゥの爪先は鋭い爪だ。引き裂き、突き刺す。そんな事が容易に出来る爪だ。
ガイドゥは既に5メートルは離れていた。ヒット・アンド・ アウェイ、一撃離脱。蝶のように舞い、蜂のように刺す 闘い方だ。
爪先が刺さった腹を擦る。穴は空いてない。シルク特製衣装には感謝しかないな。そう簡単には出血のダメージを受けそうにない……が、
「これも完全には効かんか。しかし少しは効く。」
そう、一発一発じゃ大したダメージにはならない。しかぢ、積み重ねればどうなるか……なぶり殺される未来しか浮かばないな。ヤバいな。一方的にやられてしまう。
槍の突きの様な蹴り。タイミングが取りにくい。緩急の付け方に予想がたたない。何発も蹴りを食らう。むぅ、これも尾の影響だ。あいつは蹴りの瞬間に尾を地面に叩き付けることで、爆発的な伸びを出しやがる。突進力も段違いだ。カウンターも狙えねぇ。
なら、離脱時にダッシュで間合いを詰め……ぐわぁっ。野郎退きながら火を吐きやがった。
小さい火の玉だ。数も1つ。でも速い。ダッシュ中には迎撃が間に合わない程に。受けるにもダッシュをしながらじゃ無理だ。威力もまともに食らっていい程弱くはない。
「くく、貴様は強い。しかしその強さは、手の届く範囲内のみの強さだ。ならば、届かない範囲で闘えばいいだけのこと。」
確かに言われた通りだ。前の世界じゃ、拳銃相手に喧嘩しても勝てる気がしない。
でもな、こっちの世界なら。
火の玉だけなら負けない。迎撃しつつジリジリと追い詰めることが出来る。それはガイドゥも理解している。だからヒット・アンド・ アウェイで直接攻撃をする必要がある。
俺は掌底を捨て拳を握り、防御の構えをとる。頭部はこれで守る。
「守りを固めても長引くだけで結果は変わらんっ。」
「言ってろ。防御は攻撃の起点だって教えてやる。」
しばらく攻防が続く。厳密に言えば、一方的な蹴りのガイドゥと亀の様に防御に閉じ籠った俺だ。
ガードをしつつ様子を見るが、やはりタイミングが取りにくい。
だったらタイミングを外されても、速く鋭く硬い攻撃をするまでだ。そいつによるカウンターを狙う。
腰を中腰に。頭部は引き続きガード。これで狙って来るところは限られる。ああ、挑発だよ、これは。ここを打ってこいってな。お前なら乗ってくるだろ?
ガイドゥがニヤリと笑う。
ここからがこの攻防の最後の流れだ。こいやぁっ。
挑発に乗ったガイドゥの蹴りは最速だった。両脚と尾のバネを同時に使った、全身を矢と化した跳び蹴り。全ての力が右足爪の先一点に集中される。それがガードされていない腹部に。
俺はその最速に、俺の最速で迎え撃つ。
肘。
エルボーだ。プロレスじゃある意味ポピュラーな攻撃。速く鋭く硬い攻撃として、俺はこれを選んだ。ガードの構えからでも使えるのも優秀だ。
欠点はリーチが短い。だがそこは、相手から近付いてくるので解消される。狙うはただの一点。
鈍い衝突音と破砕音。
ガイドゥの脚の爪を粉砕っ。
「やった」
誰かの呟く声。シルクか?
その時腹部に衝撃が。
撃墜されたガイドゥが体を捻り、尾による攻撃をがら空きの腹部へとしていた。
あれだけの爆発的なダッシュを可能とした尾。リーチも脚以上にあり、しなるそれは鞭の様でもある。両足の蹴りよりも遥かに威力があった。これが本命。
「ああっ、竜人にはそれが……」
これは団長さんだな。
ああ、これが本命。爪による最速の蹴りは前座だ。
そう、俺の本命。
威力が高いことは予想できた。
いつか来るとも予想できた。
なら、いつ来るか?
大技だけにいざって時に来る。
例えば、最大の攻撃を乗り越えた瞬間。
その時の一瞬の安堵の隙を突いて。
尾の攻撃で吹き飛ばされる前に、その尾をしっかりと掴む。
そして倒れ混むように尾を捻り、投げ飛ばす。
尾が俺にあたえた威力を、そのまま尾に返す形だ。
ドラゴンスクリュー。
本来、蹴りに対して使う技だ。
受けから一転、相手を投げる。その静から動の流れは観衆を魅了する。見映えも良く、分かりやすい逆転劇の為、『太陽の勇者ソレイユ』の使う技の一つとしても設定されている。まあ、ドラゴンスクリューではなく、ソレイユスクリューという技名になっているが。不器用な俺はこれを習得するために、先輩から何万発の蹴りを食らったか覚えてない。
ガイドゥの尾はほとんど千切れていた。無理もない。最大の攻撃をそのまま返されたのだから。
今ガイドゥに残された四肢でまともなのは左足だけだ。両腕はあびせ蹴りで、右足はエルボーで。しかしガイドゥなら、残された左足だけで立ち上がり、まだ闘い続けるだろう。
だから俺は。
倒れているガイドゥの腰を掴み。
クラッチし。
ぶっこ抜き。
背後へと。
反り。
投げた。
○ソレイユ vs ガイドゥ・ギ・ゼレド・ディバウ=ザレバ ×
[6分14秒]
ぶっこ抜きジャーマンスープレックス
次回『アクエリアス』




