第45話 はみ出し者の黒い山羊
「うわぁ!!」
テントに入り、アーロの肩から降りたクッカは驚いた。そこには幻想的な光景が広がっていた。
テントの天井には小さな灯りが幾つも吊るされ、まるでどこかのパーティ会場のようだ。大型の魔獣から手のひらサイズの魔獣まで、多種多様な魔獣が自由気ままに過ごしていた。鳥型の魔獣はテントの中をクルクルと飛び回り、大型の猫のような魔獣は身を寄せ合って丸くなっている。他の魔獣たちも紐で繋がれたり、檻に入れられたりはせず放し飼いだ。
「こ、これがモフモフ祭り……」
アーロもこの夢のような光景に息を飲んだ。
「チョビさん、放し飼いで逃げたりしないのです?」
クッカは天井近くを飛び回る色とりどりの鳥型魔獣たちを目で追いかけながら、チョビさんに質問した。
「うちの魔獣たちは生まれた時から私が手塩にかけて育てているので逃げないのですよ。あぁ、尻尾を引っ張ったり、イタズラは止めてくださいね。その時は命の保証は出来かねます」
チョビさんはニヒヒと不気味に笑う。キンチャは鳥肌が立ち、尻尾の毛を逆立てた。
「さぁ、お二人にオススメしたいのはこっちの子たちです」
チョビさんが案内した所には乳白色の長い体毛と銀に輝く角を持つ大きな山羊がいた。数頭が仲良く一緒に草を食んでいる。堂々とした佇まいで気品すら感じられる美しい生き物だった。
「どうです? 美しいでしょう? スノウゴートという魔獣の長毛種です。騎獣としても優秀で大人なら二人は軽々と乗せてくれますよ」
「美しいよ! チョビさん!」
クッカは山羊さんの毛を触りたくて、手をにぎにぎした。
チョビさんはちょび髭を撫でながら満足気に頷く。
クッカが恐る恐るスノーゴートに近づくと、スノーゴートは優しくクッカのこめかみの匂いを嗅いだ。
クッカは「はわわわ」という変な声を漏らして、すっかりスノーゴートにメロメロだ。
そんなクッカをよそにアーロはテントの奥に蹲る個体が気になり、近づいて観察した。黒い体毛に金の角――他の個体より一回り小さい。一匹だけ他の個体と距離を置き、目を瞑って寝ているようだった。なんだか、エテラマキ家にいた時の自分を見ているようで、親近感がわいた。思わず「この子にしよう」と言って指さしてしまった。
黒の大山羊はまさか自分が選ばれるとは思っていなかったのか、驚いたように頭を上げた。
チョビさんが少し慌てた。
「あぁ、銀の勇者様! そちらは他のスノーゴートたちの兄弟なのですが、変異種で体も小さいのです。そのうち成長するかもしれませんが、今は大人一人を運ぶのがやっとだと思いますので、あまりオススメはできませんねぇ」
「でも、この子がいいんだ。駄目ですか?」
「いえ、駄目ということはないですが……」
チョビさんはクッカとヘンリクに目配せした。
「いいんじゃないか? アーロが気に入ったなら」
とヘンリク。
「うん、私も賛成! 私にはヘルミがいるから、アーロにもモフモフが必要だよね」
キュキュー!!
ヘルミはクッカのほっぺにふわふわボディをスリスリした。
「承知いたしました。では、そちらのスノーゴートということで。鞍や手綱もお持ちしますのでお待ちください」
チョビさんはいそいそと鞍と手綱を準備して、黒いスノーゴートにそれらを装着した。
「名前は何にしようか? アーロ」
クッカがアーロの横に並び聞いた。
「ムスタがいい。どうかな?」
ムスタは静かに頷いたように見えた。




