第66話 誕生祝賀パーティー -2-
王宮についたアーロは、王女殿下の控室に通された。そこにはいつも以上に美しく着飾ったルノ王女が待っていた。
「殿下、お誕生日おめでとうございます」
王女が手を差し出したので、アーロはその手を取りキスをした。子供のころ、母親に教えられ体に染みついた礼儀作法だった。
「ありがとう、アーロ。少し相談したいことがあります。座ってください」
アーロとルノ王女は向かい合う形で座った。
「アーロ、私はあなたを私の結婚相手の候補の一人として考えています」
「あ……はい」
ルノ王女はアーロの反応を見て、声を出して笑った。
「ふふ、アーロは昔から本心が顔に出るタイプでしたね。聞いておいて正解でした」
ルノ王女にはアーロの考えはお見通しのようだ。
アーロにとってルノ王女は憧れの存在だし、パーティーのパートナーに指名されるくらいなら、素直に喜べた。それはひとえに、魔大陸での勇者としての任務を評価していただけたということに他ならないからだ。しかし、結婚相手となると話は別だ。
アーロは自分に王配が務まるとは思えないのだ。
アーロは王女の侍女がいれてくれたお茶を飲みながら、王女と初めて会った日のことを思い出した。
まだクッカと出会う前、学園に通うもっと前からアーロは母に連れられて王女の遊び相手をしていた。
なぜ、自分が王女の遊び相手に選ばれたのか、アーロは知る由もなかったが、母が「あの人が掴んできたチャンスですから、無駄にしないでね」と耳もとで囁いていたのは記憶に残っている。母があの人と呼ぶのは、父だということはアーロにも分かっていたので、父に怒鳴られないように王女殿下に失礼のないように頑張った。
ルノ王女は幼いころから不思議な魅力を放つ少女だった。プラチナブロンドの髪に碧い瞳。王族特有の気品は幼い時からある彼女の特徴の一つだった。
ルノ王女の遊び相手をするようになったのは、ちょうど兄と姉に嫌がらせをされ始めた時期でもあったので、家から離れてルノ王女と過ごす時間はアーロにとって平和で貴重な時間だった。
ただ、アーロとルノ王女の関係は決して友人の関係と言えるものではなかった。そこには明確な主従関係が存在した。
アーロは王女の前で自分の我を通したことは一度もない。王女が「お人形遊びをしたい」と言えば付き合ったし、「ままごとがしたい」と言われれば文句を言わずに相手した。自分のしたい遊びではなかったが我慢した。後ろで母が見ていたからだ。アーロは母の落胆する顔を見たくなかったし、父に怒鳴られるのも嫌だった。
ルノ王女もお茶を一口飲み、昔を思い出すように話を続けた。
「子供の時も、私が『お人形遊びがしたい』と言ったらアーロは嫌そうな顔をしながら付き合ってくれましたね。ふふ」
まさか顔に出ていたとは知らず、アーロは焦って飲んでいたお茶を零しそうになった。しかし、ルノ王女にとっては面白い思い出の一つらしく、思う出し笑いを必死にこらえているように口元を扇で隠した。
「私は、アーロのことを友人と思っています。あなたがそう思っていなくてもです」
王女の碧く澄んだ瞳はアーロの何もかもを見透かしているようだった。
「友人の気持ちは尊重したいのです。もう私も幼い子供ではありませんからね。あなたが乗り気ではないのに、勝手に結婚話を進めたりはしないので安心してください」
アーロはそれを聞いてほっと胸を撫でおろしたが、王女がまたくすくすと笑うので姿勢を正した。
「あなたにフラれてしまいましたので、新しい候補を探さなければいけません。我が国の伝統を考えると勇者の中から選ぶのが一番国民の支持を得られますから、今日はあなたが私に勇者の方々を紹介してくださいね。さ、話はお終いです。さっさとエスコートしてくださいな」
アーロにフラれたことは全く気にしていないといった態度である。王女はもとよりアーロに恋愛感情などないし、そんなもので結婚相手を選ぶ気も更々ないのだろう。
「承知いたしました」
アーロとルノ王女は腕を組んで、控室を後にした。
* * *
ルノ王女とアーロが会場の大広間に入場すると、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
アーロは王女を王が既に待つ上座へと案内する。上座へ着くと、王が立ち上がり、「おめでとう」と言って王女を抱きしめた。王女も王に感謝を伝え、演台の前に立ち招待客に挨拶した。
「本日は私のために集まっていただきありがとうございます。今日ご招待させていただきましたのは、今年ご活躍された勇者や聖女の方々、国内の発展に貢献された方々です。ぜひこの機会に交流を深めていただければと思います。今日はどうぞ楽しんでいってください」
王女の挨拶でまた会場に拍手がおこった。
王女は自分の席に座り、ふぅっと息を吐く。あんなに堂々としていたのに実は緊張していたらしい。
アーロは王女の横に控えて、こっそり「お疲れ様です」と耳打ちした。
「えぇ、ありがとう…… ふふ、見てアーロ。あなたのバディがあそこでそわそわしてるわ」
王女が指さす方を見るとクッカが振り子のように揺れながらこっちを見ていた。正直ちょっと恥かしい。
横にいるイェレはクッカを御しきれずに困っている。
(おいおい、今日はお前がクッカを見てるんじゃなかったのか? イェレ)
クッカの行動が目に余ったのか、イェレを不憫に思ったのか、ラシットと腕を組んだヘンリクがクッカの後ろから現れ、クッカの頭を鷲掴みにした。
クッカはすぐに状況を理解して、血の気の引いた顔をするものだから、ルノ王女は扇で顔を隠して笑いを堪えた。
「もうだめ、あの子面白すぎるわ! ふふふ」
アーロは自分のことのように恥かしくて、額に手を当てた。
「ふふ、アーロ、会場を回ってきてもいいのですよ。ここにいてもつまらないでしょうし、あなたのバディもあなたのことを待っているみたいだから」
「え、よろしいのですか?」
「えぇ、でもダンスの時には戻ってきてくださいね。私はそれまでに、この行列を捌いてしまいますから」
王と王女の前には、二人に挨拶しようとしている招待客の列ができていた。
「ありがとうございます。では、少し失礼します」
アーロは早歩きでクッカのいるところへと急いだ。それを見た王女はまた扇で顔を隠し、肩を震わせて笑いを堪えた。




