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六話

タケルと別れた後、結城は砂浜を縁取るように続く小道を歩いた。

さらさらとした白い砂の感触が、いつしか硬い土の感触に変わり、道は緩やかな上り坂へと続いていく。


両脇に生い茂る夏草が、潮風に揺れてざわざわと鳴る。

坂を登り切った先は、空と海が溶け合うような岬になっていた。


そこだけが、世界の果てのように静かだった。


「……あ」


岬の先端、断崖に守られるようにして立つ一本の松の木のそばに、彼女はいた。


夏の陽光を透かすような、抜けるほどに白い肌。

風に遊ばれる漆黒の長い髪は、まるで深い夜の欠片を紡いだかのようで、そのコントラストに結城は息を呑んだ。

彼女が着ているセーラー服の襟が、パタパタとはためく。その青いリボンは、目の前に広がる海の色をそのまま写し取ったかのようだった。


少女は海を見つめていたが、結城の足音に気づくと、ゆっくりとこちらを振り向いた。


その瞳もまた、夜の海のように深く、黒い。

整いすぎていて、どこかこの世のものとは思えないほどの透明感を纏った少女だった。


「……こんにちは」


少女の声は、鈴を転がすような清涼感を持って、結城の鼓動を揺らした。


「ここに来る人は、珍しいわ。あなた、昨日来た人でしょう」


彼女は小さく微笑んだ。

初対面の緊張を解くような、けれどどこか切なさを孕んだ微笑み。


「どうして、分かったの?」

結城が問い返すと、少女は岬の下、遠くに見える町を指差した。


「ここからは全部見えるのよ。町の人たちが、誰に笑いかけて、誰にみかんをあげたのかも。」


彼女は結城の隣まで歩み寄ると、同じように海を眺めた。

都会で「放置」という無関心に晒され続けてきた結城にとって、彼女の放つ静かな、けれど確かな存在感は、あまりにも強烈だった。


「君も、この町の人?」

「そう。でも、みんなとは少し違うかもしれない。私はずっと、ここでみんなを見ているだけだから」


少女は水平線を指さした。

「ねえ、結城くん。あそこの、空と海が混じり合っているところ。あそこに行けば、嫌なことは全部消えるって、信じる?」


彼女は、結城が誰にも言わなかった「心の空洞」を、一目で見抜いたような目をしていた。

結城は、自分の整った顔の裏側に隠していた臆病な本心を、彼女になら曝け出してもいいような気がした。


「……消えるなら、行ってみたいと思う」


結城の言葉に、少女は「そう」とだけ言って、少しだけ彼の方へ体を寄せた。

潮風に混じって、石鹸のような、そして夏の終わりのような、淡い香りがした。


「私は、しおり。よろしくね。」


それは、家にも、学校にも、都会のどこにもなかった、新しい物語の始まりだった。

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