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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第八章「クッカの長い長い夢」

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第76話 永遠の暗闇

「スムさまぁぁ!!」


 クッカの部屋から、毛をゆさゆささせながらミミが飛び出してきた。

 魔国の長く厳しい冬が終わり、城下町や近郊の森で春の陽気を感じるようになった日のことだった。


「僕はとうとうやりました!」


 ミミは早く聞いて欲しそうに私の足元をぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 私はミミを抱き上げて視線を合わせた。


「どうしたんだ? 落ち着いて話してくれ」


「クッカ様がどうしたら元気になるのかを教えてくれたのです! 僕がこの数か月根気よく聞き続けた甲斐がありました!」


「それはすごいな! でかしたぞ!」


 クッカの気持ちも少しずつ回復してきたのかもしれない。


 私は、ミミの頭をガシガシと撫でた。ミミは嬉しそうに耳を後ろに下げている。


「クッカ様は『一日だけでいいから一人にして欲しい。そうしたら、気持ちを切り替えるから』って言ったんです! もう、僕、嬉しくて!」


 ミミの報告に少し引っかかることはあったが、クッカ自身が『気持ちを切り替える』と言ったことに私も胸が暖かくなるのを感じた。これでやっともとに日常が戻ってくる――そう思った。


「スム様、森にイチゴを採りに行きませんか? たくさん摘んで、クッカ様も驚かせるのです! きっと喜んでくれます!」


「あぁ、そうだな。クッカはイチゴが好きだから喜ぶかもしれない。ミミの言う通りにしよう」


 そうして、私とミミは一日イチゴ狩りに出かけたのだ。




 * * *




 籠いっぱいのイチゴを持って、夕方にミミと魔王城へ帰った。


 イチゴが痛む前にクッカに見せようと、クッカの部屋の扉をノックしたが、クッカの返事はなかった。

 カギはかかっていなかったので、私とミミはそっと部屋に入った。


「寝てるのか?」


 日が沈み、暗くなった部屋のベッドの上でクッカは壁側を向いて寝ているように見えた。

 しかし、部屋の中は嗅ぎなれた戦場と同じ血の匂いが充満していることに気が付き、私は持っていた籠を落とした。


 ミミが一目散にクッカに駆け寄る中、私は呆然と立ち尽くし動けなくなってしまった。


「スム様!! クッカ様が!! 早く来てください!!」


 ミミの声がどこか遠くから聞こえる気がした。


「スム様!!」


 ミミが私の足に噛みつき、我に帰った。急いでクッカに駆け寄ると、クッカの胸には一本の短剣が刺さっていた。ベッドには血がぐっしょりと染み込み赤黒くなっていた。


 クッカの顔はすっかり青白くなってしまっていた。震える手でクッカの頬に触れると石のように冷たい。


 私は急いで治癒魔法をクッカにかけ懸命に治療したが、クッカの青白い顔に血の気が戻ることはなかった。


「どうして!? どうして、クッカ様は復活しないのです!?」


 ミミはなぜクッカが蘇らないのか分からず、パニックになり部屋の中をぐるぐると動き回った。


 私はクッカのベットの上に石板が転がっていることに気が付き、拾い上げた。

 それは、私が『復活の術』を使うときに使用していた石板だった。そこには今まで『復活の術』で契約した者たちの名前がずらっと並び、刻まれている。

 その一番左上。クッカの名前があった場所が何かで引っ掻かれて消えていたのだ。


 その時私の頭の中に、八百年前の私とクッカがまだ子供だった時の記憶が蘇った。


 初めてクッカに『復活の術』で契約した時のことだった。




『これでよし。これで、クッカがもし死んじゃうような大けがをしても、私の前に元気な姿で復活できるようになったよ』


『わぁ!! すっごーい!! ありがとう!!』


 クッカは私の手を取り、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。


『ねぇねぇ、なんでも聞いてみるんだけど、もし術を解除したい時はどうするの?』


『うーーん? そうだな…… この石板にクッカの肉体と魂を紐づけているから、この石板のクッカの名前が消えれば、術も解除できるかな。でも、そんなこと絶対にしないよ。私はクッカに元気でいてほしいんだから』


『わかってるよーー。ちょっと気になっただけ』




 そうか、あの時……


 私はクッカにだけは、大昔に『復活の術』の秘密を話したことがあったことを思い出した。それこそクッカが魔王と呼ばれるようになる前のことなので、八百年は前のことであったが、クッカはそれを覚えていたのだろう。


 私は力なく石板をベッドの上に落とした。


「スム様!! クッカ様を助けてください!!」


 ミミは必死にスムの足を自分の前足の爪で引っ掻いて訴えた。


「……無駄だ。クッカはもう戻ってこない……」


 私はクッカの硬くなってしまった手を握りしめながら、その場に泣き崩れた。

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