第61話 カウッパ商会の跡取り息子イェレ・カウッパ
「クッカ・ハカラ嬢、ボードゲームはお好きですか?」
「クッカでいいですよ? フルネームだと呼びづらいですよね?」
イェレは細い目を少し開いて驚いた顔をしてから、ニコッと笑った。
「では、私のこともぜひイェレとお呼びください」
「じゃあ、イェレ。私はボードゲームはやったことがないのです。教えてくださいますか?」
お茶を飲みながらエリサとカウッパ夫人の話を聞いているのはつまらないと感じていたところだったので、なんにせよ他のことができるのはありがたい。
「喜んで。ここだと少しスペースが足りないので、移動しましょう」
イェレは母たちに部屋の中でボードゲームをすることを伝えて、クッカをまたエスコートしてくれた。
イェレが案内してくれた部屋は大きなガラスの窓がある部屋で、窓からは広い庭や楽しそうに笑いながら話をする母たちを見ることができた。部屋の中にはテーブルやソファといった応接セットの他にビリヤード台がある。
イェレはクッカをソファに座らせてから、メイドのお姉さんにお茶を頼んだ。そして、すぐ隣にある棚からいくつかボードゲームを出してくれた。
「随分たくさんあるのですね」
「私と父の趣味でして、色々な国のボードゲームを集めているんですよ。どれか興味のあるものはありますか?」
「うーーん、初めてなので簡単なのがいいです」
「では、こちらのマンカラをやってみましょうか」
イェレが勧めてきたボードゲームにはじゃらじゃらときれいな石が乗っている。木製で横長のトレーのようなボードで遊ぶゲームだった。簡単にイェレが何度かデモンストレーションをしてくれてクッカはルールを理解した。
「なるほど、最終的に自分の陣地に入った石が多い方が勝ちなんですね」
「はい。いくつか、他のルールもあるのですが、今日はこのルールでやってみましょう」
* * *
クッカは時間を忘れて、このマンカラに熱中した。何度かやってみてイェレといい勝負ができるようにはなったが、勝つことは出来なかった。
「また、私の負け。イェレはもしかしてマンカラの世界チャンピオンか何かですか?」
イェレは笑う。
「クッカは面白いことを言いますね。世界チャンピオンではないですが、特技であるとは自負しています。クッカもこんなに早く上達するとは思いませんでした」
「ありがとう! きっとイェレの教え方が上手なんだね」
「お褒めに預かり光栄です」
イェレはかなり頭がきれるタイプらしい。うちの17歳のアーロくんより、大分賢そうだとクッカは思った。
「そう言えば、イェレはヴオリ王国内の鉄道事業にも携わっていると聞いたのですが本当ですか?」
「携わっていると言えば大袈裟ですが、一応管理職の立場にはあります。周りの大人達に仕事を教えてもらいながらといった感じですね」
「へぇ! すごいです!」
「ありがとうございます。私には頭を使うこと位しかできませんから」
謙遜なのか、自慢なのか——おそらく謙遜の方だろう。イェレの眉が少しだけ下がっている。
「頭が良ければ十分なのでは?」とクッカは思ったことを口にしてみた。
イェレはふふっと笑って肩を竦めた。
「どうでしょうか。私なりに頑張ってはいるのですが、正直、目標を達成できるかはまだ分かりません」
どうやら、イェレには随分と高い目標があるらしい。
「目標、達成できるといいですね」
「はい。そうなれるように頑張ります」
イェレは嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。笑う顔だけは年相応の少年らしい顔をしている。
「手紙でもお伝えしたのですが、王女殿下の誕生祝いの席で私のパートナーになってくださいますか? クッカ」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。イェレと一緒だとパーティーも楽しめそう」
クッカはイェレの申し出をありがたく受けることにした。
「もし良ければ、毎週ここに遊びに来ませんか? パーティーではダンスもあるので、一緒に練習した方が本番に向けてお互いに良いのではないかと思うんです」
「パーティーでダンスがあるとは初耳でした! 危うくイェレに恥をかかせてしまうところでしたね。ぜひお願いします!」
今日、イェレと接してみて、クッカのイェレに対する感触は良好だった。これならいい『お友達』になれそうだと、クッカは毎週イェレと会うのが楽しみになった。




