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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第九章「目覚めたクッカ」

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第78話 クッカ、魔王城を探検する

 クッカは鏡台の前に座り、シロに髪を梳かされていた。この部屋で目覚めてから、一ヶ月の月日は流れただろうか。


 シロと過ごす毎日は平和で、クッカにとっては幸せな日々だった。

 食べては寝て、食べては寝て、暇になってきたらシロが歌を歌ってくれたり、竪琴を演奏して楽しませてくれた。


 起きてすぐのころは痩せ細り骨の浮いていたクッカだったが、食事も普通に取れるようになり、体型は少しふっくらとした印象だ。より女性らしい体型になったと言ってもいいだろう。


 シロはクッカの艷やかな髪を梳かしながら、健康的に膨らんだ頬を見て微笑んだ。


「クッカ様、すっかり元気になられましたね」


「うん! 絶好調! シロのおかげだね。ありがとう」


 実際にシロの献身的な世話が無ければ、クッカがこんなにすぐに回復することは無かったに違いない。

 初めの内は歩く事ですらままならなかったクッカの世話をするのは、相当に骨の折れる仕事であったはずだが、シロは疲れた顔をせずに一人でやり切ったのだから大したものだ。


 クッカはそんなシロに心から感謝し、鏡越しのシロに微笑んだ。


「とんでもございません! お役に立てて光栄でございます」


「今日は、魔王城を見て回りたいんだけど、いいかな? 前とどのくらい変わったのか、気になるし」


(何か大事なことを忘れている気はするけど、思い出せないものは仕方がない。散歩したら、何か思い出せるかもしれないよね)


 クッカはシロに心底感謝していたが、心からシロを信頼していた訳では無かった。


 何かを隠している——シロの態度からは、そんなように感じられてならないのだ。


「では、着替えましょうか。ナイトドレスでは肌寒いですし、城には魔王軍の者の出入りもありますから」



* * *



 シロに手伝ってもらい、身支度の終わったクッカは意気揚々と魔王城内を探険した。


 大きなりんごの木がある中庭、薄暗くて何かを企むにはピッタリな会議室、城下町を見渡せるものすごく高い塔。何処もかしこも昔と変わっていなかった。


 以前、スムと使っていたダイニングルームにまでたどり着いたクッカは、ふとスムの顔が頭に浮かんだ。


「そういえば、スムは何処にいるの? 私が目覚めてから、ずっと会ってないよね?」とクッカはシロに聞く。


「今、城下町に侵入しようとしている不届き者がいるようで、スム様や魔王軍は皆、その防衛に尽力しているのでございます」


「え!? 大丈夫?! 私も手伝った方がいいんじゃない?」


 シロはふわふわの両前足をぶんぶんと降ってクッカの意見を否定する。


「いえいえ、とんでもございません! クッカ様は目覚めてまだひと月しか経っておりませんから、しっかり休ませるようにとスム様からは言われていますので」


「でも…… じゃあ、次スムが帰ってきたら必ず教えて。私が寝てたら起こしてくれていいから。私、スムとちゃんと話がしたいの」


「承知いたしました。スム様がお戻りになりましたら、必ずお知らせいたしますね」


 シロはにっこりとクッカにほほ笑んだ。


 クッカはシロと過ごす一ヶ月で、シロの笑顔の意味が分かっていた。


 シロが嘘をつくときは、優しくにっこりと微笑むということをだ。



 * * *



 夜になり、クッカは静かな寝息をたてている。


 そこへ音もなく誰かがクッカの部屋に入って来た。

 そっとクッカに近づき、クッカの額に手をかざしたしたところで、クッカはすぐにその手を掴んだ。


「捕まえた」


 クッカの部屋に現れたのはスムだった。スムはクッカに腕を掴まれて、白いまつ毛をぱちぱちと瞬きさせている。


「起きてたのか……」


「どう? 驚いたでしょ?」


 クッカの何が気に食わないのか分からないが、スムは顔をしかめてクッカの手を払った。


「……ちゃんと記憶は戻ったのか?」


 スムはじっとクッカの瞳を見つめてから、疑わしげに言った


「うーーん。昔のことは思い出したよ。ここに来る前のことだけ、ぼんやりして思い出せないんだ」


 クッカが伸びをしながらベッドから起き上がると、スムはまた嫌そうな顔をして部屋のクローゼットからカーディガンを一枚出してクッカに投げた。


「ありがと、ちょっと寒かったんだよね」と言ってクッカは投げられたカーディガンを着こむ。

 スムは依然として顔をしかめたままでクッカのベッドの前の椅子に座った。


「……理解していないみたいだから教えてやる。私はクッカに嘘をついた」


「うん」


「そのせいでアーロは魔大陸に帰って来なくなり、クッカは死んだんだ」


「うん」


「本当に分かっているのか!? なぜ怒らない!? なぜ平気でいられる!?」


 スムは急に声を荒らげた。信じられない――といったような何か問いたげな眼をしていた。


「スムにも事情があったって、分かったから…… むしろ、私の方が謝りたいくらいだよ。私、自分のことしか考えてなかったから。スム……ごめんね、私のせいで辛い思いをさせちゃったよね」


 クッカのうなだれた様子を見て、スムは立ち上がって背を向けた。片方は拳を強く握り、もう片方は額を押さえていた。


「……じゃあ、これはどうだ。私は、人間の国で暮らすお前を攫って、六年もこの城に閉じ込めたんだぞ」


「あぁ、そっか! 思い出したよ! 私、ルノ王女殿下のお祝いの席で、タイヴァスにグワーッてされて、ヴァリスの歌で寝ちゃったんだ! それそれ! それだよ! あぁ、やっとすっきりした」


 スムの言葉にクッカは攫われる前の十歳の記憶をすっかり取り戻した。頭の中の靄が晴れたようにすっきりとした。しかし、やはり怒りは湧いてこない。強いて言えば、国の皆が心配しているだろうということだけだ。


 クッカの様子を見たスムは憤りのこもったため息を吐いた。


「……クッカのそういうところが嫌いだ」


「う、うん…… ごめん」


「もう二度とここからは出られないからな!」


 スムはそう言い残すと部屋を出ていった。


 ガチャリと扉の鍵が閉められる音がしてから、またガチャリと音がして鍵の開く音がした。


(閉じ込めようとして、やめた感じ……?)


 クッカはやれやれと肩をすくめた。


「うーーん、どうしたもんかねぇ」


 クッカは国に帰りたかったが、逃げ出してスムを一人にするのもなんだか嫌だった。

 クッカはさっきのスムの様子を見て、真剣にスムの気持ちをクッカなりに考えてみた。


(どうも、スムはわざと私を怒らせようとしているような気がするんだよね)


「スムは、私に殺してほしいのかもしれない」


 クッカはなんとなく、そんな気がした。



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