第29話 初任者研修 頑張れアーロ!
ケト草原——
ヘンリクの説明によると、ヴオリ王国以外の人でも立ち入ることのできる中立地帯らしい。比較的小型の魔物が出没することから別名『初心者の草原』と呼ばれている。
クッカとアーロとヘンリクはケト草原前で勤務前のストレッチを終えた所だ。
勤務開始前にヘンリク先生の初任者研修が始まった。
「今日は基本的な勇者と聖女の勤務内容から説明する。
まず、勇者と聖女には納品する魔石のノルマが決まっている。納品ノルマは魔石の大きさに関わらず一ヶ月で最低300個の魔石を街にある役所に納めなきゃいけない。どこで休みを取るかは自由だ。極端に言ってしまえば、初日で300個集めてしまえば、残りの29日は遊んでいても注意されることはない」
アーロはメモを取り、クッカは頷いた。
「あと、魔物からドロップした素材や任務中に採集した素材も全て役所に納めないといけない。もし、先程言った魔石300個のノルマを達成できないか、素材をネコババして転売するような事があれば勇者や聖女の資格は即刻剥奪。国からの給金や援助は一切絶たれる事になる。スポンサー契約をしている場合は重大な規約違反で賠償金も発生することになるだろうな」
「え……」
アーロは息を飲んだ。安易にスポンサー契約を結んでしまったからノルマを達成できるか不安になったのであろう。
「アーロ、大丈夫。たぶん月300のノルマは、そんなに大変じゃないんだよ。もし、私たちに無理そうだったら、スポンサー契約の時にヘンリク先生が私たちを止めていた筈だもの」
クッカの回答にヘンリクは笑顔で頷いた。
「クッカの言う通りだ。そんなに難しいノルマじゃないから安心しなさい。
次に昇級について説明しようと思うが、その前に二人は昇級したいとは考えているのかな?」
「当たり前です! 俺の目標は先生みたいに上級ランクの勇者になって活躍することです! 歴史に名を残すような勇者になりたいんです!」
「アーロの気持ちは分かったよ。クッカはどうかな?」
「正直に言うと私は昇級はどうでもいいと思ってます。先生の話だとEランクでも、生活に困ることは無さそうだし、たぶん実家の父と母もそれを望んでいると思います」
クッカはエリサやひげパパの心配しながら見送ってくれた時の顔を思い出した。
「でも……アーロが頑張りたいなら私も頑張ってもいいかなって、今は思ってます! 二人で頑張るのって、なんか楽しそうじゃないですか!
私、アーロと一緒に上級ランクを目指すよ!」
「クッカ…… ありがとう」
クッカとアーロは顔を見合わせて頷いた。
「分かったよ、二人とも。では昇級の条件も説明しておこう。
B級からE級までのランクは総勢約150組のバディの獲得賞金の順位で毎月決まるんだ。魔石や素材を役所が鑑定して、合計金額順にランキングがつくんだ」
「!!」
アーロとクッカは驚いた。
「毎月決まるって……昇級だけじゃなくて降級もあり得るってことですか……?」
アーロの質問にヘンリクは頷く。
「そういう事だ。上からB級が10組、C級が20組、D級が40組、E級が残りだ。どういうことか計算できるか?」
クッカとアーロが暗算する。先に答えを出したのはクッカだった。
「E級が残り80組で、バディの半分以上がE級止まりってことですね」
「正解。だから簡単に昇級できるとは思わない方がいい。バディの半分以上がE級から昇級できないで任期を終えるんだからな」
アーロはショックで言葉を失っているようだった。アーロの目指す上級勇者というのはかなり高い山の頂にあるようだ。
「他にも説明しなきゃいけないことは沢山あるんだけど、君たちの心が折れてしまっては困るから今日は止めておくね。ひとまず、今月はノルマ300の魔石納品のことだけを考えて仕事をしなさい」
「はい」
クッカだけが返事を返した。
「アーロ、しっかりしろ! クッカを守るんじゃなかったのか! お前の覚悟はこんなことで挫けてしまうような物だったのか?」
(そうだ、始まってもいないのに挫けてどうするんだ。学園で俺のこと馬鹿にしてきた奴らや兄姉を見返してやるんだ!)
アーロは目を覚ましたのか、目には再び光が宿っていた。
「ごめんなさい、もう挫けません!」
ヘンリクは微笑んでアーロの頭を撫でた。
「大丈夫、アーロなら出来るよ。さぁ、先ずは索敵からだ」
「「はい!」」
今度はクッカとアーロは二人揃って返事をした。そして広いケト草原へと走り出した。




