第57話 任期満了につき……
五年の任期を無事に終え、クッカとアーロとヘンリクはヴオリ王国に帰国した。任期満了の報告を国王陛下にするためである。
今は国王陛下に謁見するために王宮の廊下を歩いている。
「もう陛下のこと『おひげじじい』とか言うなよ」
「えぇ? 私そんなこと言ったっけ?」
「言ってたよ!」
もう五年も前のことなのによく覚えているなとクッカは純粋にアーロに感心した。
「王宮の中は静かに歩きなさい」
「「はい……」」
お互いに「お前のせいで怒られただろ」と肘で小突き合いながらクッカとアーロは廊下を歩いた。クッカの肩に乗ったヘルミはなぜかご機嫌であった。
* * *
「おお! 待っておったぞ、銀の彗星の二人とヘンリクよ!」
まさか、王宮にまで『銀の彗星』の異名が広まっているとは思わず、アーロは陛下に苦笑いを返す。ちょっと恥ずかしかった。
玉座に白髭のヴオリ国王がどっしりと腰掛け、隣には美しく成長したルノ王女が控えていた。
三人で陛下の前まで進み、膝まづく。
「任期満了の報告に参りました、陛下」とアーロは一同を代表して言葉を発した。
「うむ。五年の任期、ご苦労であった。そして、此度のボス討伐での活躍も聞き及んでいる。聖女ラインを守ってくれて感謝する。あの土地を我が国の領土とできたことよりも、私は皆が無事に本国に帰ってきてくれることが何よりもうれしいのじゃ」
「お褒めに預かり、光栄です」
「今回のボス討伐に参加した勇者と聖女には特別な褒美を与えようと考えている。何か希望はあるかの?」
クッカとアーロは顔を見合わせた。答えたのはクッカだった。
「おひ、へいか? 考える時間をいただいても構いませんか? すぐには決められそうもありません」
危うく、おひげじじいと言うところだった。
陛下はおひげを撫でながらにっこりと笑った。
「もちろんじゃ。好きなだけ考えなさい。この後の過ごし方や進路についても、しばらく休んでゆっくり考えると良い。あと、銀の勇者よ。儂から一つ頼みがあるのじゃが、聞いてくれるかの?」
「はい、何なりとお申し付けください」
「二カ月後の姫の誕生パーティーに姫のエスコートを頼みたいのじゃが、どうじゃ?」
「え……」
アーロは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにルノ王女を見て顔を赤らめた。
クッカは慌ててルノ王女とアーロの顔をきょろきょろと見比べる。王女は嬉しそうににっこりと微笑み、アーロは顔を赤くしてルノ王女から目が離せない様子だ。
クッカは瞳が金色に変わりそうなくらいイライラしたが、「ひ、ひ、ふー」と息を吐いて何とか気持ちを静めた。
「私で良ければ……喜んでお受けいたします」
クッカはアーロの返答に自分の頭を大きな金づちで叩かれたようなショックを感じた。さっきまでイライラしていたのが嘘のように全身から血の気が引いていくのを感じた。
(また、アーロは私のものにならない……)
クッカの中のもう一人の自分がそうつぶやいた気がした。胸が締め付けられて、目が金色になった時のように自分の体が自分の物ではなくなってしまったような感じがした。
「銀の聖女とヘンリクもぜひ出席してくれ。招待状はまた後日送るからの」
「ありがとうございます。その日が今から待ち遠しいです」とヘンリクが大人な回答をしていたが、クッカは心ここにあらずで何も返す言葉がなかった。
玉座の間から出たとたん、アーロは飛び上がって喜んでいた。
「クッカ! 俺が姫のパートナーだぞ! クッカのおかげだ! ありがとう!」などと無神経なことをいいながら、クッカの手を取りぶんぶんと振った。
クッカは少しずつ血の気が戻り、我に帰っていたが、このアーロの態度には流石に腹が立った。
「わたしは誰と行けばいいのよ……」
「へ? なに?」
クッカの呟きが聞こえなかったのかアーロが聞き返してきた。
「私は誰とパーティーに行けばいいのよう!! 先生、一緒に行ってくださるんですか!?」
「馬鹿なこと言うな。私はもうラシットと行く約束をしている」
ヘンリクは巻き込まれたくないのか、クッカから目をそらした。
「この裏切り者どもめ! 私に壁の花になってろとでも言うのかね!?」
「壁の花って、ふふ。クッカは花の前にまだ双葉って感じだろ?」
アーロは一人腹を抱えて笑っている。その失礼な態度にクッカはとうとうぶちぎれた。
「なんですとぉ!!?? もういっぺん言ってみろ! その口に水魔法突っ込んで二度と喋れないようにしてやろうか、ごらぁ!」
「クッカ、王宮では静かにしなさい」
「だって、せんせい……」
「クッカ、安心しなさい。お前にはピッタリのパートナーはもう既にいるじゃないか。というか、クッカが違う人と行くことになると、それはそれで揉めそうだからやめてほしい」
「だれですかぁ? 私のパートナーって」
クッカは考えたが、相手に心当たりがなかった。
「ひげパパだよ。クッカ、ひげパパと結婚するって言ってただろ?」(ま、無理だけど)
「は! 忘れてた! ひげパパ!!!」
(そうだ!! 私はひげパパがいるんだ!!)
クッカは久しぶりにひげパパのことを思い出した。クッカの頭の中に栗色のおひげで斧を担ぐひげパパの姿が浮かんだ。




