第30話 クッカ、他国の初心者冒険者と出会う
草原に出たクッカは目を瞑り、周囲に魔物の気配がないか探った。ヘルミはクッカの頭の上に乗り、大きな丸い耳をぴくぴくさせて、周囲の音を聞いている。
「アーロ、草むらの中に隠れて結構いる。不意打ちには気をつけた方がいいみたい」
「うん、分かってるよ。初めてだから、お互いにフォローできる距離感でいこう」
「オッケー」
アーロは双剣を抜き、クッカも斧を構えた。
二人で気配のする方に進むと透明な丸い水まんじゅうのような魔物がいた。
「スライムだ! ちょっとかわいいね」
アーロのスライムに対する感想を無視して、クッカは容赦なくスライムに斧を振り下ろした。銀の斧に両断されたスライムは真っ二つに割れ、中から透明な魔石が出てきた。
「あぁ!! 俺のスラ夫が!!」
「アーロ、これ切るとプチッて弾けて気持ちいいよ!」
クッカはスラ夫が落とした魔石と残ったスラ夫の肉片を腰につけたマジックバックに素早くしまって、走り出した。
「クッカ! フォローできる距離感は!?」
「なんか大丈夫そう! 困ったら呼んでね!」
クッカはヘルミと走っていってしまった。クッカは戦闘になると周りが見えなくなるようだ。
「仕方ない。俺は俺で頑張るか」
アーロもクッカに負けじとスライムに名前をつけるのを止めて、出会ったらすぐに仕留めることにした。
スライムは体当たりをしてきたり、頭に覆い被さって敵を窒息させてくる魔物だが、動きが早くないので避けてしまえば手こずる相手ではなかった。
飛びかかってくるスライムを双剣でさくさく刺して対応する。剣術の授業で首席だったというのは、伊達ではないようだ。
「キュ! キュキュ!」
クッカの方はと言うとヘルミが先に魔物を見つけてくれるので、こちらも鬼のような速さでスライムを狩り続けた。
(このペースでいったら、一日で魔石300個回収できてしまうのでは?)
クッカは安易にそう考えたが、ニ時間もするとパタリとスライムがいなくなってしまった。
「はい、二人ともお疲れ様。そろそろスライム出なくなってきたんじゃない?」
ヘンリクは草をかき分けながら二人に近づいてきた。
「そうみたいです」
アーロは額の汗を拭きながら答えた。
「沢山狩ると、スライムも馬鹿じゃないから隠れちゃうんだよね。
もっと西に行ってみよう。ステップウルフの縄張りがあるんだ。二人なら、問題なく倒せるよ」
* * *
ヘンリクのアドバイスに従って、クッカとアーロは草原を西に進んだ。道中に出会ったスライムはクッカが楽しそうに瞬殺した。
「キャーー!!」
悲鳴が聞こえた。
三人は悲鳴のした方向へと走った。
そこにはアーロと同じくらいか、少し年上の子供三人が五体のステップウルフに取り囲まれていた。女の子が一人に男の子が二人のパーティのようだ。
子供たちは武器を抜き構えているが、周りをゆっくりと回って機をうかがっているステップウルフたちに怯え、膝が震えていた。
「え! 先生、子供がいますよ! しかも弱そう!」
クッカは不思議に思ってヘンリクに聞いた。
「あれは、恐らく隣国のテヘラの冒険者だろうな。腕に赤色の腕章を付けているだろ? あれがテヘラの冒険者の印だ。まだ駆け出しなんだろう」
「テヘラの冒険者……」
三人の冒険者は普段着に剣を持っているだけの一般人に見える。剣も手入れをしていないのか、ところどころ錆びついていたり欠けたりしている。
「あんな鈍らじゃステップウルフなんか切れないですよね? 自殺志願者です?」
クッカには彼らの無謀さが理解できなかった。
「とにかく助けよう。このままだと危ないよ」
アーロはそう言うと駆け出した。クッカも後を追って飛び出した。
アーロとクッカが飛び出すと、ステップウルフはすぐに警戒の対象を二人に切り替えた。
すぐに一体がアーロに噛みつこうと飛びかかってきたが、アーロは一撃でステップウルフの喉をかっ切って倒す。
一体倒すと残りの四体は警戒したのか、なかなか仕掛けてこなくなってしまった。
「もう、焦れったいなぁ」
クッカが左手の指をパチンと鳴らすと、ステップウルフ四体は一瞬のうちに水の球体に閉じ込められてしまった。そこにクッカが斧をぐるんと大きく振って、狼を四体とも一刀両断した。
クッカが再び指を鳴らすと水の球体は地面に落ち、ステップウルフの死体だけが残った。
「あ、ありがとうございます!」
ステップウルフから毛皮と魔石を取る為にすぐにナイフで死体を処理していたクッカに女の子の冒険者が話しかけてきた。
「別にいいよ。私たちもステップウルフ探してたから、探す手間が省けてちょうど良かったです。
あ! 獲物の横取りになっちゃったかな?」
クッカが女の子に聞くと女の子は首を横に振った。
「あのままだったら、私たち、きっと死んでいたから、横取りは気にしてません。
私、ヴィオレットと言います。他の二人は兄のトレフルと友人のチップです」
他の男の子二人も近づけてきて、クッカとアーロに礼をした。
「あの……もし良ければ、一緒にパーティを組んでくれませんか? 私たち、荷物持ちでも料理でもなんでもやります」
クッカは、子供の仲間ができると思うと嬉しくて了承しようとしたが、静観していたヘンリクが草むらから出てきた。
「悪いね、私たちはヴオリ王国の人間なんだ。他所の国の冒険者と組むことは契約違反になる。君たちもだろ?」
「え、ヴオリ王国…… ごめんなさい。てっきりテヘラの人だと思って……」
「分かったら、早く何処かへ行ってくれ。お互いあらぬ疑いをかけられたくないだろ」
ヘンリクはヴィオレットに冷たかった。いつもの優しいヘンリクではないので、クッカは不思議に思った。
テヘラの冒険者三人組はペコペコと頭を下げてから、その場を後にした。
「先生、他国の冒険者と仲良くしたらいけないのです?」
クッカはステップウルフを捌きながらヘンリクに聞いた。
「そうだよ。私たちは狩ったものは全て自国に納めないといけないから、他国の冒険者と一緒にいると密売を疑われる事があるんだ。
あとは、魔大陸の土地の権利問題も絡んでくる。
魔大陸では、未開の地のダンジョンをクリアした国がその土地の所有権を得ることができると条約で決まっているんだ。だから、彼らとは決して仲間にはなれないんだ。クッカの聖女の契約でも、彼らの冒険者登録の契約でも禁止されている事なんだよ」
「じゃあ……ライバルってことですね」
クッカはにこにこ顔でヘンリクに言うとヘンリクは首を振った。
「ライバルなんて生易しい物じゃない。
彼らは敵国の兵士だよ。他国の人間を見たら、いつ襲ってくるか分からない敵だと思いなさい」
ヘンリクの表情はいつになく厳しいものだった。




