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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第四章「魔大陸上陸」

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第32話 クッカのお友達

 家から少し離れた所に丸い岩があり、そこに四人で腰掛けて座る。クッカはヴィオレットの隣に座った。

「話ってなに? 先生に見つかったら、私もあなた達も怒られちゃうよ」


「うん、でも私、どうしてもあなたとお友達になりたかったの…… 子供で女の子の冒険者をしている人と初めて会ったから…… 良ければ、あなたの名前を教えて?」


(名前くらいなら、教えてもいいかな……)


「……クッカだよ」


「クッカ! ヴオリの言葉で『花』って意味だね! かわいい! 私の名前もテヘラの言葉で『スミレ』って意味なんだよ。私たち、似た者同士だね」


 ヴィオレットはにこにこ笑いながら、そう言った。女の子の友達がいなかったクッカにとってヴィオレットとの会話は刺激的だった。


「ヴィオレットはどうして冒険者になったの? ……その、正直に言うと、辞めた方がいいと思う…… ヴィオレットには向いてないよ……」


 ヴィオレットは頷いた。


「うん…… 私もそう思う……」


「じゃあ、どうして辞めないの?」


「私たち、孤児なの……」


「え……」


 ヴィオレットの告白にクッカは息を飲んだ。


「お世話になってた孤児院の運営資金が足りないらしくて、年長の私たちで出稼ぎに出ようってことになって冒険者になったんだ…… 冒険者は子供でもなれるし、稼ぎがいいから」


「そうなんだね……」


 ヴィオレットたちの事情を聞いたクッカは心が痛んだ。


「ねぇ、クッカ、知ってる? 魔石の値段」


「えっと…… よく知らない……」


(確か、初日の稼ぎは282万イルだって、探索課のお姉さんは言ってた……)


 ヘンリクが物の相場等をクッカに話して聞かせていたが、クッカはまだ自分で買い物をしたことがなかったのでいまいちピンときていなかった。


「一番弱いスライムから取れる極小魔石がだいたい1万イルだよ」


「うん……」


「ふふ、ピンときてないんだね。大人の一ヶ月の食費でだいたい4万イルくらいらしいよ」


「え! てことはスライム4匹倒すだけで、一ヶ月は食べていけるってこと?」


「そういうこと。私たちが冒険者をはじめた理由、分かってくれた?」


(なるほど…… 確かにスライムだけ狩っていればヴィオレット達でも無理なく稼げるかもしれない)


「でも、魔物はスライムだけじゃないよ。昨日みたいにステップウルフとか、少し格上が出てきたらどうするの?」


「そうなの……私たちもそれが困ってて…… それで、クッカに相談があるんだけど、私たちの武器を新調できるまで、ちょっとだけ手伝ってもらえないかなって」


「え? でも、他国の人とパーティ組むのは禁止されてるよね?」


「うん、パーティは組まないで、夜中にちょっと手伝ってくれるだけでいいの。昼間にクッカがステップウルフを水の魔法で閉じ込めていたでしょ? あれをしてくれれば、私たちでもステップウルフにトドメを刺せるんじゃないかなって思うんだ。

 ね、今晩だけでいいの! そしたら、装備代くらいすぐに稼げる! そしたら、私たちも無理なく冒険者を続けられるでしょ?」


「えっと……」


 クッカにはこの話がかなりグレーな話であることは分かっていた。


「ね! お願い! 私たち友達でしょ?」


「友達……? ほんとに?」


「うん! もちろんだよ! クッカの仲間は男の人だけでしょ? 私なら、クッカの悩みも分かってあげられるし、お姉さんだから相談にものってあげられることだってあると思うの」


 クッカは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。心が揺れ動いていた。悪い事のような気はしたが、ヴィオレットたちの力になりたいという思いもあったし、何より『友達』という言葉がクッカの心を大きく揺さぶっていた。




「さっきから、聞いてたら勝手なことばっかり」


 草を分ける音がして、現れたのはアーロだった。


「アーロ! どうして?! イビキかいて寝てたのに!」


 クッカは驚いた。


「全く…… クッカは油断も隙もないな。俺が『トイレちかお』じゃなかったら気がつかないところだったぞ」


 アーロは夜中にトイレで起きた時にクッカがいなくなっている事に気がついたのだ。


「クッカ、騙されるな。そんな奴ら友達でもなんでもないぞ」


「そんな事ないわ! 私とクッカは友達よ!」


 ヴィオレットはアーロに食って掛かった。


「いいや、違うね。ほんとの友達だったら、友達にグレーなことをさせたり、金をせびるみたいなことはしない筈だ! そんなやつ友達なんかじゃ絶対にない! クッカから離れろ!」


 アーロはヴィオレットたちに怒っていた。両手の拳を握りしめてクッカのために怒ってくれたのだ。


 クッカは立ち上がってアーロの所に行こうとしたが、ヴィオレットに肩を強く掴まれた。


「動かないで!!」


 クッカの首に冷たい剣が押しあてられていた。剣を当てていたのは、さっきまでクッカのことを友達だと主張していたヴィオレットだった。


「もういいわ! あんた、金持ってきなさい! そしたら、クッカを返してあげるから」


 クッカは顔を歪めて涙を流した。まだ、心のどこかでヴィオレットのことを信じていたからだ。


「お前!!」


 アーロは唇を噛んで悔しそうにしている。クッカが人質に取られて下手に動けないようだ。

 困っているアーロを見ると、クッカは腹の底から沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。



「許せない…… アーロを困らせないで!!」


 クッカは怒鳴った。そして指をパチンと鳴らした。

 すると、ヴィオレットの頭部に水の球体が現れた。ヴィオレットは急なことにパニックになり、水を飲んでしまったのか剣を落として両手で必死に水を振り払おうとして藻掻いている。しかし、水を振り払うことは出来ずにいた。

 その間にクッカはアーロの所まですたすたと歩いて戻った。


「止めてくれ! ヴィオレットが死んでしまう!」


 ヴィオレットの兄のトレフルが膝をついて懇願した。一緒にいたチップもそれに倣った。


 クッカが指をもう一度鳴らすとヴィオレットの頭部を閉じ込めていた水は重力に従って地面に落ちた。ヴィオレットは大きく咳き込んで、飲み込んだ水を吐き出した。


「二度と私の前に現れるな。次は殺す」


 クッカの緑の目がいつもとは違う金色に輝いていた。

 ヴィオレットたちは闇夜に光るクッカの金色の瞳に震え上がり、転びながらその場から逃げ出した。




 クッカはその場から動けなくなってしまった。血液が全身を駆け巡っているのが分かった。まるで自分が自分ではなくなってしまったような不思議な感覚だった。

 どこか遠く——ここではない何処かに帰らなければならない気がした。




「クッカ! クッカ、どうした!? しっかりしろ!」

 いつもと様子が違うクッカを心配して、アーロは強くクッカを揺すった。

 アーロの声を聞いたクッカは我に返った。金色の瞳はいつもの緑色に戻っていた。


「あ、アーロ…… ごめんなさい…… 私の考えが足りないばっかりに、困らせちゃって…… ごめんなしゃい……」


 クッカはしくしくと涙を流した。

 アーロはしゃがんで目線を合わせて、クッカを抱きしめた。


「クッカ、俺はクッカのこと、友達だって思ってるぞ」


「ほんとに?」


「ほんとだ。バディで、妹で、友達だ。

 俺も学園で友達がいなかったから、何したら友達なのかよく分からないけど、クッカのことは大切な友達だと思ってる。困ったことがあったら相談してほしいし、寂しかったら甘えてくれていいんだぞ」


「うん……」


「俺もな、学園で『友達』って言って金をせびってくる奴らがいたんだ。カツアゲってやつ? 俺の実家、金持ちだからな」


 アーロの急な告白にクッカは少し戸惑った。


「う、うん…… アーロはカツアゲされてどうしたの?」


「返り討ちにしてやったよ。降りかかる火の粉ははらっていいんだ。だから、さっきクッカがしたことも自己防衛だ。気にしなくていいからな」


「うん」


「女の子の悩みは俺には分からないかもしれないけど、クッカが困ってたら一緒に相談できる人を探してやる。俺はクッカの一番の友達のつもりだし、俺にとってもクッカは一番の友達だ。

 クッカと一緒にいると楽しいんだ。クッカは楽しくないのか?」


 クッカはアーロと目を合わせて涙を流した。


「楽しいよ……アーロと一緒だと楽しい!」


 アーロはクッカの涙を自分の手で拭いた。


「さ! 先生に見つかる前に帰ろう!」


「うん!」


 クッカとアーロは手を繋いで家まで帰った。


 クッカは自分にアーロという心強い友達がいる事が分かり、心がぽかぽかと温まるのを感じた。


 玄関を開けると、腕組みをしたヘンリクが待っていた。

 二人がこの後こっ酷く絞られたことは言うまでもない。


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