第36話 クッカ、森で攫われる
「見てごらん、あそこに見えるのがメツァ大森林だよ」
少しだけ小高い丘の上からヘンリクが指差して言った。
三日間ケト草原を横断し続けて、やっと一行の前に森の端が見え始めたのだ。
「次の拠点はまだ遠いんですよね?」
アーロがヘンリクに聞くとヘンリクは頷いた。
「メツァ大森林は、ケト草原と違って勾配が激しいんだ。谷があったり、川があったりして、進むのに時間がかかる。もう三日は歩かないと目的地の町、クースィにはつかないと思ってくれ」
それを聞いたアーロは自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
「森に近づく前に、二人に森の注意事項だけ伝えておこう。
森は草原以上に索敵が難しい。木の陰や木の上に魔物が潜んでいる事を想定しながら進みなさい」
「「はい!」」
「あと、メツァ大森林はヴオリ王国とペイン共和国の共同主権の土地だ。ここではペインの人に出会ったら失礼のないように気をつけてくれ」
ヘンリクはクッカとアーロの頭を撫でた。
* * *
メツァ大森林の中に入ったクッカが大きく息を吸い込むと苔や木の匂いがした。湿度が高く、草原よりも涼しく感じる。
足下は苔に覆われていて、ふわふわして気持ちがいい。クッカは苔をふみふみして遊んだ。
「クッカ、遊んでないで行くよ」
クッカが苔をふみふみしているうちに、他三人は森の奥へと進んでいた。アーロの呼ぶ声を聞いて、クッカは慌てて三人を追いかける。
ここからは道を知っているヘンリクが先頭。その後ろをレヘテア。そしてクッカとアーロの並びで進む。
クッカはついつい気になる物があると歩みが止まる。見たこともない綺麗な茸などを見つけると足が止まってしまうのだ。その度にアーロがクッカを引っ張って先を急いだ。
しばらく歩いていると、森の中に苔むした大岩が三つごろごろと転がっていた。
クッカがジャンプして岩に飛び乗るとクッカの足下の大岩がぐらぐらと動いて立ち上がった。クッカは咄嗟に飛び退き、その魔物の攻撃を紙一重で避けた。
「モスベアだ!」
全身緑色の苔で覆われた大きな熊が後ろ足で立ち上がっていた。
アーロはすぐに双剣を抜いたが、行動とは裏腹に顔はなんだか少し嬉しそうだ。
「す、すごい! 授業で習った通り全身が苔だらけだ! あの苔には薬効があるんだよ!」
「その通りだアーロ! よく勉強してるじゃないか! でも、今はそれどころじゃないぞ!」
モスベアは全部で3体もいた。しかも完全に囲まれてしまった。ヘンリクも杖を構えて臨戦態勢だ。
モスベアは平原の魔物とは比べ物にならない位大きく、強いプレッシャーを放っていた。
グァァァァァァァ!!
モスベアの咆哮が森に響き渡る。
モスベアは大きな前足を容赦なくクッカに振り下ろす。
クッカは斧でモスベアの前足を切り落としてやろうと斧を振ったが、モスベアの刃物のように硬い爪で弾かれてしまった。
「熊さん、なかなかに強いぞ!」
やはり平原の魔物とは比べ物にならないようだ。
クッカは指をパチンと鳴らして、得意の水魔法でモスベアの頭部を覆ったが、モスベアは物凄い勢いで頭を左右にぶんぶんと振ったので、遠心力でクッカの水が離散してしまった。
「え!?」
クッカは自分の水魔法がまさか破られると思っていなかったので、驚きの声をあげた。
モスベアはすぐにクッカに襲いかって来るものとクッカは予想していたが、モスベアが次に狙ったのはレヘテアだった。
モスベアは大きな口を開けてレヘテアに襲いかかった。
クッカは咄嗟にレヘテアを庇って、レヘテアとモスベアの間に入った。
ガブ!
「ッ!!」
クッカの肩に強い痛みが走った。
「クッカ!!」
モスベアはクッカをくわえたまま森の奥へと走った。ヘンリクとアーロは他の二体の相手で手がいっぱいなのとあまりの一瞬の出来事にクッカとクッカをくわえたモスベアを見失ってしまったのだった。




