表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第七章「帰国」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/85

第63話 クッカのダンスレッスン

 本日は六回目のダンスレッスンの日。いよいよ本番のパーティーも目前に迫っていた。


 最初のうちこそ、イェレの足を踏んづけたり、バランスを崩して転びそうになっていたクッカだったが、回数を重ねるうちにイェレとの呼吸もあって失敗しなくなっていた。


 今日は一曲踊り終えると、ダンスの先生のバンス夫人が拍手をして二人を褒めた。


「ハカラ嬢、大変上達いたしましたね! イェレさんも完璧でございます! 私、感動いたしました!」


 バンス夫人はハンカチで涙を拭った。


(ふ、また私のファンを一人生み出してしまったか……)


 クッカは得意げに髪を手で流した。ふんぞり返って完全に天狗になっている。


「ここまで上達できたのは、夫人のご指導のおかげです。ありがとうございます」


 イェレが丁寧にバンス夫人に礼をしたので、クッカも一緒に「ありがとうございます!」とお辞儀した。


「夫人、あとは二人で練習してみます。母たちが夫人とぜひ話をしたいと言っていましたので、どうぞ休憩なさってください」


「まぁ、お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えて、失礼させていただきますわ」


 いつものように庭でお茶をして待っているカウッパ夫人とエリサがバンス夫人ににこやかに手を振っている。バンス夫人は部屋を出て、庭のお茶会に合流した。


 イェレは蓄音機を操作し、曲をまた頭から再生する。


「クッカ、もう一曲お願いします」


「いいよ」


 クッカはイェレが差し出した手に自分の手をのせ、再び組み合った。曲のリズムに合わせて二人でステップを踏んで踊る。


「クッカ、私たちなかなか息のあったパートナーになりましたね」


「そうだね!」


 踊りながら軽く話もできるのだから、本番でも安心だろう。


「一つ提案があるのですが」


「なに?」


「私と婚約してくださいませんか?」


 一瞬の沈黙。蓄音機から流れる音楽と二人のステップの音だけがなっていた。


「……急だね」


「私の中ではあなたと初めて出会った六年前からずっと考えていたことです。一流の聖女であるあなたに相応しい男になれるように、これまで私なりに精進してきたつもりです」


 急な提案ではあったが、実はクッカはイェレの好意に薄々気が付いていた。イェレの行動の端々、言葉の端々からクッカはそれを感じ取っていたが、ただ気が付かないふりをしていたのだ。


「嫌ですか?」


 クッカは踊りながらどう答えるべきかを考えた。答えはとうに決まっていたので、どう伝えるかの問題だった。


(遠まわしにお断りするのも、かえって失礼か……)


「私はアーロが好きだから、イェレの気持ちには応えられないよ」


 この気持ちに嘘はない。金の瞳の自分が言わせたのではない本当の自分の気持ちだった。

 イェレはふっと笑って「そうですか」とだけ答えた。


「ごめんね」


「いえ、謝らないでください。それに私はまだあなたをあきらめていませんから」


「ん? なんで?」


 イェレは余裕のある笑顔を崩さなかった。


「だって、アーロさんは王女殿下のパートナーに選ばれる程、優秀な男性ですから」


「だから何?」


「彼は来年にはこの国の男性の結婚適齢期を迎えます。彼を野放しにしておくほど、この国の女性は見る目のない人たちではありません」


「……」


 クッカにとって耳の痛い話だった。


「あなたと彼は年が離れていますから、あなたが彼の結婚相手に選ばれることは万に一つもない筈です」


「聞きたくない」


「私はただ待つだけでいい。しかもそう長くはない。六年もあなたの事を想い続けたのですから、一年や二年待つくらい、なんてこと無い」


「聞きたくないって言ってるじゃん!」


 クッカは曲が終わる前にイェレの体を強く押して、イェレから逃げ出した。


「すみません。意地悪なことを言いました」


 クッカは潤んだ目でイェレを睨んだ。目からは一雫の涙が流れた。


「なんで、そんな私を怒らせるような事を言うの? 私を待つつもりでいるなら、今そんな事言わなくてもいいでしょ」


 イェレは肩をすくめて、眉を下げた。


「来週のパーティーで……あなたが傷付くと思ったんです。おそらくアーロさんはとてもモテるでしょうから」


「……そう、かもしれないね」


――考えてみれば当たり前か。アーロはきれいな顔をしているし、すごく優しいから。


 クッカは王女殿下や他の女性がアーロと一緒にいる姿を想像して、胸が痛くなった。


「あなたが私を選んでくれれば――アーロさんの現状をお伝えしておけば、そのリスクを少しでも減らせるだろうと考えました。でも、結果的にあなたを傷つけてしまいましたね」


「……」


 クッカの頭の中はごちゃごちゃになって考えがまとまらなかった。

 イェレはクッカにそっと近づき、ハンカチでクッカの涙を拭いた。クッカはイェレを避けたりはしなかった。


「私のことを許してくださいますか?」


「……いいよ。来週のパートナーがいなくなったら困るもの」


 イェレの顔がパッと明るくなった。しかし、クッカはビシッとイェレの鼻先に自分の人差し指を出してイェレを牽制した。


「でも、イェレとは結婚しない。私はアーロと結婚するからね」


「はい、今はそれでいいです。もう一回踊りますか? それとも休憩しますか?」


 クッカは勝手にイェレの手を取り、左手をイェレの肩にのせた。イェレはクッカの行動に少し驚いた顔をした。


「もっと踊る。人一倍上手になってアーロをびっくりさせたいから」


「……分かりました。お付き合いしますね」


 クッカとイェレは時間の許す限り一緒に踊り続けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ