第33話 となりの席の、アーロ君(閑話)
「アーロ君…… 今日も麗しいわ……」
アーロ君はいつもキラキラしていた。
窓際の教室の隅が彼の席だ。窓から入る日射しを浴びながら机に突っ伏して朝からお昼寝の真っ最中の彼はよだれを垂らしながら、だらしない顔を晒している。
そんなだらしない姿でも、彼の輝きは陰ることを知らないようだ。寝ているからか、いつも以上にクラスの女子が彼の事を不躾に観察している。
「アーロ君、おはよう。もう少しで先生来る時間だよ。寝てたらまた怒られるよ」
僕は寝ているアーロ君に声をかけて起こした。
アーロ君は長い睫毛をパチパチさせながら目を覚ます。
「よだれ、ついてるよ」
アーロ君は慌ててハンカチでよだれを拭き、小さな声で、ありがと、と言った。
アーロ君が目覚めてしまったせいか、後ろから女子の舌打ちの音が聞こえた気がした。
僕の隣の席のアーロ君は亜麻色のキラキラした明るい髪色にココア色の瞳をした美少年だ。
アーロ君はエテラマキ家という代々勇者や聖女を輩出している名門一家の次男らしい。
アーロ君は大抵の座学の授業はうとうとと舟を漕いでいる。
なぜそんなに寝るのか聞いてみたら、
「分からない…… 兄に座学で眠くなる呪いをかけられたのかもしれない……」
と割と真剣な顔で悩んでいた。
そんなアーロ君でも、水を得た魚のように生き生きとする授業がある。剣術と体術の実技授業と魔物学の授業だった。
アーロ君は体を動かす事と、生き物が好きらしい。
こないだは校舎裏に野良猫が子猫を沢山産んだ時も、アーロ君は毎日餌を持っていって世話をしていた。子猫の世話をするアーロ君はいつになく優しい笑顔なんだ。教室では寝ているか、無表情のことが殆どだから、クラスの女子がこの事を知ったら倒れるかもしれない。
アーロ君はちょっと人間不信気味な所がある。僕は席が隣だから、毎日アーロ君に話しかけて友達のつもりでいるけど、どうもアーロ君はそうは思っていないらしい。いつも何かにびくびくして心を開いてくれないんだ。
前にアーロ君の兄姉の話を聞いてみたら、凄く嫌そうな顔をしていたから、もしかしたらアーロ君の人間不信は兄姉のせいなのかもしれない。
アーロ君はたまに他のクラスの男子や上級生の男子に呼び出しを食らっていた。
こっそり後をつけて何をしているのか見に行った事があるけど、どうもカツアゲされているようだった。
僕は先生を呼びに行こうと思ったけど、いらない心配だった。アーロ君はそういう奴らをすぐにボコボコにするからだ。女の子みたいな可愛い顔をしているのに、やる事は本当に容赦がない。完膚無きまでに叩きのめす。それがアーロ君の流儀だった。
初等部の卒業がもう目の前に迫った冬のある日、アーロ君が神託で勇者に選ばれた。歴代最年少での勇者選出だった。
もうクラス中が大興奮で大盛り上がりだったよ。だってクラスの人気者のアーロ君が勇者に選ばれたんだから。
その時ばかりはアーロ君もクラスの皆に心を開いてくれたように見えた。
皆で一緒に盛り上がって、アーロ君も皆の前で、
「上級ランクの勇者になって有名になるんだ!」
って将来の夢まで語っていた。
クラスの皆はアーロ君の事が大好きだったし、皆アーロ君の夢を応援していたんだ。
だけど、アーロ君の最年少勇者選出は2週間という短い期間で記録を塗り替えられてしまったんだ。
聞いた話によると、五歳で聖女に選ばれた天才少女が現れたらしい。
アーロ君は凄く落ち込んでいた。
クラスの皆もアーロ君がなんだか気の毒になっちゃって声をかけられなくなっちゃったんだ。僕もそんな中の一人だった。
友達なのに、落ち込んでいるアーロ君を励ます言葉が見つからなくて声をかけられなかった事を中等部に上がった今でも悔やんでいる。
春にアーロ君は勇者として学園を旅立った。
僕もいつか勇者になって、あの時声をかけられなかった事を謝りたいと思ってるんだ。
そして、アーロ君と一緒にダンジョンの大規模攻略なんかに参加して、一緒に戦うのが僕の夢なんだ。




