第41話 アーロの想い
クッカとアーロが喧嘩でもしたらしい——。
クッカもアーロも泣いたのか、目を腫らしていた。
レヘテアは自分で宿を取ると言って、出ていってしまったが、こんなことなら夕食だけでも一緒に食べようと誘っておけば良かったとヘンリクは後悔した。
こういう暗い雰囲気の時にレヘテアがいてくれれば何とか二人の仲を取り持ってくれるのではないかと考えたヘンリクだったが、レヘテアは帰ってしまったし、ヘンリクには場の空気を変えられるような陽気さはなかった。
三人で夕食を囲んでいたが、空気が重い。
「二人とも…… 喧嘩でもしたのか?」
クッカとアーロの返事ない。ただひたすらに夕食を口へと運んでいく。
「ヘンリク先生、明日からしばらくクッカと別行動をさせてください……」
「クッカはそれで良いのか?」
ヘンリクが聞くと、クッカは目に涙をためながら何も言わずに頷いた。
「ちょっと、一から鍛え直したいんです…… ご指導願えますか?」
「アーロの考えは分かった」
——アーロの気持ちも分からないでもない。
バディが死にかけたのだから、自分を責めるのは当然であろう。
モスベアに攫われたクッカを見た時は、私もショックだったし、アーロの慌てぶりも見ていた。きっと深く傷ついたのだろう。
私もパルタが大怪我をした時、自分を責めた経験がある。
アーロはもうクッカに聖女としての仕事をしてほしくないのかもしれない——。
クッカはその日の夜、ヘルミを抱えてヘンリクの部屋に来た。クッカとアーロはバディを組んでからはずっと二人で過ごしてきた事を知っていたヘンリクとしては複雑な心境だった。お互いに距離を置きたい心境なのだろう。
「今日はアーロとは寝ないのか?」
クッカは何も言わずに頷いた。そしてヘンリクのベッドに潜り込みヘルミを抱きしめながら寝てしまった。
* * *
翌日クッカはキンチャと遊ぶと言って、朝早くから出かけていった。
ヘンリクとアーロは修行のために町の近くの森まで来ていた。
「昨日、私も色々考えたんだが、アーロの剣術の腕は正直申し分ないと思っている。だから、今日は精霊術の方を鍛えてみよう」
精霊術は使役している精霊の数だけ単純に手数が増えるし、戦術の幅も広がる。ヘンリクは精霊術を鍛えることがアーロとクッカの安全に繋がると考えた。
「どうすればいいんですか?」
「精霊は食べれば人間と同じように成長していくが、それ以外にも成長を早める方法がある」
アーロは今日も真剣な顔でメモを取っている。
「術者の心を育てるんだ。心が強くなると、それに応じて精霊も強くなる。精霊と術者は心で繋がっているから」
「強い心…… 先生、強い心っていうのがよく分かりません」
「『想いの力』だ。アーロが何を望み、何を願うのか。精霊と向き合って、よく伝えるんだ。精霊もその想いに応えてくれる」
アーロは悩み過ぎて、頭から煙を出していた。
「厳しい事を言うが、こればっかりは手取り足取り教えてやる事ができない。人に助言されて辿り着いた想いでは、弱いからだ。自分で悩み、考えるんだ。時間はいくらでもある。ゆっくり考えなさい」
ヘンリクはそう言うと、近くの岩に腰掛けて本を読み始めた。
「キヴィ、トゥリチットゥ…… ちょっと相談にのってほしいんだけどいいかな?」
アーロに召喚された精霊たちはちょこんと地面に座ってアーロを見た。アーロも地面に座り、精霊たちと向かい合った。
キヴィがアーロの心の中に直接話しかけてきた。キヴィとアーロの心の対話が始まった。
『いいよ。アーロの悩みは僕たちの悩みだ。一緒に共有しよう』
『ありがとう…… ヘンリク先生が強い想いで君たちが成長するって言うんだ。俺は何をすればいいと思う?』
『じゃあ、逆に僕から質問させておくれ。アーロはどうして勇者になりたかったんだ?』
『それは…… 父さんや母さんみたいに立派の勇者になりたかったからだ』
キヴィとトゥリチットゥは二匹そろって笑ったように見えた。
『嘘は良くない、アーロ。そんな濁った想いでは、僕たちは力を出し切れない』
『嘘じゃない!』
『僕にはそうは思えない。自分の心と向き合うんだ、アーロ。僕たちにまで嘘をつかなくていい』
アーロは今まで誰にも打ち明けたことのない想いを心の底から掬い上げた。
『兄さんと姉さんより強くなりたい……』
『どうして?』
『兄さんと姉さんが憎い……』
アーロは心の中で、今まで思い出さないようにしていた兄と姉の記憶の箱の蓋を開けた。




