第44話 夏のモフモフ祭り開催
ヘンリクは、二週間たっても仲直りしないクッカとアーロが心配でたまらなかった。二人とも朝夕は一緒に食事をするが、それ以外は全くの別行動になってしまったからだ。
アーロは毎日精霊たちと訓練を続け、一人で町近郊の魔物を狩ってくるまで成長した。どうやら一人でノルマの魔石300個を納品するつもりでいるらしい。アーロが近接戦闘を担当し、トゥリチットゥが炎で援護射撃、キヴィが岩で盾役を担う非常にバランスの良い構成だ。
ヘンリクはというと、もしもの時に助けに入ろうと見守ってはいたが、出る幕はなく、アーロの成長をただただ感心するばかりであった。しっかり戦力になる精霊が二体も付いているのだから、アーロ一人で三人分の働きをしていると言っても過言ではないだろう。
クッカは毎日いそいそとネリに会いに行っているようだ。アーロと喧嘩した翌日はしょげていたクッカだったが、ネリのところの通うようになってから、いつもの明るさを取り戻していた。きっとネリが良くしてくれているのだろうとヘンリクは推測した。
今日の夕食も食卓は静まり返っていた。食器を使う音だけが部屋の唯一の音だった。ヘルミだけがなぜかご機嫌で、クッカの肩に乗って自分のふわっふわの体毛をクッカのほっぺに擦りつけていた。ちょっと食事をするのに邪魔になっている。
ヘンリクは居たたまれない思いで外に出た。外の空気を吸い込んで、ホッと吐き出す。
ふとその時、ヘンリクは郵便受けに何か届いていることに気が付いた。開けてみると中から蛇腹織になった大きなチラシが出てきた。ヘンリクはチラシを見てはっとした。
――これだ!!!
「クッカ! アーロ! 見てごらん。魔獣屋の案内が届いているぞ。きっとレへテアが手配してくれたんだな。クッカは騎獣を欲しがってただろ?」
ヘンリクは大きなチラシを食卓テーブルに広げた。
チラシの中央にはデカデカと『夏のモフモフ祭り!開催!』と書かれている。魔獣の売り文句にしては随分とファンシーだ。他にもたくさんの魔獣の写真が載ったチラシだった。
「モフモフがいっぱいだ!!」
生き物大好きなアーロが一番に立ち上がった。食い入るようにチラシを見ている。
「明日にはクースィに出張テントがくるみたいだな。みんなで行ってみようか」
ヘンリクはやっと皆で話せる共通の話題が出来て、ほっとした。
キュー!!!
ヘルミが久しぶりに鳴き声を上げた。クッカの肩から飛び降りチラシの上に転がって、クッカのことを黒く潤んだ瞳で見つめる。
ヘルミは何かを訴えていた。
クッカは全く気に留めずにヘルミを捕まえて、自分の懐にしまった。
「楽しみ!」
クッカの満面の笑顔を見て、アーロも嬉しそうにほほ笑んだ。
* * *
——次の日。天気は快晴である。
三人は朝から出かける準備をして家を出た。クッカはどんな魔獣がいるのか、胸を躍らせた。
「おっはようございます! クッカ、迎えに来たよ!」
家を出ると、家の前にキンチャとネリが待っていた。ネリは手を振り、キンチャはぴょんぴょんと跳ねて、塀から猫耳だけがぴょこぴょこと出ている。
「え! キンチャだ!」
クッカは駆け出して門を開けた。キンチャと手を取り合って二人でぴょんぴょんと跳ねた。
「ごめんなさい、ヘンリク。魔獣屋のチラシを見たキンチャがどうしてもクッカと一緒に行きたいって言うから来てしまったの。一緒に行かない?」
「ちょうど三人で行こうとしていたところだ。みんなで行こうか。にぎやかな方が楽しいだろう」
ヘンリクが安易にそう答えた後ろでアーロはクッカと手を繋ぐキンチャを苦々しく見ていた。
* * *
クースィの町の外の開けた空き地に赤と白のストライプ模様の大きなテントが立っていた。その周りには即席の柵が立てられ、中には魔獣が展示されている。移動式の動物園のようだ。
魔獣屋の周りには、もう既に沢山の人でごった返していた。
クッカとキンチャは二人で手を繋いでぴょんぴょんと跳ねたが、小さな二人には到底柵の中の魔獣を見ることは出来そうにない。
「ほら、おいでクッカ。肩車しよう」
クッカは二週間ぶりにアーロに声をかけられて、跳び上がって喜んだ。
「うん!」
しゃがんだアーロの背中をよじ登って肩車してもらう。肩車してもらうと目線が高くなり柵の中の魔獣がよく見えた。
キンチャは尻尾の毛を逆立ててアーロを睨んだが、アーロは笑顔でキンチャを見下ろした。ついでにヘルミもクッカの頭の上に乗り得意気だ。
「キンチャの事も後で肩車してあげるからね」
「自分で見るからいい!!」
キンチャはアーロに牙を剥き出して威嚇している。
アーロとキンチャの間には見えない火花が飛び散っているようだ。
それを見たヘンリクは苦笑いし、大勢で来たことを早速後悔した。
「あ! レヘテアがいるよ! おーーい!」
一番目線の高いクッカがレヘテアを見つけたらしく、手を振ってレヘテアを呼んだ。
「あぁ! やっと見つけた! 皆さんを探してたんです!」
レヘテアとちょび髭のおじさんがクッカの声で近づいてきた。
おじさんはテントと同じ赤と白のストライプのズボンを履いて、上には黒のジャケットを着ている。
「紹介しますね。こちら、カウッパ商会の魔獣屋の店長の――えぇっと、自己紹介をお願いします、店長」
「はじめまして、チョラ・パウリ・タパニ・マリン・クルスキオと申します。以後お見知り置きを」
店長はちょび髭をつまんでから恭しくお辞儀した。
「うん、あだ名はチョビン、チョビさん、ひげの中から選んでもらっていいかな」
「やめなさい」
クッカが店長に勝手なあだ名をつけたのでアーロが制した。
店長は朗らかに笑った。
「ではチョビさんにしようかな。可愛い銀の聖女様」
「銀の聖女?」
クッカは首を傾げる。
「おや? 知らなかったのかい? 本国では、クッカちゃんが『銀の聖女』、アーロくんが『銀の勇者』って二つ名がついてるんだよ」
「なにそれ! かっちょいい!」
クッカは喜んでいたが、アーロは過大評価されているのではと少し心配になった。本国でどんな宣伝のされ方をしているのか、今度レヘテアに確認する必要があるだろう。
「さぁ、銀の彗星のお二人には特別美しい騎獣を紹介するようにと商会長から言われていますので、特別な子たちを連れて参りました。どうぞ、テントの中にお入りください」
チョビさんの案内で、一行はストライプ柄の大きなテントに足を踏み入れた。




