第64話 誕生祝賀パーティー -1-
「うわぁ!! すごい!! アーロ、絵本に出てくる王子様みたいだよ!!」
パーティー用の正装に着替え、支度の終わったアーロにクッカは大興奮だ。アーロの周りをぐるぐる周って観察するので、アーロは照れくさくて頭を掻いた。
「そうかな…… なんだか、衣装負けしてる気がするんだけど……」
「そんな事ないよ!! すっごくかっこいい!!」
「ありがとう、クッカもかわいいよ」
クッカはさっと頬を染めて恥ずかしそうにした。予想外の反応にアーロは少し戸惑ってしまった。いつものように「ふん! 当たり前のことを!」とか生意気な返事が返ってくるとばかり思っていたからだ。
クッカの今日のドレスはくすんだパウダーピンクのドレスで、十歳にしては大人っぽい色味だ。
「ほんとに? かわいい?」
クッカは上目遣いでアーロに聞いてくる。なんだかアーロまで恥ずかしくなってきたので、クッカから目をそらして「……かわいいよ」と呟いた。
「ほら、二人とも! はしゃいでないで急がないと、駅でイェレさんをお待たせしてしまうわ…… ヘルミはママとお留守番していましょうね」
クッカの背中にへばりついて、こっそりついていこうとしていたヘルミはエリサに見つかりはぎ取られた。
* * *
最寄りのヴァロエミの駅には、正装したイェレが待っていた。
「クッカ、今日も飛び切り美しいですね! 贈ったドレスを着てくださってありがとうございます! 凄くよく似合ってます!」
イェレは珍しくテンション上がっている。無邪気に喜ぶ顔はホクホク顔のカウッパ会長を思い起こさせた。
「別に…… イェレがくれたドレスが家にあるドレスの中で一番上等だったから着ただけで、深い意味はないんだからね」
「はい! それでも嬉しいです!」
クッカはイェレの顔を見ないでぼそぼそとそう答えたが、イェレは全く気にしていないようだ。
(なんだろう、この感じ)
アーロは、クッカを見て喜んでいるイェレを見ると腹の中がむかむかして居心地が悪かった。アーロはこの感覚を前にも感じた事があるような気がして、少し考えた。
(そうだ、キンチャだ。キンチャがクッカにくっついていた時も腹の中が気持ち悪かった)
キンチャとはクースィの町で別れて以来一度も会っていない。
あの目障りな少年も今はイェレ位まで成長しているのだろうかと考えるとアーロはまた苛立ちを募らせた。
イェレを不快に思う気持ちはアーロだけではないらしく、クッカとアーロを見送りに駅まで来ていたくさパパもアーロと全く同じ表情をしていた。
くさパパはこそこそとアーロに近づき、アーロに耳打ちをする。
「アーロ、頼むからクッカとあの金持ちの息子を二人だけにしてくれるな」
「分かりました。できる限り頑張ります」
アーロも小声でくさパパに返事をすると、くさパパはアーロの目を見て頷いた。
そんな様子を意に介さず、イェレはクッカに手を差し出す。
「今日はクッカの為に特別車両を用意したんです! お手をどうぞ」
それを見たアーロは、クッカがイェレの手を取る前に自分でクッカの手を掴んだ。クッカは驚いてぎょっとした顔でアーロを見る。
「俺がいるうちはクッカの事は俺がみるから」
「……分かりました。保護者の方がそう言うなら」
イェレは大人しく引き下がって、二人を特別車両へ案内した。
「凄い! 部屋みたいだね!」
特別車両に乗り込んだクッカは豪華な内装に驚いた。特別車両の中は他の車両とは全く違う造りをしていた。豪華な照明がついた天井。テーブルやソファに至るまで、全てに高級感が漂っていた。
「クッカ、どうぞ座ってください」
クッカはふかふかのソファに座った。背中側の車窓からは見送りに来てくれたくさパパとエリサとヘルミが見える。ヘルミはエリサの腕の中で足をバタバタさせて暴れ、くさパパはまた泣いていた。
汽笛が鳴り、汽車が動きだした。クッカとアーロはエリサとくさパパとヘルミが見えなくなるまで、車窓から二人に手を振った。
しばらく走ると汽車の中でクッカとイェレはボードゲームを始めた。二人が遊んでいるのを見ているとアーロはまた腹の中がむかむかして不快だった。
アーロの不快感のこもった視線に気が付いたのか「アーロさんもやってみますか?」とイェレが言う。
「ルールを教えてくれ」
アーロはイェレにマンカラのルールを聞いて、何とか理解した。
「じゃあ、やってみましょうか」
イェレはかなり強かった。アーロのミスを見逃さず、アーロの石を容赦なく奪っていく。
クッカはアーロのミスが気になるらしく、「あぁ、アーロ、そんな事したらまたイェレに石取られちゃうよ!」といちいちうるさい。
完敗だった。手も足も出ないとはこの事か。クッカはもっとイェレといい勝負をしていたので、アーロは自分の頭の悪さがほとほと嫌になる。
「イェレ、容赦なさすぎ。私と初めてやった時はもっと手加減してくれたでしょ?」
「クッカとは沢山やりたいので、好きになってもらえるように手加減しました。アーロさんは年上ですから、そんな気遣いは逆に失礼でしょ?」
いちいち腹の立つ言い方をしてくる。
「気遣いはいらない。もう一回だ」
「いいですよ。アーロさんが諦められるまでお相手しましょうか」
王都に着くまで、何度となくイェレに再戦したが、アーロがイェレに勝てる事は一度もなかった。
連敗を期したアーロに変わり、またクッカとイェレが向かい合って勝負を始めた。
二人がああでもないこうでもない言いながら勝負をしている様子はアーロが入り込めない二人だけの時間のように思えて、はらわたが煮えくり返る思いだった。
アーロはくさパパが「クッカが金持ちの息子の嫁にいってしまうぅぅぅ」と泣いていた日のことを思い出した。
あの時は、何年も先の心配をしているくさパパは大げさだと思っていたが、アーロは考えを改めた。確かにこれは不快だ。自分が大切にしている妹のようなクッカがイェレと目を合わせて話をしているだけで腹が立った。
* * *
王都の駅に着くと、そこには王室からアーロを迎えに来た車とカウッパ家の車が止まっている。
「アーロは王女殿下のエスコートがあるから、先に行かなきゃなんだよね……」
クッカが少し寂しそうにしているので、アーロはいつもようにクッカの頭を撫でてやりたかったが、綺麗にセットされている髪が乱れてしまいそうで上げた手を引っ込めた。
「ごめんな。会場でまた会おう」
アーロはクッカに手を振ってから、王家の迎えの車に乗り込んだ。くさパパにクッカとイェレを二人きりにするなと言われたことも気になったが、そんなことは関係なく二人を置いて先に行くことがアーロは不安でならなかった。
窓からクッカを見ると、寂しそうな顔をして見つめてくるので、アーロは考えなしに陛下の申し出を聞いてしまったことを初めて後悔した。
(もし、また同じようなことがあったら、次は自分でクッカをエスコートしよう)
アーロはそう固く決意した。




