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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第九章「目覚めたクッカ」

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第81話 ケト草原での攻防

 アーロはムスタに【隠れ蓑】を使わせた上に全速力で走らせた。連続では一時間しか使えないと言うのだから、その一時間で距離を稼ぐしかない。

 幸いにもケト草原は人の背丈ほどある植物が生えているところもある。【隠れ蓑】が切れている間は、そういった茂みの中に隠れるしかないだろう。


 ちょうど一時間ほど走るとムスタの歩みが遅くなった。【隠れ蓑】の効果が切れる前に、アーロはムスタごと背丈が高い茂みの中に潜り込み身を隠す。


 アーロとパルタは目を合わせてからほっと息を吐いた。


「まだ、見つかってないと思うか? ヘルミ」


「もし見つかってたら、こんなゆっくり休んでなんかいられませんよ。このあたりにどの隊が派遣されているのか、僕は知りませんがきっと草原地帯を得意とする隊が配属されているはずです。油断は禁物ですよ」


 ヘルミは耳とお髭を動かして、きょろきょろとせわしなくあたりを警戒している。


「まぁ、でも四六時中気を張ってたら疲れてしまうからな。努めて気を抜くってのも大事だと俺は思うぞ」とひげパパは水筒を出して水分補給する。


「分かりました。では、お二人とムスタが休憩している間は僕が周囲を警戒しておきます」


 ヘルミはムスタの頭の上に乗り、全身の毛をモフッと広げた。不謹慎かもしれないが、その可愛いモフモフにアーロの顔は緩んだ。


 アーロもひげパパに倣って、水分を取り、ムスタやヘルミにも飲ませた。以前の旅では、クッカが水魔法を使えたので水分の心配はいらなかったが、今回はそうもいかない。マジックバックに一週間分の飲み水は入れてあるが、できることなら余裕を持って補給しておきたいところだ。


 アーロは茂みの中に座り込み、空を見上げた。青い空には白い雲がゆっくりと流れていく。


 アーロは魔王軍に捕まったクッカがどうしているのかを想像した――がなんとなく泣いてはいないような気がした。

 クッカは自身のピンチを楽しむような人間だとアーロは思っていたので、案外楽しくやっているのではないかとすら思えた。ヘルミの話によると危害は加えられていないだろうとのことだから、もしかしたら魔王軍の魔物たちを困らせているかもしれない。

 アーロはクッカを攫っていったアイスブルーのドラゴンをクッカがおもちゃにして困らせている様子を想像して、フッと笑いがこみ上げた。


(早く、クッカに会いたいな……)


 流れる雲を見ながら、アーロはしみじみとそう思った。





 しばらく休んだ時に、ヘルミの耳がパタパタと慌ただしく動く。


「お二人とも、何者かがこちらへ近づいてきています! ムスタにくっついてください!」


 アーロとパルタは言われた通りにムスタに体を寄せた。ムスタはすぐに【隠れ蓑】を使って、二人と一匹を隠した。






「匂うな…… 匂うぞ! 人間の匂いだ! 随分追い払ったと思っていたが、彼奴等まるでウジのように湧いて出てきおる」


 前方に短い草が生えた場所に現れたのはコボルトだった。青い体毛に犬のような姿。体には鎧をまとい、クンクンと鼻で匂いを嗅いでいるようだった。




 アーロはふとあることが不安になった。


【隠れ蓑】では匂いまでは消せないのではないか――ということをだ。


 全身を冷や汗が伝うのを感じた。


 コボルトは一体しかいないが、匂いを頼りに少しずつこちらに近づいてきていた。

 ちょうどアーロたちが隠れているところから5mくらい離れたところでコボルトは足を止めてニヤリと笑った。どうやら場所が完全にバレてしまったらしい。


「アーロ、やるぞ」


 パルタはそう言うと一気に茂みから飛び出して、コボルトに向かって斧を振るった。アーロも咄嗟の判断だったがキヴィを召喚し、パルタを援護した。


 コボルトは剣を抜き、パルタの初撃は何とか防いだが、パルタの力強い一撃で剣をはじかれバランスを崩した。

 そこにキヴィの岩が無数の弾丸のように飛んできて、コボルトは抵抗する間もなく黒い塵となって消えた。


「ど、ど、ど、どうするんです!! 見つかってしまったではないですか!!??」


 茂みから飛び出してきたヘルミは大混乱で地面をぐるぐると走り回った。


「落ち着け、ヘルミ。見つかったと言っても一体だけだ。他の兵士に情報がいくまで幾分か時間があるだろう。すぐに場所を変えれば囲まれることは防げるはずだ」とパルタは冷静に判断する。


 アーロはくるくる回るヘルミを抱き上げて撫でてやった。ヘルミの心臓がバクバクと音を立てているのをアーロは感じた。


「ヘルミ、奴らは塵になった後はどこに消えるんだ?」とアーロが聞く。


「塵になった兵士は魔王城で復活します……」


「さっきのコボルトはこの後どう動くと思う?」


「一度死んだ兵士はスム様に報告する義務があります。なぜ死んだのか、何にどこで殺されたのか、正確に把握されてしまいます…… 魔王城には魔大陸の地図もありますので、スム様はそれを見ながらコボルト隊に新しい指示を出すはずです」


 アーロも眉間に皺を寄せて考えたが、頭から煙を出して答えがまとまらなかった。


「今、姿を見られたのは俺とアーロの精霊だけだ。アーロと俺がバディを組んで移動していることまでは魔王軍にはバレていないと考えていいだろう。このまま進んで問題ない。行くぞ」


「はい、ひげパパ! どこまでもついていきます!」


 おつむの弱いアーロはパルタに尊敬のまなざしを向けてパルタの指示に従った。



 * * *



 その後、ケト草原の移動は以外にも順調だった。コボルトに一度見られたことで、敵襲が多くなることを予想していたアーロは完全に肩透かしを食らった気分だった。

 しかし、二日かけて草原を横断し、メツァ大森林が見える丘まで登った段階で、その理由が明らかになった。


 コボルト隊がメツァ大森林を背にしてずらっと一列に並んでいたからだ。一体ごとに10mくらいの間隔を置きながら周囲を警戒しているようだ。等間隔にコボルトが配置され、見つかれば一気包囲されてしまうだろう。


「まぁ、考えてみれば当然か。向こうは魔王城に俺たちを近づけさせなければいいだけなんだから、どこか見通しのいい場所を重点的に警備させた方が見落としは防げるわな」とパルタはひげを撫でながらそう言って、次にどうすべきかに考えを移す。


「何とか気づかれずに、あの警備を掻い潜らなきゃいけないですよね? どうするんです? ひげパパ」


 もちろん、アーロに名案など浮かぶはずがない。


「俺たちだけだと無理だな。一度タロまで戻るぞ」


「え!? せっかくここまで来たのに!?」


 驚くアーロのでこにパルタがデコピンをする。


「俺たちが死んだら、おそらくクッカの捜索は打ち切りになる。一人を助けるために何人も死傷者を出していたら採算が合わないからな。ここは街まで戻って協力者を探すのが最適解だ」


 パルタの判断は実に冷静だった。本国で娘と嫁になじられている様子とは全く別人のようだとアーロは思った。パルタは仕事と家庭ではキャラが違うタイプらしい。


(これが、A級勇者の判断力か……)


 アーロは改めてパルタの凄さにただただ感心するばかりであった。

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