第40話 クッカとアーロ、すれ違う
キンチャ一家の許しを得たクッカとヘンリクは、町の広場のベンチに腰掛けて待っていたレヘテアとアーロと合流した。
クッカを見たレヘテアはすぐに立ち上がった。
「クッカ、私のせいではぐれちゃって…… ごめんなさい」
レヘテアはかなり落ち込んでいた。そしてアーロの様子もおかしかった。ベンチに腰掛けたまま、伏し目がちでクッカと目を合わせてくれない。
「レヘテア、私は気にしてないよ! 怪我も大したことなかったし、私がまだまだ未熟だっただけ。レヘテアもあんまり落ち込まないで」
「分かった…… でも、この埋め合わせは何かさせてね。じゃないと私の気がすまないから。何かしてほしいこととか、欲しいものがあったら何でも言ってね」
(欲しいものか……)
「先生、私たちもキンチャ家のように騎獣を飼ってみたらいいと思うのですけど、どうですか?」
「騎獣か…… いつかは必要になると思っていたが、そうだな。騎獣の世話も自分達でちゃんとできるか?」
「俺がやります……」
生き物大好きなアーロなら、跳び上がって喜びそうなものだが、この時のアーロは声に覇気がなかった。
「私もやる!」
クッカもすかさず名乗り出る。
「分かった。二人で協力してやりなさい。レヘテア、カウッパ商会に騎獣商人を寄越してもらうように連絡してくれるか?」
「了解! すぐに連絡するね!」
レヘテアのおかげで早々に騎獣の問題は解決しそうだ。
「次は拠点だよね? 用意してもらっておいたから、すぐにでも入って休めるよ」
レヘテアは前もってクースィのカウッパ不動産に連絡して、拠点を確保しておいてくれたらしい。なかなかに手際がいい。
「おぉ! それはありがたい。じゃあ早速案内を頼むよ」
流石のヘンリクも旅の疲れが溜まっているのか、一つやる事が減って、ほっと息を吐いた。クッカが行方不明だった事もあり、何だかんだ言って心が張り詰めていたのかもしれない。
クースィの町は、初めの港街タロに比べ人も多くなく、森の中の田舎町といった雰囲気だ。町中にカモミールが咲き乱れている。花壇に植え付けてあるのではなく、風に乗って種が運ばれ、勝手に増えてしまったように至る所に生えていた。爽やかなカモミールの香りが町中に広がっていた。
町の中も舗装された道はないので、人の歩かない所には野草やハーブが自生していた。
レヘテアが案内したのは庭付きで赤い洋瓦の屋根が特徴の一軒家だった。
「かわいい!!」
木製の三角屋根のついた門を一番にくぐったクッカは大喜びだ。
「いい家だな…… 高かったんじゃないか?」
「こないだ取材した銀の彗星の記事が載った雑誌が、本国で売れに売れたそうで。こちらは商会からの御礼だと会長が仰っていました」
クッカはカウッパ会長のホクホク顔が目に浮かんだ。
「アーロ! 早く、家の中見てみよ!」
クッカはアーロの手を引いてさっさと家の中に入っていった。
木製の立派な扉を開けたクッカは感嘆の声をあげた。
「うわぁ!」
家の中には大きな石造りの暖炉があり、広々とした立派な家だった。
クッカは早速家の中を探険した。今回の家は大きな個室が一階に一部屋。小さな個室が二階に二部屋といった造りだった。
「アーロ、寂しいから、また寝る部屋一緒にしてもいい?」
クッカがアーロにそう聞くと、アーロは力なく頷いた。
タロの時と同じように二人でベッドを動かして階段に近い方の部屋に移動させた。
クッカがベッドの上に腰掛けるとアーロは自分のベッドには座らずにクッカの隣に座った。
「怪我は本当に大丈夫なのか?」
「うん。魔法で綺麗に治ったんだよ」
「実は痛みが残ってたりしてないか?」
「もう、アーロ心配しすぎだよ」
「心配しすぎ……?」
アーロは力なく笑った。そして自分の膝の上で両手の拳を強く握りしめた。
「クッカは死にかけたんだぞ…… 俺は間違った事は言ってない」
アーロの表情はまた一層暗くなってしまった。
「……ごめん。俺のせいで」
「アーロのせいじゃないよ」
「俺のせいだ!! クッカを守れなかったのは俺だし、そもそも昇級したいだなんて言い出さなければこんな事にはならなかった!」
アーロは目に涙をためてクッカを睨んだ。
クッカはアーロが自分の事でここまで気が動転するとは思っても見なかった。
「クッカは俺のたった一人の友達なんだ…… クッカがいなくなるなら、俺の夢なんか——いらない!」
「そんな事言わないで! 私、アーロの足かせになんかなりたくない! お願いだから、そんな事言わないで!」
「嫌だ。しばらく、二人での仕事は休みにしよう。ノルマの300個は俺が何とかするから」
アーロはそう言うと部屋を出ていってしまった。




