第60話 クッカ、エリサとお出かけ
しばらくごそごそと手紙を漁っていたクッカは見覚えのあるマークが印刷された手紙を見つけて取り出した。
「これってカウッパ商会のマークでは? 会長からのお誘いかな?」
クッカはカウッパ会長と腕を組んで歩く自分を想像した。
――くさパパ程の嫌悪感は感じないが、なんか違う気がする。
「どれどれ、見せてご覧」
ヘンリクはクッカから手紙を受け取り、中身を確認してくれた。
「会長じゃなくて、息子のイェレからだったぞ。クッカと同い年だって話だから、パートナーにちょうど良いんじゃないか?」
「え! 同い年! お友達になれるかな?」
クッカは相変わらず『お友達』に飢えていた。クッカはヘンリクから手紙を奪い取り、自分でも中身を確認する。
手紙には、「一度直接会って話がしたい」との旨が書かれていた。
「私、この子と会ってみたい!」
クッカの気持ちも決まり、ヘンリクとエリサでいそいそと手紙の返事を書いてくれた。その横でくさパパはアーロとお茶を飲みながらべそをかいていた。
「クッカが金持ちの息子の嫁にいってしまうぅぅぅ」
「くさパパ、まだ嫁入りは決まってませんよ。クッカのいない間は自分がくさパパの仕事を手伝いますからね」
「うぅぅぅぅぅ、息子よぉぉ。俺に構ってくれるのは、お前しかいない」
アーロは完全にくさパパの人心を掌握した。
* * *
――クッカとカウッパ商会の跡取り息子の初対面当日を迎えた。
正確に言えば、六年前に一度会っているのだが、顔を覚えていないクッカにとっては初対面と同じなのだ。
ヘンリクは数日前に王都へ帰ってしまったので、今日はエリサとクッカの二人でお出かけだ。クッカの住む町ヴァロエミと王都のちょうど間位に位置するウルが本日の目的地だ。なんでも、ウルにカウッパ会長の別荘があるらしく、今日はそこでお茶会の予定なのだ。
クッカとエリサは朝から身支度をして着飾った。先日この日のために町で買った新しい服をおろして着る。クッカは淡いグリーンのドレスで、エリサはジャケットにスカートにつば広帽子の装いだ。
二人の着飾った様子を見て、くさパパがメソメソしだしたので、アーロはくさパパの肩を叩いて励ました。そしてここにもぐずっているモフモフが一匹。
「だめ! め! ヘルミはお留守番! アーロと一緒にいなさい!」
「キュー!!」
ヘルミは爪を立てて、クッカにしがみ付こう必死で足をばたつかせたが、クッカがアーロの腕の中にヘルミを押し付けた。
「あぁ、幸せ、今日は一緒にいような、ヘルミ」
アーロがヘルミの背中に自分の顔を埋めて匂いを嗅いだので、ヘルミは「シャー!」と牙をむいたが、クッカに「シャーはだめ!」と言われてしゅんと小さくなった。
「それじゃあ、行ってくるわね。アーロ、留守を頼みましたよ」
「お任せください」と言ってアーロは頷く。
「あなた、行ってきますね」
「……」
エリサはくさパパにも声をかけたが、くさパパは拗ねているのか返事をしない。
「もう…… 仕方がない人ですね」
エリサは背伸びをして、くさパパに小鳥のような口づけをした。くさパパがすぐにエリサを抱きしめたので、アーロは慌ててクッカの顔の前をヘルミで隠した。
「え! 私も見たい!!」
「だめだ! おこちゃまには刺激が強すぎる!」
しばらくすると、アーロがヘルミを自分の頭の上に乗せた。そこには、ちょっと気まずそうな顔をしている両親がいた。
「何があったのか、教えて!」とクッカはエリサにすがったが、エリサは「クッカも大人になったら分かるわよ」と言って教えてくれなかった。
乗車予定の汽車に遅れないように小走りで走っていく二人の後ろ姿を、男二人で手を振って見送るのだった。
* * *
ウルの駅で降りると、スーツを着た男性が一人いて二人を出迎えてくれた。カウッパ家のお抱え運転手なのだという。駅の前にはピカピカと輝く黒塗りの車が一台止めてあり、運転手の案内でクッカとエリサは車に乗り込んだ。
クッカは初めて乗る自動車に興味深々だ。エリサも初めて乗るので、そわそわとして落ち着かない様子だった。
車に揺られること数十分。到着したのは、高い塀に囲まれた場所だった。大きな門から、車ごと敷地内に入り、大きな屋敷の前につくと車は止まった。
緊張しているエリサを見ると、クッカまで緊張してしまった。車から降りて改めて屋敷を見たクッカは我が家のなん十倍の大きさがあるのか考えてしまった。
屋敷の入口では、長身の美しい女性と黒髪の少年が一人立っていた。
「初めまして、エリサ・ハカラと娘のクッカ・ハカラです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、来ていただきありがとうございます。私はミュイン・カウッパ、こっちは息子のイェレ・カウッパです。仲良くしてくださいね」
どうやら、この二人がカウッパ会長の奥様と息子のようだ。クッカはカウッパ会長にこんなに美しい奥様がいたことに驚き、目を見開いた。「似たもの夫婦」なんて言葉があるが、この夫婦に関しては全く似ていないと言っても過言ではないだろう。
そして、息子のイェレにクッカは視線を移す。クッカより頭一つ分高い身長に、切れ長の目。髪の毛の色以外は父親より母親似らしい。クッカはカウッパ会長ベースで息子の容姿を想像していたので、お餅のような男の子が出てくるものとばかり思っていたものだから拍子抜けだ。
「今日は天気がいいので、外に席を準備しましたの。こちらへどうぞ」
カウッパ夫人はにっこりと微笑んでから、庭へと案内してくれる。
エリサがカウッパ夫人と並んで歩くので、クッカもすぐ後をついていこうとしたのだが、先にイェレに声をかけられた。
「クッカ・ハカラ嬢、よろしければお手をどうぞ」と言ってイェレが腕を差し出してきた。クッカはエスコートを申し出られたのが初めてでぎょっとしてしまった。
(せ、正解がわからん!)
慣れない文化にかなり戸惑ったクッカだったが、イェレの腕に手を置いて何とか「ありがとうございます……」とだけ返事をした。恥ずかしくなって、クッカは顔が熱くなるのを感じた。チラッとイェレの顔を見ると、イェレはにっこりと微笑んでくれた。




