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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第六章「 迷宮都市」

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第53話 転生者?

 クッカが目覚めたのはベッドの上だった。クッカが目覚めたことに、クッカの横で丸くなっていたヘルミが一番に気が付き、クッカの頬をぺろぺろと舐めて喜んだ。


 どうやら、誰かが宿まで倒れたクッカを運んでくれたらしい。ベッドの横ではアーロが椅子に座って、船を漕ぎながら寝ている。


(ちょっと驚かしちゃお)


「わぁ!」

「わぁ!! びっくりした!」


 アーロの耳もとで大きな声を出すと予想通りアーロはびっくりしてくれた。クッカはベットから飛び出してアーロに抱き着く。元気なアーロを見るとクッカも元気になれるのだ。火傷を負っていた腕を確認するが、どこにも痕は残っていないようで、クッカはほっと胸をなでおろした。

 視線を上げてアーロの顔をよく見ると、目にはくっきりとクマができていた。眉をハの字にして少しだけクッカを睨んでいるようにも見える。


(なんか私、怒らせるようなことしたかな……)


「心配したんだぞ…… 何日も目覚めないから」


「え? 何日寝てたの?」


「三日だよ…… もう目覚めないんじゃないかと思った……」


 アーロは額に手を当てて、目元を隠してしまった。ここで「心配しすぎだよ!」などと言ってしまえば五年前のモスベア誘拐事件の二の舞になってしまうと思ったクッカは、素直に謝っておくことにした。


「心配かけてごめんない」


「うん……」


 アーロはクッカを強く抱きしめ返した。クッカにはアーロの顔が見えなかったが、泣いているような気がしたので、クッカはアーロの頭を撫でた。頭を撫でるとアーロの抱きしめている力が強まったので、クッカ苦しくなってうめき声をあげた。


「ぐ、ぐるじい」


「あ、ごめん……」


「うん、いいよ」


 クッカを離したアーロの目は、クッカの予想通り涙で潤んでいた。アーロはクッカに見られたくないのか、すぐに服の袖でごしごしと擦ってぬぐった。


「クッカ、俺が倒れてからのことを教えてくれ。先生たちがあの緑の部屋に俺たちを探しに来た時には、もうリッチはいなくなってたらしいんだ。クッカは何か知ってるんじゃないか?」


「あの時…… アーロが倒れたあと、私怒りで頭が真っ白になっちゃって…… そしたら、体が勝手に動き出したの…… 私、リッチと何かを話して…… それで、光魔法でリッチをやっつけたみたいだった……」


 クッカは自分の話をしているのに、どこか他人の話をしているように説明した。やったのは自分のはずなのだが、全く実感が伴っていなかったからだ。


「リッチと何を話したのか教えてくれるか?」


「わからない…… 思い出せないの」


 クッカは思い出そうとすると頭が割れそうに痛んだ。クッカは痛みで額を押さえた。


「ちょっと、先生にもこの話を聞いてもらいたいんだけど、いいかな? 俺だけでは、どういうことなのか判断できないから」


 クッカは何も言わずに頷くと、アーロはすぐに部屋から出てヘンリクを連れて戻ってきた。


 クッカはさっきアーロにした話と同じ話をヘンリクにも聞かせた。


「クッカは転生者だと私は思っていたが…… もしかしたら、違うのかもしれないな」とヘンリクは深刻そうな顔をしながら言った。


「転生者ってなんのことですか? どうして俺には教えてくれなかったんですか!」


 アーロはヘンリクに声を荒げた。


「アーロ、伝えていなかったことはすまなかった。こんなことになるとは思っていなかったんだよ。説明するから、少し落ち着いてくれ」


 ヘンリクにそう言われ、アーロは深く息を吐きだして怒りを鎮めた。


「ほら、クッカは五歳の時から話し方とかがおかしかっただろ? 物言いが少し大人っぽいというか、難しい言葉も使っていただろ?」


 アーロは5年前のクッカを思い起こしてみてから、頷いた。


「私はそれをクッカが転生者だからだと思っていたんだ。魔法も誰かから教わったわけでもないのに三歳から一人で使っていたと、この子の両親が言っていたからね」


 ヘンリクの表情からクッカは話の真意を探ろうとした。ヘンリクは眉間に皺を寄せて思いを巡らせているようだ。


「これは、あくまでも仮説だが…… クッカの体の中に誰か別の人間の魂も入っている状態なんじゃないだろうか。その影響で、魔法も使えるし、普通の子供より知識がある。そして、今回みたいに《《体を乗っ取られることがある》》ということじゃないだろうか」


「二重人格――みたいなものですか?」


「そうだな。状態として、それに近いものがあるだろう。しかし二重人格は元々の人格が新しい人格を作り出すから、能力的には大きな差は出ないはずだが、今回は魔法の能力値が上がっていたような気がする。明らかに格上のリッチを瞬殺してしまったのだからな。前にはこんなことは一度もなかったのか?」


 クッカとアーロは少し考えてみて、アーロが先に思い出したように声を上げた。


「5年前に他国の新人冒険者に襲われた時も、クッカの瞳の色が金色に変わったことがありました」


「おそらくそれももう一人の魂が表に出てきていたんだろうな。切り替わるきっかけなんかはわかったりするか?」


「たぶん、ものすごく怒ったとき――あれは私の体を乗っ取るんだと思います…… そんな気がする。なんでかまでは分からないですけど」


 今度はクッカが答えた。クッカの返事にヘンリクは腕を組んで考えた。


「今のところ、そのもう一人の魂が我々と敵対するような人格ではないような気がする。現に守ってもらったことしかないのだろ? 不安は残るが、今すぐにクッカの体から追い出す方法もないし、しばらくは様子を見るしかないのかもな」


「仮に先生の仮説が正しいとしたら、どうやってクッカの体からそのもう一つの魂を出せばいいんですか?」


 アーロは心配そうに顔をゆがめている。


「もう一つの魂の本当の体が近くにあれば、自然と元の体に戻るはずだ」

(体が残っていればだがな……)


 ヘンリクはこれ以上アーロを悩ませるのが不憫で、最後の言葉は自分の心の中にだけ留めておくことにした。


「そんなに落ち込むな。考えて解決できないんだから、悩むだけ無駄だ。それより、風曲の二人がお前たちのことをボス討伐戦に推薦してくれると言っていたぞ、喜べ」


 ヘンリクの報告にクッカは飛び上がって喜んだ。ヘルミと一緒になって部屋中をぴょんぴょんと飛び回っている。さっきまでの考え事はどこ吹く風だ。


「今晩、選抜会議があるらしい。会議の結果を楽しみ待とうじゃないか」


 ヘンリクは少しでも、アーロに気持ちを切り替えさせようとアーロの背中を叩いたが、アーロは困ったように笑うだけであった。


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