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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第七章「帰国」

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第59話 これがひげパパか……

 家に入ると、テーブルの上にはホカホカのごちそうがこれでもかという位たくさん乗っていた。


「ヘンリクさんが前もって手紙で知らせてくれていたから、準備していたのよ。クッカ! 先に手を洗いなさい!」


 早速つまみ食いしようとしていたクッカにエリサは注意した。クッカはエリサにぎゅっと抱きついて、またエリサに匂いを嗅いだ。久しぶりの再会なので、注意されるのでさえうれしいのだ。


 手を洗って準備万端になった一同は創世の女神に祈りを捧げてから、ごちそうに手を付けた。


「すみません、ご挨拶が遅れました。クッカとバディを組んでいたアーロ・エテラマキです。初めまして」


 エリサはクッカと同じ緑の瞳を細めてにっこりと微笑んだ。

 アーロはクッカも大きくなったら、こんなにきれいな人になるんだろうかと想像した。


「こちらこそ初めまして。クッカがお世話になりました。私はクッカの母親で、こっちのメソメソしているひげが父親よ」


 どうやら、クッカの物言いは過分にエリサの影響を受けているらしい。言葉の端々から、クッカと同じ匂いを感じる。ひげパパはまだ鼻をすすって半べそをかいていた。


「アーロさんのことは『魔大陸冒険誌』で毎週欠かさず読んでいたから知ってるわ。でも、写真より実物の方がイケメンね! ね、あなた!」


 部屋のいたるところに『魔大陸冒険誌』の切り抜きと思われるクッカの写真が飾ってある。それに気づいたアーロは少しだけ切ない気持ちになった。きっとクッカの両親は毎週娘の活躍を雑誌で読みながら、娘の無事を祈っていたのだろう。

 エリサに話を振られたひげパパは涙をごしごしとぬぐってから、キッとアーロを睨んだ。


「クッカに手を出していないだろうな」


(十歳の子供相手に何を心配しているんだ…… この父親は)


 アーロは苦笑いを返した。


「ははは…… そんなことあるわけないじゃないですか。クッカは俺の妹みたいな存在ですよ」


 アーロの隣に座っていたクッカはニカっと笑って、アーロの方に頭をもたげた。


「アーロはすんごく頼りになるいいお兄ちゃんなんだよ、くさオヤジ」


「くさオヤジ言うな!!」


 クッカとひげパパは「くさオヤジ!」「パパ!」と言い争いをしたのち、最終的にひげパパの愛称は「くさパパ」に変更になった。


 ――いいのかそれで……と内心思ったアーロだったが、これがこの家の平常運転なのだろうと深く考えないことにした。


「ヘンリクさんも五年もクッカに付き合っていただき、ありがとうございました」


 エリサと一緒にひげパパもすぐに「ありがとう!」とヘンリクに頭を下げる。


「この後は勇者は引退されるんですか?」


「そうですね。私もそろそろ身を固めようと思っているので、勇者は引退します」


「二人はどうするの?」


「私はくさパパと木こりする。くさパパは半径1mは離れてね」


「俺は……」


 クッカは当面の進路が決まっているようですぐに答えたが、アーロは即答できずに考えてしまった。


 結局勇者のランクもC級止まりだったので、当初の目標は達成できてはいなかったが、またすぐに復帰するというのも考えづらかった。何よりクッカがいない状態での冒険が全く想像できない。クッカがまたやりたいとでも言わない限り、もう魔大陸に未練はなかった。

 自分の実家に帰ることも考えたが、風の噂で兄姉も引退して実家に帰っていると聞いたので、実家には帰りたくなかった。


 アーロの考え込んでいる様子を見て、エリサは「良かったら、しばらくうちでゆっくりしていきなさいな。ね、あなた?」と提案してくれた。


「仕方がない。クッカはアーロのことを兄だと言うからな。クッカの兄は俺たちの息子だ。面倒を見てやろう。こんなデカい息子、つくった覚えないけどな」


「ありがとうございます!」


(勇者を引退したら、もうクッカとも会えなくなると思ってたけど、これでしばらくはその心配はしなくてよさそうだ)


 はっきりとは自覚してはいなかったが、アーロにとってクッカは離れがたい存在になっていた。






「そういえば、クッカ。パルタに近づけないなら、二カ月後のパーティーの相手を考え直さなきゃいけないんじゃないか?」


 食後にエリサが入れてくれたお茶を飲みながら、ヘンリクはそう言った。


「ほんとだ! どうしましょう、先生!」


 クッカも慌てる。――くさパパと腕を組んで歩くなんて、死んでも嫌だとクッカの顔には書いてあった。


「ん? パーティーってなんのことだ?」


 事情の分からないくさパパにヘンリクはことのいきさつを説明した。


「アーロよ! うちのかわいいクッカを置いてお姫様の相手をするとはどういうことだ!?」


 さっきは自分の娘に手を出してないか聞くほど心配していた男が何を言っているんだとアーロは思ったが、そこは突っ込まなかった。


「まぁまぁ、パルタ、落ち着けよ。アーロに断れるはずないだろ? 陛下に直接頼まれてしまったんだから」とヘンリクは助け舟を出す。


「陛下の命令とうちの娘、どっちが大事なんだ!?」


「陛下の命令です。くさパパ」


「お前にくさパパと呼ぶのを許した覚えはないぞ!!」


 ――うん、なんで、エリサさんとクッカがくさパパの扱いが雑なのか分かった気がするよ。

 アーロは早速くさパパのあしらい方を身に着けつつあった。


「あぁ、そのことだったら安心してクッカ。この人が怒るだろうと思って言わなかったのだけど、ぜひ王女の誕生パーティーであなたをエスコートしたいって人たちからたくさん手紙が届いているのよ。この中から選べばいいんじゃないかしら?」


 エリサはそういうと、部屋の奥から籠いっぱいに入った手紙を持ってきた。かなり重いのかエリサは「よっこらしょ」と言って、籠をテーブルの上に置いた。


「なんだこれは!? なんで、こんな大事なことを黙っていたんだ!?」とくさパパはエリサに食って掛かる。


「ほら、言わんこっちゃない。あなたに教えたら、全部暖炉に放り込んじゃうでしょ?」

 

 クッカは立ち上がって、その膨大な手紙に驚いた。


「もしかして、私……モテ期? 人生に三度あるというモテ期がきてるの?」


「ヘンリクさん、この人は当てにならないので、どの方がいいか一緒に見てくださいます?」


「いいですよ」


 ヘンリクとエリサとクッカは、くさパパそっちのけで楽しそうに手紙を見始めたのでくさパパは一人でしょげて涙ぐんでしまった。


「くさパパ、お茶のおかわりどうぞ」


 アーロはくさパパの湯飲みにポットからお茶をついだ。


「うぅ、ありがどう。アーロ」


 アーロはくさパパの懐に入ることに成功した。



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