第67話 ヘルミの語る真実
「アーロ、隠していたことがあるんだ」
そうアーロに声をかけたのは、アーロの足に自分の前足を乗せたヘルミだった。
アーロはもちろん、パルタとエリサ、三人が心配で近づいてきていたヘンリクまでもが驚いた。
「今喋ったの、ヘルミ?」
思わずアーロは聞き返す。
「そう、僕だよ。アーロとパパさんとママさん、あとヘンリク先生に話があるんだ。クッカ様に関わる大事な話だから、どこか別の場所で話したいんだけど」
「場所は私が提供いたします。いかがでしょうか、ふわふわさん」
そこに現れたのはルノ王女だった。彼女も昨日は寝ていないのか、目にはくっきりと疲れの色が見えた。
「私にもその話を聞かせてください!!」
カウッパ会長に連れられて現れたイェレもヘルミに駆け寄った。ちょうどクッカ捜索の結果を聞きに王宮へと足を運んだところだった。
「僕は構いません」とヘルミは淡々と答える。
「決まりですね。では、皆さん、どうぞついてきてください」
王女の案内で一同は王宮の一室へと案内された。
* * *
全員が椅子に座り、ヘルミを見ていた。ヘルミは大きな丸い耳を下げて、視線を落としたまま語り始めた。
「何から、話せばいいだろうか……」
「クッカは無事なのか!? ヘルミにはクッカの行方が分かるのか!?」
パルタは居ても立っても居られないといった様子で、矢継ぎ早に質問した。
「クッカ様は無事でしょう。彼らの目的はクッカ様に魔国へご帰還していただくことのみ。クッカ様は今頃、魔国中央にある魔王城にいらっしゃる筈です」
(魔国? 魔王城?)
アーロにとって知らない言葉が出てきて気になりはしたが、ひとまずクッカが無事だという話を聞けて、少しだけ心が軽くなる。
「ここからは、僕の昔話に少しお付き合いしていただければと思います。それを聞けばなんとなく現状を把握していただける気がしますので――」
ヘルミは小さな口をもごもごさせながら、ゆっくり丁寧に話し始めた。
千年以上昔のことになります。魔大陸は元々魔物や魔族が多く住む大地でありました。
多種多様な魔物や知性を持った魔族がそれぞれ独自の部族を形成し、毎日のように部族ごとの争いが絶えない時代が何年も続いていました。
その時代に終止符を打ったのが、クッカ様なのでございます。
「ちょっと待て! クッカは千年以上昔に魔大陸にいたってことか!?」
パルタはヘルミをむぎゅっと持ち上げてゆさゆさと激しく揺らした。
「パパさん、落ち着いて! 揺らされると気持ち悪いでふ!」
「もう、あなた、落ち着いて! あなたがいちいち話の腰を折っていたら、何時間あっても話が終わらないじゃない!!」
エリサに怒られて、パルタはシュンと小さくなった。
ヘルミは咳払いをする。
「おほん。色々つっこみたくなる気持ちは分かりますが、一度最後まで聞いていただければと思います」
クッカ様はスム将軍が率いる不死の軍隊と共に各地の争いを鎮めて回りました。そして魔大陸中の部族がクッカ様の軍門に下ることとなったのです。
クッカ様は魔大陸の王となり、魔大陸は魔国という名前の国となりました。
国と言っても何か政をするようなことは特になく、何か部族間でもめ事がおこった時にクッカ様が仲裁に入るといっただけのものではありましたが、クッカ様はその絶対的強さから国中の尊敬を集め、魔王陛下と呼ばれるようになったのです。
クッカ様の強さは他の追随を寄せ付けぬほど圧倒的ではありましたが、その強さを陰で支えていたのがスム将軍でございます。
あの方の特技に『不老の術』と『復活の術』というものがございます。
『不老の術』とは年を取らず、見た目や体力を全盛期のまま留めておくことのできる術です。
『復活の術』とは、その術をかけた者はたとえ死んだとしても、またすぐに蘇ることのできる術です。
この二つの秘術を使うことでクッカ様は長く王としての魔国を治めることができたのでございます。
クッカ様の治世が八百年と続いたある日のこと、魔大陸の海岸に一人の人間が流されてきました。その人間はアーロという名前の冒険者でした。
ヘルミがそこまで語ると、集まっていた全員がアーロのことを見た。
「いやいや、俺じゃないからね? 皆分かってるでしょ? 名前が同じってだけだよな?」とアーロはヘルミに問いかける。
「まぁ、そのこともひとまず置いておいて続きを聞いてください」
たまたま海岸を散策中だったクッカ様がアーロを見つけて保護したのでございます。アーロは魔大陸の外から来た冒険者でした。新しい場所を求めて航海をしている最中に嵐に巻き込まれ、魔大陸に流れついたのです。
クッカ様は怪我をしていたアーロを助け、クッカ様のお住まいである魔王城で介抱いたしました。
クッカ様とアーロはすぐに打ち解けて友人となり、そして恋人となりました。
その時のクッカ様の幸せそうな顔といったら——僕はあの日のクッカ様を今でも忘れられることはできません。
そんなクッカ様にとって幸せな日々が続いたある日、アーロは国に帰ると言い出しのです。
クッカ様と魔国に永住するために、国に残してきた家族や友人たちとしっかり別れを済ませてきたいとアーロは言いました。
クッカ様はそのアーロの申し出を快諾して、アーロを故郷へと転移魔法で送り出したのです。アーロが自ら魔王城へと戻って来られるように転移魔法の刻まれた巻物も持たせた状態でです。
しかし、アーロはいくら待ってもクッカ様の所には帰ってきませんでした。
アーロの事を心配したクッカ様はスム将軍にアーロの安否を調べさせました。すると、アーロは故郷で他の娘と結婚していたのです。
また、集まっているメンバーがアーロを睨んだ。
「だから、俺じゃないからね」
ヘルミもまた咳払いをしてから続けた。
その事をスム将軍から報告を受けたクッカ様は嘆き悲しみました。そして、自分の境遇を呪うようになったのです。
アーロと同じ国で生まれ変わりたいと毎日泣いて暮らすようになってしまいました。
当時、クッカ様の側仕えをしていた僕は、毎日泣いて過ごされるクッカ様がただただ不憫でなりませんでした。僕はただ、クッカ様に元気になって欲しかっただけなんです。
僕はどうしたらクッカ様が以前のように笑ってくださるか、クッカ様に聞きました。するとクッカ様は僕に言ったんです。「一日だけでいいから一人にして欲しい」と。
だから僕は魔王城に常駐していたスム将軍を誘って一緒に出かけたのです。クッカ様の好きなイチゴを沢山摘んで、クッカ様を励まそうとスム将軍に持ちかけたのです。
その日の夕方に帰って来てみると、とんでもない事が起こっていたのです。クッカ様は自らの胸に剣を刺して亡くなっていたのでございます。
クッカ様は何故か『復活の術』で蘇らなかったのです。クッカ様がどうやってスム様の術を破ったのかは、僕には分かりません。スム将軍が懸命に蘇生を試みましたが、お亡くなりになって時間が経ってしまっていて蘇生することは叶いませんでした。
クッカ様が亡くなってしまったことで、魔国中が悲しみに包まれました。そして、魔国はまた戦乱の時代へと突入してしまいました。
いつか世界の何処かで転生するであろうクッカ様を見つけて、また魔王に据えようと考えるスム将軍派とそれに反対する反魔王派に別れて大きな戦争となったのです。
最終的に勝利したのは、スム将軍派ではありましたが、魔国の多くの部族がその戦いで滅びました。
現在、あなた方が魔大陸と呼び、探索している土地はその成れの果てなのでございます。
それから二百年の月日が経った頃——僕は再びクッカ様の気配を感じました。世界の何処かにクッカ様が転生されたのを感じ取ったのです。
僕のこのふわふわボディはよく知った者の気配を繊細に感じ取る事が出来るのです。僕はすぐにスム将軍にこのことを報告いたしました。
そして、スム将軍は僕にクッカ様捜索の任をお与えになったのでございます。
僕は小さな体で旅を続けました。クッカ様の気配のする方へ、ただひたすらに走り続けたのです。
クッカ様を見つけたのはとある船の上でした。クッカ様の気配をすぐ近くに感じて、何処にいらっしゃるのか探そうと思い、船のマストの上に登りました。
あとは、アーロとヘンリク先生がご存知の通り、クッカ様が僕を見つけて抱きしめてくれたのでございます。あの時は二百年ぶりのクッカ様との再会でしたから、僕は胸がいっぱいになりました。
クッカ様は前世と変わらず、お優しい方で僕はとても嬉しかったのですが、前世の記憶を無くしていました。
僕はそこで酷く悩んだのです。「本当にスム将軍にクッカ様を見つけた事を報告していいのか」と。
クッカ様を探すこと自体に異論はありませんでした。クッカ様がお亡くなりになったことに、僕も責任を感じていたからです。
ですが、スム将軍に報告すべきかは悩んでしまいました。クッカ様が既にアーロと笑って過ごしていたからです。クッカ様は前世の望み通りにアーロの生まれ変わりとバディとなっていました。僕はこれを運命だと思ったんです。
「え? じゃあ、さっきの魔王クッカを捨てて国に帰ったっていうくそ野郎が俺の前世ってこと?」
アーロはついついヘルミに聞いた。
「うん、その認識で間違いないよ。僕は前世のアーロのことも知っているから、アーロがあのくそアーロの生まれ変わりだって、すぐに分かったんだ」
皆がまたアーロを睨む。
「いや、前世の話だからね! 今生の俺はそんなくそ野郎じゃないからね!」
まさか、前世での行いを責められる日が来るとはアーロは思っても見なかった。そもそも全く身に覚えがないのだから、自分のこととして責められるのは理不尽な気がしてならない。
他にも気になる事がある。本当に自分がクッカのことを捨てるようなことをするだろうか。もし、今の自分だったら考えられないので、それも腑に落ちない要因の一つだった。
「で、話を戻すね」と三度語りだすヘルミ。
僕は、楽しそうに笑っているクッカ様を見て考えを改めました。スム将軍に報告するのはひとまず保留にして、クッカ様をお傍で見守ろうと。また、アーロと引き離しては、前世の繰り返しになってしまうと思ったのです。今生のクッカ様はアーロと同じ国、同じ人間として生まれましたから、きっと創世の女神様がクッカ様の望みを叶えてくださったんだと考えました。
僕はクッカ様とアーロを見守っていました。
「でも、クッカ様とアーロが喧嘩して、クッカ様が酷く悲しまれた時がありましたよね。五年前のクースィの町でのことです。アーロとヘンリク先生は覚えていますよね?」
(あぁ、クッカがモスベアに攫われて怪我して、喧嘩になったことがあったっけ)
アーロとヘンリクはその時のことを思い出して頷く。
「あの時、僕は思ったんです。『やっぱり、このくそ野郎にクッカ様を任せてはおけない』と」
「おい」
アーロは思わず、話に割って入ろうとしたが、ヘンリクに止められて、文句を言いたい気持ちをぐっと押さえた。
「それで、僕はスム将軍に連絡を取ったのです。『クッカ様を見つけた』と」
「なるほど、あのおかしなカエルの軍隊はヘルミの差し金だったんだな」
ヘンリクはことのいきさつを理解して、ヘルミに質問した。
「はい…… そのことは謝ります。まさか、クロアーク隊が住民を殺して回るとは予想できませんでした」
ヘルミは本当に申し訳ないと思っているようで、大きな耳を前足で抱え込んで頭を下げた。
「その後もクッカの情報をそのスム将軍とかいうのに流していたのか?」とヘンリクは厳しい表情でヘルミに問う。
「いえ、あれ以降、僕からクッカ様のことを何か報告したことはありません。クッカ様とアーロは仲直りしましたし、また軍隊が住民を襲うようなことがあっては嫌でしたので、スム将軍には『クッカ様を見失った。また捜索を継続する』とだけ報告しました」
「じゃあ、昨日はなぜ魔王軍にクッカの居場所が知れてしまったんだ?」
「これは推測になりますが、クッカ様がクルホのダンジョンの隠し部屋で、スム将軍の部下であるリッチと戦闘になったことがありまして、そこからクッカ様がヴオリ王国の人間であることがバレてしまったのではないかと思われます」
「あ! 昨日王宮に現れたリッチ! どっかで見たことある気がしてたけど、そうか! クルホのダンジョンで確かにあれと戦ったよ!」
アーロもクルホの隠し部屋でのリッチとの戦闘を思い出した。
(あの時は、俺が先に気を失ってしまったんだっけ。あの後、クッカとリッチの間に何かあったのか? くそ! どうして俺は肝心な時、なんの役にも立たないんだ!)
アーロは心の中で自分を責めた。
「僕からの話は以上です。もう僕が隠していることは一つもありません」
ヘルミの話を聞き終わった一同は静まり返った。
クッカの状況やなぜ攫われてしまったのかは理解することができたが、この後どうすればいいかの打開策がすぐには思いつかなかったからだ。
「では、次は銀の聖女救出について話し合いましょう」
そう言ったのは、ヘルミの話を大人しく聞いていたルノ王女だった。
○作者から、読者様への謝罪
67話、長くなってしまい申し訳ないです! 切りどころが分かりませんでした!(/ω\)




