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受ける

向かい合う俺とガイドゥ・ギ……なんだっけ……ガイドゥでいいわ、長いし。目があった瞬間にはお互いにダッシュで詰め寄った。


ガイドゥの蹴りと俺の掌底がぶつかり合う。生身同士がぶつかり合ったとは思えない大きな音。空気が弾ける。周囲の瓦礫も吹き飛ばされ、俺達を中心とした直径10メートル程のサークルができる。これが今回のリングだ。


「くくく。『ジルバの法』を知っていたか。角なし共は、大抵卑怯とか言い出すのだがな。」


俺達の闘いにゴングも、背を合わせ五歩歩いたらとか、コインを放り投げ地に付いた瞬間とか、そう言うスタートの合図は要らなかった。名乗りあったときにはお互いに闘う事は決まっており、始まりもお互いのタイミングで、だ。相撲の立合いと同じ。それが『ジルバの法』だろう。


常在戦場という訳ではない。しかし俺がガイドゥと対面する前から、ゴブリン達と対面する前から、この場は戦場だ。闘いはとっくに始まっていたのだ。ならば出遅れたり不意を突かれた方が悪い。


「変わった型だが、いい突きだ。我の蹴りを止められるとはな。期待はしていたがここまでとは。ああ、わが父ガイドゥ・ギ・ゼレド・ディバウよ。このジルバに巡り合わせてくれた事、感謝だ。」


ガイドゥの蹴り二発。ボクシングのワンツーを蹴りで行う。バランスがいいというか器用というか。どうやらガイドゥは蹴りを主体とした闘い方をするようだ。俺はそれらに掌底を合わせる。パリィと言うには打撃より……迎撃だ。受け流すのではなく、蹴り足自体にカウンターを決める。


ちなみにガイドゥと俺とは身長差が50センチ程。肩までもないガイドゥ相手には、俺の掌底は全て打ち下ろしとなる。体重がのっている俺の掌底とガイドゥの蹴り。蹴りは突きの三倍とか言うが、威力は互角。ならこれならどうだ。


ガイドゥは身長差からハイキック気味だ。俺はその軸足を狙う。足払い的なローキック。蹴りのワンツーを迎撃された後でバランスは多少崩れている筈だ。転ばせた後なら蹴りの威力は落ちる。一方俺の方はいくつも攻撃の選択肢が増える。


が、


「迂闊だぞソレイユ。」


軸足が既にそこになく、俺は空振っていた。


そして顔への衝撃が3つ、4つ。左右から来る蹴りが止まらない。


たまらずバックジャンプ。離れた事でガイドゥの全身がよく見えた。


何てこった。


俺は異世界を甘く見ていた。ゴブリン相手に楽勝だったので、どこか油断していたのかもしれない。あいつらの闘い方は人よりだったし。


人とは似て非なるシルエットである竜人。まさか尾を第三の脚として使ってるとは。ガイドゥは尾一本で立っていた。改めて思い知った。闘っている相手は人ではない。人との常識を当てはめてちゃ駄目だ。そう言えばカンガルーが似たようなことをしているのを、テレビか何かで見たことがある気がする。


「頑丈だな。生かすために手加減はしたが無用だったか。」


あれで手加減か。脳が揺さぶられ、ちょっとクラクラする。だが、手にも脚にも力は入る。ダメージは微弱。呼吸の乱れもない。


運が良かった。一瞬の隙が致命的な事になることもある。気を引き閉めろ。油断なんぞ出来る立場じゃないんだ。


自分の両頬に張り手で気合いを入れる。


「ゴブリンとの闘い、そして今の攻防。我は理解したぞ。お前は強い。だが、こう言う闘いではどう出る?」


そう言うとガイドゥほ大きく息を吸い込む。あれはさっきの火か。マントを拳に巻き前方へダッシュ。俺には長距離に対して攻撃の方法がない。間合いを離しちゃ駄目だろう。一方的に火で炙られる。弾いて間合いを詰める。


が、またもや予想を外される。


ガイドゥが吐いたのは今回も火の塊。しかし数が違った。5つ。大きさは先程よりもふたまわりは小さく、スピードは速い。


くっそぉ。俺は脚を止め火の塊を迎え撃つ。


1つ、2つ……衝撃はさっきよりは小さい。だが、反動がない訳じゃない。3つ……1つ弾く度に反応が遅れていく。4つ……なんとか弾けた。しかし次は……無理か。


やられた……俺は諦めた。


弾くのを諦めた。


マントで身を包むのも無理だ。だが、俺の身を包む衣装。これもシルク特製だ。そしてこの身体も。


諦めて覚悟を決める。


受けてたってやろうじゃないか。


「こいやぁっ」


火の塊を胸で受ける。直撃だ。爆発も起こる。


その衝撃はあの時のトラック以上。一瞬、死がよぎる。


しかし、だ。俺の身体はあの時以上。油断もせず、覚悟も決めてある。


ああ、そうだ。


プロレスラーは相手の攻撃を敢えて受ける。正面から受け、全てを受けきる。肉体を信じろ。魂を信じろ。この身体は魂の修練が元に出来たモノだ。


俺は前の人生で生半可な修練をしていない。


物心ついた頃から強さに憧れた。一人で生き抜くために鍛えた。目標を見つけてからはいじめ抜いた。レスラーになってからも、怪我をしてからもずっと。


「……耐えたぞ。」


ガイドゥが驚いた顔をしている。どうだっ。

衝撃には身体が耐えた。熱にはこの衣装が耐えた。


「次はこっちの番だ。」


短いダッシュから跳び、あびせ蹴り。一瞬で間合いは縮まる。ガイドゥは両腕をクロスにし頭上からの蹴りを防御をする。


ガイドゥ、それは悪手だ。


あびせ蹴りは前回り受け身からはなつ、文字通りあびせ倒す蹴りだ。今持つエネルギーを蹴り1つに集中させる。それを安易に受けるモノじゃない。両腕のブロックなんぞ障害にもならない。ここはかわすか受け流すのが正解だ。


もしかすると。


もしかするとガイドゥは、俺への対抗で受けたのかも知れない。受けきった俺に対し、自分が避けるのは『逃げ』と判断したのかもしれない。


鈍い音がし、ガイドゥの両腕が折れる。そのまま頭部を狙うが蹴り脚を若干反らされ、肩へと当たる。威力も本来のそれよりも下がっていた。


それでも大ダメージなのは違いないが。


「どうだ、まだやるかい?」


「当然だ、ようやく我も暖まってきたところだっ。」


やはりな。戦闘スタイル的にもプライド的にもガイドゥはまだ闘える。


レフェリーのストップはない。

終了のゴングもならない。


まだ、闘いは終わらない。

次回『ドラゴンスクリュー』

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