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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第九章「目覚めたクッカ」

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第87話 クッカの脱走劇

「おぢづいだ?」


「あ…… ごめん……」


 クッカは涙が落ち着いたアーロの頭をわしゃわしゃと撫でた。長く寝ていたクッカにとってアーロと離ればなれになった日は、ついこないだのことのように感じていたが、前よりも大人になったアーロの顔を見ると時の流れを実感した。


 アーロはクッカの顔を見て、恐る恐るクッカの髪を撫でた。前とは違うより優しい触れ方にクッカは心臓が高鳴った。


 クッカはアーロの目を見るのが気恥ずかしくなって、少し視線をそらす。


「そういえば、アーロはどうしてエルフになってるの?」と恥ずかしさをごまかすためにクッカは聞いた。


 アーロは六年間クッカを取り戻すためにパルタやヘルミと旅をしていたことや、キンチャと再会しポッソに変装のための幻術をかけてもらったことなどを簡単に説明した。


「なるほど、じゃあこの長い耳は幻ってことだね」


「ちょっ!――」


 クッカがアーロの耳を触る。長く伸びている部分は手がすり抜けて触れず、アーロの本来の耳はさわることができた。アーロはクッカに耳を触られると顔を赤らめた。


「――やめなさい」


 いつまでもクッカが耳を触っているとアーロに手を掴まれて、耳から手を避けられてしまう。


「……クッカこそ、どうしてこんなところにいるんだ? 捕まってたんじゃなかったのか?」とアーロは目を瞑って深く息を吐いてから、クッカに聞いた。


 クッカは魔王城にいた六年間は殆ど寝ていたことや夢で前世の記憶を見せられていたこと、前世で自分とアーロとスムが経験した出来事をアーロに話した。


「クッカと俺が前世で恋人同士だったって話はヘルミから聞いてたんだ。クッカを置いていなくなったってところが納得できてなかったんだけど、そういうことだったんだな」


「アーロはスムのこと許せない?」


「いや、前世のことだからな…… 正直に言うと気にしないよ。だってクッカの話だと、そいつなりに俺たちのことを考えてくれてたんだろ? 今更恨んだりはないな」


「良かった! 私も同じ気持ちだったの。でも、スムはかなり罪悪感を感じてるみたいでね…… だから、私、スムの望みを叶えようと思うんだ」


「クッカがそのスムってやつを倒すってことか?」


「うーーん、スムとしてはぼこぼこにしてほしいのかもしれないけど、それだと魔王軍とも揉めることになりそうでしょ? スムが死ぬと『復活の術』と『不老の術』は消えちゃうわけだし。だから、もっと平和的に解決しようかなって」


「どうやって?」


「私、前世の記憶を取り戻して思い出したことがあるの。

 スムの『復活の術』と『不老の術』は、スムの両親から引き継いだ術なんだけど、私もスムと同じように前世の両親から特別な術を伝授されてたことを思い出したんだ。その術でスムも魔王軍も説得できると思うんだ」


「どんな術か聞いてもいいか?」


 クッカは頷いてからアーロに耳打ちした。


「その術すごいな…… 確かにそれがあれば、交渉の余地はあるかもしれない」


「でしょ? それで私は前世の記憶を頼りにこの洞窟に来たの。今は、前世みたいに無尽蔵に魔力が使えるわけじゃないから、魔石を使って術を使うのに足りない分の魔力を補完しようと思ったんだ」


 クッカはそれから、魔王城を抜け出してきた話もアーロに話して聞かせた。




 * * *




 クッカは相変わらず魔王城では自由に過ごすことを許されていた。

 シロのお世話という名の監視はあるものの、魔王城内を散策する分には全く注意はされなかったし、シロは兵士ではなかったため目を盗んでいなくなることなど、クッカにとっては造作もない事だった。


 夜になり、クッカはいつものようにベッドに入って寝た――ように見せかけた。


 シロはクッカの穏やかな寝顔を見て満足そうにクッカの部屋を出ていった。

 クッカはすぐに動いた。前もって魔王城の倉庫から盗んでおいたピッケルをベッドの下から引っ張り出し、こっそりと部屋を抜け出す。そして、魔王城の一番高い塔を目指して音を立てないように走った。


 今の時間ならタイヴァスが塔の上に戻ってきてるはず――クッカはそう確信していた。


 クッカが螺旋階段を駆け上り塔の一番上に出ると、そこにはアイスブルーの羽毛に覆われていたドラゴンが丸くなって寝ていた。


 クッカはニヤリと笑う。


「起きろ、タイヴァス」


 タイヴァスは大きなあくびをして起き上がった。まだ寝ぼけているようだ。


「ふわぁぁ、誰です、こんな夜更けに…… って、陛下!?」


 クッカは驚くタイヴァスを無視して、タイヴァスの背中に跨る。


「タイヴァス、王都の西の森に魔石の洞窟があるのを覚えているな。昔、私とお前で行ったことがある」


「あぁ、あそこですね…… はい、覚えてはいますが……」


「今すぐ、そこへ向かって飛べ」


「え…… しかし、陛下。魔王城から出ないようにスム様から言われているのではありませんでしたか?」


「明日の朝には戻ってくるから、つべこべ言うな!! それとも、お前は育ての親の私の言うことが聞けないのか!?」


 クッカは思い出した前世の記憶を頼りに前世の自分を演じた。今思えば、前世の自分はやりたい放題のとんでもない暴君だった。クッカは自分のことだと思うとちょっとだけ恥ずかしくなったが堪えて演じた。


「えぇ…… 仕方がないですね。スム様が心配しても知りませんからね」


 タイヴァスは大きな翼を広げて、星の輝く夜空へと飛び立った。




 * * *




「――という訳なのだよ。すごいでしょ!」


「うん…… クッカが相変わらず、とんでもなく無謀なことをしてるって言うのはよく分かった」


 アーロは呆れたような顔をしながらも、笑いながらクッカの話を聞いてくれた。クッカはもうそれだけでアーロのことが大好きだと改めて再認識した。


「へっくち!」


 身振り手振りを交えて説明していたクッカは、またくしゃみをした。いよいよ体が芯まで冷えてしまっていた。


「アーロ…… くっついてもいい?」


 アーロは「いいよ」と二つ返事をし、トゥリチットゥをクッカの前にグイっと押し出してきた。

 クッカはその対応にはムスッとした顔をした。アーロとクッカの間に挟まれたトゥリチットゥは深いため息を吐いてからぱっと消えた。


「あれ?! トゥリチットゥ!?」


 アーロが何度もトゥリチットゥを召喚しようと名前を呼ぶがトゥリチットゥは応じず出てこない。


「隙あり!」


 クッカは慌てるアーロの胸に飛び込んだ。


「……私、アーロが好き。子供のころから、ずーーーっと好き。もう子供じゃないから、ちゃんと見てくれる……よね?」


 クッカは恥ずかしさでアーロの顔は見られなかったが、初めてアーロに自分の気持ちを打ち明けた。


 クッカはアーロの返事を待ったが、待てども待てども返事も動きもない。


 クッカが心配になって顔をあげようとした時、アーロがやっと「ごめん」と呟いた。








 クッカはアーロに断られたと感じ、目頭が熱くなったがアーロがすぐに

「ほんとは、俺もずっとクッカが好きだったんだ」と言った。


 クッカが顔をあげると、クッカはアーロに唇を奪われた。

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