第46話 突然の強襲
ヘンリクはゆっくりお茶を飲みながら、窓の外の子供たちを眺めた。
クッカとアーロはムスタのおかげで、また一緒に話をするようになっていた。二人でああでもないこうでもないと楽しそうに話をしながら、庭の芝生の上でムスタの世話をする様子は大変微笑ましいものだった。
「アーロ見て、チョビさん」
クッカはブラッシングで出たムスタの毛を自分の鼻の下につけてチョビさんの真似をした。アーロはそれを見て吹き出すように笑う。
「クッカ、ムスタの毛をおもちゃにしないでくれよ。スノーゴートの毛は高級素材だから、町役場に収めてくれって言われてるんだから」
アーロはムスタの毛をブラッシングしながら、抜けた毛を袋に詰めていったが、クッカとヘルミが入れた側から取り出しておもちゃにしていた。
ヘルミは自分と同じくらいの大きさの毛玉を仮想敵に見立てて一匹で戦っている。
「キャー!!!」
町のどこからか悲鳴が聞こえた。ヘルミはビクッと驚いてクッカの懐に逃げ込む。ヘンリクが全員分の武器を持って家から飛び出してきた。
「二人とも、戦闘の準備をしなさい。嫌な気配がする」
「クッカは留守番してろ」
ヘンリクから受け取った双剣を腰のベルトに刺しながらアーロは言った。
「はぁ!? なに言ってるの!? さっきの悲鳴聞こえたでしょ? 町の人が襲われているのかもしれないんだから、一人でも多い方がいいでしょうが!」
アーロは舌打ちをする。
「キヴィ、クッカを守れ」
大岩の精霊キヴィが現れて、クッカの前をぴったりとガードした。
「走るぞ」
三人は悲鳴の聞こえた方へと走り出した。
* * *
人と同じ大きさのカエルのような魔物が町を強襲していた。カエルたちは手に武器を持ち、無差別に住民を蹂躙していく。人々は逃げ惑い、町の入口には凄惨な光景が広がっていた。
「ヒャーヒャッヒャ! 人間の叫び声は心が踊りますな! クロアーク隊長! 久方ぶりの狩りの時間ですぞ」
一際大きなカエルが二体、町の入口から他のカエル達の様子を見ていた。クロアークと呼ばれた黒くて一番大きなカエルが、隣で高笑いしていた緑色のカエルを諌める。
「遊びに来た訳ではないのだぞ、サンマッコよ。それより、陛下がこの町にいるという情報は間違いないのだろうな?」
「はい。スム将軍閣下直属の諜報員からの情報という話ですから、まず間違いないかと。ただ諜報員が
通信信号を発信したのが、一ヶ月前のことらしいので、もしかしたら陛下はこの地を出発したあととも考えられますが……」
「うむ。その可能性を排除するためにも、皆殺しにせねば分からないだろうな」
クロアークはとんでもない事をなんてことない事のように淡々と述べた。
黄色いカエルが逃げ遅れた住民に剣を振り下ろそうとした——その時、カエルの剣が見えない壁に阻まれてはじき返された。クッカの防御魔法だ。実戦でも使えるレベルまで上達していたようだ。
ゲゴ!?
状況を理解出来ないカエルが驚きの声を上げたが、その隙をアーロが見逃さず、カエルの首を剣ではねた。
カエルは黒い塵のようになって、砕け散った。死体や魔石の類は一切残らなかった。
アーロは逃げ遅れた人をすぐに立たせて逃がした。
ヘンリクはカエルたちに氷の矢を放ち、クッカも久しぶりに斧を振り回して、敵を狩った。
三人の様子を見た緑のサンマッコが狼狽えた。
「クロアーク様! 人間の冒険者のようです! いかがいたしましょう!? 一度出直しますか?」
「馬鹿なことを言うな、サンマッコ。我らにとって死は通過点——例え全滅したとしても、陛下を見つけねばならぬ!」
「しかし、クロアーク様。これだけ暴れても現れないのですから、もしかしたらもう移動されてしまった可能性も——」
「だとしても、我々に撤退はあり得ない! 先ずは私とお前であの一番邪魔氷使いから仕留めるぞ」
二体の大きなカエルが走ってヘンリクまでの距離を詰めつつあった。ヘンリクはすぐにアーロとクッカに指示を出す。
「あの二体は私で何とかする! お前たちは他のを狩りなさい」
「「了解!」」
クッカとアーロは揃って返事を返し、二人でカエルの群れに突っ込んだ。
アーロが鬼人のような速さでカエルを切っていく。アーロに隙が出来ないようにクッカは防御魔法に集中し、トゥリチットゥが火球をカエルに飛ばし援護する。
アーロへの攻撃がことごとくクッカの防御魔法で防がれていることに気がついたカエル達が狙いをクッカに替えて一斉に襲いかってきたが、クッカを守るように命じられていたキヴィが大きな岩の腕を振り回し、全てを薙ぎ払った。
クッカとアーロは戦いの中で、確かな達成感を感じていた。今までの戦闘はチームプレーとは程遠い物であったが、今日のこれはお互いの技がぴったりとハマり、歯車のように噛み合っているのを感じた。
クッカとアーロは互いの背中を預けて、カエル達と向き合った。二人の顔は自信と信頼の色が滲んでいた。
「数が多いな。そっちはクッカに任せてもいいか」
アーロの言葉にクッカは込み上げる物があったが、ぐっと堪えた。
「もちろん! どっちが多く狩れるか競争だよ」
二人は互いを信じて、カエル達の群れへと駆け出した。




