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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第七章「帰国」

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第58話 クッカ、実家に帰省する

 アーロとヘンリクとクッカはクッカの実家に行くため、汽車に乗っていた。


 五年前に実家を出た時は、汽車などという便利な移動手段はなかったのだが、勇者や聖女たちが採取した魔石や魔物素材で技術革新が起こったらしく、ヴオリ王国内の交通の便は圧倒的に向上していた。


「馬での旅も良かったですけど、汽車の旅も楽しいですね」


 クッカは車窓を流れる景色を見ながら、ヘンリクにそう言った。


「そうだな」


 ヘンリクもまたクッカを連れて馬に乗り二人で旅をした日のことを思い出していた。


 ヴオリ王国の汽車は動力に魔石を使っているらしく、ものすごく速度が速い。馬での移動だと、馬を休ませる時間もあるので二週間近くかかった道のりが汽車だと一日乗っているだけでついてしまうのだから、その影響は計り知れない。


 隣のボックス席に座っている客がこの鉄道の話をしているのが耳に入ってきた。

「この鉄道事業ってカウッパ商会がやってるんだろ? どんだけ儲けるつもりなんだろうな、あそこは」


(全くですよ)


 クッカは勝手に話を聞きながらぽよんぽよんのカウッパ会長を思い出していた。


「しかも、この鉄道事業は会長の息子が指揮してるんだろ? まだ子供なのにすごいよな」


「そうらしいな。なんでもまだ十歳だって言うんだから恐ろしいよ。そういえば銀の聖女様も十歳でご無事に帰還されたって話らしいから、その世代は黄金世代ってやつなのかもしれないな。特別優秀な子たちが多いんだよ、きっと」


(あぁ、そういえば会長のところにも私と同じくらいの子がいたっけ。あの子のことかな?)


 クッカは四歳の時に盗賊に襲われていたカウッパ親子のことを思い出した。正直会長の印象が強すぎて、息子の顔までは思い出せなかった。



 * * *



 いつの間にかアーロの膝を枕にして寝ていたクッカはアーロにほっぺをつんつんされて起こされた。クッカが起き上がると懐の中からもぞもぞとヘルミが出てきてクッカの肩に乗る。


「クッカ、起きろ…… とんでもないことになってるぞ」


「ふぇ?」


 窓の外はもう暗くなっていたのだが、町のネオンで町は煌々と輝いて見えた。

 車窓からは【銀の聖女生誕の地】と大きく書かれた看板がライトの光で照らし出されている。


「なにこれぇぇぇぇぇ!!!!」


 クッカは車窓に顔をくっつけて外を見た。

 クッカの記憶では、実家の近くにこんなに立派な町はなかった気がするが、五年の間に大きく様変わりしてしまっているらしい。


「どうも観光地化しているみたいだな。二人とも、コートのフードはかぶっておいた方がいいかもしれない」


 そう言うとヘンリクは自分のコートのフードを目深にすっぱりとかぶったので、クッカとアーロもそれに倣った。


 汽車を下りて町の中を歩くと、ヘンリクが心配していた通り、いたるところにクッカのポスターや壁画が町に飾られていた。


「私の家、町から結構距離あるから、私この町との思い出一つもないんだけどなぁ……」とクッカは独り言をこぼした。


 ネオンが煌めく町を抜けると知っている道に出た。


 クッカはここまで来ると5年前の記憶が一気に蘇り、実家に向かって走り出した。


「クッカ待てよ!」


 アーロが止めるのも聞かずにクッカは森の中をひた走った。


(早くエリサとひげパパに会いたい!)


 クッカの目からは大粒の涙がこぼれていた。森の中に明かりが灯った実家を見つけてクッカは声をあげた。


「ママ! パパ! 帰ってきたよ!!」


 クッカの声が届いたのか家の扉が開き、中からエリサとひげパパが出てきた。クッカは二人が広げる腕の中に飛び込んだ。


「クッカ、大きくなったわね、会いたかったわ!」


 呼吸のたびにエリサの懐かしい匂いがしてクッカは涙が止まらない。


「クッカ、無事に帰ってきてくれて本当に良かった!」


 ひげパパも太い腕でクッカを強く抱きしめた。ひげパパのおひげは相変わらずちくちくで凶器だった。クッカはひげパパのおひげが刺さったので、ひげパパの腕の中で抵抗した。


「ひげパパ、いたい…… ていうか、ひげパパ…… 臭い!!」


 クッカはひげパパの腕の中から脱出して、エリサのところに避難した。ヘルミはクッカの頭の上でひげパパに「シャー!」と牙をむいている。


「クッカ、何を言うんだ!? パパが臭いわけないだろ!?」


「いいや、間違いなく臭いよ、ひげパパ。いつからそんなに臭くなっちゃったの?! 五年前はそんなんじゃなかったのに!!」


 クッカは自分の鼻をつまみ、ひげパパを睨んだ。

 ひげパパは娘に拒絶されたショックで顔面蒼白だ。


「そんな! パパは毎日風呂にも入っているし、臭くなんかないはずだ!」


「えぇ! お風呂入ってそのレベル!? 正直ちょっと近づけないよ! なんていうか……オヤジ臭い!!」


「オヤジ!!?? パパはまだ三十だぞ!!!」


「本当に? 実は年齢査証とかしてるんじゃないの? ヘンリク先生も同い年だけど、そんな匂いしないけど?!」


「し、て、な、い!! ヘンリクと同い年!!」


「信じられん!! とにかく無理だから、近づかないで!!」


 ひげパパは完膚なきまでに娘に拒絶され、膝から崩れ落ちたのだった。


 ひげパパは不潔にしていたわけではないので、一応補足しておくと、ひげパパに落ち度は一つもなかった。ただクッカがそれだけ成長したということに他ならない。一般的に女性は思春期を迎えると免疫の型が同じ父親の匂いを臭いと感じてしまうだけ、本能的なものなのだ。


「な、なにがあった……」


 遅れて走ってきたヘンリクとアーロは、クッカの前に泣き崩れているひげパパが一番に目に飛び込んできた。


 感動の再会のはずが、なんだか様子がおかしい。


「ヘンリクぅぅぅぅ、クッカが俺のこと臭いって言うんだぁぁぁぁ…… もう、近寄らせてくれないんだぁぁぁぁぁぁ」


(これが、ひげパパ……)


 クッカから、いかに自分の父親がかっこいいのかをさんざん聞かされていたアーロは、この地べたに泣き崩れている人が本当にクッカの父親なのか分からなくなった。

 クッカの中でも、アーロの中でも、五年の間にひげパパは完璧に神格化されてしまっていたのだ。

 そして、この姿。落差が激しい。


 この地獄絵図のような状況でエリサだけが泣くほど笑っていた。


「あぁおかしい! やっぱりクッカが帰ってくるとにぎやかでいいわね! ほら、あなた、しっかりしてください! お客さまを待たせてしまうのは失礼だわ」


 エリサはひげパパを立たせて、膝の土を払ってやった。

 ひげパパは未だに半べそをかきながら、「どうぞ…… 入って……」とヘンリクとアーロを家に招き入れた。


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